スクラップド・プリンセス

登録日:2010/07/19(月) 01:17:38
更新日:2024/04/03 Wed 08:22:50
所要時間:約 5 分で読めます





富士見ファンタジア文庫より刊行されているライトノベル
作者は同文庫の「ドラゴンズ・ウィル」でデビューした榊一郎。
イラストは某同人誌で有名なモグダンこと安曇雪伸。



□概要
「十六歳の誕生日に世界を滅ぼす」として、赤子の時に棄てられた『廃棄王女』パシフィカと、その義理の兄姉であるシャノン、ラクウェルとの絆を描くハートフル・ファンタジー。
略称は『廃棄王女(スクラップド・プリンセス)』をもじって「棄てプリ」。

後に「まぶらほ」や「伝説の勇者の伝説」を生み出した月刊ドラゴンマガジンの読者投票型企画「龍皇杯(ドラゴンカップ)」の第一回優勝作品である。


榊一郎作品の中で最も売れた作品。氏は後に同文庫の「ストレイト・ジャケット」を執筆、「神曲奏界ポリフォニカ」のストーリー構成なども行っているが、彼自身の基本スタンスとも言える作品である。

後にドラマCD、漫画、アニメと各メディアにも進出し、一定の評価を得ている。


ファンタジア文庫の中では有名な作品でもあり、密かにファンはかなり多い。
しかしやや特殊な描写や、性表現に対する生々しさ、今でいう「厨二的」なストーリーを毛嫌いする人間も多く、評価は中々分かれる所。

当初こそ典型的なファンタジー作品だったが、後にかなりSF的な作品である事が明らかになった。


□ストーリー
物語の十五年前、ラインヴァン王国の女王は双子の赤子を生んだ。
しかし、その片方である姫は『託宣』によって「十六歳の時に世界を滅ぼす」として殺害されてしまう。
人々は彼女を棄てられた姫、『廃棄王女』と呼び、忌み嫌った。
が、その内『廃棄王女』は時折噂に上るだけの存在となっていた……


時は流れ……
ラインヴァン王国の片田舎に住むカスール一家の次女、パシフィカは、義父の死によって、自らが殺されたはずの『廃棄王女』である事を知る。

義理の兄シャノンと義理の姉ラクウェルは、密かに生きていた『廃棄王女』を抹殺する為の刺客から妹を守る為、旅に出る決意をするのだった。


□キャラクター
()内は声優。
●パシフィカ・カスール(折笠富美子)
本作品の主人公。
『聖グレンデルの託宣』によって「世界を滅ぼす猛毒」という予言を受け、殺されたはずの『廃棄王女』だが、子を慈しむ王妃の手により密かに生かされ、カスール家に預けられていた。
天真爛漫な性格だが、自身の存在が人に対して害を与えているという罪悪感を抱えている。
しかし過酷な運命に抗う芯の強さを持つ少女。

シャノン・カスール(三木眞一郎)
カスール家の長男。
父から剣の英才教育を受けた、達人的な剣士。
身内に強烈な娘が二人もいるせいかやや年寄りじみており、その事をパシフィカによくからかわれる。
パシフィカとは喧嘩する事も多いが、彼女を誰よりも大切に思っている。
パシフィカがヒロインなら、ほとんどヒーロー的な扱いで、実質的に主役と言える扱い。
読み切り時は、彼の一人称で物語が語られていた。

●ラクウェル・カスール(大原さやか)
カスール家の長女。シャノンの双子の姉。
偉大な魔導師だった母の素質を受け継いでおり、独学ながら様々な魔法を扱う。通称魔導オタク。
かなりの天然で、頭はいいが他人との会話が噛み合わない。
アニメでの次回予告は今でも語りぐさ。
ドラマCDでは井上喜久子が演じていた。

●アーフィ・ゼフィリス(水橋かおり)
シャノンの前に突如現れた謎の少女。当初は便宜上「略称」の「アーフィ」と名乗っていたが、彼女の同族全体の通称でもあるため途中から個人名の「ゼフィリス」で呼ばれる様に。
十歳程の外見に見合わぬ雰囲気を持つが、その正体はマウゼル教の語る神話で忌まれる「竜(ドラゴン)」…旧時代の兵器「竜機神(ドラクーン)」の生き残り(少女姿は対人用映像)。
竜機神は「人間」の主がいないと戦えず、かつての主(黒髪の青年)は既に亡いため、シャノンと仮の契約を結び、終盤にて諸々の「心理的な壁」を彼が乗り越えた事で真の契約を得ることになる。

●クリストファ・アーマライト(水島大宙)
王国特務部隊、『オブスティネート・アロウ』に所属する少年兵。
パシフィカを殺害する為に追っていたが、シャノンと戦った事で心境が変化していく。
結果任務の中人質にした少女ウイニアとペンフレンドになったり*1、本部で彼女からの手紙を情報管理のため公開されたり、王宮での任務の際パシフィカの実兄と友人になったりで成長していく。

●スーピイくん
とある町のパン屋が、一念発起して生み出したマスコットキャラクター。
見た目は寸胴のドラゴンみたいな間抜けなものだが、その独特のデザインがラクウェルのハートを掴んだ。
以後、彼女のお気に入り。


□用語
●マウゼル教
この世界で最大の勢力を持つ宗教。マウゼル神を崇拝している。
ラインヴァン王国とは密接な関係があり、教会の権力者は国の中でも強大な権力を持つ。

●聖グレンデルの託宣
ラインヴァンの首都グレンデルにて、年に一度行われる予言。
その的中率たるや驚異的で、五千年の歴史の中で外れたのは二回のみ。

●魔法
他作品のように魔力を消費するのではなく、脳の中の「意識領域」というものを使用する。
考え方としてはコンピュータのプログラムと同じ。

●秩序守護者(ピースメイカー)
マウゼル教の深部に潜む、強大な力を持つ4体の存在。情報・攪乱型の「シビリアンタイプ」と殲滅型の「アーティラリィタイブ」2体づつからなる。
「律法」と呼ばれる全人類に課せられた影響力の力で人々を支配出来るが、その力を唯一受けず無効化出来る『廃棄王女』を「律法破壊者(プロヴィデンス・ブレイカー)」として敵視。
守護者達自体は「律法破壊者」の持つ特性のせいでパシフィカに攻撃できないものの、中盤から『廃棄王女』を始末するため行動を開始し、ゼフィリスの力を得たシャノンらと度々交戦することになる。
結果、クライマックスが怪獣大決戦か巨大ロボットバトルかという感じになったのはご愛敬。
+ その出自
その前身は竜機神を作った旧時代の人々(マウゼル教の神話では悪魔とされる存在)が、後継機として作った自律型兵器「戦女神」(ヴァルキリー)二体くらい男性人格がいるが気にするな
だが事もあろうに竜機神と戦女神で対抗していた外宇宙からの脅威に乗っ取られ旧文明の敵となり、それを滅ぼした後主人から「今の世界の管理」を任じられ現在に至っている。
…なお最終巻にて、「戦女神を支配した存在」はその後滅んだかも知れない程痕跡を残さず何処かへと消えてしまったと明かされているが、秩序守護者達はそれを知ってか知らずか長い時に渡って最初の命令に準じ続けていた。
そして「戦女神を支配した存在」は秩序守護者の一応の管理者として「マウゼル教の神」に相当する存在をも世界に残していたが、その存在は守護者とは違い諸々の重みに耐えかね最終巻で…。

●形相干渉能力
竜機神と秩序守護者が持つ基礎能力で、世界に干渉し様々な物質を生成・変質・破壊させる力
流石に人体の治療は生命の緻密さから時間が掛り死者蘇生や脳の損傷の復元までは無理なものの、自身に対する損傷は中枢が壊れない限り処理能力一杯まで比較的楽に復元出来るため、この力持ち同士が激突した場合長期戦になりがちである。
ちなみに後日談ではこの能力と竜機神が創られた時代の遺伝子工学と合わせる事で、主人との子供を産んだ竜機神がいたという過去が語られた。

●異能者(ビキュリアン)
稀に現れる、特異な能力を持つ人間のこと。
マウゼル教からは「落とし子(スパウン)」として迫害されているものの、『オブスティネート・アロウ』の創設者はその力を使うため特殊部隊「クリムゾン・ソード」を設立している。
作中では予知能力者が複数登場しているが、野良の能力者は断片的な不吉な未来しか見えず苦悩し、「クリムゾン・ソード」の所属者は効率的能力行使のため人為的に感情やその発露を壊されていた。
最終巻にて、実は聖グレンデルの託宣を下す神の予言の始原も異能者のものと判明している。また竜機神にも異能の仕組みを元にした未来予測システムが搭載されている。 

□作品
●スクラップド・プリンセス(全13巻)
本編。他作品のように短編が多くない為、とりあえず本編を読むだけで話は分かる。
これは他作では「長編:書下ろし、短編:ドラゴンマガジン連載編」なのに対し、本作は長編自体が「ドラマガ連載編」(1・2・4・7・9~12・サプリメント2冊分)と書下ろし編からなるため。

●スクラップド・プリンセス・サプリメント(全5巻)
短編・番外編。
カスール夫婦の人となりや、パシフィカ達の幼少期、別な「アーフィ」の物語を綴る本編の前日譚、そして本編の後日談などが描かれている。
人民に優しい独裁者ラクウェル様の話は是非見て頂きたい。

●超ガイド!スクラップド・プリンセス
富士見お馴染み、中途半端なガイドブック。
メインは作者やイラストレーターへのインタビュー。

●スクラップド・プリンセス 逃亡者達の協奏曲
漫画版その1。
限りなく番外編的な話。

●スクラップド・プリンセス す・て・ぷ・り
漫画版その2。
上に同じ。
読まなくてもよし。


●スクラップド・プリンセス(アニメ)
WOWOWにて2003年4月から9月までノンスクランブル(無料)放送されたアニメ。

OP:Little wing/JAM Project featuring 奥井雅美
ED:大地の la-li-la/上野洋子、伊藤真澄

原作ファンを中心に大好評。原作1巻あたり2話で消化というハイペース*2ながら、要点を的確に抑えた脚本と丁寧な心理描写で原作の再現性は非常に高い*3
海外での評価も高く、同クールで放送された「君が望む永遠」と人気を二分した。
原作者にも絶賛され、後年の「棺姫のチャイカ」でも同じ監督を指名したほどである*4

そんなアニメ版の弱点は、戦闘シーンが非常に短く毎回あっという間に終わってしまうことと、…売れなかったこと。
ただでさえカドカワ価格なうえ、微妙な出来の巨大フィギュアのついた円盤はかなり長期間に渡ってワゴンの常連であった。
海外での人気? 当時は公式配信なんてものはない。つまり違法視聴での評判であり、制作側の利益には繋がらなかったのであった。

海外での評判を受けて原作も北米で翻訳された。実は涼宮ハルヒよりも先に発売されたライトノベル英訳の最初期の作品である。
…ただし、当時の北米ではライトノベルを売るノウハウが全く無く、表紙と挿絵のイラストが全て撤去されたうえ、文法的に間違っているタイトル*5をそのままにして発売せざるを得なかった。
最後まで翻訳されたかどうかは不明である。





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最終更新:2024年04月03日 08:22

*1 しかも彼女は文字は読めても学問不足から書けないため、手紙を出す度街の代筆屋に依頼している。

*2 当時はスレイヤーズやあかほりさとる作品の影響が強く、1巻あたりの内容が薄めだったということもある

*3 改変と省略は多いのだが、前述通りストーリーの本質的な部分を抑えているという意味で

*4 最初は別の監督がやる予定だったらしく、原作者は「たまにはごねてみるものですね」と語っている

*5 正しく表記するならDiscarded Princessになる。原作者も最初はこのタイトルにしようとしたのだが、discardという単語が日本人には分からないという理由で却下されたらしい