加藤一二三

登録日:2011/09/10 Sat 07:11:12
更新日:2024/04/16 Tue 19:42:00
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直感は、百ひらめいたうち九十五くらいは正しい。残りの五か六を読むわけです。でも迷ってから無理に考えたときは駄目です。直感のほうが正しいですね



生年月日 1940年1月1日
出身地 福岡県嘉麻市
師匠 南口繁一九段 → 剱持松二八段
タイトル獲得合計 8期
優勝合計 23回
あだ名 ひふみん ピン カトピン
洗礼名 パウロ
異名 神武以来の天才 一分将棋の神様

概要

加藤一二三は、「神武以来の天才」と評される将棋棋士である。
なお、神武以来(じんむこのかた)とは日本建国以来のという意味。
特徴的な名前もさることながら、その個性豊かな性格と言葉の数々から多数のファンがいる。
通称「ひふみん」は本人も公認の愛称。
「加藤一二三九段」を「加藤1239段(千二百三十九段)」と意図的に誤読してネタにされることも多い。断っておくがそんなに段位が多いわけがない。
ちなみに囲碁界には「3717段」がいた事があるが、ひふみんは十段のタイトルを取って「12310段」だったこともある。

また敬虔なクリスチャンでもあり、ローマ教皇に謁見もしている。
このため自身のことを「神」と例えられるのは恐れ多いとして、せめて「達人」「名手」とかにしてほしいと語ったこともある。
1986年にはバチカンから、聖シルベストロ騎士勲章を授与している。つまり棋士であり騎士でもある。
さらに史上初の中学生棋士ともなり、2016年まで62年間最年少プロ入り記録を持っていた。
長かった現役生活の影響で唯一19・20・21世紀生まれの棋士と対局した棋士でもある。


主な成績

タイトル戦

  • 名人 1982年度(1期)、登場4回
  • 王位 1984年度(1期)、登場3回
  • 棋王 1976-1977年度(2期)、登場3回
  • 王将 1976年度(1期)、登場5回
  • 十段(現・竜王) 1968,1980-1981年度(3期)、登場7回
  • 棋聖 登場2回

主な一般棋戦

  • 王座戦(非タイトル戦時代)
    • 優勝(1962年度)
    • 準優勝(1961,1964,1968年度、3回)
    • ベスト4(1967年度)
  • 王座戦(準タイトル戦時代)
    • 登場(1971年度)
  • 早指し王位決定戦(準タイトル戦、現・王位戦)
    • 獲得(1959年度)
    • 挑戦者決定戦決勝進出(1957年度)
  • NHK杯将棋トーナメント
    • 優勝(1960,1966,1971,1973,1976,1981,1993年度、7回)
    • 準優勝(1963,1977,1983-1984年度、4回)
    • ベスト4(1967,1972,1974,1978,1992,1999年度、6回)
  • 全日本プロ将棋トーナメント(現・朝日杯) 準優勝(1985年度)
  • 将棋日本シリーズ
    • 優勝(1983,1987年度、2回)
    • 準優勝(1981,1988年度、2回)
    • ベスト4(1985-1986,1997年度、3回)
  • 早指し将棋選手権
    • 優勝(1977前,1981,1990年度、3回)
    • 準優勝(1980,1985,1991年度、3回)
    • ベスト4(1977後,1980,1982,1985年度、4回)
他多数


主な記録と棋風

  • 最年少A級 18歳
  • 最年少A級陥落 21歳
  • 最多A級昇級(降級) 5回
  • 最年少A級返り咲き 22歳
  • 最年少名人挑戦 20歳
  • 順位戦でのデビューからの4期連続昇級
  • A級順位戦最多勝利 149勝
  • A級順位戦最多対局 313局

多くの記録を持っておりその実力の程が窺える、……が、A級なのに勝率は3割台であるためA級に5回も昇級するという珍記録を持っている(普通の一流棋士は一度A級になったら長期間居続けるもの)。
ちなみに5回目のA級返り咲きは53歳。この時に一緒にA級に昇級したのは羽生善治(1回目)である。

先輩の大山康晴、少し年下に米長邦雄、中原誠と言った歴代屈指の強豪に囲まれていたこともあり、その活躍時期の長さの割に保持したタイトルの数は少ない*1ものの、
  • 中原の全冠制覇を阻止。
  • 20年間大山と中原しか保持できなかった名人を奪取し、二人以外で久々に序列一位の棋士となる。
等、随所随所で強烈な活躍をしている。

棋風は半世紀に渡り居飛車党で数多くの定跡の発展に貢献し、相居飛車戦での急戦の戦法は「加藤流」と呼ばれるものがあり、多くの棋士が使用している。
あと、棒銀の使用率が多く周りの流行に流されず常に棒銀を使い続けているのも特徴か。*2
棒銀を指すのは「作戦負けになる事は無いから、負けるパターンは途中で判断の誤りで負けてしまう。判断の誤りを無くせば勝てる」との談。
同じ戦法を繰り返し使うことで洗練される一方、対策されるリスクもあるので多くの棋士は得意戦法はあれどいくつもの戦法を指しこなすのだが、あまりに棒銀一本でやってくる姿勢を羽生は「不気味」と評している。

常に最善の一手を考えるためもち時間がすぐに減る。六手目に2時間程長考をしたり一手に7時間かけたりしたこともある。
ただ「一分将棋の神様」の異名が表す様に早指し棋戦でも多くの実績を残している。むしろ秒読みでの思考の方が強いと評する棋士も多かった。
その実力は自身が50代に入り、ずっと若い羽生世代が台頭し始めてからも早指し棋戦で優勝しているほど。

戦法が固定気味であることが示す通り、一度良いと思った手段はとことん貫いて磨き上げ、実戦でも動じないのが持ち味であった。


ひふみんのグルメ

ひふみんといえば食事の面でも有名である。
一般的に対局中の棋士は極度の緊張状態にあり、あまり食が進まないのが普通とされているがひふみんはここでもやはり違う。具体的に見ていこう。

  • トースト8枚に2倍のオムレツ、それにホットミルク、ミックスジュース、コーンスープ。飲み物は全部2杯ずつ
  • 王位戦の昼食に、すしにトマトジュース、それにオレンジジュースとホットミルク、天ざるを注文、3時にはメロンにスイカ、ホットミルク3杯にケーキ、を注文し食べる。(対局相手の米長も蜜柑お盆いっぱいを注文)
  • 十段戦で、米長との蜜柑食い決戦。記録係が「蜜柑臭くて死にそうです。」と助けを求める事態に
  • 鍋焼きうどんとおにぎりを3個注文したが、塾生が間違えて3個パックを3つ購入。しかし特に問題無く完食
  • 食事は基本的に昼夜同形。昼が特上寿司なら夜も特上寿司。昼が鍋焼きうどんにおにぎり9個なら、夜も鍋焼きうどんにおにぎり9個(と林檎ジュース7本。この時ひふみん69歳)
  • バナナ房からもがずに食べる。対局中にも十数本のバナナを房からもがずに完食。
  • おやつに板チョコ10枚で、明治製菓の昔からあるタイプのものしか食べない。無いときは対局中でも隣町まで買いに行く
  • タイトル戦でケーキを3つ注文。対局相手と記録係の分も頼んだ思っていた周囲は、一人で3つ完食するのを見てびっくり。
  • 対局中に目の前で板チョコを食べるひふみんに対して、米長は「俺にも食べさせてくれないか」と申し出て、分けてもらって二人で食べたことも。かわいいね。
  • 75歳にして夕休憩で定食を2つ同時に食べる
  • 他の棋士もひふみんの食事が気になるのか、奨励会員の人がメニューを聞きにいくときはシーンとしずまりかえる

などという逸話を残してきている。
最近は冷やしトマトがお好みらしい。

ひふみんの食事として最も有名なものがうな重であり、ポケットにはうなぎ代2100円が2セット用意されていた。
立会人を務めた時、千日手になりそうになって関係者が夕食の心配をしているのを見て「食事は、簡単に食べられるうな重あたりがよろしいのではないですか」という言葉を送ったことも。簡単とは。*3


棋行奇行

対局時の奇行も有名。

  • 加藤「あと何分?」→記録係「残り〜分です」を繰り返す。(「もうありませんって言ってんだろ!」と、ぶち切れた記録係もいたらしい。)
  • テレビ東京の30秒将棋に出場したときも「あと何分?」
  • 他人の対局でも「あと何分?」
  • 立会人でも「あと何分?」
  • 解説に出てきても「あと何分?」
  • 駒を勢い良く打ちつける(飛車を真ん中から割ったことも)
  • 盤を割ったことがある。脇息を割ったこともある。
  • 空打ち
  • 空咳
  • ズボンを膝立ちになりずり上げる
  • 相手の後ろに回り込み腕組みして盤を見下ろす(先後同形でも行う)。局面の上下を逆転させることを「ひふみんアイ」と呼ばれるようになる。
  • 駒に触る(相手のも)
  • 対局中に賛美歌を歌う*4
  • エアコンの温度設定を22℃に設定、対局者に24℃まで上げられるが、19℃まで下げ直して対局。
  • マイストーブを対局室へ持ち込み、対局者に向けて対局
  • テレビの対局で投了するような形勢になったが、解説が面倒くさいので粘って戦っていたら、逆転勝ち。
  • テレビ中継中の対局で待った→相手と大喧嘩
  • 名人戦で詰みを発見して「ウヒョー!
  • NHK杯戦(羽生善治対中川大輔)で解説役を務めた際、最終盤で中川の玉のトン死(急転直下で羽生の勝ち)の筋に気づき、「あれー?!あれ、あれ、あれ、待てよ、あれ、あれ、おかしいですねぇ?あれ、もしかしてトン死?えと、こういって、あれれおかしいですよ。あれー、あれ、あ、歩が三歩あるから、あれ、トン死なのかな?えー。これとん死?トン死なんじゃないですかねー?(中略)大逆転ですね。たぶん。これは詰んでますよ。ですねきっと。ヒャァー。」を連発。
  • タイトル戦の最中におやつを買いに外出(現在は規定が改訂されて不可)
  • 一分将棋の神様だからか一分将棋の対局中にトイレに立つ
  • はさみ将棋で負けたことに気付かず指し続ける
  • 対局相手とエアコンのON・OFF合戦を繰り広げる
  • 対局中に対局場の庭の滝を止めるよう要請(複数回)
  • 休憩時間中に対局再開(しかも藤井聡太四段のデビュー戦でやらかしたので余計に話題になった)
など様々な事を対局中にしている。

また、対局中でなくとも

  • ネクタイが異常に長い*5
  • 手紙に30枚ぐらい切手を貼る
  • 感想戦で二歩
  • 解説で解説をせずに一人で納得
  • 解説に解説が必要なときがある
  • 詰め将棋のヒントを求められ 「まず王手をします」(詰め将棋は王手しか出来ません)
  • 自戦記、「私は・・と指した。すると、・・と受けた。私は・・とした。(以下繰り返し)」
  • 自戦記で「キリスト教について」の話が出てきたり、いきなり「聖アウグスティヌス」の話が出てくる
  • と言うか自戦記の半分ぐらいがその話
  • 無人島に持って行きたいもの「羽生さん」
  • 森下卓九段との対局前に眠れない→ワイン飲む→眠れない→快勝!
  • 自宅マンションそばで野良猫を餌付けしたため近隣住民より提訴されて敗訴
 (ただし、餌付けの理由は避妊手術を野良猫に施すためであり自費でやっている)。
  • 野良猫に対して「ハロー」と挨拶
  • 師匠を逆破門*6
  • 対局姿勢について将棋連盟会長の二上達也九段から直々に注意を受ける*7


……これらの常人には計り知れない行動・言動の数々も人気の秘訣なのかもしれない。
「ニコ動最年長アイドル」という名誉な(?)称号も得ている。

なお、フランスの将棋掲示板でも人気があるらしい。


引退

数々の記録、盤上・盤外で伝説を打ち立て、ファンを楽しませてきたが
2017年1月11日 順位戦(名人戦の挑戦者決定リーグ戦)の規定により引退がほぼ決定。
予定されている棋戦での対局が全て終了した時点で引退することとなった。
引退決定後も、最年長勝利記録を更新したり、史上初の通算2500対局を達成するなど意気軒昂である。

6月20日の竜王戦6組昇級者決定戦で高野智史四段に敗北。同日をもって現役引退となった。
最後の対局はニコニコ生放送などでも中継された。
解説はひふみん最後のタイトル戦の相手である高橋道雄とライバル中原が担当し、対局を見届けている。

最終的な通算成績は
勤続期間62年10か月(史上最長)、
対局数2505、1324勝1180敗1持将棋、休場・不戦敗の経験無し、
対局数と負数は歴代一位*8、勝数は歴代三位で現役生活を終えた。


追記・修正は旅館の庭の滝を止めた状態でお願いします
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最終更新:2024年04月16日 19:42

*1 そうは言っても獲得数は歴代10位であり並の棋士と比べたら圧倒的な成績である。

*2 棒銀は初心者にも使いやすい戦法だが、プロともなれば対策があり対策を取られると勝率が今一つになりやすい。

*3 タイトル戦が行われるホテルや旅館の豪華な夕食に比べれば、一品プラスアルファなうな重が比較的簡単という趣旨なのかも知れない。

*4 厳密に言えば、ひふみんはカトリック教徒なので「聖歌」とするのが正しい。「讃美歌」と呼ぶのはプロテスタントなどカトリック以外の会派。

*5 一度長くした時に良い将棋が指せたので、それ以降ゲン担ぎとして習慣にしている。

*6 ひふみん曰く、自分の意志で弟子入りした訳でも無いのに南口が師匠として扱われていたとのこと。剱持とその師匠である荒巻三之の方がお世話になったので、そちらの方が師匠に相応しいとのことである。

*7 これはNHK杯での空咳行為への注意。もっともNHK側は「番組的に面白いからOK」と気にしていなかったが。

*8 一見不名誉な記録にも見えるが実はここも凄い記録。番勝負やトーナメント上位で活躍した何よりの証拠である。ただ弱いだけでは予選落ちで終わってしまうし、順位戦での成績不振は引退に直結する可能性がある。1000敗もするのは困難なのだ。実際、通算1000敗を達成した棋士は他に有吉道夫と内藤國雄の2人しかいない。