単為生殖

登録日:2012/11/16(金) 01:29:15
更新日:2023/06/13 Tue 15:28:27
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現在、世界中で深い信仰を集めている「イエス・キリスト」。
ユダヤの町ベツレヘムの家畜小屋で、聖母マリアから生まれたという話は皆様も聞いた事があるかもしれない。
この時、マリアは天使からのお告げで自分が赤ちゃんを宿したという事を知った。男女の交わりも無く、処女のままで子供を授かったのである。
他にも、世界の様々な神話にはこういった交わりなしで子供を宿した、という話が数多くある。
こういったものを、生物学の世界では「単為生殖」と呼ぶ。


◎概要
先程も述べた通り、単為生殖は交尾や受精なしに子供を宿すという増殖方法。
同じようにリア充になる必要がないものとして無性生殖があるが、こちらと違うのは「生殖細胞」という特殊な細胞から生まれるというもの。要するにである。
通常は精子が卵子の中に潜り込んで受精をする事で新しい子供が生まれるのだが、こちらの場合卵子だけで発生してしまう。男は切り捨てられてしまうのである。
この方法を使う生物は意外に多く、使用目的も様々である。

他の個体を介することなく子孫を増やすことができるお手軽な繁殖方法のため、原始的な生物から社会性動物まで多くの種類の動物がコレをやる。
当然デメリットもあり、遺伝子の交配が少なくなり種全体が遺伝的に似たり寄ったりの個体になりやすいのが欠点。交配が少なくなるとウイルスや病気への抵抗力が弱くなるので、「寿命を短くして世代交代を早める」「とにかく沢山増える」などでその分の交配数を稼いでいるものがほとんど。
そのため、哺乳動物のような寿命の長い生物はほぼ全てが有性生殖である。


◎代表例
  • ミジンコ
ご存じ水の中に住む小さな甲殻類。
彼らの場合、水の中に餌や場所がいっぱいある時はその数を一気に増やす事が知られている。
その際に用いるのがこの単為生殖。子供を作る事が出来るメスだけで手っ取り早く数を増やすと言う手法である。
勿論全員が同じ遺伝子を持つクローンミジンコ軍団となる。
だが数があまりに増えすぎると場所も無く、餌も尽きてしまう。こういう事態になると、ミジンコの中にオスが生まれる。
先程も述べた通り、メスのみで増える事で簡単に個体数は増えるが、全員とも遺伝子は全く同じ。
もし水の中が自分の苦手な環境に変わってしまうとあっという間に全滅してしまう危険性が高い。
そのため、オスと交尾する事で遺伝子をシャッフルし、より強い子供を作るのである。
ミジンコの場合、交尾で生まれた卵は「耐久卵」と呼ばれ、厚い殻で水が干上がっても平気である。
そして再び水が溜まり、丁度良い条件が整った時、再びミジンコは増殖を始めるのである。
アブラムシもこの類。


  • ギンブナ
メスが生じる例の中には、とんでもない形で子供が生まれるものもある。
フナの一種でキンギョの亜種であるギンブナは殆どメスしか存在しないが、その卵の発生には精子が必要。
そこで、このギンブナは繁殖シーズンになると、別の種類のフナのオスを見つけ交尾を行う。
だが、実は相手の精子は卵の発生においてただのきっかけに過ぎない。
精子の中に含まれていたオスの遺伝子は、一切次世代に受け継がれないのだ。
中には数少ないオスのギンブナと交尾して、遺伝子をシャッフルするノーマルなメスギンブナも、たまにいるけどね。
こんな繁殖方法をとる理由に、大量の遺伝子を収納している「染色体」の数が関係していると言われている。
普通のフナの染色体の数が100なのに対し、このギンブナの数は150。1.5倍ほど多いのである。
後述の通り通常のフナは両親から染色体をそれぞれ1セットずつ貰う「2倍体」と呼ばれる構造だが、
メスのみで増える事が出来るこのギンブナは「3倍体」と呼ばれている。
ギンブナ以外にも爬虫類・両生類などにはメスのみが生じるものが多く知られているが、その大半は染色体の数が多い「倍数体」である。


ここまではメスが生じる場合を述べてきたが、逆に構造上単為生殖ではオスしか現れない場合もある。
ミツバチは、普段は女王バチが働きバチを大量に産み、大きな群れが一緒の巣で生活している。
しかし、その中に働かない事でお馴染みのオスが混ざっている事がある。実はこのオスこそ、単為生殖で生まれた存在なのである。
その秘密は、先程も述べた染色体の構造にある。
精子や卵子の元になる細胞は、普通の分裂でたくさん数を増やした後、最後の仕上げとして「減数分裂」と言う特殊な分裂を行う。
普通の分裂の場合は分裂前と後で染色体の数は全く同じなのだが、この減数分裂を行うとその数がちょうど半分になるのだ。
やがてその細胞はオスでは精子、メスでは卵子に変わり、クリスマスにアンアンするなどの受精を行う事で、2つの染色体セットが揃った新たな個体が生まれるのだ。
これがいわゆる「有性生殖」である。
しかし、このミツバチの場合は少し違う。
女王バチは当然オスとの交尾を行っているのだが、その精子は一旦体の中に貯めこまれ、それを自分の卵子と受精させる事で働きバチが生まれる。
つまり働きバチは染色体を2セット持っている「二倍体」である。
しかしオスの場合、精子を使わずそのまま発生させるために1セットしか染色体を持っていないのだ。ミツバチの性別はこのようにして決まるのである。
ちなみに他のハチやアリでも同じような仕組みが知られているが、
中にはここから発展して受精しなくても二倍体のメスをそのまま産む事が出来るようになったものもいる。クローン軍団の誕生だ。


一方、別の仕組みでオスしか生まれない単為生殖もある。
前述のミツバチは染色体の数で性別が決めているが、人間やトカゲといった脊椎動物では別の方法が用いられる。それが「性染色体」だ。
性染色体は二つの異なる構造があり、それを組み合わせる事でオスとメスが生まれるという仕組み。
人間の場合は「XY型」と呼ばれており、「XX」の組み合わせからは女性が、「XY」の組み合わせからは男性が生まれる。
この場合、減数分裂の過程でそれぞれの性染色体もシャッフルが行われており、「X」と「Y」が組み合わされる事によって新たな子供が生まれる。
一方、コモドオオトカゲなど一部のには「ZW型」という構造を持つものがいる。こちらは逆に「ZZ」の場合はオス、「ZW」の場合はメスとなる。
さて、このコモドオオトカゲはインドネシアの様々な島に生息している。だが中には変な場所に流れ着いてしまい、周りに仲間が誰もいないという場合もある。
仲間もいなければリア充になれない、子供も作れない…そんな時、彼らが取るのがこの単為生殖。
こちらの場合、「ZW」というメスの性染色体が減数分裂で「Z」と「W」に分かれ、
それがそのまま元の2セットに戻るために「ZZ」「WW」という組み合わせしか出来ない。つまり、単為生殖ではオスしか生まれないのだ。
ちなみに一応母親とは微妙に遺伝子が違うのでクローンでは無いが、近親交配してしまう可能性は大いにあるとか。


…さて、気になった人もいるだろう。「WW」はどうなるのか、と。
実はこの「WW」、人間の「YY」という組み合わせ同様に発生をする事無くそのまま死んでしまう死の組み合わせなのである。
よって、こういった構造が存在する事は無い…

…が、なんとヘビの一種「ボア・コンストリクター」がその常識を覆してしまった。
こちらも単為生殖で子供を産んでいたのだが、その子供は全員メス。つまり、「ZZ」では無く「WW」という組み合わせである可能性が高いと言うのだ。
しかもその子供、普通にオスと結婚して子供まで産んだとか。もはや爬虫類は何でもありである。


◎科学技術
冒頭にもある通り、欧米ではキリストの影響もあってかこういう単為生殖の話題はよく盛り上がる。
しかし、その一方で人間の技術は単為生殖をも人工的に生み出す事が出来るようになっている。やるかどうかの倫理は別として。
カイコやウニ、魚類の卵に物理的や化学的に刺激を与え、受精したと錯覚させればそのまま個体が生じてしまうのだ。
しかも最近、こういった単為生殖は不可能と思われていた哺乳類でも、それに近いような存在が誕生している。
特定の遺伝子を消した卵子の細胞核を別の卵子に入れる事で、二匹のメスから生まれたマウス「かぐや」を生み出したのである。
さらに、トラフグでは一方のオスのホルモンを操作して一時的にメスにする事でオス同士が交尾
有り得ないはずだった「YY」の性染色体を持つオスまで作りだしてしまった。





ちなみにどちらも日本の研究所の成果である。
日本ぱねぇと思った人は追記・修正お願いします。

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最終更新:2023年06月13日 15:28