ぬらりひょん

登録日:2011/04/24 Sun 16:10:48
更新日:2023/11/30 Thu 13:58:26
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ぬらりひょんとは、妖怪の一種である。

地方、書物によればぬらうひょん、ぬうりひょん、滑瓢、とも。
孫が主人公のジャンプ漫画などの妖怪漫画で見かけるが、実はその生態は全くといっていいほど解っていない。
ぶっちゃけてしまうと、世に広まっている話の殆どが後年の作家による創作である。

姿形

ぬらりひょんと言えば後頭部がやたら出っ張った禿頭に上物の着物の老人、というのは有名だが、無論これだけではない。
江戸時代の草子作家・夜食時分(無論本名ではなくペンネーム)著書の「好色敗毒散」によれば目口の無い鯰のようなものと記されており、
事実瓢箪鯰のような絵姿で同書に描かれている。

また、江戸時代の絵師・鳥山石燕の画図百鬼夜行によれば、基本的な姿形は最も有名なそれと同じであるが、脇差と扇子持ち、駕籠から下りる姿をしている。
江戸時代において武士以外の帯刀は許されておらず、ぬらりひょん=武士と思われがちだが、旅の時に限り、脇差のみであるが帯刀が許されている。
また、当時駕籠は高価なものであり到底個人が持ち得るものではなかったが、遊郭においてタクシーのように駕籠で送り迎えをすることがあった。
このことから(あくまで図画百鬼夜行に描かれたモノ限定ではあるが)ぬらりひょんとは武士階級に非ず、好色で、小金持ちの妖怪ではないか、と推察されている。

性質

本当によくわかっていない。
武士階級ではない、好色、小金持ちといった要素も、あくまで想像であるため確定には至っていない。

ぬらりひょんと言えば有名な話に、このようなものがある。
年の瀬に現れ、慌ただしく働いている商家など、人々がせわしなく働いているところに隙を突いて図々しく上がり込み、茶などを飲んでから消えていく。
追い出そうにも家の主であるような感情を抱いてしまい追い出せない。
何かしら家に災いや幸福をもたらしたりすることは一切ない。単に図々しく他人の家に上がって堂々とくつろいでそして帰っていくだけなのだ。
しかし、これは後年の作家による創作。

また、妖怪の総大将とも言われているがこれも後年の作家による後付け設定。
図画百鬼夜行を始めとする妖怪本には一切の解説がされておらず、初出は藤澤衛彦著の「妖怪書談全集」にある一文だと思われる(「衛」及び「書」は旧字体)。
当時の言葉で「ぬらり」は捕え所が無いこと、「ひょん」はとっぴおしも無いことを表し、これらを合わせて生まれたぬらりひょんは捕え所が無く、
とっぴおしも無い妖怪と言われているが、これは性質を表すもので、実際の行動は本当に全くの不明。

鳥山石燕の妖怪絵では「夕刻ぬらりひょんと訪問するぬらりひょん」の図が描かれており、これが前述の「勝手に人の家に上がり込む」とする設定になったらしい。
その後「怪物の親玉」とする設定が付け加えられ、水木しげる御大の手によって知名度のあるものになっていった……と考えられている。

というかそもそもぬらりひょんという一個の妖怪がいるのかも怪しい。
事実、好色敗毒散においてぬらりひょんとはのっぺらぼうの一種であると記されているし、岡山県の伝承においては海坊主の一種であると伝えられている。
確かなのは仏教の説話に頻繁に登場する「瓢箪鯰(ひょうたんなまず:ひょうたんでナマズを捕まえるかのような捉えどころのない有様)」と深い関係があるだろう、ということぐらい。

そもそも妖怪という存在は、何か得体の知れない現象を解釈するために、その原因となるべきものとして考え出された、と現代的には解釈できるが、
なかんずくぬらりひょんという存在には、そうした“得体の知れなさ”という性質が強く残っている。
穿った解釈をするならば、むしろそうした得体の知れなさ自体を表象しているとも言い得るだろう。
そのような意味において、ぬらりひょんは何から何まで不明尽くしという最も本質的な妖怪、ひいては妖怪の総大将として、フィクションの中に登場するのかもしれない。
また、そうした抽象性が、しばしば想像の余地ともなって、作家を刺激し、興味を抱かしめるものであろうことは言うまでもない。
なんにせよ、元がなんだかわけのわからない存在なのに、いつの間にか妖怪のラスボスにまで出世しているのだから大したものかもしれない。


因みに京都の一条妖怪ストリートでも彼はストリート入り口付近に居る。



近年の創作におけるぬらりひょん

さすがに「勝手に他人の家に上がり込むだけ」の妖怪を総大将にするのは無理があるためか、ラスボス設定で登場する際は色々と設定が付け加えられる。
ただ何にせよ悪役としての登場が大半であり、善玉妖怪として出てくることはあまりない。

「ぬらりひょん=総大将」の設定を世に広めた偉大な作品。
実は漫画原作では全シリーズ見渡しても二~三回ぐらいしか登場せず、アニメでも一期のころは一介の凡庸な妖怪だったのだが、
アニメ第三期にて「悪の妖怪の大親分」かつ「鬼太郎の宿敵」として登場して以来、人気を確立。
さまざまな策謀を巡らせては鬼太郎たちと敵対するが、どことなく間が抜けたコミカルな一面もあり、憎めないタイプの悪役といえる。
当初は単なる参謀タイプだったが、作品が進むにつれて本人の戦闘能力もだんだん跳ね上がっている。
特に第三期の頃に描かれた『最新版ゲゲゲの鬼太郎』では鬼太郎に流された原始時代から生き抜いて強大な力を得、
後の原作『国盗り物語』でも回数は少ないが日本妖怪そのものの危機に輪入道部隊・一つ目部隊・狸部隊を率いて鬼太郎達と共闘している。
姿にはバリエーションがあり、原作・一期では垂れ目に背広、三期では吊り目に和服、四期は垂れ目に和服(通常時)と吊り目に軍服(妖怪王)。
最新版では吊り目に軍服、新ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代・国盗り物語では垂れ目に和服。

どこからともなくふらりと現れる老人の姿をした妖怪。
本編では美樹を気に入り彼女に色々な恩恵をもたらすも、妖力が切れて美樹が泥棒扱いされたために怒ったぬ~べ~に退治されかける。
が、実はその正体は没落した「客人神(まろうどがみ)」。様々な家を渡り歩いて幸運をもたらす座敷童のような存在だったのが落ちぶれて妖怪のように伝えられていただけだったのだ。
仮にも「神」であるため、ぬ~べ~が真っ向から対峙して勝てなかった数少ない存在。

初期のエピソードの「波多利郎」が主人公の江戸時代編で登場。
波多利郎が主人を務める呉服屋の商品をヌルヌルにするという意味不明の悪事で商売の邪魔をした。
その正体はナメクジの妖怪で、ライバルの呉服屋に派遣されていたが波多利郎の機転で退治されたためライバルを道連れに消滅した。
また、本編のエピソードではパタリロ本人が「ぬらりひょん拳法」という謎の拳法の達人とされている。
その実態は敵の攻撃を「ぬらり」とかわし、「ひょん」と反撃するという中々気色悪い技。
戦闘力的には「下っ端戦闘員には勝てるが、バンコランのようなガチスペシャリストには勝てない」と言ったところ。
ただしギャグ補正による不死身の生命力があるのでそれを含めれば大抵の相手には粘り勝ちしてしまう。

ごく初期のエピソードのみ、妖怪忍者軍団の頭領として登場している。
しかし完全に封印されていたのと、大ボスとして妖怪大魔王が登場したため回想シーンにしか出てこず本編での戦闘シーンはなし。ある意味不遇。

ぬらりひょん(の一族)が主人公という珍しい漫画。
本作では任侠の大親分のような設定になっており、ヤクザのように妖怪たちを統率する立場。
「誰にも気づかれず上がり込む」という特性を漫画的に解釈した結果、一切の殺気も気配も感じさせずに相手を切り捨てるというある意味チートな技を習得している。
まぁこれぐらいの技があれば総大将という設定も納得いくかもしれない。

東国の妖怪たちを統率する総大将。ぬらりひょんの孫に近い設定で、人間たちの敵ではあるものの彼の死が結果的に配下の妖怪たちの暴走を招くなどある種のストッパーでもある。
敵キャラとしては、ブロックしない限り一切の遠距離攻撃が当たらないという厄介な特性を持っており、総大将らしく各種基本スペックも非常に高いのでかなりの強敵に仕上がっている。
味方キャラとしてはぬらりひょんの娘二人が登場。エロゲーだからね
味方としても、敵の攻撃から隠れる特性を持っているが父親と違いスキル中のみ。

あの後頭部が異様に長い独特な外見ではなく、珍しく元になった「ひょうたんなまず」に近い設定として登場。CV:龍田直樹
非常に背が低い小男で常におどおどとして気が小さい。
能力としては、単なる異様に影が薄いオッサンであり、飲食店で食事をしても店員に会計してもらえないほど存在感が薄い。
なお、本人としては総大将なぬらりひょんに憧れているらしくゲゲゲの鬼太郎を見ては「いつかこうなる」と決意を固めている。

若き日の大原大次郎が遭遇し、警官となるきっかけとなった怪事件。
まるで大原に罪を着せるかの如く誰にも見られず盗み食いを行ったそれを、ある老人はぬらりひょんの仕業だと言うが……

その他、こういった作品にも登場している。

他の総大将な妖怪

近年のフィクションではぬらりひょんが有名だが、他にも総大将とされる妖怪は存在する。

  • 山本五郎左衛門/神野悪五郎
共に「稲生物怪録」に登場する妖怪。山本五郎左衛門は多くの妖怪を引き連れ、100人の人間を驚かせる勝負を悪五郎と行っていたが、86人目に当たる主人公が何をしても驚かない勇気ある人物だったためそれを讃えて現れる。
悪五郎は名前が出るのみだが、五郎左衛門が大妖怪とされるのでそれと同格とみなされることが多い。
うしおととら」に登場する東西の妖の長のモデルでもある(東の長が山本、西の長が神野)。

  • 崇徳上皇
日本三大怨霊の一角にして日本三大妖怪の一角な上、天皇という最強な存在。
色々悲運が重なった末、「日本国第一の魔王となる」と誓って死んでいったという。
「太平記」では、無数の天狗を従えて日本を滅ぼす算段をしている妖怪たちのリーダーとして登場している。

アメリカ妖怪の総大将、というより大統領。
暗黒ガスの球体もしくは円盤に、一つの巨大な目玉が見開いているというなかなかインパクトのあるデザイン。
まだぬらりひょんが一介の妖怪に過ぎなかったころに、ベアードはすでに多数の西洋妖怪を従えるリーダーであり、その戦力をフルに使って鬼太郎たちを全滅に追い込むなど、「鬼太郎シリーズの悪徳妖怪の総大将」としてはぬらりひょん以上の大物といえる。
なお、水木しげるが創作した妖怪なのでこのような伝承は一切存在しない。

  • 空亡
少々複雑な経緯の末に誕生した現代の妖怪。「そらなき」あるいは「くうぼう」と読む。
見た目は黒い太陽で、前述のバックベアードとちょっと似ている。
ゲーム大神のスタッフがラスボスの常闇ノ皇のモデルとして「空亡」を「百鬼夜行絵巻の最後に登場してすべての妖怪を踏み潰す最強の存在」と、設定資料集で紹介したことが切っ掛けで広まった。
実際に空亡という名の妖怪は妖怪の伝承に存在せず、百鬼夜行絵巻の妖怪たちは夜明けの太陽から逃げているというのが真相*1
しかし、大神の情報が独り歩きし、いつしか最強妖怪としてのキャラクターが定着。
妖怪ウォッチシリーズにボス格の妖怪として登場するなど一定の立ち位置を得ており、勘違いと独自解釈の積み重ねで誕生したという経緯も「むしろ妖怪らしい」という評価を得るに至っている。



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  • 総大将
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最終更新:2023年11月30日 13:58

*1 誤解の元となったのは荒俣宏氏の監修した妖怪トランプ「陰陽妖怪絵札」であるという見方が強く、そのトランプの中では夜明けの時間帯に「空亡」と名付け、あらゆる妖怪を逃げ帰らせるワイルドカードの役割を与えられている。