統率者戦/EDH(MtG)

登録日:2011/10/06(木) 22:05:06
更新日:2024/01/20 Sat 10:22:32
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統率者戦(コマンダー)、旧称EDH(エルダー・ドラゴン・ハイランダーの略。現在も俗称として使うプレイヤーも多い)とは、カードゲーム、マジック:ザ・ギャザリングに存在するカジュアル変種ルールである。

対戦型TCGは数あれど、トーナメントからカジュアルまで様々な遊び方が用意されルール整備までされているのはMtGくらいであり、この統率者戦は基本的に4人のバトルロイヤルで行われる。
もちろん1vs1も可能だが、統率者戦は「試合に勝つ」ことだけではなく「試合を楽しむ」ことにも重点が置かれており、多人数でワイワイ楽しめる環境が推奨されている(と思われる)。

さてこの統率者戦だが、通常の構築とはまったく違うデッキ構築をしなくてはならない。


統率者戦におけるルール


  • カードの使用範囲はエターナル(≒収録パックによる使用禁止カード無し)であり、加えて統率者戦固有の禁止カードがある(厳密には「禁止推奨カード」)。あのパワー9の中でも一枚だけ禁止指定されていないカードがある。

  • ハイランダー=基本土地以外の各カードは、1枚までしか入れられない。

  • デッキは、「統率者(いわゆるデッキリーダー)」となる、伝説のクリーチャーか統率者指定可能なプレインズウォーカー1体(互いに共闘持ちなら2体でも良い)+99枚(統率者2人なら98枚)の合計100枚 ピッタリ

  • デッキには、選んだ統率者と異なる固有色を含むカードを入れられない(例えば、赤白のジョー・カディーンを統率者にした場合、黒、緑、青のカードは入れられない)。

  • カードの固有色とは、そのカードのマナコストと色指標及びテキストに含まれる色マナシンボル、基本土地タイプ、および色に関する特性定義能力から決まる。

例:
ヘイヴンウッドのセロン…カードの色は緑だが、テキストに黒マナシンボルもあるので、固有色は黒緑。
死儀礼のシャーマン…混成マナ・シンボルはそれを支払うことができるいずれの色でもあるとして扱う。固有色は黒緑。
ラノワールの荒原…カードの色は無色だが、テキストに黒と緑のマナシンボルがあるので、固有色は黒緑。
情け知らずのガラク…表は緑だが、変身した裏面の色指標は黒緑である。固有色は黒緑。
新緑の地下墓地…カードの色は無色で、テキストにも色マナシンボルはない(「沼」や「森」は色マナ・シンボルではない)ので、固有色は無し(無色)。
草むした墓…カードの色は無色で、テキストにも色マナシンボルはないが、基本土地タイプ「沼」「森」を持つので、固有色は黒緑。
ギルド渡りの急使…カードの色は無色だが、特性定義能力で「ギルド渡りの急使はすべての色である」となっているため固有色は白青黒赤緑。かつては「すべての色である」が色マナ・シンボルを含むこと無く書かれた能力だったため無色扱いであらゆるデッキに入れられた。

  • ライフは40。ただし、単一の統率者から21点以上の戦闘ダメージ(統率者ダメージ)を受けると敗北。このダメージは別途記録すること。コントロールをパクられた自分の統率者に殴り殺されることもある。

  • 毒カウンターを10個得たプレイヤーは敗北する。感染持ちは、通常二人対戦ならば2倍の効率のダメージということになるが、このルールにおいては実に4b倍である。

  • 統率者はゲーム開始時点では統率領域に置かれている。それは統率領域から唱えられる。唱えるタイミング等に制限があれば当然にそれに従わなければならない。統率者が墓地か追放領域に置かれる場合は代わりに統率領域に戻すことを選べる。そうした場合再び統率領域から唱えられるが、それまでに統率領域から唱えた回数1回につき唱えるためのコストが無色マナ2点ずつ増えていく。

…とまあ、ざっとこんな感じである。
早い話が「 嫁を一人選んでデッキ組め 」というフォーマットである。

通常の二人対戦とはまったく違う環境であるため、珍しいカードが大活躍したりする。
基本的には統率者の能力を生かす構築をするとよい。
ただし、多色の統率者だと多色地形を各種1枚ずつしか積めないので事故りやすい。
逆に単色だと使えるカードが少なくなるためデッキのパワーが下がりやすい。

どの伝説クリーチャーをリーダーにするのか。

エリシュ・ノーン」で相手を完成させるか…。

はたまた「ジィーリィーラン」のドラゴン軍団で戦場を蹂躙するか…。

いやいや「スラクジムンダール」を何度も出してその度に早口で名前を言うのか…。

デッキの顔たる統率者を選び、それを生かすための構築をし、活躍させる。
そして複数人数でワイワイ楽しむ…。
一度は全MtG…否、全TCGプレイヤーに、触れて欲しいものである。

カードの使用範囲が広すぎてちょっと……という向きにはカードプールをスタンダード準拠にしたブロールというフォーマットがある。
当初は非公式フォーマットだったが現在では正式にサポートされており、エルドレインの王権期にはブロール用の構築済みデッキが発売された。
なお、こちらでは統率者に指定できると書かれていなくてもプレインズウォーカーを統率者に指定できる。


統率者戦で人気のカード、傾向


  • マナ・アーティファクト…特定の色マナのみが出る物以外は、基本的に全てのデッキに入れられるのでなるべく投入したい。《太陽の指輪/Sol Ring》といったレガシー禁止クラスのものでも使えるので太陽の指輪は統率者戦における必須カードと化している。統率者戦用に作られた《秘儀の印鑑/Arcane Signet》などもほとんどのデッキに採用される。

  • マナの出せるクリーチャー…色がある程度縛られるがこれも便利。緑なら山ほどいるし、赤なら《背信のオーガ/Treasonous Ogre》、黒なら《スカージの使い魔/Skirge Familiar》、無色なら《金属細工師/Metalworker》などがいる。

  • 五色土地…必然的に多色デッキになりやすいので状況に応じていろいろなマナの出る五色土地は統率者の色が多ければ多いほどたくさん欲しい。ほとんどのカードのテキストには「好きな色」としか書かれていないので固有色は無色でありどのデッキにも入れられる。統率者戦用に作られた《統率の塔/Command Tower》などは必須。

  • サーチカード…ライブラリーの枚数が多い上にハイランダーなのだから引きたいカードの事実上の水増しになるサーチカードはとても大事。《悪魔の教示者/Demonic Tutor》などの各種レガシー禁止クラスの教示者も使えるので色が合うなら積極的に投入すること。サーチカードの豊富な黒は統率者戦で人気。

  • 莫大なアドバンテージを得られるカード…統率者戦は長期戦が基本。大量ドローなどで対応したい。

  • リセットカード…《神の怒り》や《黙示録》など、戦場を滅茶苦茶にするカードで場を盛り上げよう。歪んだ世界や世界混ぜで更にカオスに。もちろん、「自分だけが著しく不利だから」「一人勝ちを阻止するため」というごく普通の理由で撃っても良い。そういった意味もなくただゲームが長引くだけのリセットは嫌われたりもする(多人数であるため、長引いた時の長引き具合が二人対戦のそれの比ではないのだ)

  • 妨害カード…相手を殺すということは、相手に殺されないということ。上記マナ・アーティファクトを封じる手段などあると強力。

  • 毒殺手段…初期ライフが40だろうが毒カウンター10個貰うと敗北なので、生体融合外骨格あたりで感染を与えたら、素早く仕留められる。

  • パワーが7の統率者…「一人につき3回ダメージを与えたら勝ち」なのでよく使われる。とくに前述のクラジンダムスール(実質的に7/7)や、ジャンドの暴君、カーサスあたりは速攻を持ち、能力で攻撃を通しやすい。パワー8、9、10は攻撃する回数が同じだし、パワー11以上はほとんどいない(というかコジレックのみ)。ということで、パワー6と7の間の隔たりが統率者の採用理由として割と大きかったりする。


人気の統率者


  • 結界師ズアー
白青黒。エンチャントを操る魔法使い。
コイツに限らずサーチ持ち統率者はだいたいガチ認定される。

  • アーカム・ダグソン
青。アーティファクト・クリーチャーを生贄にライブラリーからクリーチャーでないアーティファクトをサーチする。要は対象が限定される代わりに何度も打てる《修繕/Tinker》。
単純にサーチャーとしても優秀だが、《パラドックス装置/Paradox Engine》の現役時代は2回効果を起動すればゲームが終わる驚異のコンボパーツとなった。

  • ギトゥのジョイラ
青赤。時の魔法を使うアーティファクト使いの女性。手札のカードに待機能力を与えることで重いカードも素早く唱えられる。
ただし、ずっと「ジョイラたんちゅっちゅっ」とか言ってると「Ready?」とか「あれ?カーンに心臓渡して死んだんじゃ?」とか言われるかも。
ただしガチガチなEDH環境だとヘイト値が非常に高くなり、そこに「4ターン後にしか動けない」ように手札を使うカードが強いかと言われると微妙。
ガチ勢からは「名前ばっかでさっぱり強くないがほっとくとまずいのでさっさと殺す」と評判。

  • 始祖ドラゴンの末裔
白青黒赤緑。ライブラリーにいるあらゆるドラゴンに化けれる、究極のドラゴン。
5色クリーチャーの中では出しやすく強いという理由でほぼほぼカラーマーカー扱いされることも。いずれにしろ天敵は色事故とお月様とカーサス。

青赤。変態科学者の巣窟、イゼット団を取り仕切るドラゴンの錬金術師。ドローするたびにダメージを飛ばせ、タップでドローできる。
無限コンボの申し子。双子コンボ、キキジキアラーム…というか本人が無限コンボのパーツ。

白黒赤。なんか復讐に燃えてる女性。
天使、デーモン、ドラゴンと華々しいクリーチャーを中心に据えたデッキを作れる。統率者戦がなんたるかを学べるため、初心者には彼女の構築済みデッキ「天空の業火」はオススメ。

  • 迷える探求者、梓
緑。土地をめっちゃ出せる。

  • 鉤爪のジィーリィーラン
赤。ドラゴンを操るヴィーアシーノ(リザードマン)のシャーマン。ライブラリーからドラゴンをサーチする能力で場を盛り上げたい。
ただし、興奮しすぎると猿缶扱いされる可能性がある。

  • 二つ反射のリクー
青赤緑。最近出た恐るべきコピーの申し子。早くもコンボデッキで大活躍中。

  • 巡礼者アシュリング
赤。炎族というエレメンタルの女性。
マナが伸びれば伸びるほど強力かつ、これ一枚で勝てる(正確に言うと「自分含め全員同時に殺せる」)カードであるため、
統率者:巡礼者アシュリング×1 メインデッキ:山×99
という構築がネタで話されることも。

  • 収獲の神、ケイラメトラ
緑白。破壊不能な上、クリーチャー呪文を唱えるともれなく森か平地がついてくるキャンぺ-ン中。
ゼンディカーブロックで登場した上陸システムとの相性はグンバツ。カスレア議論でよく言われる「EDH向け」が説得力を持つパターン。

  • 艦長シッセイ
緑白。レガシー計画によってウルザが設計、開発したウェザーライトの女艦長。
ライブラリーから伝説のカードを手札に加える。
伝説のカードにはかなり強力なものが多いので、色が二色に限られるとはいえそれらを状況に応じてシルバーバレットできるのは相当に便利。
上述した通りサーチが重要かつ強力な環境であり、さらにこの色の組み合わせは本来サーチの柔軟性にやや欠けるのだが
伝説のものであればパーマネントをなんでも引っ張ってこられるこの能力はかなり重宝する。
《パラドックス装置/Paradox Engine》の登場でフィニッシュ手段にも困らなかったが、あんまりにも暴れすぎてパラドックスは禁止行きになった。

  • 悟った達人、ナーセット
青赤白。ジェスカイ道を統べる、見た目と立場以上に気さくなお姉さん。
つくづく統率者候補に恵まれないと言われていた色の組み合わせだったが、ここに来て強力な統率者候補が誕生。
これとノンクリーチャースペルだけでデッキを構成し、追加ターンなどの重い呪文をガンガン踏み倒していく様は圧巻。

  • トレストの密偵長、エドリック
緑青。自分以外の誰かがクリーチャーに殴られるとクリーチャーのコントローラーがカードを引ける。
最近ではすっかりガチ統率者。指定しただけでヘイト値MAXで真っ先に殺されかけるが、それでも勝てる王者の風格。
出すだけでヘイトMAXになり1VS3の図式を作り出すため、一部ではエ虐(エドリック虐待)やエドリック討伐と呼ばれる。

  • 希望の天使アヴァシン
白。一時期の白単統率者では強い部類に入ったやつ。つまり白単(苦行色)だとガチ。
自身を含め、自分がコントロールするパーマネントすべてが破壊不能を持つ。飛行、警戒、8/8。
白単統率者は基本的に「全体除去で盤面を引っ掻き回しながら勝ちを狙う」ことになりやすいのだが、アヴァシンが出ていると自分だけ盤面がリセットされずに済む。
世界薙ぎの剣を装備してブロッカーのいない相手を殴るとほぼ勝ち確定…という勝ちパターンもあるため白単だとかなりのやり手。
逆に言えばこんなもんでやり手になっちゃうのがまずい色でもある。
ある白使いプレイヤー曰く「できないことも愛せるようになるのが単色使いマスターの一歩だと思っていますわ」とのこと。

  • 帰還した王、ケンリス
白…ではなく、能力に全色含まれているので実際は白青黒赤緑。
無限+1カウンター、無限ライフ、無限ドロー、とあらゆる角度から勝ち筋を持つ。

  • トリトンの英雄、トラシオス+織り手のティムナ
青緑+白黒。共闘持ち。
どちらも軽く、アドを恒久的に稼ぎ続けることが出来るため、とにかく初速に優れる。
人によっては最強の統率者コンビとも評される。

  • 永遠の大魔道士、ジョダー
本体は青赤白+能力で全色。
どんな呪文でも白青黒赤緑5マナの代替コストでぶっ放す。
9種の根本原理*1を立て続けにぶっ放したり全知*2置いたりなんでもありで、維持されれば実際死ぬ。
ヘイトMAXで隙も小さくないので対処はされやすいが、当然その分ロマンも大。

  • 騒々しい写本、コーディ
本体は無色、能力で固有色は全色。
スタンダードでは使うのが困難すぎるカスレア……だったのだが、統率者戦ではなんと最強クラスのガチ統率者として君臨する。
パーマネントを唱えられなくなる代わりに、タップすることで5色のマナを生み出しつつ次に唱えた呪文に擬似的な続唱*3を持たせることができる。
不敬な教示者*4とのコンボで確実にコンボパーツを集めながら、無限のコンボで最速で勝利をもぎ取っていく。

  • 二天一流、一心
赤白黒。
能力面では、攻撃時に誘発する能力を追加で誘発させることができ、同じような能力を持つレジェンドの中では最軽量。
アグレッシブに殴りつつ、クレンコと組合せて大量のゴブリンを並べる、雷遊と組合せて単独攻撃誘発をひたすら連発する、など様々な攻撃誘発でどんどん優位を広げていく強力な統率者である。
なお、このカードは海外で多大な人気を得ているが、その理由としては強そうなSAMURAIのおじさまな見た目なことも大きいかもしれない。

  • 巣主スリヴァー、スリヴァー軍団、スリヴァーの首領、スリヴァーの女王、初祖スリヴァー
伝説のスリヴァーの皆様。
全員5色なのが若干ネック、とはいえスリヴァー自体も5色に分散しているのでちょうどいいけど。
理論上は10/10二段攻撃破壊不能×10体とかわけわからない事になる。全バウンスだけは勘弁な!

ネタ統率者

Phage the Untouchable / 触れられざる者フェイジ (3)(黒)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — アバター・ミニオン
触れられざる者フェイジが戦場に出たとき、 あなたがそれを自分の手札から唱えたのでない場合、あなたはゲームに敗北する。
触れられざる者フェイジがクリーチャーに戦闘ダメージを与えるたび、そのクリーチャーを破壊する。それは再生できない。
触れられざる者フェイジがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはゲームに敗北する。
4/4
黒。最強の妹キャラ。
手札ではなく統率領域にいるため、幾つかの裏ワザを使わない限り唱えて戦場に出た瞬間即敗北する。
裏ワザの例…統率の灯台(現実的)、白金の天使(王道)、無限の日時計で敗北を吹き飛ばす(他にも応用が効く)、対戦相手の時間停止もみけし知識槽でパクる(他人任せでかなり不確実)、深淵の迫害者のコントロールを奪ってもらう(完全に他人任せ)

  • ストロームガルドの災い魔、ハーコン
Haakon, Stromgald Scourge / ストロームガルドの災い魔、ハーコン (1)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — ゾンビ・騎士
あなたはあなたの墓地にあるストロームガルドの災い魔、ハーコンを唱えてもよいが、 それ以外からは唱えられない。
ストロームガルドの災い魔、ハーコンが戦場に出ているかぎり、あなたはあなたの墓地から騎士呪文を唱えてもよい。
ストロームガルドの災い魔、ハーコンが死亡したとき、あなたは2点のライフを失う。
3/3
墓地からしか唱えられないという制限があるため、統率領域の外に出すだけでも一苦労。
統率の灯台》《冥界生まれの祭壇》辺りが引けないとただの置物である。敗北することを厭わなければ、フェイジですら普通に唱えることはできるのに…

白。3マナ1/4。発生源1つが与えるダメージを乳眼自身に移し替えるタップ能力、乳眼が受けるダメージを軽減する能力を持つという守りの硬いクリーチャー。
白単という苦行色で防衛を持ってしまっているせいで統率者ダメージによる勝利ができないというすさまじいハンデを抱えている。
そもそも守りが硬いといっても知れたもの。統率者戦を知るプレイヤーには上の2人よりこちらの方が弱いとする意見も多く、最弱・最悪の統率者の話になると毎回名前が出てくる。
一応上2人は出すまでがとんでもなくアレなだけで出ればちゃんと活躍するし、《銀のゴーレム、カーン》もプレイヤーであればダメージを与えられるので何とかなるのだが、こいつは攻めに転用できる能力をまったく持っておらず、ここまで来ると勝てるデッキを組む方が難しい

白。1マナ2/2の最強クラスウィニークリーチャー。
統率者環境ではただの犬である。しかし、人気はかなり高い。ネタ方面が原因だが。
…と思うかもしれないが、何の準備もなしに1ターン目から出せて2ターン目にはパワー2で殴れるほぼ唯一の統率者候補であり、この時点でオンリーワンのスペックを持つ。
デッキを装備品でガチガチに固めると、21点クラスのダメージを次々に叩き出す虐殺マシーンと化す。
そして白はアーティファクト・装備品サーチに長けた色である。

  • ゴブリンの太守、スクィー
赤。死ねない体のタフで陽気なゴブリン。毎ターン手札に戻る最強の手札コストカード。……だからなんなんだよ。
一応「手札コストを確保する」という目的で統率者指定をするのはアリといえばアリなのだが、通常の2人対戦と違って「1枚しか手札に来ない上に対戦相手が3人いる」せいで強みが完全に死ぬ。
さらに最近はましになったとはいえ、まだまだ苦行の色である赤単である。多分下手なことを考えず、3マナ2/2バニラ扱いで装備品をじゃらじゃらつけて殴りに行った方がいいだろう。

  • 最後のトロール、スラーン
緑。ミラディン世界最後のトロール。最強クラスの除去耐性を持つ。
4/4程度の戦闘バカでは統率者は務まらない?しかし緑と言えば単体強化とトランプルの本家本元である。
マナ・クリーチャーを展開してこいつを高速で戦場に出し、怨恨などで強化してやればもう「ほぼ触れない高パワー統率者」のできあがりである。
相手のやばげなパーマネントは自然に帰れ忍び寄る腐食硫酸の波等でご退場願おう。
除去の中でも終末は本気でやばいので、召喚士の契約等のクリーチャーサーチも最低限入れておきたい。
現行のルールだとライブラリーに埋め込まれるときは統率領域に戻せるようになったので、前よりは楽になった。

白赤。ミラディン最強の戦士。
毎度おなじみスケベ覇者。黒スレのアイドルにして有名なカスレア…なんだけど、デッキの構築と引きの運次第でこの色の中だとかなり戦える。
強力なマナ・アーティファクトが多数使える統率者環境と金属術が噛み合っているためである。
マナ・アーティファクトをばらまいて戦場に出し、後は大剣ででも何でもいいからパワーを3つもあげてやればパンチ2回で人が殺せる統率者の誕生である。
白で装備品をサーチし、赤の連続突撃などで攻撃回数を増やしてやるのが良い。
カスレア議論でよく言われる「EDH向け」が説得力を持つパターン。

  • 伝説のエルドラージのみなさん
無色。エムラクールウラモグ、コジレックの3体計6枚。次元を食らう究極の邪神。
…あの、無色のカードだけでどうデッキを組めと……というのも昔の話。最大のネックであった土地の問題は《荒地》(無色マナのみ出る基本土地)の登場で解消した*5ため、後はエルドラージ系列の無色呪文+アーティファクトでかなり戦える。
初代エムラに至っては対戦相手を滅殺しすぎたせいで統率者戦禁止カードである。

赤。誰か(自分も含む)が攻撃したり呪文を唱えたりする度にターン終了時まで追放領域に逃げる困ったさん。
…どうしろと…。と、デッキビルダーが先に二の足を踏んでいたが伏魔殿兵員の混乱鍛冶の神、パーフォロス起源室辺りと組み合わせると
「何のコストもなく戦場を出入りする」というのが割と凶悪な性能に見えてくる。まさにデッキビルダーの腕の見せどころ。

  • イマーラ・タンドリス
白緑。
葦のようにほっそりとした体格(タフネス7)と柔らかく上品な顔立ちを持つ、優雅な立ち振舞い(パワー5)のエルフの癒し手。
……ど、どこがだぁ!?公式でも「カードのイメージにまったく合わない失敗作」と名指しで批判されているカードである。
クリーチャー・トークンに与えられるダメージをすべて軽減してくれるので、《地震》などのダメージに頼る全体除去にはすこぶる強い。
普通に統率者として考えると居住デッキやトークン生成デッキになる…のだが、能力が限定的かつ後ろ向きすぎてまったく勝ちにつながらないのが難点。
いっそバニラ扱いしてスケベおじさんジョー・カディーンみたく装備品をつけて統率者ダメージ狙いした方がいいという、
ヴォーソス的には味わいに満ちたネタカードである。いいのかこれで。

黒。コスト5、パワー9の超パワータイプ統率者だが、タフネス3のバニラ
パワーを2上げて2回殴れば相手を倒せるが、バニラ故に回避能力も除去耐性もないのでサクッと止められるのがオチ。何度も唱えられる統率者の特性を利用しての活用が考えられるか。
海外では甲鱗様のような愛され方をしている。9/3日はヤーグルの日。

  • 山崎兄弟
赤。2人一組というフレイバーが反映され、場に2枚いる間は「レジェンド・ルール」を無視し、さらに2人いれば2人とも強化される。
……のだが、統率者戦のルール上デッキに投入できるのは各カード1枚のみなので2枚投入不可。2人の統率者を使用できる「共闘」も持っていない。
その為、ルール上山崎兄弟は統率者では必ず一人で戦う羽目に。
なお、海外のローカルルールでは「共闘」を持っていることにしていることもある。カードのデザイン的に使えないのはさすがにね…ってことらしい。

  • 御神体サイクル(《生命起源の御神体》を除く)
5色に各1体ずつ存在するエンチャント・クリーチャーのサイクル。
御神体は祭殿というタイプを持っており、祭殿であるエンチャントは他の祭殿の数をカウントして効果が増幅される能力を持つ。
ここで問題となるのが固有色のルール。すなわち、御神体を統率者にした時点で他の色の祭殿がデッキに入らなくなるのだ。
祭殿は5つの色に各3枚ずつ、固有色が全色のものが2枚存在するが、効果でカウントされる祭殿の数が最大3枚になってしまい、祭殿デッキとしては使い物にならなくなってしまう。
特に白の御神体である《共同目的の御神体》は色の貧弱さもあり、近年で最弱の統率者候補として挙げられることもある。
ただし、《生命起源の御神体》に関しては話は別。自身の能力で固有色が5色なので全ての祭殿をデッキに入れられる上、祭殿の数を水増しする能力も持っている祭殿ファン待望の統率者である。


この他、「ニコル・ボーラスと愉快な仲間たち」や「ヤヤ・バラードとバーン特化」や「飛翔艦ウェザーライト」など、マジックのストーリーにちなんだデッキを組む人達もいる。

様々なローカルルールがあり、「サイドボードの有無(願いとの兼ね合いで問題になる)」のほかにも「専用ルールのないプレインズウォーカーを統率者に指定できる」「このカードには追加の特別ルールを設ける*6」「甲鱗様を特例として統率者に指定できる」なんてのも多い。
それ用のルールがあいまいだった頃は「ルール上は無色である《メムナーク》などはテキストに書いてあるマナ・シンボルの色として扱う」「ハイランダー性を重視し《執拗なネズミ》はデッキに1枚しか入れられない」なんてのもあった。
とにかくコミュニティでわいわい楽しむためのものなので、追加ルールがあることも多く、それを推奨されている。


統率者戦特有の思考


通常のMTGと違い「対戦相手が3人おり、それらすべてに勝たなければならない」という部分が念頭に置かれるため、1vs1の対戦とは様々な部分が異なっている。
たとえば「対戦相手のリソースが通常の3倍存在するので打ち消しは相対的に弱い」「対戦相手が展開するパーマネントが3倍存在するのでリセットカードが強い」など。
こういったところに端を発して自分の展開を優先するデッキが強いとされやすく、1vs1ルールでは「環境に妨害が溢れている」「環境と照らし合わせると構造矛盾を抱えている」「60枚デッキには入らない」という要素のせいで活躍できなかったカードが脚光を浴びることも多い。
対戦相手に多少のリソースを与えてでも自分の展開を優先するというカードが相対的に強くなりやすく、そういったカードを多用するデッキは「あいつは利用できる」という考えで他のプレイヤーにかばってもらえることもある。少し前の例だと《ジェイスの文書管理人》なんかが挙げられる。
一方で単なる妨害しかできない《締め付け》のような対策カードは、使用する側が一手損にしかならないという理由から非常に嫌われる。

ハイランダー形式ということもありサーチが非常に重要視され、特に複数回利用できるサーチ手段やアドバンテージを稼げるサーチ手段はかなり強力とされる。
《ルーン傷の悪魔》や《穢れた血、ラザケシュ》はその代表例で、スタンダードでは単なる平凡なカスレア扱いだったがEDHプレイヤーからは逆に必須カードや強力カードのように扱われていた。
他にも「対戦相手に選択権のあるカード」の弱点をうまいこと利用し、自分と完全に敵対状態ではない対戦相手と結託することで暴利をむさぼるという使い方をするカードも存在する。《クォムバッジの魔女》《蒸気占い》などはこの使い方がかなり強力だが、《企業秘密》はこの使い方が極めて興ざめであるとして禁止カードになってしまった。
《粗暴な年代学者、オベカ》のように対戦相手の合意がなければバニラ同然だが、合意があればこの上なく強烈なカードなんてのまで存在している。
この温度差もまた面白い遊び方で、中にはスタンダードで大した活躍をしなかったカードを使いたいがために始めたという人も多い。

《土地税》や《税収》のように使う際に条件があるカードや、「攻撃が通ったときに強力な能力が誘発する」というたぐいのカードは無防備な対戦相手を狙えばいいので相対的に価値が高まる
対戦相手が3人もいれば、必ず出遅れた人間が1人は出てくるはず。そういう人を餌にして自分が優位を築いていくというわけだ。
特に《リスティックの研究》《世界薙ぎの剣》は2人対戦ではまったく使われなかったが統率者戦では一転して強カードとなり、
前者はプロフェシーのトップレアの名を《キマイラ像》《撃退》から奪い取ることに成功した。ちなみにコモンである。

統率者は「最初から手札にあるがハンデスなどで妨害ができない」「統率者税こそかかるが特殊なギミックなしで再利用が可能」というカードとしても扱うことができる。
これは本来の2人対戦と違い「キーパーツが最初から手札にある」「手札の再利用に特殊なギミックが必要ない」というルールであるという考え方ができることを意味する。
たとえば《クローサの庇護者シートン》デッキは、必ずシートンをキャストできるので「1マナ1/1のバニラのドルイドにまで特殊な需要が生まれる」ことにもつながる。
軽い統率者の場合は「十分な量のマナから無限にキャストするサクり台用の弾として使う」ということもありふれている。
中には「1枚コンボ」や「0枚コンボ」という意味不明な単語まで登場することもある。

統率者は必ず「伝説のクリーチャー」なので、伝説のクリーチャーをサポートするカードに特殊な需要が生じることがある。
代表的な例が特定の色の伝説のクリーチャーに「他の伝説のクリーチャーとのバンド」を与える《Cathedral of Serra》サイクルであり、
これは2004年版の「18,000 Words: The 100 Worst Magic Cards of All Time」では2位とされるほど弱かったが、統率者戦の流行によって57位にまで順位を下げている。
レジェンド・ルールをサクり台のように扱うコンボも割と一般的である。

1位を狙う=全員を倒すという観点から考えると、自分の1ターンの行動に対して対戦相手3人が行動を起こすということは「相手が通常の3倍の量の行動をする」ということになる。
そのためこの原則を崩すことができる土地加速や追加ターンが普通の対戦以上に強力であり、特に追加ターンを使える青や赤は極めて強力な色とされる。
赤の場合は「戦闘フェイズの追加」という形で疑似的な追加ターンを得るものもあり、統率者によってはこういったカードをかき集めてずっと俺のターン!から勝利を狙うということもある。

カジュアルな遊び方であるということを大きく打ち出しているので「このカードは使わないでくれ」という空気が自然と形成されていく。
嫌われるカードの傾向はある程度決まっており、これらのカードの中には問題視されて禁止カードに制定されたものもある

  • 勝敗を度外視していなければデッキに入らないようなカード…《運命の気まぐれ》《機智の戦い》*7など
  • 「出遅れた」プレイヤーが絶対に勝てなくなってしまうカード… 《森林の始源体》《企業秘密》 など
  • 特定の1人だけをいじめることにつなげられるカード…《センの三つ子》など
  • 勝負の面白さを全否定するようにもとらえられるカード…《タッサの神託者》 《船殻破り》 《ワンダーワインの預言者》、サイドボードにアクセスするカードなど
  • 所有カードの紛失や損傷といったトラブルにつながるカード… 《Shahrazad》 《泥棒の競り》など
  • 他環境での禁止カード…《梅沢の十手》《王冠泥棒、オーコ》など
  • 現実世界の嫌なことを思い出させるカード…《生ける卒論、オクタヴィア》《地震》《真実の愛の口づけ》など
トラブルを起こしそうなカードや起こした事例をちゃんと認識し、使用する際はトラブルを起こさないように空気を読むという技量も求められる。


さらに二人対戦にはない概念として、EDHには「ヘイト」と呼ばれるものがある。
簡単に言えば
「その統率者や色がどれだけ脅威か(嫌われているか)」
という指標である。

ヘイトが高いデッキとは
  • 単純に統率者の能力が強い…巨大なるカーリアやリン・ヴァーラ、エドリックetc
  • 色が強い…ジャンド、エスパー、シミック、5色etc
  • 嫌われがちなカードを使った…世界混ぜ、黙示録、エドリック、色対策カードetc
  • 序盤から激しく手札を消費する…無限コンボetc
  • エドリック
  • エドリック

ヘイトが高くなると集中攻撃されたりと四面楚歌になり、デッキパワーが高かろうが逆に不利になってしまう。
先にも言った通りEDHは 「楽しむこと」を重点に置いたフォーマットである 。ガチすぎるカードはある程度自重しよう。
逆に個人的に嫌いだからという理由で狙うとトラブルになりやすいので、その辺は顔色をうかがいながらプレイすること(後述)。


統率者戦を「楽しむ」ためには


さて、一見イヤなことなんてひとつもなさそうなユートピアに思えるこの環境。
公式はもちろんカードショップやDiaryNoteでも散々楽しい楽しい言われており、禁止ラッシュの頃は「EDHは禁止が出ないよ!」なんて勧誘も多かった。

実際楽しいんだけど、これを言わないのはフェアじゃないということで……カジュアルだからこそ、相手の顔色を窺ってプレイしなければいけないという点には留意すること。

エルダー・ドラゴン・ハイランダーは「カードゲーマーというのは相手を殺せるようにカスタマイズすることに全力を注ぐが、そういう遊び方だけじゃないんだと学んでほしい」というところから生まれたフォーマットである*8
統率者戦公式サイトにも「THE PHILOSOPHY OF COMMANDER(統率者の哲学)」という記事がある。
ある日本人が創始者のひとりとEDHで遊んだとき、シャッフル後のデッキカットを頼んだら「そういう遊びじゃないんだ」と叱られた、という話も残っている。
しかし逆に「楽しく遊びたいからこそあらゆる不正がないというポーズをとりたい」という意見だってあるし、これはカットに対する考え方の差もあり根深い問題である*9

そもそも 「楽しむこと」を重点に置いたフォーマット という言葉は非常に難しく、完全に屁理屈の領域になることが多い。一時期は年に1~2回「統率者戦はカジュアルなのかガチなのか」という議論が起きていた。

たとえば「カジュアルだからこそ強いカードやソリティアを自制するべきだ」という考えもあれば、逆に「カジュアルだからこそガチ環境じゃできない不思議コンボが面白いんじゃないか」という考えもある。
このカードに文句を言うならローカル禁止リストに加えればいいじゃないか」という意見もあれば「本来の禁止リストの中で全力を尽くすことが大事なのだろう」という考えもある。
普段使わないようなクソカードを使うことこそこのフォーマットの妙味だろう」という意見もあれば「勝敗を度外視してクソカードを使ってもヘイトをためるだけ、勝ちを狙う中でクソカードに光が当たることが面白いんじゃないか」という意見もある。

当然だがこのあたりの論争にはまったく正解がない。ただ考え方が近いプレイヤーがグループを作るというだけのことである。
ゆえに最初は仲が良かったのに、次第に溝ができていって離れてしまうプレイヤーもいるし、そもそも地元に遊びたいレベルの環境がないからあきらめたり。
カジュアル勢をいじめるガチ勢という図式だけではない。その逆で「世紀末EDHを楽しみたいのに周りに資産的な負荷をかけるわけにはいかないから我慢する」ということも起こるし、ガチ勢コミュを「あいつらこそカジュアル勢が遊ぶ環境を奪っている真の邪悪だ」と言わんばかりの論調で批判するカジュアル勢もいる。
決して明るい話ばかりというわけではない。
これは別に日本に限った話ではないのだが、日本の場合は「ガチ統率者」勢の勢力がかなり強い。そのためしょっちゅう問題になるのである。

たとえば上記の《山崎兄弟》変種ルールは、本来2枚並べられる伝説のクリーチャーとしてデザインされた山崎を何としてでも使いたい、という意見に併せて作られたものであるが、
それをやると「98枚スタートになるから感心しない」「カードはテキストに書いてある通りに使ってほしい」みたいに延々理屈をまかれることもある。
ガチ統率者を持ち込んで「空気を読んでくれ」と盤面をしらけさせることもあるし、逆にネタ統率者を持ち込んでまったく活躍できずに負けて白眼視されることもある。
森林の始源体/Sylvan Primordial》があったころは、「統率者戦は投了非推奨」というルールに基づいてプレイしなければならず、
特に始源体の再利用ギミックを持っている相手に「もう絶対に勝てないのに始源体の餌にされるためだけに生かされ続ける」ことで不満がたまり、
利用されるのが嫌になって土地すら出さなくなったら「まじめにやってくれ」と窘められてそれが爆発……なんてこともあったようだ。

ともあれパーティーゲームのようなものを想像していたプレイヤーはこの辺ですさまじい洗礼を浴びせられることになる
とはいえ普通のプレイヤーは、何よりも和をもって尊しとなすものである……つまり店じゃ喧嘩はできないので、その場ではぐっと我慢する。
そのガス抜きとばかりに、MTGの雑談コミュニティなどではそのコミュニティで普段言えないような暗い話がたくさん出てくる。たとえば……

  • 勝敗を度外視して《混沌の掌握》や《運命の気まぐれ》のようなカードで引っ掻き回してくるプレイヤーが鬱陶しい。さっさと殴って退場させても、それで楽しかったとか言うんだからただただ恐ろしい
  • そういったプレイヤーに《世界混ぜ》や《泥棒の競り》を使われた。勝敗度外視で使うようなプレイヤーに自分のカードをぞんざいに扱ってほしくないので投了したら怒られた
  • 上述の投了プレイヤーに《世界混ぜ》は本来《魔力の墓所》や《青銅の爆弾人形》を無限に増やして使うフィニッシャーなのだが、盤面的に使った方がいいと判断したので使った……と説明しても怒りを納めなかった
  • ランダム性の絡むカードがこのようなトラブルを起こすということで混沌系のカードを禁止しようと提案したところ、混沌許容派からその合理性を説かれ、互いにうんざりして仲たがい。そして禁止は《運命の気まぐれ》のような本当にどうしようもないカードのみに落ち着いてしまう
  • 無限ループの処理で「デッキに○○しかいない状況」を再現する際に無限ループの取り扱いで揉める*10
  • 白単統率者が来るとリセットの嵐で長丁場になるだけかとうんざりする、という意見から始まる「じゃあ白単どうすればいいんだよ」議論
  • カジュアルだという人が使ってたデッキがソリティア系の無限ループだった。確かに統率者指定されたカードはカジュアルだが、それってカジュアルなの?と空中リプライ合戦
  • 《センの三つ子》で狙う相手がいないので特定の対戦相手(特に勝っているわけでもないため彼を選ぶ明確な理由がない)だけを狙い続けたところ、「理不尽だ、俺に何の恨みがあるんだ!?」と怒られて対戦が中断、その後の人間関係にも尾を引くことに
  • コロナ禍を受けてPCのカメラ機能を利用したリモートEDHが流行したのだが、このリモートEDH中の経験に則した「公開領域の問題やコントロール奪取の絡むカード*1は処理が非常に面倒になるし揉めるので使わないでほしい」という意見を言ったところ「そんなものはリモートEDHである以上仕方がないとしてある程度ローカルルールで対処すべきではないのか?」「それを気にするんだったらMOで統率者戦をやればいいのでは?」「そもそもカジュアルプレイで使うなとか何様のつもりだ?」と大論争を誘発
  • さらにリモートEDHにおける公開領域に絡む問題において「どんな理由があっても見てはいけないカードを見るのは立派な不正行為。不正していないことを証明できないなら使うこと自体をやめるべき。疑う側だって気分はよくないんだ」という意見と「相手をある程度信頼することもEDHには必要だし、問題のある遊び方をしている以上仕方がないと割り切ることも必要だ。カジュアル戦で不正を疑うんだったら最初からやるべきではない」という意見に分かれて平行線の大激論(先述のシャッフル問題で挙げた「不正がないというポーズをとりたい」という話にも絡んでくる)
  • 「1位の人に絶対勝てない状況で2位を狙うために最善を尽くす」という立ち回りは「それもそれで勝ちを狙う合理的行動」なのか「盤面を引っ掻き回すだけの迷惑行為」なのかという論争

少し古い例になると、
  • (まだ《執拗なネズミ》に対するルールが決まってなかった頃の話)《執拗なネズミ》デッキを組んだら「それはハイランダーだから使えない」と言われて、めぐりめぐって部外者同士で論争になった挙句、ガチEDHプレイヤーから「組めばいいんじゃないですか?そんなもんで勝てるほど甘い環境じゃないってわかるでしょ」と事実上デッキを否定された
  • (まだ固有色ルールがなかった頃の話)《メムナーク》を青の統率者として扱う話をしたらモグリ扱いされる。使えないよりはいいだろうと言っても結局モグリ扱いで見下してくる
  • (まだ《荒地》がなかった頃の話)《銀のゴーレム、カーン》などの完全な無色統率者の使用において通常の基本土地を用いるルールを適用したコミュニティに「それはルール違反だ」と指摘。「特殊地形のみで戦えというのか?」と「そういった特殊地形を楽しむためのネタ統率者じゃないか」という意見がぶつかり合うことに*11


もちろんこれらはほんの一例、しかも醜悪な部分だけを取り上げているわけだが、そういう問題と無縁というわけではない。そしてこれらの問題の解決策は「考え方が近いプレイヤーがグループを作ること」である。
しかもこれは日本に限った話ではない。たとえば2019年7月には「Commander Rules Committee」、つまり統率者戦ルール整備委員会の委員同士でガチ・カジュアルのお気持ち表明合戦があったりした。

コミュニティによって「楽しい遊び方」なんて千差万別。たとえば少し昔の公式の記事を読むと「ピザを食べながらカードゲーム」なんて日本で見たら卒倒するようなことが書いてあったりする。
また、海外で人気がある理由のひとつが「家にあるカードや普段使わないカードを使ってわいわい楽しめるから」。上記の山崎変種ルールにも言える話だが、普通に遊んでたんじゃ絶対デッキから抜けて使えないようなカードを使って気軽に遊びたいのである。
上述の「甲鱗様特殊ルール」も一見アニヲタ特有のちょっと時代遅れのネタと見られがちだが、そういう遊び方を許容してくれるのもまた統率者戦という環境なのである。

その一方で「EDH需要」でカードが1枚数万円するほどに値上がりしたり、それでも売れてしまったりと若干貴族の遊びと化している他*12
その統率者に合わせてデッキを組んで楽しむフォーマットで「白は不遇だ!またこんなジェネラルを出しやがって!」などと怒りを表明する、一部の禁止カードに「こんなものが使い物にならないなんて分かっているはずだ、解禁すればいい」と禁止リストに文句を言うなど、遊び方が完全に入れ替わってしまっている人も数多くいる。

そのため統率者戦に否定的なプレイヤーからは「ただ勝てばいいだけの競技モダンや競技レガシーの方が気楽」「日本人に楽しくカジュアルなんて絶対無理」「EDHを楽しめるプレイヤー同士でなら他のゲームでも楽しめるはず」なんて言われることもある。
統率者戦コミュニティなんかでそんなことを言ってしまえば総スカンを食らうだけだから言えないだけで、こういった問題はどんなカードゲームのどんな環境にも絶対に根付いているものである。
もちろんそれ自体は統率者戦に限らないが、統率者戦は楽しく遊ぶという部分が大前提になるからこそ答えの出ない対立が起こりやすい、というわけ。
勝ちを狙うのが楽しい人もいるし、人を楽しませるのが楽しい人もいるし、逆に人に楽しませてほしい人だっているのだ。
統率者戦で一番難しいのは、気の合う仲間を3人集めること」なんて言葉もある。
その4人が緩やかに遊んでいても、1人でもガチの領域に足を突っ込みはじめたらコミュニティは緩やかに崩壊していく。

この手のお気持ち表明合戦は枚挙にいとまがない。しかし統率者戦を勧める記事ではこういった問題がまったく存在しないかのように扱っている
だからそれに夢を見たプレイヤーがパーティーゲーム的なものを想像し、いざ自分の近くのコミュニティではじめてみたら、高額カードと理不尽無限ループで洗礼を受ける、なんてことも少なくない*13
さらに「統率者戦が楽しいとは思えなかったのに、なんでこの人たちはそういう問題が存在しないように勧めてるんだろう」と悩んでしまったり、「二言目にはコミュニティ次第って逃げてるだけじゃないか?」と不信を募らせたり、
適切なガス抜きの場を見つけられずにこれらをこじらせた挙句、統率者アンチという危険思想を持ってしまったりもする。

100枚ハイランダーという知識と資産を求められる高いハードルを越えてこれじゃしょうがない……という問題に対処すべく、公式の統率者戦コラムも最近は「統率者戦を楽しむためには?」「デッキパワーレベルの目安」などを用いて、これらの問題点に対処していこうとしている。
また2019年の委員会お気持ち表明事件以降、ガチ統率者戦プレイヤーは自分たちの環境のことを「cEDH(cはcompetitive*14)」と呼ぶようになり、「自分たちは競技志向だ」と明確な線引きを行うことで批判や衝突を防ぐようになった。
誰だって自分たちが楽しく遊んでいるものを罵られたくない。これはどちらの視点から見ても問題しか起こさない問題であり、それらに対して自分のスタンスを表明していこうというわけだ。
TwitterでMTGのルール質問を受け付けているアカウント「MTG質問箱」では、統率者戦を想定しているであろう多人数戦の質問は「話し合って決めてください」とすげなく回答するなど、統率者戦の問題解決はルールに依存するべきではないという態度を取っている。
そのためcEDH勢は「公式大会で仮にこういうことが起きたらどうなりますか?」というようにシチュエーションを変形させて答えを引き出す(つまり楽しむための努力を惜しまない)など、独特の文化が形成されている。

勝利という最適解や最終目標がないのだから言い争いやぶつかり合いも多いし、プレイヤーの温度差があるとさっぱり楽しめない。とにかく「勝てばいい、それがすべてだ」といかない環境であり、楽しむための努力は必須。
逆に言うと、この温度差が存在しない仲間を見つけてしまうととことん楽しめて、生涯をそれに費やせてしまうほどである。最近はレガシーやヴィンテージからすら引退し統率者戦一本に絞っているオールドプレイヤーすら珍しくないほどだ。
普段使えないパワーカードや他環境ではまず見ない奇妙なカードの談議に華が咲き、MTGの魅力を骨の髄までしゃぶり尽くせ、普段まず意識しないルールに目を配る楽しみがあり、カジュアル特有の「騒ぎながらプレイ」なんてこともできる。
つまりここさえ乗り越えてしまえば一生楽しめるという言葉すらまったく過言にならない、そんな沼みたいな環境なのである。


追記・修正を統率者に指定する。

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最終更新:2024年01月20日 10:22

*1 色拘束とマナが重いが絶大な威力を持つソーサリー呪文。10種類存在するが、うち「朗々たる根本原理」は同名カードを参照する都合、統率者戦では使ってもほとんどの場合意味がない。

*2 これ以降のカードがノーコストになるエンチャント

*3 唱えた呪文よりマナコストの小さい呪文を山札からランダムに選び、コストを支払わずに唱える能力。

*4 待機を持つサーチカード。マナコストを持たないためこの能力では0コストとして扱われる。

*5 それ以前は「無色マナしか出ない特殊地形を40種類前後用意する」必要があった。

*6 たとえば《幽体の照明灯》《エラダムリーのぶどう園》のようにルール変更によって機能が変わってしまったカードをマナ・バーンありの古いルールで扱う、MTGA専用フォーマットの「アルケミー」のパワーレベル・エラッタを適用するなど

*7 統率者戦はデッキが必ず100枚になるのでどうやっても勝利できないバニラエンチャントになる

*8 当時のMTGは非常に競技志向の強いゲームだった。公式記事にもそんな方向性が見えていた他、「ファンデッキ」「カジュアル」という言葉が侮蔑を含む意味で使われていた。今のMTG wikiにも当時の名残がある

*9 余談だが筆者は海外からの遠征者とカジュアルで対戦した時、カットを頼んだらデッキをトンと叩かれてカットの代わりとされた。日本でのカットはお辞儀みたいなマナーの域の行為だろうが、向こうではかなり儀礼的な(あるいは失礼な)意味合いを持つ行為なのかもしれない

*10 トーナメントシーンでたまに問題になる「無限LOで相手のデッキをエムラクール1枚だけにできるか」という話。答えは「正確な回数を指定できないのでNG」なのだが、これはトーナメントではなくカジュアルなのでOKだろうという考えも根強い。「普段はトーナメントに準拠してるのになんでこのループだけはカジュアル特例で許されるんだ?」という反論もあるだろうし、コミュニティ次第というところがある。

*11 ブロールでは《荒地》がない環境でも無色統率者を指定でき、氷雪でない基本土地1種類を《荒地》のように使用できるとルールで決められている。またこれと同様の問題として、タイニー・リーダーズという変種ルールで用いられる「Sultai」「Glass」というオリカを用いたコンボなどでも「本来のカードプールでできないような動きはするべきではない」という指摘があった。

*12 もちろんこんな高額カードを持っていなくても遊べる。この辺はコミュニティ次第というところがある。しかしこういった「コミュニティ次第」と言ってくる統率者フリークはだいたい高額カード満載で遊んでいる、という点にも留意しておこう。

*13 これ自体はTCG始めたての頃にあるあるの話なのだが、EDHの場合は安くない値段と時間をかけてデッキを組むくせに最終目標が「勝てばいい」ではないのでなおさら問題になっている。

*14 競技的って感じの意味。分かりづらいがcasualやcommunityではない。