鍔眼返し(刃鳴散らす)

登録日:2010/01/03(日) 23:51:46
更新日:2024/03/19 Tue 22:44:07
所要時間:約 4 分で読めます




宙を舞う伊烏には見えるはずだった。地に向かって斬り下ろされ、無限の遠さにある赤音の刀が、
赤音の刀が、
赤音の刀が、
刀は、


―――何処だ?



 花散らす
 風の宿りは誰か知る
 我に教えよ
 行きてうらみむ


それは魔剣であった。





ニトロプラスより発売された『刃鳴散らす』の主人公、武田赤音の使う剣技。


ベースとなったのは刈流兵法、小波。


小波とは一歩目で振り下ろした一の太刀から二歩目を踏み込み、体躯の前進のベクトルにより下段から上段斜めに二の太刀を斬り上げる連続技である。
だが、小波は二つの問題点を抱えている。
二歩の踏み込みを要するため迅速に技を終えることが至難である点、また両腕を捻り返しての斬りあげは関節駆動上の難があり、技の遅れと体勢の乱れを招くという点。

鍔眼返しはこれらの欠点を改良した赤音独自の剣技である。
まず二歩目の動作を省く。
しかしそれだけでは返しの二撃目の斬り上げを腕の力だけで振るものとなる。
それは棒振り芸であって剣術ではない。
腕力のみ頼りに扱う剣は体勢を崩しやすく、刃筋が乱れるため切れ味がなく、またすぐに疲労して力を失う。
良いことが無い。
腕の力は極力使わないことを原則とする。

ならばどうするか?
初撃の一の太刀を全身の力を使い体を投げ出すようにして斬り出す。
これをかわされたら、二撃目だ。この見切りは一撃目の踏み足が着地する前にせねばならない。
その刹奈、余裕を持たせ屈縮していた送り足の膝を伸ばし体を前に出す。

これは本来は間合い騙しに使う「騎虎」の応用だがこの際、前方に進む下半身と傾いた上半身とを運動の中心である腰を境に切り離すように意識する。
これら一連の動作により上体に自然と起上の力が作用する。
車のサイドミラーに結び付けた風船が発車すると進行方向とは逆に流れていくのと理論は同じだ。
更に踏み出した右足が接地する反動を利用、上体の起立と連動。
前進の力・上体が起きる力、これに踏み込んだ足による反動力を加える。
これらの総合力をもって斬殺の動力に充てる。



第二の工夫は握りである。
腕力を重視しない刈流の握りは総じて柔らかい。
特に柄頭を押さえて体躯の運動と連結し刃筋をコントロールを司る左手より、補佐に過ぎない右手においてそれは顕著である。
それを利し初太刀を避けられた際にまず右手の指に柄を引っ掛け剣を止め、次いで右手を其のままに左手だけ向きを返す。
つまり右手の握り内で柄を半回転させ刃を上に返すのだ。
右手と左手が互い違いとなる手の内。
かくなれば何が起きるか?両腕を無理に捻っていないから体勢は崩れない。
さらに右腕は伸びきらない為容易く折り戻すことが可能となる。

この握りは定法外のもの。距離は伸びず攻撃方法も限定され汎用性に著しく欠ける。
だが、この姿勢からの斬り上げのみに限ってなら。
腕の駆動に何の妨げもなくなり最速を極め得る。



かくなる二つの工夫によりその理論は完成を見る。
一歩の踏み込み、一太刀分の時間で、二度の斬撃を繰り出す剣技。

これは歴史上の――とさえ言えない伝説上の――剣豪が体得し、戦乱の世にあってなお比類なき蛮勇暴威を彼に許したもの。

伊烏義阿の昼の月とは質の異なる魔剣。
際立った工夫に依る剣ではない。
稀有の才が生んだものでもない。

形だけなら誰でもなぞれる。
しかし実践するには敵が一の太刀を無力化した瞬間を毛筋のずれさえなく確ととらえ二撃目に繋げねばならない。
実戦の場において誰がそのようなな事を成し得ようか?

最良の運動効率を最高の反応速度で貪り尽くしてこその剣。
武田赤音はこれを成す。
彼の即応能力の極限、

無想の境地とは酷似しながらも対極。
宿敵の所作を寸毫たりとも見逃さぬ、愛のような執念だけがこの妖技を現実のものとする。




――――我流魔剣 鍔眼返し


追記・修正お願いします

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 刃鳴散らす
  • 燕返し
  • 奈良原の真骨頂
  • 我流
  • 魔剣
  • 剣技
  • 動きだけなら誰でもできる
  • 鍔眼返し
  • 武田赤音

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年03月19日 22:44