シグルイ

登録日:2012/09/07(金) 01:33:11
更新日:2024/04/24 Wed 10:00:33NEW!
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正気にては大業ならず


武士道はシグルイなり。

『シグルイ』とは山口貴由による時代劇漫画である。


概要

南條範夫の時代劇小説『駿河城御前試合』の第一話『無明逆流れ』を原作として描かれているが、山口の手によりかなりの脚色が為され、殆ど別物と言っていい作品に仕上がっている。

例としては『駿河城御前試合』の他短編「がま剣法」の主役、屈木頑之助が原作よりも早く登場している、虎眼先生の指が一本多いなど。

過激な殺傷描写と「ぬふぅ」や「ちゅぱ…ちゅぱ…」などのシリアスな笑いとも言うべきシーンから上級者向けの劇薬的ネタ漫画として有名だが、
この作品が表現しようとしている『残酷』とは決して血みどろの臓物を指すのではなく、
『善なるものが報われない』『努力した者が報われない』

…そうした世界そのものを捉えた言葉である。

ストーリー

寛永六年、駿河城。
暗君、徳川忠長によって強行された、前代未聞の真剣による御前試合。
その第一試合に登場したのは、隻腕の剣士、藤木源之助と盲目の剣士、伊良子清玄。
片腕で剣を構える藤木と、聞いたことも見たことも無い奇怪な構えをとる伊良子。
相対する二人の剣士には、七年前から続く恐るべき因縁があった。

登場人物


・藤木源之助(声‐浪川大輔

虎眼流師範代。
本作の主人公その一。寡黙な隻腕の剣士。
原作ではどうにも情けない性格だったが、今作での彼は心身ともに化け物級の強さを持つ。
そして本作最大の被害者。主君の命令とあれば、非人道的行為も迷わず実行する等、武士道に取り憑かれ縛られている貝殻野郎。
なお原作ではまだ多少救いがあった…がどのコミカライズ版でも描写されない原作ラストでさらに追い打ちがかけられる。

・伊良子清玄(声‐佐々木望

本作の主人公その二。
虎眼流に入門した天才美剣士。後に破門される。
虎眼の愛人である「いく」に手を出したりしたばっかりに・・・
野心家ではあるが、登場人物の中では現代人の我々に最も近い価値観の持ち主である。
一巻冒頭での魔技「無明逆流れ」のインパクトは抜群。
藤木とは宿命のライバルであり仇敵であるが、同時に奇妙な友情も抱いており、その実力を誰よりも高く評価している。

・岩本虎眼(声‐加藤清三)

岩本家当主にして、虎眼流の開祖。
ある意味真の主人公。
濃尾無双と恐れられる作中最強の大剣豪だが、加齢(今でいう認知症)により正気を失っており、作中最凶の危険人物と化している。
普段は会話もままならない曖昧な状態にあるため、「種ぇ」とか「いくぅ」とか言いながらそこら辺を徘徊している。
娘に四足獣の生肝を食べさせようとしたり、生で鯉をボリボリ食べたりと、奇行に事欠かない。
稀に正気に戻るが、戻ったら戻ったで苛烈で嫉妬深く、感情の起伏も激しいため、結局危険人物には変わりはない。
虎眼流邸内で死者が出た場合、真っ先に容疑者として疑われる。

こんな人だが若い頃はそれなりにいい人だったらしく、子供時代の藤木に優しい笑顔を見せているシーンや、弟子たち全員にスイカを振る舞う(江戸時代当時は、スイカなどの果物はめったに食べられない超高級品)粋な面もある。
ちなみに全盛期の実力はあの柳生宗矩をも凌駕する。

伊良子との一騎打ちは読後、うどんが食えなくなる可能性があるので注意。

・牛股権左衛門(声‐屋良有作

虎眼流師範。
藤木、伊良子の兄弟子にあたる大男。青竹を素手で握り潰し、「かじき」と呼ばれる巨大な木刀を軽々と振るう怪力を持つ。
事実上のナンバー2のため虎眼の我儘に振り回される苦労人。ひどい時には口を切り裂かれたりすることも。
それ以降、大きく裂けた口元がチャームポイントとなった。

過去に起きたある出来事から自ら素手で去勢している。

「でかした!」

・岩本三重(声‐桑島法子

岩本虎眼の一人娘。
ヒロインにして、ある意味本作最大の怪物。
武家の子女にふさわしい大和撫子だが、ヤンデレの要素も併せ持つ。蛙の子は蛙である。
彼女もまた武士道の孕む狂気の犠牲者には違いなく、全編通して男達の物語に振り回された。
実際作中では極度のストレスが祟って鬱病や拒食に陥るなどとことん酷い扱いを受けている。
最終回の行動のせいで読者からは嫌われがちだが、彼女の精神状態を考えれば無理からぬ部分もあるだろう。原作準拠でもあるし

・いく(声‐篠原恵美)

岩本虎眼の愛人。後に伊良子と密通し、追放される。
「無残無残の童唄」を歌われるほど、周りに死者が多い。
いく自身も、乳首を抉り飛ばされたり乳房を焼いたり皮を削ぎ飛ばされたりと散々な目にあっている。

・山崎九郎右衛門(声-島田敏)

虎眼流の高弟。ギョロ目が強烈な印象を残す人。
門下生の近藤凉之助に思いを寄せるゲイ(まぁあの当時としてはたいして珍しい事ではない)。
虎眼流の悪口を言った浪人を素手で撲殺し、目玉をくりぬいて喰らう、凉之助のことを妄想しながらちゅぱっ…ちゅぱっ…とセルフフェラに励む等奇行にはしる。
ちなみにこのことは虎眼流の高弟の間でも知られていたが、誰も知らないふりをしていた様子。

凉之助が消えた後、彼のことを思いちゅぱちゅぱやっている所に何者かが現れ…

「なまくらと申したか」

・近藤凉之助(声-堀江美都子)

まだ前髪の美少年剣士。
最年少だが虎眼流を馬鹿にした浪人を「流れ」で斬り捨てる等心構えはしっかりしている。
藤木に憧れを抱き、いずれは彼の域に達したいと願っていた矢先…… 

・舟木数馬・兵馬(声-近藤隆、楠大典)

虎眼流と因縁関係のある舟木道場の当主、舟木一伝斎の息子。
並外れた巨体と怪力で宙に浮いた兜を叩き斬る「兜投げ」の達人。

男娼を相手に賢者に達した後、神社にお参りして帰る途中に藤木、伊良子に闇討ちされ死亡。
同時に賢者に達した際のうめき声「ぬふぅ」とその時の顔、ポーズから人気がある。

結婚の話もしていたため二人はバイと思われる。 

・徳川忠長(声-松田佑貴)

実在の人物。駿河大納言にして時の将軍家光の実弟。
この物語最凶の残酷性を体現する人物。
兄より利発だったにもかかわらず家康の鶴の一声で将軍職に就けなかった不満から、残虐非道の暗君として成長、
幕府転覆の野心を内に燃やしている。
藤木と伊良子の決戦の舞台となった駿河城での真剣を用いた御前試合も、彼の退屈しのぎ(あるいは腹いせ)に過ぎない。
これだけの暴虐を行いながら、作中彼を止められる者はいない。正義や善悪を問われることすら無い(史実でこの後自刃エンドが待っているせいだと思われる)。
まさに残酷である。
ちなみに史実の忠長は暗君説もあるが、意外とまともな人物だったという説もある。

余談

  • 後の山口の述懐によると、隠されたテーマとして
『閉塞状況下における軍隊の「支配」と「服従」の姿を「武士」の世界に置き換えて描写したもの』
があったらしい。

  • 最終景の悲惨さは『バッドエンド』や『鬱エンド』といった表現すら生ぬるい、救いの無いもの。
描いた山口自身も精神的に深いダメージを受け、『勧善懲悪のヒーロー漫画』が描けなくなってしまったという。
事実、次回作『エクゾスカル零』は覚悟のススメのパラレル的作品でありながら
全体を通しての雰囲気はシグルイを思わせる重く陰鬱なものとなっており、
主人公・葉隠覚悟も旧作の覚悟というより藤木そのものといった外見・性格にリファインされている。
…が、3巻辺りからかつてのノリを取り戻し、シュールナンセンスなギャグを挟む描写も増えてきている。

  • 原作小説は発表後長らく絶版になっていたが、後に挿絵をシグルイのものにした新仕様となって再版された。
原作自体は短編の上、登場人物のしゃべり方も異なるので読み比べや改変箇所を探してみるのも面白いだろう。
また『駿河城御前試合』のコミカライズは本作と同部分を基にした『無明逆流れ』(とみ新蔵)があり、本作の後にも『腕 -駿河城御前試合-』(森秀樹)が発表されている。


  • 2ちゃんねるでは独特な台詞回しが人気なのか焼肉や童話など様々なものをシグルイ風に語るスレなるものが存在した。





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最終更新:2024年04月24日 10:00