旧神と旧支配者

登録日:2011/08/02 Tue 07:35:26
更新日:2024/02/25 Sun 18:36:26
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この項目はクトゥルフ神話に登場する神格を纏めたものである。

H・P・ラヴクラフトが起源となり、後に多くの作家によって発展してきたクトゥルー神話だが、現在基礎とされるものはA・ダーレスがその大半を整理・肉付けしたものである。
そのため、現在でも公式で分類が煩雑で、資料によっては異なる分類がなされている場合がある。*1
というより、クトゥルーの神格は人間の認識・倫理を遥かに超越した存在なので、ある意味ではこうした分類自体が無意味なものともいえる。
またファンの中にはラヴクラフト神話を重視し、こうしたカテゴライズを忌避する者もいるので、その点は注意すべし。*2

基本的に、クトゥルー神話の世界観において一部を除いた「神格」とはいわば宇宙人であり(一部を除く)、地球は植民地、あるいは活動地域の一つに過ぎない。
彼らはおよそ三つに分類される。

外なる神(the Outer Gods)

その名の通り、この宇宙が存在する以前から存在した別次元存在。
ほとんどがこの宇宙の物理法則によらない超自然エネルギー的存在で、地球に干渉してくることはある一体を除き稀。
だが、ひとたび干渉してくれば極めて甚大な影響を及ぼす。

日本名アザトース、アザトホソート等。
万物の支配者たる盲目白痴の魔王。ビッグバンあるいは放射能の化身体。
現在は無限の混沌、あるいは宇宙の中心にある己の神殿で眠りについているという。
魔導書『妖蛆の秘密』にその召喚法が記されていると言われる。
自身の代行者たる『闇』『這い寄る混沌』『無名の霧』を生み出した。

『無名の霧』より生まれしもの。
日本名ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトホート等。
過去にして未来、門にして鍵、全にして一、戸口に潜むもの等、多くの異名を持つ。
CthulhuやHasturなど何柱かの神の父でもあり、人間と交わり子をなすこともある。
あと、マスターテリオンの父。

『這い寄る混沌』
日本名ナイアルラトホテップ他多数。
Azathothの忠実なる部下にして全ての神格を嘲る強壮なる使者。
例外的に人間と多く関わる外なる神。

『真なる闇』から出でしもの。
日本名シュブ=ニグラス、シュブ=ニググラト等。
『クタート・アクアディンゲン(水神クタアト)』によると稀有な女性、あるいは両性具有の神。
意外にも人間には恩恵を与える機会が多く、古代の祭祀書等にその名が多く見られる。

  • Ubbo-Sathla
日本名ウボ=サスラ、ウボ=サトゥラ。
地球上すべてのものの生みの親。アニヲタ的に言えばリリス。
自存する源とされ、アザトースとは双子であるとも。
旧支配者を産み出したともされる。

  • Abhoth
日本名アブホース、アブホート。
Hyperboreaに生息する神。
自ら産んだ異形の怪物を無数の触手で捕食する、不浄なるものの父にして母。
Ubbo-Sathlaとの類似性が指摘されているほか、旧支配者とされる場合も。

  • Tulzscha
日本名トゥールスチャ。
Azathothの周りで踊り狂うものの一柱。
崇拝者を腐敗しながらに生き長らえさせるという。

  • Trunembra
日本名トルネンブラ。
音楽の神にして音そのもの。
作曲家を狂気に染め上げAzathothの楽団に永遠に幽閉する。


【旧支配者】(the Great Old Ones)

太古の地球に飛来した、肉体を持つものども。「神」と呼ばれそのように崇拝されているものの、あくまで生物であり本質的な神ではないため、外なる神より力は劣る。
外なる神とは対照的に、人間に積極的に干渉する。

日本名クトゥルフ、クトゥルー他多数。
人類誕生の遥か昔、ムー大陸に古代都市R'lyehを築いた水神。
その後人類が現れてからは自身を崇拝することを教えたが、地殻変動により大陸が水没。
しかし今なお滅んではおらず、死のごとき微睡みの中にいる。
兄弟にクタニドという、姿形そのままの旧神がいる。

日本名ハスター、ハストゥル等。
名状しがたきもの。
ヒヤデス星団のセラエノに存在する風神。
慈悲深くも残忍で、CthulhuやNyarlathotepと敵対し、Byakheeを使役する。
利害が一致さえすれば人間にも手を貸すし、召喚にも応じる。
外見には謎が多い神だが、蒼白の面、黄衣の王と混同される。黄衣の王はハスターの化身であり、破滅を招く本である。
設定上効き目がなさそうな「旧神の印」を掲げられて速攻でトンズラかましたケースも。

  • Ithaqua
日本名イタクァ、イサカ等。
北米伝承のウェンディゴと同一視される風神。
人間を攫い連れ回して凍死させるはた迷惑な神。

日本名クトゥグア、クトゥグァ。
地球に最初に現れた火神。現在はフォマルハウトに存在。
Nyarlathotepの天敵。彼の地球での拠点の一つであるンガイの森を焼き払った。

日本名ツァトゥグァ、ツァトホッガ等。
極めて怠惰だが非常に博識な神格。

  • Lloigor/Zhar
日本名ロイガーとツァール。
ミャンマーにかつて存在した古代都市アラオザルの地下に潜む双子の卑猥なるもの。

  • Atlach-Nacha
日本名アトラック=ナチャ、アトラク=ナクア。
巨大な人面の蜘蛛。その巣が仕上がると世界が滅ぶとされる。
クトゥルー神話とは無関係の作品でも名前が蜘蛛のモチーフとして引用されたりと日本での知名度は高い方だが、実は初出作品の『七つの呪い』における出番はほんのちょっとのオチ要員。

日本名ヴルトゥーム。
火星の洞窟に隠遁したYog-Sothothの息子。
ちなみにこの旧支配者の初出である『ヴルトゥーム』、2020年現在日本語訳はプレミア化している書籍一本にしか収録されておらず、読むのが非常にハードルが高い作品としても知られる。

  • Ghadamon
日本名ガダモン。
Mi-Goによって創造された膿疱だらけの粘液質な神。

日本名クァチル・ウタウス。
触れたものを風化させる子供のミイラのような姿。塵を踏むもの。

  • Glaaki
日本名グラーキ。
イギリス、ブリチェスターの近くの湖の中に棲んでいる怪魔であるご当地系旧支配者。
故郷は酸性の湖で覆われ、大気は汚染された蒸気に満ち、宇宙を漂っていた隕石都市だったらしく、隕石と共に移動する事が可能。
かつての住人が死に絶えた後、グラーキは己が乗っている隕石を地球へと落下させたという。
現在のブリチェスターから16キロ離れたド田舎の森林地帯に落下した隕石のクレーターはやがて湖となった。
グラーキは力がある程度衰えたようだがこの怪しげな湖を調査しに来た人間を配下に置き、そこから勢力を伸ばし始める。
余談だがこの隕石都市はユゴスやシャッガイなどファンならニヤリとできる惑星にも立ち寄っているらしい。

遭遇した人間によれば、外見は蛞蝓に似ており背中から金属製の針が針鼠のように無数に伸びている、数メートルぐらいのでっぷりとした毛虫のような姿。

主な能力は2つで、1つは夢を通じて相手に忍び寄って操る能力。
…なのだが、今では湖の近くにある家に引っ越してきた哀れな犠牲者を頑張って操ろうとするのがせいぜいで時間がかかる。

もう1つは相手に自慢の刺を刺して謎の液を注入してゾンビ化させて操る能力。
こちらの方がより確実に操れるだろうが、しかし下僕になったまま60年ぐらい経つとやがて強い日光の元には出られなくなる。
何せ強い日光を浴びると彼らの肉体は緑色崩壊(グリーン・デイケイ)という現象で崩れてしまうからだ。
なお、液が体に回り切る前に棘を引き抜ければ人間として死ぬ事ができる。
グラーキ初登場作品「湖畔の住人」ではこの弱点(?)を突かれ、
刺をブッ刺した画家カートライトに手斧で棘をぶった切られ悲鳴を挙げて湖に逃げ帰るという可愛い姿を見せた。
自分の命と引き換えに人外の存在に手傷を負わせるとは大したものだが、まあクトゥルー神話ではよくある事である。

  • Gloon
日本名グルーン。
夢見る者の魂を捕らえ拷問するというアトランティスの神。

  • Gol-Goroth
日本名ゴル=ゴロス。
蹄をもつ蟇蛙の姿で表される。

  • Sebek
日本名セベク。
人身鰐頭の実在するエジプトの神。

  • Han
日本名ハン。
Lenから現れるというだけで詳細不明の神格。

  • Mordiggian
日本名モルディギアン。
食人儀礼を行った屍喰鬼の神。

  • Rlim Shaikorth
日本名ルリム・シャイコース。
万物を凍らせる白蛆姿の神。
クトゥグアの配下アフーム=ザーの尖兵。

  • Hziulquoigmnzhah
日本名フジウルクォイグムンズハー。
Tsatuggaの叔父にあたり、土星で隠遁生活を送っている。

  • Bokrug
日本名ボクルグ。
敵対者には容赦ないが穏やかで緩慢なトカゲのような神。大きさはオオトカゲ程。

  • Eihort
日本名アイホート。
迷宮の神。白く巨大な蟲のようにも見える神。
腐って膨らんだパンに細い馬の脚やゼリー状の赤い無数の目が付いている。
地下迷宮の奥に獲物となる人間を誘い込み子供の卵を産み付け。卵が孵るとその人間は無数の蟲サイズの幼虫たちに身体を喰い破られて息絶える。
なお、人間を喰い破った幼虫たちが、その後どうなるのかは不明。

  • Yoth-Tlaggon
日本名ヨス=トラゴン。
例によって名状しがたい姿をしている神。九大地獄の王子。
元々ヨス=トラゴンとはラヴクラフトがある書簡で使用した謎の名称だったが、朝松健がクトゥルー神話作品を書く際にヨス=トラゴンという名の神を設定した。
登場作品では日本でも古くからこの神が信仰を受けていたとしている。


【旧き神】(the Elder Gods)

外なる神や旧支配者と敵対する存在。場合によっては外なる神の一種として扱われることも。
ダーレスが体系化する際に生まれた区分で、人間の味方として扱われるが、実際には下手な旧支配者よりもはた迷惑なこともしばしば。*3

  • Nodens
日本名ノーデンス。
ケルト神話のヌァザと同一視される、大いなる深淵の大帝。
Night Gauntsを従え、夢の国で旧支配者を監視しているという。
ラヴクラフト初期のダンセイニ風幻想小説の中でもやたらと長い名作「未知なるカダスを夢に求めて」では颯爽と登場し、ニャルラトホテプ配下の邪神達を謎のビームで焼き払うシーンが強烈なため印象に残っている人も多いと思われる。
後に「サセックス草稿」「クトゥルー神話小辞典」などの書籍で旧神扱いされ、ダーレスもこれらに影響を受けて旧神としてノーデンスを扱うようになったと考えられている。
同じくラヴクラフトの「霧の中の不思議の館」では「貝殻を模した戦車に乗る白髪白髭の老人」というよくありそうな神様っぽい姿で登場している。
しかし、現在這い寄る混沌よりもなお濃密な混沌を世界中にバラ撒いており非難轟々である。元ネタにとってはいい迷惑。

  • Bast
日本名バースト。
人身猫頭のエジプトの女神。

  • Hypnos
日本名ヒプノス。
ギリシャ神話の眠りの神。
気にかけた者を夢の国へ永遠に引き込むとされる。

  • Lilith
日本名リリス。
アダムの妻にしてサタンの配偶者。
不老の美女の姿で現れ、対象の精神を支配する。

  • Robiqus
日本名ロビクス。
夢の国の菌類の森に棲み、農耕者に崇拝される古代ローマの神。

  • N'tss-Kaambl
日本名ヌトス=カアンブル。
ローブをまといを構えるアテナヴァルキュリアのような戦女神。
旧支配者の眷属に対抗する旧の印(エルダーサイン)を作ったとされている。

  • Vorvados
日本名ヴォルヴァドス。
後に旧神扱いされるようになった神。
大昔はクトゥルー、イオド、イグらと共に信仰を受けており、
これら人類に友好的な神々は、滅びゆく異次元から現われた名状しがたい姿の侵略者達を撃退し、地球を守り抜いた。
再び侵略者達がこちらの世界へ本格的に現れそうになったその時、召喚に応えて現われたヴォルヴァドスが侵略者達を再度撃退したという。

  • 星の戦士
善なる旧神。若しくは、それに仕える天使の様な存在。初出は1931年の『潜伏するもの』。後続の作家どころかダーレス自身も再登場させていない。
巨大な人型をした炎のような生命体であり、旧支配者の復活を察知すると赤い火の玉となって地球に飛来して素手で格闘を挑み旧支配者を叩きのめした後に、三対の腕っぽいものを組み合わせた筒のようなビーム砲らしきものから光線を発射、旧支配者を再び封印する存在であるという。
そして筒のような乗り物に跨って飛び去るという実に尋常ならざる姿をしているが、上記の通り戦闘能力は極めて高い。
はて、日本にもそんなヒーローが来ていたような…?

ちなみに彼らはオリオン座の方角からやって来るのだが、そのヒーローの故郷も地球から見てオリオン座にある。また邪神をモデルにした怪獣もいたような?
クトゥルフ系ボードゲームの旧い版では、星の戦士のコマがどう見ても……だったりするが、うん、まあ。
果たしてこれは偶然の一致なのか、それとも…?
答えは神のみぞ知る…と言いたいが、あのヒーローは誤植で故郷があの方角になったのであり、本来は乙女座の方角だったはずなので信じ難いが偶然の一致である。

  • 名前の無い旧神達
ダーレスとマーク・スコラーの共著「潜伏するもの」で初登場した初期設定の旧神。
名前がないので何と呼ぶべきかよくわからない方々。
光の柱のような存在として描写されている。

今日のような旧神=人間と似ている神々という風潮はもう少々後になってから流行った模様。
ひとまずノーデンスが旧神であると名言される「破風の窓」までのダーレス作品では、誰一人名前を持たない神々という扱いであった。

クトゥルーとハスターを掴んでそれぞれが封印されている場所までブン投げるという強大な力を持っている。

なお、後年のTRPGの分野にて「Orryx(オリュクス)」という固有名称が用意された模様。


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最終更新:2024年02月25日 18:36

*1 現在では『クトゥルフ神話TRPG』での区分を元にカテゴライズするものが多いが、同シリーズは「四大属性」や「善なる神たる旧き神と悪なる神旧支配者の対立」といった所謂ダーレス的要素を意図的に廃しているため、当然ながらダーレスによるところが大きい分類構造に対応しきれている訳ではないため、一定以上真面目に扱うのであれば参考程度に留めるのが無難だろう。

*2 実際、ラヴクラフト作品ではそもそも同じ名称を用いていても作品毎に別の物を指していかねない程に曖昧であり、他作家に広まった時点でも作家毎の自由性が尊重されており、全く聞いたことのない神が生み出されるのもその為である。

*3 そもそもラヴクラフト的なクトゥルー神話のコンセプトは大雑把に言って「宇宙には人類ごときでは到底太刀打ちできない強大な存在がいて、それらが本気になったら人類は大人しく滅びるしかない」というものであるため、「旧支配者から守ってくれる、旧支配者と同等以上に強大な存在」としての旧き神はそのコンセプトに真っ向から反しているとも言える。が、この「善神VS悪神」というわかりやすい構造こそがクトゥルー神話が最初に広まるきっかけになったのもまた事実である。