硫酸

登録日:2011/05/29 Sun 23:43:22
更新日:2023/09/04 Mon 12:16:12
所要時間:約 5 分で読めます




硫酸(りゅうさん)
英語:Sulfuric acid
化学式:H2SO4

目次

◆概要


硫黄のオキソ酸の一種である酸性液体の一つ。
おそらく、世界で最も有名かつ最も生産されている化学薬品。

近い物質に、「亜硫酸」「過硫酸」「二硫酸」「発煙硫酸」等がある。


フィクション(特にミステリー関係)で必ず一度は聞いた事のある薬品。
小・中学校は無い事が多い(寧ろあったらヤバい)が、高校・大学では必ずあり実験した事のある薬品。


硫酸、と聞くと大抵の人は「生物も無生物も短時間で全て溶かす恐ろしい液体」とイメージするだろう。
だがそれは『処理が間に合わなくなり煙をあげて爆発するパソコン』並の誇張表現であり、実際はそこまでオーバーキルじみた物ではない。
単純な酸化力では王水*1が上であり、人体への悪影響という点ではフッ化水素酸*2や水酸化ナトリウム等の物質のほうが硫酸よりも遥かにヤバかったりする。
とは言え、硫酸も人体にとって有害な物質であることには変わりないのだが。
上のパソコンの例えで言えば、確かに爆発は大袈裟だとしても『熱暴走で部品がイカれる』くらいには思ってもいいだろう。


工業的には極めて重要な物質の一つでもあり、身近には硫酸を使った製品が数多くある。
爆薬・工業製品はもちろん、肥料や医薬品や繊維の合成にも使われている。
更には、車のバッテリーの中にある電解液が希硫酸だったりする。
硫酸を使わない製品を探す方が難しいとまで言われるほどで、硫酸の生産能力がその国の化学産業の指標となっている。


そんな硫酸だが、意外に歴史は古く、八世紀のイスラム世界の錬金術師が発見した。
それ以後、鉄などの金属を溶かすことのできる薬品として錬金術に硫酸が使われるようになった。

1600年頃には効率良く硫酸を生産する方法を見つけ、17世紀にはアムステルダムに硫酸工場を設立。
因みに、硫酸工場の真の目的は火薬の原料である硝酸を製造するためだったりする。

1746年にはコストを下げて硫酸を大量に生産する方法を開発。
硫酸は漂白剤の製造に欠かせない物質だったため、当時の産業革命の発展に寄与した物質でもある。

日本国内では1872年に大阪市北区天満の大阪造弊局に設置された。


◆生成法


化学式だけ見ると硫黄を燃やして水に溶かせば良いように見えるが、そうすると二酸化硫黄(SO2)を水に溶かす為、亜硫酸(H2SO3)という別の物質になる。
実際には三酸化硫黄(SO3)を水に溶かすと硫酸が出来るのだが、三酸化硫黄は水と反応して高熱を出す危険な代物でとてもじゃないが全部溶かせない。そもそも作るのも難しいし。

そのため工業的に硫酸を生成する場合、
  • 硫黄(S)を燃やし、二酸化硫黄(SO2)にする。
  • 二酸化硫黄(SO2)を酸化バナジウム(V2O5)触媒を用いて三酸化硫黄(SO3)にする。
  • 三酸化硫黄(SO3)を濃硫酸に吸着させて発煙硫酸(H2S2O7)にし、それを希硫酸で薄めて濃硫酸にする。
という工程を踏んでいる。
20世紀前半にこの方法(接触法)が確立されてから、高濃度かつ純度の高い硫酸を手軽に量産できるようになり化学工業がさらに発展するようになった。

ちなみにその前は窒素酸化物を用いる硝酸法と言うやり方で硫酸を製造していたが、濃度・純度が低いため現在先進国ではあまり用いられていない。
実験室で硫酸を作る場合はこのやり方が用いられる。


◆硫酸の性質


硫酸は濃度と温度によって性質が大きく異なる。

希硫酸は、塩酸に近い性質で、銅や銀の様なイオン化傾向の小さい金属以外は溶かす。
また、強酸ではあるが酸化力は無い。
そのため、実験でも単純な酸として使用されている。

しかし、濃硫酸を加熱した熱濃硫酸は、強い酸化力を持ち酸化剤として使用される。
更には、イオン化傾向の小さい銅や銀だけでなく、炭素の様な非金属とも反応する。

また、濃硫酸は強い脱水作用も持ち、実験では脱水剤として使用される。
そのため、濃硫酸を紙のような炭水化物に垂らすと水素と酸素が抜け黒く変色する(炭化)。角砂糖に硫酸を垂らすと黒いスポンジの様に膨らむ実験をしたことのある人もいるだろう。
また、希硫酸でも水分が蒸発すると濃縮して濃硫酸となるので注意が必要。服などに希硫酸が付着して放置していると気付いたら穴が開いているということも。

その他の濃硫酸の性質としては、吸水作用があり、そのために気体の乾燥剤として使われることもある。
なお、脱水≠吸水なので混同しないように。*3

このように硫酸は水と反応しやすく、その際には大量のが発生する。
硫酸を水で希釈する場合は、大量の水濃硫酸を少しずつ加える』方法が鉄則。
希硫酸を作る際も基本的には水に濃硫酸を少しずつ撹拌しながら投入して作る。その場合もかなりの発熱になるので、必要に応じ容器を氷水などで冷やしながら行う。
もし逆にして『大量の濃硫酸少量の水を加える』と水が突沸を起こし、硫酸が四方八方に飛び散るという地獄絵図と化すので絶対にやってはいけない(戒め)。
水に濃硫酸を加える場合も、一気に入れてしまうと急激に反応が起こり突沸する可能性があるのでやめよう。最悪容器が割れる


希硫酸は強酸だが、濃硫酸は弱酸である…といわれることがあるが、もちろんこれは大きな間違い
濃硫酸も紛うことなく強酸である。

強酸の定義は水中での電離度≒1(全ての分子が電離していると近似できる)であるが、これを適用するには試料溶液が希薄水溶液(溶質分子の数<<溶媒である水分子の数)であることが大前提となっている。

対して市販されている濃硫酸の硫酸分子は、確かに希硫酸と違ってさほど電離していないが、その質量濃度は通常96%、密度1.84g/mL程度であるため、分子数で言えば硫酸の方が多い。
すなわち電離度を用いる上での大前提が崩れているため、電離度でその強弱を評価することができないのである。
気を感知できないからといって彼女、あるいはこの方が弱いなどということにはならないようなものである。

その上濃硫酸は液中で硫酸分子同士の自己プロトリシス、脱水縮合反応、更には脱水縮合体(無水硫酸)と硫酸との酸塩基反応といったいくつもの反応を起こしており、その酸性の強さは希硫酸の比ではないほどに強い。
具体的には37億倍くらい強い


冒頭で記述したように、硫酸はありがちなフィクションで描かれるようなヤバい威力は持っていないが、
それでも人間がまともに浴びれば皮膚が焦げて火傷のようにドロドロになり、目に入れば言うまでもなく失明する危険な物質なのは紛れもない事実である。
万が一硫酸が身体にかかるような事態が起きた場合は、患部を大量の水で洗い流し、すぐに病院に行こう。間違っても硫酸が付いた手で目を触れてはいけない。


◆フィクションにおける硫酸


数ある化学薬品の中でもダントツと言っていいほど登場する。特にミステリー系。硫酸男
死体を溶かすためだの、憎い敵の顔にかけて顔面崩壊と言うのは誰もが一度は見た(聞いた)事があるだろう。
同じく頻繁に登場する化学薬品に青酸カリ(シアン化カリウム)があるが、こちらはこっそり飲み物等に混ぜ、飲用させて殺害する方法が主なためイメージは全く異なるだろう。


某少年ジャンプの漫画やエロゲーにさえある程。もちろん、滅茶苦茶グロい。

大きなお友達向けならば、服だけを溶かす謎の液体もこれに該当する。


◆何故、こんなに使われるか


コレは、実際に現実でもアシッドアタックと呼ばれる顔面に硫酸を掛ける行為など硫酸が使われた事件が多いからではないかと言われている。

ほとんど説明不要でストーリーに手軽に色を着けたり、重みを増したり出来るので結構な頻度で使われる。


フィクションに於いての化学薬品はこれに限らず、イメージによって扱われる。
例えば、ニトログリセリンというと「衝撃に敏感な、かなり危険な爆発物」というイメージだが、実際はそれだけではなく狭心症の治療薬に使われているなど、食い違いがある。


◆硫酸の出る主な作品


○Love Letter




○バイオハザードシリーズ

遊戯王5D's(酸のラスト・マシン・ウィルス、硫酸の溜まった落とし穴)

ウルトラマン80(第3話「泣くな初恋怪獣」にて硫酸怪獣 ホーが登場)

ウルトラマンメビウス(第41話「思い出の先生」に上記のホーが登場。断じてこの人の事ではない。)





仮面ライダーV3(ライダーマン/その他に第8話でも処刑用の硫酸の水槽が登場。)

闘神伝シリーズ(ヴァーミリオン)

○『シャーロック・ホームズの事件簿』高名な依頼人

北斗の拳(赤鯱)

○暁!!男塾(寿老人)


○メタルK(サイボーグの主人公・冥神慶子が、溶ける外装に硫酸を仕込み、後には武器(硫酸鞭)としても振るう様になる)

○力王(毒島)



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最終更新:2023年09月04日 12:16

*1 濃硝酸と濃塩酸を一定の割合で混合したもの。金やプラチナ等のイオン化傾向が非常に小さい金属も溶解できる。こちらもなんでも溶かせるわけではない(クロム、ガラス等が該当)。

*2 フッ酸とも呼ばれる物質。1982年に歯科医がフッ化ナトリウムと取り違えたことで発生した死亡事故など、死亡・重症化例が時折報告されている

*3 「吸水」はそのまま「水分を吸収すること」。吸湿と言い換えてもいい。対して「脱水」は吸水と同様の意味に使われることもあるが、化学的には「分子構造から水(H2O)に相当する部分を取り除くこと」を指す。上の角砂糖の実験では、砂糖(スクロース)の分子式はC12H22O11だが、これに硫酸をかけることで水11分子に相当する水素と酸素が取り除かれ、炭素だけが残る。