宇宙大戦争

登録日:2011/06/25(土) 00:50:56
更新日:2024/01/14 Sun 21:35:09
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宇宙大戦争』は1959年12月26日に公開された東宝の特撮映画である。




【あらすじ】

宇宙ステーションが何者かに攻撃され爆破されてしまう。その後、世界各地で橋や鉄道が浮上してしまう事故が多発する。
国連による会議が進む中、ある科学者が何者かに操られる。操った者は科学者伝いに自らをナタール人と名乗り、地球に降伏を勧告した。
これに対応し、調査の末にナタール人が月面にいることを知った国連は、科学者を中心とした調査団と新兵器の熱線砲を搭載した月面探検車を新宇宙船スピップ号に乗せ、地球を出発するのだった。


【概要】

本作は『地球防衛軍』の姉妹編として製作された作品である。『地球防衛軍』では宇宙人が地球に基地を作り、地球で物語が展開したが、本作は宇宙人と月面、または成層圏で戦いが展開される。
また、本作で注目するべきは製作年が1959年であることだろう。宇宙開発競争が本格化し、ソ連が月へ無人ロケットが到達した頃だった。

しかし、この時点ではまだ人類は宇宙飛行を実現していないのである。(世界初の有人宇宙飛行は1961年)
そんな状態でありながら本作は、果敢にもまだ誰も見てない宇宙飛行や月面着陸の描写にチャレンジしている。
また、出演者の宇宙大好きな土屋嘉男氏が「月面は重力が少ないという説を取り入れるべき」とスタッフに力説した。後年現実の月面着陸で実際に重力が少ないため土屋氏は喜んだという。
月面は1950年に噴火した三原山の溶岩地帯で撮影された。
当時、月面は不鮮明な写真ぐらいしか無かったわりには高い再現度である。
 また、ナタール人の攻撃に物体を冷却させ無重力にするというのがあるが、これも当時の学説を取り入れている。
実際は当時でも否定が主流だが、絵面を派手にすることの理屈付けに取り入れたらしい。

スタッフは監督に本多猪四郎氏、特撮監督に円谷英二氏、音楽に伊福部昭氏と東宝特撮常連で固められている。
キャストでは主役に文芸作品や戦争映画への出演が多かった池部良氏や外国人俳優を多数起用し、国際色豊かな作品に仕上げている。
また『地球防衛軍』が原色を使ったファンタジックな色彩と作風であるのに対し、落ち着いた色調でやや現実的な作風になっている。
メカデザインは全面的に小松崎茂氏が担当しているため、小松崎メカを存分に楽しめる。
本作は宇宙や月に対するロマンや夢があった時代の作品であり、現在の目から見たらレトロフューチャー的な視点から楽しめるだろう。


【登場人物】

◆勝宮(演:池部良)

国連の科学者で熱線砲を開発した。他の科学者とスピップ号に搭乗、ナタール人と最初に交戦した内の1人となった。

◆白石(演:安西郷子)

勝宮の恋人で職場も同じである。勝宮達と一緒にスピップ号に乗り込み、初めてナタール人と遭遇した。

◆岩村(演:土屋嘉男)

勝宮の友人で共に熱線砲を開発した。ナタール人に操られてしまうが、洗脳が解けた後は勝宮を逃すために犠牲になった。

◆安達(演:千田是也)

国連で日本代表として会議に出席した学者であり、対ナタール人の中心人物。老体ではあるがスピップ号にも乗り込んだ。


【ナタール人】

宇宙から侵略に現れた宇宙人。月の裏側に基地を設置し、宇宙ステーションを破壊後、世界各地で異常を起こし地球に降伏を迫った。
地球人の額に装置を埋め込み洗脳し、メッセンジャーに使ったり破壊工作に使ったりした。
小柄な体型で、宇宙服に包まれた素顔はわからない。

主力は小型円盤と母艦、まるで隕石のような宇宙魚雷がある。
小型円盤はレーザーによる攻撃、母艦は無重力攻撃を駆使する。
無重力攻撃の表現をするのに、軽い素材でミニチュアを作成、爆発した際に下からボンベで空気を送ることで爆発した建物が宙に舞い上がる描写がされた。
他の作品ではなかなか見られない、非常に見応えのある都市破壊シーンとなっている。


【地球側兵器】

◆スピップ号

国連の最新ロケットで月のナタール人の基地調査に2隻投入された。先端に熱線砲を搭載し多少の戦闘能力がある。
宇宙では無重力、方向を変える際はバーニアを細かく噴かす、宇宙ではバーニアは使わず慣性飛行をする等、宇宙に行ったことがない時代なのに描写が非常に細かい。
発進基地のセットは高さが足りないため、美術担当井上氏は

撮影所の屋根をぶっ壊そうとした

さすがに円谷監督に怒鳴られた。


◆月面探検車

スピップ号に搭載されていた特殊車両。蛇腹で前後に繋がった形状をしている。熱線砲は強力でナタール人の月基地壊滅に活躍した。
当時の学説を反映しており、月には一部に希薄な大気が存在しているという説を受けて、月面探検車がホバーで移動している。


◆宇宙戦闘機

ナタール人を迎撃するために投入された大気圏内外両方でも使えるロケット戦闘機。
本来は無人の偵察ロケットだったものを来るべきナタールの襲来に備えて有人型の戦闘機として改造した。
機首の熱線砲を武器にナタール人の円盤と戦った。

音速実験機X-15そっくりの西側諸国仕様とオリジナルデザインのソ連仕様の2タイプが配備されたが、ソ連仕様機は発進シーンしか描かれなかった。


おそらく日本映画で初めて宇宙でドッグファイトをした兵器である。アメリカでこんな宇宙戦闘機を本気で研究していたのを取り入れたらしい。
尚、発進基地のセットは撮影所の高さが足りず、美術担当井上氏が高さを補うため

夜中にこっそり穴を掘った

守衛に見つかり所長に叱られ、円谷監督は後ろで笑ってたらしい。


◆熱線砲

対ナタール人の主力兵器で、スピップ号に使われた装甲を30枚以上貫通する凄まじい威力を誇る。
調査団が持っていった分だけでもナタール人の月面基地を破壊した。
また、パラボラアンテナ型の大型熱線砲が母艦との決戦に投入された。


【余談】

当時の映画の例にもれず他作品との同時上映しており、同時上映は実写映画の『サザエさん』の7作目。*1

零号版フィルムという合成前のカットシーンや合成素材、光線のタイミング、シーンの尺の長さなどが異なるものが存在していたが、長らく行方不明になっていた。
その後発見され2014年に有料チャンネルにて初めてテレビ放映が行われた。

本作のテーマ曲として有名な「宇宙大戦争マーチ」の元は初代『ゴジラ』にて防衛軍の艦隊出撃で使われた「フリゲートマーチ」。*2
その後1965年に公開されたゴジラシリーズ6作目の『怪獣大戦争』にて「怪獣大戦争マーチ」としてリメイク。
再びゴジラで使われ以後この曲が世間に広まり、『クレヨンしんちゃん』の映画でも使われた。
「宇宙大戦争マーチ」が再度使用されたのは本作が公開されて57年後の『シン・ゴジラ』だった。



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最終更新:2024年01月14日 21:35

*1 実写映画の『サザエさん』は1956年から61年までの5年間に10作が公開されている

*2 更に遡るとこの曲も帝国海軍の依頼で作曲した「古典風軍樂 吉志舞」で使われた旋律を流用している