ヴィシュヌ

登録日:2011/05/20(金) 23:08:52
更新日:2022/08/28 Sun 04:43:40
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■ヴィシュヌ

『ヴィシュヌ』ヒンドゥーの三大主神の一柱。
三神一体(トリムールティ)では「維持」を司る。
理想の苦行者を体現し、下民層からの絶大な支持を誇るシヴァに対して、ヴィシュヌは商売人や上流階層から高い人気を集める。
姿は青、又は黄色い肉体に四つの腕を持つ優美な姿の男神として描かれ、神妃ラクシュミーの他、アナンタ龍王や乗り物である輝く鳥神ガルーダと共に描かれる事が多い。
また、代表的な武器として円輪(チャクラム)と法螺貝があり、ヴィシュヌの象徴として扱われている。
ヴェーダ時代には「天」「地」「海」を3歩で跨ぐ神とされつつも、数ある太陽神の内の一人(太陽の役割の一つの内、遠くまで届く光の属性の神格化と云われる)と云う扱いであり、決して重要な神格では無かった。
しかし、ヴェーダ(バラモン)からヒンドゥーに時代が移る中、後述のアヴァターラ信仰により、非アーリア系民族の神話も取り込んでゆく過程で重要な神となり、創造神ブラフマー、破壊神シヴァと並ぶ主神として扱われるまでになっていった。

仏教では異名のナーラーヤナを音写して那羅延天として取り込まれており、アヴァターラの姿まで見えるが日本では目立つ程の信仰は見られない。
ヴィシュヌの音写である「毘紐天」「韋紐天」「微瑟紐」「毘瑟怒」などがある。

【アヴァターラ】

「分身」「化身」を意味する言葉。
ネット上でユーザーの分身となるキャラクター「アバター」の語源。娯楽映画でもお馴染み。
ヴィシュヌには『道徳が衰微し、不道徳が栄える度に余は自らを創出する』とする伝承があり、これがアヴァターラ信仰を生み出したと考えられている。
故に、本質的には「権現」や「化権」と云った言葉の方が訳としては正しいとも解説される。
ヴィシュヌは十の「アヴァターラ」を持つ事で知られており*1、人気のあるラーマ王子やクリシュナと云った英雄や、仏教の開祖であるブッダらを「化身」として自らの神話に取り込んだ事がヴィシュヌ人気に繋がったのだと考えられる。
特に二大叙事詩の主役であるラーマとクリシュナを化身と出来たのは大きく、ある意味では本体であるヴィシュヌ以上の人気を誇る。
彼らは信仰上の規範も緩く、その気軽さも信者の獲得と信仰の拡大に繋がったのである。
以下に十の化身と、大まかな神話を挙げる。


①マツヤ(魚)

ギリシャ神話や聖書と同一モチーフの「洪水神話」に登場して来る魚。
あるときマヌと云う若者が川で大魚に襲われている小魚を助け、成長するまで育てた。
成長した魚を海に帰した際に魚は「七日後に大洪水が起こり生命が滅びる」……と告げた。
言いつけ通りに船に全ての植物の種を積み込み準備していたマヌは新たな人類の始祖となった。

②クールマ(亀)

インド神話の代表的な「世界創造」譚である「乳海攪拌」に登場して来る巨大亀。
神々(ディーヴァ)魔神(アスラ)が不死を得る為に霊薬アムリタを作る事にした。
その為に海から聳えたマンダラ山を中心にして、世界を攪拌する事にしたのだが、攪拌の最中、一度旧い世界が滅びる。
その際にマンダラ山を支えたのがヴィシュヌの化身した巨大亀であり、この攪拌の最中に今に続く新しい世界が生まれたと云う。

③ヴァラーハ(猪)

ある時、大地が魔神の力で水底に引き摺り込まれた。
助けを求められたヴィシュヌは無敵の力を持つ猪に化身すると魔神共をボッコし、更に牙で大地を支えながら水中から引き上げた……と云う強引な神話。

④ナラシンハ(人獅子)

上記のヴァラーハに退治された魔神の兄弟ヒラニヤカシプが復讐を誓い苦行を重ねた結果、ブラフマーより神にも人にも獣にも殺されない不死身の肉体を得る祝福を受けた(余計な事を……)。
しかし、息子は隠れヴィシュヌ信者(ファン)であり、怒り狂った魔神は息子を殺害(SATSUGAI)しようとするが、そこに人でも獣でも無い人獅子に化身したヴィシュヌが顕れ、逆に親父を殺害(SATSUGAI)した。

息子「あっあれは!ヴィシュヌさんの10の魔神殺し(アヴァターラ)の1つ、人獅子(ナラシンハ)だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

⑤ヴァーマナ(矮人)

魔神の王バリが三界(天、空、地)を支配した時代にヴィシュヌはバラモンの美しい少年僧に転生した。
苦行(エステ)に励み徳(美しさ)を積んだ少年僧はアーッ!が趣味の魔王に迎えられ、囲われる条件として「3歩で歩ける範囲を下さい」と言った。
アッー!な上にロリコンな魔王が快諾すると、少年僧はヴィシュヌに戻り天元突破で巨大化しながら3歩で三界を制覇し世界を奪回した。
尚、矮人とは「小さい人」の事……あんま良い意味では無いので使う時には注意。

⑥パラシュラーマ(斧を持つラーマ)

かつてクシャトリヤ(貴族、武士)がバラモン(坊さん)を脅かした時代があった。
ヴィシュヌはカルトな信者を救うべく斧を手にした殺人坊主に転生……憎きクシャトリヤを虐殺(民族浄化)してバラモンを救った……と云う片一方から見た歪な正義を讃美した神話。
……正に世界の歪み……!

⑦ラーマ王子

大叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公で、ラクシャーサ(羅刹)の王ラーヴァナから世界(と妻)を救うべく奮闘する。
ラーマがヴィシュヌの化身とされる様にヒロインであるシーターもまた、ラクシュミーの化身とされる。
ウルトラ兄弟との共演の際に見せた集団リンチとメアリー・スー、更には円谷プロの悪夢とも云うべき異国の法廷闘争で知られるエテ公神ハヌマーンは、この物語に出て来る。

ハヌマーン「ムッキー!!」

ちなみに物語の結末は魔王を倒してめでたしめでたし……では無く

魔王に捕らえられていたヒロインが『戦乙女ヴァルキリー』や『黒愛』宜しくのイヤらしい目にあってたんじゃね~の?
……と云うWiki篭りばりの民衆のゲスい妄想を信じた王子が姫の貞操を疑い、シーターは貞節を証明して命を失う……と云う、黒系のオチ。
哀しみにうちひしがれたラーマはシーターを想いながら天に帰った……て、悪いのはラーマ(ヴィシュヌさん)じゃあ……。*2

ちなみに同じラーマでも“⑥”とは別人。

⑧クリシュナ

大叙事詩『マハーバーラタ』の一編『バガバッドギーター』に登場する英雄神。クリシュナとは「黒い者」の意。
どうやら実在した英雄らしく、後代に神話となったらしい。
青黒い肌のオーバーフロー系の美青年クリシュナが美女とキャッキャウフフしたり、悪魔と戦う厨二的ファンタジーが多数創作されている。

⑨仏陀

ブッダ(縁覚者)……つまりは“あの”お釈迦様である。
……が、解脱による輪廻からの脱却の為に執着を捨てよと説いたお釈迦様は宇宙との一体を目指すヒンドゥーからすれば「なんだこの異教徒!(驚愕)」って云う存在……。
そこでヒンドゥーでは「反面教師」「アンチキリスト」に相当する存在として神話に取り込まれている。

シッダルーダ太子と云う宇宙の事をシッタカブル王子様として転生したヴィシュヌは金持ちだから苦行を嫌がる癖に、言い訳だけは一丁前の根性無しになり、妻や子や親や国を勝手に捨てた上に菩提樹の下で「悟り」を開きました……。
バカな魔神共はブッダの言葉にハマり、やがて滅んでしまいましたとさ。

……とっぴんぱらりのぷう。*3

⑩カルキ

『カリ・ユガ』と呼ばれる「末世」に顕れる世紀末救世主
名は「時間」や「永遠」を意味する。
ヒンドゥーの末法の世を救う英雄であり、白い駿馬に跨がった姿か、自らが白い馬頭を持つ異形の姿で描かれる。
一方でカルキには「汚物を破壊する者」と云う意味もあるためか、全てを“あぼーん”するべく顕れる「世界の破壊者」として解釈される場合もある。
同類に∀ガンダムや伝説巨神、ウルトラマンノアとか仮面ライダーディケイドが居る。
……別に水道水に入れる塩素剤では無い。

……人々が快楽に耽り欲望に満ちた世界とされるのが一般の解釈だが、当のヒンドゥーでは何故かブッダに教化された世界と説明している(故に、救済と同時にリセットとしての破壊が思い描かれた)。

……余程「仏教」により「バラモン」が滅亡寸前に追い詰められたのが堪えているのであろう。
ゲハ戦争やきのこたけのこ戦争を例に取れば解り易いが、他の勢力の神を自分達の神話で貶める方法は、どんな宗教でも同じ(キリスト教の悪魔が他宗教の神である様に)である……。

……人間は基本的に有史以来、基本的な思考パターンが変わって無いらしい。
一応、単に破壊するのではなく……というか、破壊ではなく刷新であるとされる場合もある。


【余談】

ヴィシュヌの臍から伸びた蓮華からブラフマーが、更にそのブラフマーの額からシヴァが生まれたとするヴィシュヌ派の神話があるが、わざわざ「仏教」を引き合いに出さずとも、それぞれの神の信徒が相手の神を貶める神話を作っているのがインド神話の混沌の原因とも言える。

『女神転生』シリーズでもお馴染みの存在で、本人や分身が高レベルの悪魔として登場している(インド神話は優遇の傾向にある)。

中でも『ペルソナ』シリーズの第一作『女神異聞録ペルソナ』では分身(アヴァターラ)=仮面の発想からかシンボルキャラクターとしてイメージイラストやパッケージにも登場している……が!

呼び出す為の封神具「アヴァターラ」の入手条件は全悪魔からのカード入手……。
更にヴィシュヌ自体も魔神(エンペラー)の最高位にあると云う素敵仕様であられました。






追記、修正はアヴァターラを顕現させてからお願いします。

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最終更新:2022年08月28日 04:43

*1 ※ダシャーバターラ。他の神話も取り込み、更に数が多いとされる場合も。

*2 ※火神アグニに助けられてグッドエンディングを迎えるifストーリーもある。

*3 ※一応、理論的な反論もあり、ヒンドゥーで語られる個体真理“アートマン(我)”の概念が仏教の論理だと“諸行無常”の一言で切り捨てられてしまうのに反発したからである。……真実を云えば仏教でも“我”は認めているが、その捉え方はヒンドゥーよりも更に階層を設けているだけなのだが。