ミトラ/ミスラ

登録日:2012/04/28 Sat 22:50:19
更新日:2022/10/11 Tue 17:26:55
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■ミトラ

「ミトラ(Mithra)」或いはミスラ、ミトラス…etc.は古代インド~イラン地域で誕生した後に、現在のアジア、中東から欧州地域まで、と広い地域で信仰された神性。

今日ではゾロアスター教の神として紹介される場合が殆どだが、
その威光により嘗てのローマ帝国に於いては単独での信仰を獲得し、キリスト教が信仰される以前に隆盛を誇った「ミトラス教」の主神としても知られている。

その名前と属性は遠く東方世界にも伝播しており、仏教では弥勒菩薩の源流ともなっている。
また、この古くから存在する神の御名はユダヤではメタトロンの、キリスト教ではミカエルと云う、それぞれの神智学に於ける筆頭天使の語源であるとする説すらある。

名は“契約”を意味しており、勝利を約束する神として、主に戦争の守護者としての信仰を集めた。

ゾロアスター教では「千の耳と万の眼を持つ神」と呼ばれ、ミトラス教では全能の光明神として天球を支配する神と考えられ、黄道12宮の支配者とも考えられた。
「牡牛を屠るミトラ」の姿は、そうした信仰上の属性の意訳である。
後にキリスト教にてイエスの誕生日として取り入れられたクリスマスは古く*1は冬至と捉えられており、厳しい冬の終わりを意味する“太陽の誕生日”と考えられていた。*2
キリスト教定着以前には天の支配者たるミトラスの誕生日であったが、新たな支配の構築の為にローマ帝国と手を結んだキリスト教はこの神話を上書きすることで、民間伝承と強く結び付いていた冬至の伝承を“救い主の誕生日”としたのである。
近代に至るまでに人々は文明により冬を克服した結果、クリスマスは本来の意味を失っていったのは御存知の通りである。

■インド~東方世界

最も古い記録は何と紀元前15世紀の古代インドにまで遡り、バラモン教の聖典「リグ・ヴェーダ」に於ける契約の神としての姿である。
記録としては上記の通りだが信仰は更に古く、自然神群アーディティヤ神群の二位に名前が挙げられている。
首位に置かれる司法神と呼ばれるヴァルナとは表裏一体、または同一の存在であると考えられており、
この二神は自然界の秩序や人間界の規律を司り、それが守られているかを見守る神として重要な働きをしていた様だ。

ヴァルナは水と深く関わりのある神であり、時代が下ると水神としての信仰を集める様になり、仏教では水天の名前で知られている。
一方のミトラは契約の神としての属性が約束を意味すると解釈された事により、
前述の様に釈迦入滅後、56億7千万年後に衆生を救うべく降臨する未来仏、弥勒菩薩(マイトレーヤ)として取り入れられているが、これはゾロアスター教後期~ミトラス教での姿が再び東方世界に帰って来た姿だと思われる。
ヴァルナは後述のゾロアスター教の主神アフラ・マズダと同一の神性と見られており、上記の様にアーディティヤ神群の首位に置かれる神性である。
インダス文明はバラモン以前の土着の自然神信仰があり、アフラ・マズダは確認出来る最古のアスラ信仰の神性としても伝えられる。
ヴァルナとミトラは同地にアーリア人が流入した後に誕生した、土着信仰とアーリア人の信仰が混ざり合ったヴェーダ=バラモン教に於いても最高神の地位にあったが、後にアーリア人の神であるインドラの神格が高まる中で影が薄くなっていった。
更に、バラモン教が仏教などの影響を受けて、古代より続く自然神信仰から、宇宙との合一を目指すヒンドゥー教へと姿を変えるまでには、最高神の地位をブラフマーや、それに続くシヴァヴィシュヌの三大主神に取って変わられている。

■中東地域

古代ペルシャでは契約の神としての性格を基本としつつ、牧畜の神、戦争の神としての信仰も集めた。

これは中東地域が遊牧民の住む地域であった事が関係しており、
他民族との争いに明け暮れていた彼らにとってのミトラの“契約”とは、即ち戦争での勝利と、家畜などの富を与えてくれる事を祈る事に他ならなかったのである。

前述の様にミトラは「千の耳と万の眼を持つ神」であり、自らとの契約を望む民の生活を常に監視していると考えられていた。
ミトラは民族の守護者として契約により敵を打ち砕く強き者(報復者)であると同時に、契約に背いた者を罰する者(断罪者)でもあった。

この両極端な二面性により畏れられたミトラは、古代ペルシャに於いて太陽神アフラ・マズダ、豊穣の女神アナーヒターと並ぶ三柱の神としての信仰を集めたと云う。

……しかし、紀元前6世紀頃にゾロアスター教が誕生すると、
同地域で信仰されていた神々も善神アフラ・マズダと悪神アーリマンにより支配された善悪二元論に置き換えられた。


ゾロアスター教では信仰を強調するべく、アフラ・マズダの属性を分けた六(七)大天使が信仰の最上位に置かれた為に、
ミトラらは六大天使の下位の諸神(ヤザタ)の地位に落とされたが、
ミトラはそれらの中でも最上位の神に置かれた他、矢張り信仰上の都合はともかく、古来からのミトラ信仰を止める事は出来なかったらしく、
相変わらず篤い信仰を集めていたと云う。
また、ゾロアスター教では水の無い砂漠の地域である事も関係してか特別に清められた牛の尿を聖水として使用すると云う慣わしがあるのだが、
ミトラへの戦争の加護を祈る際にも、その神聖な動物である牛が捧げられたと云う。
ミトラにはスラオシャとラシュヌと呼ばれる従者、或いは分身ともされる二神が付き従い、彼ら三神で魂の行く末を見守るという信仰も生まれた。

後期ゾロアスター教では、唯一神であったアフラ・マズダが善神としてのみ扱われる様になった事で、過去に宇宙を創造した神がズルワーン、現在の世界でアーリマンと戦う善神がアフラ・マズダ、未来で世界の再生を行うのがミスラ(ミトラ)として、以前はアフラ・マズダに集中していた時間の属性が分けられた。
アフラ・マズダはアーリマンとの戦いに勝利するとされるが両者の争いにより死滅した世界を再生する力までは失ってしまう。
そこで、ミスラは聖牛の供儀を行い、解体された聖牛から飛び出した光が新たな世界を生み、ミスラはアフラ・マズダから天上王権の座を引き継ぐとされた。
最高神の座は変わらずにアフラ・マズダの物だが、この時点で主神の地位はミスラに移されたと考えられている。
天上の救世主ミスラはゾロアスター教の教義が生んだ地上の救世主サオシャントと結び付き、この思想は後の三大宗教にも取り入れられたと考えられている。

■欧州~西方世界

西方に渡りローマ帝国で威勢を誇ったミトラス教は後期ゾロアスター教のミトラ信仰を経て、ミトラを唯一神と定めた信仰であった。
古代ローマでのミトラス教はヘレニズムにより集約した古代オリエントの秘密教義の集約とも呼ぶべき、特殊な信仰を持ち、一口にミトラ信仰とは言っても、その形態は中東地域のそれとは大分違うものであったらしい。

至高神アフラ・マズダと完全に習合した宇宙の主宰神として君臨するが、後にその信仰形態は迫害される立場から一転し、各地の旧い信仰を一掃して新たな秩序を打ち立てようと云うローマ帝国の意向に従い手を結んだキリスト教による攻撃と吸収を受け、西方世界に於ては滅亡してしまった。

キプリングの『プークが丘の妖精パック』でも、ブリテン(当時はローマ領)を守るローマ帝国軍人のパルネシウスがミトラを信仰していた。

前述の様に元来のクリスマスは厳しい冬の終わりを告げる「太陽の誕生日」=「生命が再び芽吹く日」であり、古代ローマではこの日を冬至=ミトラス神の復活を祝う祭りであると定めた。
ミトラ(太陽)は12月25日に創世の岩から生まれたと考えられ、太陽は黄道12宮を巡り、宇宙を支配すると考えられていた。
今日では12月25日が救世主イエス・キリストの誕生日とされてしまったのは周知の事だが、
イエスが処女生殖により誕生したのも、ミトラが創世の岩より誕生した伝説の変形ではないか、との考察まである。


ともかく、ミトラス教は初期のキリスト教にとって、親許のユダヤ教とは別の意味での最大の敵であった事は間違いないが、その信仰の基盤を築く上でも重要な思想であった。
事実、ミトラス教、及びそれを生む母体となったゾロアスター教の信仰形態は拡大していくキリスト教の中で確固たる屋台骨として機能し、普遍的宗教としての体系を深めて行くのである。

……中世ではミトラを悪魔や堕天使とする伝承も誕生しているが、信仰の起源を悟らせない為の工作だったと考えれば、それも当然の帰結であったのかもしれない。

尚、排斥されたミトラス教は過去の宗教と成り果てたが、後に仏教とキリスト教と結び付いたマニ教、イスラム化の洗礼を受けたヤジディー教がそれぞれに誕生している。





【主な登場作品】

◆ゲーム『女神転生』シリーズ
魔王として登場する機会が多い。
姿はバラバラ。

◆ゲーム『ムーンライトシンドローム
物語の原因となる少年の正体がミトラとされている。
以降のSUDA51作品にも登場していたり。

◆ゲーム『ルドラの秘宝
本作品のラストボスとして登場。
一定量のダメージを与えるとDBのフリーザと同じく変身する。





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最終更新:2022年10月11日 17:26

*1 ※ユリウス歴以前。

*2 ※古代の冬は世界が暗闇に閉ざされ魔物が徘徊する世界と認識されていた。対抗手段が乏しいからね、ちかたないね。