サクラ大戦 活動写真

登録日:2011/06/13 (月) 22:56:40
更新日:2021/07/05 Mon 18:03:43
所要時間:約 8 分で読めます







帝国華撃団、銀幕に舞う!



サクラ大戦シリーズのアニメ映画及び小説のタイトル。
東映洋画系劇場で公開され『冬の角川アニメ』と題し、『あずまんが大王』『スレイヤーズぷれみあむ』『Di Gi Charat 星の旅』の三作が同時上映された。
ちなみに、制作費は5億と破格の価格。


【あらすじ】
時は太正十五年十二月、帝都東京を襲う驚異のことごとくを打ち破った帝国華撃団は、
先の大戦から復興を遂げた帝都でクリスマス公演と銘打った一夜限定のイベントを行なっていた。

それまでの実績の数々が評価されフランスは花の都パリに巴里華撃団の新設が決まり、隊長である大神一郎が出向する中、
世界有数の大国アメリカから帝国華撃団花組に一人の少女が新入隊員として配属される。

少女の名前はラチェット・アルタイル
かつて米田一基の華撃団構想によって帝国華撃団が敷かれる以前、
欧州ドイツにおいて実験的に設立された霊的都市防衛組織『欧州星組』。
設立後わずか一年たらずで解体されたものの若干12歳にしてその隊長を務めた人物であった。
そんな中頻発する降魔の出現、様々な謀略。そして新たな力の台頭により解体の危機に瀕した花組は隊長である大神一郎を欠く中で過去最大のピンチを迎える…


【特色】
本作は様々なメディア展開を果たしてきたシリーズ初の映画作品。
85分という本編の中、歌と踊りで魔を鎮め地を清める帝国歌劇団と霊子甲冑を狩り帝都を脅かす降魔と闘う帝国華撃団の両面を巧みに描き、
細かなキャラクターの描写とセガのお家芸・セルアニメとCGの融合で公開から10年の時を経てなお高い評価を受ける作品である。

またシリーズ中多くは語られてこなかった帝国華撃団の政治的ポジションや賢人機関、夢組の存在も少なからず触れられ、ファンには必見の内容。
作中ラストでは現実に存在した小説家・泉鏡花の書いた戯曲『海神別荘』を花組が演じており*1
キャラクター達の心の葛藤とリンクさせたこのシーンは屈指の見せ場となっている。
また、冒頭の奇蹟の鐘のシーケンスは手描きアニメでは大変手間が掛かるカメラワークであり、あそこだけで非常に作画枚数がかかっている。




【用語解説】
  • 帝国華撃団(帝国歌劇団)
帝都東京の大帝国劇場に本部を置く霊的都市防衛組織。
古来より歌舞音曲などの芸能が魔を祓い清めるとされる謂れにならい平時は歌劇団として活動し、降魔が出現するなど有事には霊子甲冑を駆り戦う秘密部隊。
花組はその実戦部隊を指す。

  • 降魔
古くは1530年代の資料にも残される異形の怪生物。
通常の兵器はほとんど通用せず、唯一花組などの霊子甲冑が効果を挙げている。


  • 賢人機関
民族、宗教、思想など全てを超越して結成された秘密結社。
人が集い光と闇が集中する都市の平和防衛と監視を目的としており、帝国華撃団や巴里華撃団を直轄する組織。
大都市を抱える国のほとんどに支部があり強い権限を持つ。
日本支部では貴族院にも席を置く花小路伯爵が組織のまとめ役であり、米田と深い交流がある。

  • ダグラス・スチュワート社
アメリカ有数の科学力と資本を誇るコングロマリッド。
アジアをその勢力に収めるべく日本は銀座に支社を完成させ、重役であるブレント・ファーロングを支社長として派遣した。
また日本で強い発言力と行動の自由を得るため賄賂でとある議員と癒着している。

  • ヤフキエル
高い機動力と航空能力、降魔を蹴散らすほどの攻撃力を持ちながらコストパフォーマンスを最大まで高めた無人の人形蒸気。
ダグラス・スチュワート社が開発し、花組に替わる次期主力兵器として賢人機関でとりあげられる。

【海神別荘とは】
泉鏡花が明治末期に著した戯曲。劇作家ハウプトマンの『沈鍾』に影響を受けたとされる。
ちなみに沈鍾は妖精と鋳鍾師との恋を描いた作品。

〈物語のあらまし〉
海の王である公子は陸より美女を妻に迎える。
武人である公子は海の中に館をかまえ美女をめとり生活するが、美女は地上に戻りたいと願う。

仕方がないとの許しの沙汰で美女は地上に戻るが、地上では美女の姿は白蛇となり、父に鉄砲で撃たれる有り様だった。
館に戻った美女は公子を呪い、我が身の不幸を嘆き悲しむ。
気短な公子はそんな美女を許さず、命を奪おうと剣を持つ。

美女は剣を持つ公子の凛々しく、気高く、美しきその姿に強く魅せられる。
美女は歌う。心に灯った、憎しみより転じた愛を。
公子も歌う。己が心に燃える、力より転じた愛を。

やがて二人は我が身に刃をあてて互いの血を杯に受けすすりあい、互いの未来を誓うのだった。


作中はこれに劇作家の金田金四郎が脚色を加え花組が公演した。
ちなみにこの海神別荘は別の解釈を加え花組が既に一度行なっている。

作中の配役は以下の通り

公子…ラチェット・アルタイル
沖の僧都…マリア・タチバナ
陸の美女…真宮寺さくら
博士…李紅蘭
女官…神崎すみれ
侍女一…ソレッタ・織姫
侍女二…イリス・シャトーブリアン
黒潮騎士団一…レニ・ミルヒシュトラーセ
黒潮騎士団二/赤鮫団長…桐島カンナ(二役)


【以下ネタバレ】









ラチェットの配属、頻発する降魔の出現、霊力に頼らない圧倒的性能を誇る新型の人型蒸気、作中様々な要素が絡みあう中、
裏で糸をひいていたのはダグラス・スチュワート社の若き重鎮ブレント・ファーロングである。

人型蒸気の開発で国のトップに君臨するダグラス・スチュワート社は、
以前から人型蒸気を用いた都市防衛構想、つまり賢人機関による華撃団構想のことをある程度かぎつけていた。
しかし現在必要とされる情報は賢人機関によって固く隠蔽されており、来るべき紐育華撃団結成に先駆け関係者に渡される資料に的を絞ることになった。

そこでブレントに目を付けられた人物こそかつて欧州星組を率いたラチェットである。
ブレントは華々しい経歴を飾るラチェットの自尊心を巧みに突き、
自らが介入することで訪れる世界規模の都市防衛計画の一端を明かし、その中心的人物の座を約束することで様々な情報を得ていた。
そのためのステップとして初めに行なった工作こそ賢人機関にも席を置く名うての政治家、田沼を使いラチェットを帝国華撃団に配属させることであった。

ブレントがラチェットに提示した条件はこうである。
ラチェットが花組に配属された後、
何度か起こるであろう対降魔戦において田沼を通じて陸軍に提供したダグラス・スチュワート社製の人型蒸気で花組に対しての優位性を証明する。
帝都防衛の主導権が華撃団から陸軍に移ったところで星組からの経歴と花組での経験を持つラチェットを陸軍に出向させ、
ヤフキエル隊を指揮するラチェットが帝都を守り抜く…という筋書きであった。
しかし実際には手に入れた降魔の培養と、その生体組織を組み込んだヤフキエルの増産による自作自演という恐るべき計画が隠されていた。

この計画自体は花組と月組、薔薇組によって阻止されたものの、
帝国華撃団及び花小路伯爵の口止めを計ったブレントの巨大ヤフキエルの攻撃によって完膚なきまでに叩きのめされたラチェットはやっと真相を知り、
己を己足らしめてきたあらゆるものを粉々に打ち砕かれたのである。


『全ての力を手に入れたはずの自分は過去に縛られ付け入られ、利用された挙句一矢報いることもできず、組織として個人として遂に花組にも勝てなかった』
そうした葛藤が花組に対して吐露されたのが台本を無視する形でラチェットが演じた海神別荘のラストシーンである。
強い力を持つが故に使命感に燃えたラチェット演じる公子は己への憤りを歌い、
愛するものを守りたいが故に力を合わせるさくら演じる美女は優しく力の使い方を諭す。
さくら達の文字通り命を懸けた説得に遂に己の不覚を認め、万雷の拍手の中でラチェットが花組の仲間となるシーンは必見である。

劇場版ではここで幕が下り終わりとなるが、小説では舞台が跳ねた後、ラチェットは大神に自分がブレントと内通していたことを打ち明ける。

本来であれば田沼同様二度と社会に戻ることはなくなるであろう告白だが、大神はラチェットを信じて許すと言った花組同様自分もラチェットを許すと告げる。
優しさと信頼こそがかつての自分に決定的に欠けていたものだと感じたラチェットははじめて涙をこぼし、
翌日の朝早くに大神とさくらに見送られ紐育に帰っていくというラストで結ばれている。


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最終更新:2021年07月05日 18:03

*1 後に3次元の歌謡ショウでも一部配役を変更して上演されている。