お父様(鋼の錬金術師)

登録日:2011/10/12(水) 01:04:07
更新日:2024/02/08 Thu 07:19:15
所要時間:約 9 分で読めます




お父様とは漫画鋼の錬金術師』の登場人物。
CV:家弓家正(アニメFA)、大塚明夫(モバイル版)*1
演:内野聖陽(実写映画版)、山田涼介(第四形態・実写映画版『最後の錬成』)

ホムンクルスらの創造主、いわば悪の親玉。
基本的に「お父様」と呼ばれるが、ホムンクルスからの呼称は「お父様(グラトニー、エンヴィー、ラスト)」、「父上(ラース、プライド)」、「親父殿(グリード)」等、様々。スロウスは不明。

以下物語中盤のネタバレ




その容姿はなぜかエドアルの父親であるヴァン・ホーエンハイムそっくり(二人を比べると、お父様の方が若干老けているが)で、
彼の面影を持つエドと対面した時には「子供なんて作ってたのか」とあたかも旧友の子と初めて会ったかの如き反応を示しており、知り合いであることは確実のようだ。


「人柱」になり得る錬金術師など、自分にとって利(使い道)がある人間には普通に接したりもするが、
基本的に彼にとって人間は虫けら同然の存在でしかなく、何の利用価値もない者にはまったく興味を示さず、
不要になった者や自身に楯突く者は、かつての仲間であろうと息子だろうと容赦なく切り捨てる。
良心のようなものは見られず、興味のない者には無感情にして冷静、そして冷酷に振る舞う。

持っている能力も人間離れしており、ノーモーションかつノーコストでの錬成が可能である他、
自分以外の錬金術の発動を封印するという能力も持ち、国家錬金術師クラスであっても真正面から相手取るのは難しい。




以下重大なネタバレ










本作の黒幕にしてラスボス

■概要

元々はクセルクセス王国のとある錬金術師が、人間の血液を用いて偶然に生み出した存在。
この時はまだフラスコから出る事の出来ない存在であり、自らのことを「フラスコの中の小人(ホムンクルス)」と呼称していた。
そしてその血液の提供者こそが、当時奴隷だったホーエンハイムだったわけである。
彼を「血を分けた家族」と呼んで特別視し、礼として名前や知識を与えたり、軽口を叩き合ったりと上手くやっていた。

全人間世界に対する脅威となりうる莫大な知識を持つ割には人を小馬鹿にする程度でこれといった悪さもせず、当初は外も楽しいと現状に満足していた。
ただ、フラスコの中でしか生きられないことには窮屈さを感じていた。
そしてクセルクセス国王が彼の知識を頼って不老不死の法を求めた時に野心が芽生え、
国王を利用して各地に血の紋を刻ませ、クセルクセス国民全員を賢者の石にするという非道な行為をやってのけたのである。

この錬成陣は後世、アメストリスで発動したものと同じで、発動すると範囲内の人間の魂を全て賢者の石へと変換し、陣の中心にいる人物に付与するものである*2

国王は自らのいる場所が錬成陣の中心だと思っていたが、実際にはその場に「お父様」を入れたフラスコを持って立ち会っていたホーエンハイムのいる場所が中心だった。


「錬成陣の真の中心は、君が立っているこの場所だ。私の中の君の血を使って扉を開けさせてもらったよ」

「血を分けた家族、ヴァン・ホーエンハイムよ。今や、君と私が全ての中心だ!」


そしてこの時、「お父様」は自身の中にあったホーエンハイムの血(=魂の情報)を使って、ホーエンハイムの肉体を賢者の石を付加しつつ錬成する*3
これにより、ホーエンハイムとホムンクルスは賢者の石を内包した朽ちぬ体を(ホーエンハイムは望んでいたわけではないが)手に入れた。
また、人体錬成が行われたことで真理の扉も開いており、ホーエンハイムは真理を見て(「通行料」は賢者の石の一部で支払ったと思われる)「人柱」となった。

こうしてクセルクセス王国は一晩にして消滅し、代わりに100万人分を超える賢者の石が錬成され、半分は彼に、もう半分は「家族」であるホーエンハイムに付与された。

「どうだ? その体、調子は悪くないか?」
「血をくれた代償に、知識を与えた。名を与えた。そして、朽ちぬ体を与えた」
「聞こえるだろう? お前が不死身になるための引き換えとなった、この国の全ての人々の声が」


このクセルクセス王国の崩壊後はホーエンハイムと決別し、今度は「地球の真理の扉を開けたらどれだけの力が手に入るのか」と考える。
そしてその為にアメストリス国を一から建国し、国土錬成陣の作成と人柱の探索を行っていた。

目的達成の為に軍上層部を掌握して少しずつ軍事国家に移行すると共に、
さらに自ら作った「子」であるホムンクルスらを暗躍させる等してアメストリスを裏から操り、
全国要所で戦争を勃発させ、「血の紋」を刻んでいた。

こうして数百年を掛けて準備を整え、最後の鍵である日食の瞬間、すなわち「約束の日」を待っていた……。


そして、来たる「約束の日」。
「お父様」は国土錬成陣を発動させ、アメストリス人5000万人を全員賢者の石に錬成。
同時に紆余曲折あったものの集めた人柱5人を利用して地球の真理の扉を開き、莫大な力(本人曰く「神」)を手に入れる。
しかし、手の内を知っていたホーエンハイムのカウンター錬金術が発動し、「神」を抑える目的で賢者の石に錬成したアメストリス人の魂を引き剥がされてしまい、逆転の錬成陣でエド達の反撃を許してしまう。

かつてのクセルクセス人たちの魂分の賢者の石の力しか使えなくなりつつ、それでも一時はノーモーション錬成と絶対防壁をもってエド達を圧倒した「お父様」だったが、
エド達の猛攻の防御や諦めない彼らへの攻撃で賢者の石を消耗させられた結果、ついに「神」を抑えるだけの賢者の石がなくなってしまう。

「神」を抑えきれなくなった「お父様」は、近場にいて、暴走した「神」の力による衝撃で行動不能になったエドを賢者の石に錬成しようとするも、アルの捨て身の援護で失敗。
次に攻撃してきたグリードの賢者の石を奪い返そうとしたが、賢者の石と共に敢えて吸収された彼の反逆で身体の一部をボロ炭に変えられてしまう(アニメ版は全身)。
反逆された怒りでグリードの魂を噛み潰して消滅させたものの、最後はエドの一撃で胸に大穴を空けられ、そこから生じた黒い手に飲み込まれて消滅した。*4


消滅後、真理の扉の前にかつてのホムンクルスの姿となった「お父様」は佇んでいた。
「何故自分のものにならなかったのか」と「神」たる真理の扉に恨み言をぶつける彼の前に、彼と同じ姿をした"真理"が現れる。

"真理"は「己を信じず、他人の力を利用して『神とやら』にしがみついていただけの薄汚い盗人」と彼を揶揄。
そのうえで「お父様」に「お前のようなものは分相応にフラスコの中にいれば良かった」と痛烈な批難をぶつける。

逆上する「お父様」に向けて"真理"は「真理の扉は思い上がった者に『正しき絶望』*5を与える存在である」とかつて「お父様」が他人に語った話を引用し、
「だからお前にも『正しき絶望』を与えるのだよ」と宣告。
果たしてその言葉通り、「お父様」は真理の扉から伸びてきた無数の黒い手に捕縛され、抵抗も虚しく再び扉の中に戻される結末を迎えた。
これまでに彼がしてきた所為を考えると、まさに因果応報、自業自得とも言えるだろう。

アニメ版では「戻りたくない、縛られ続けるのは嫌だ」と涙を流し、「私はどうすればよかったのだ」と悲鳴をあげながら真理の扉に引きずり込まれた。
扉が閉じた後、"真理"は「お前はその答えを見ていただろうに」と哀れみとも呆れとも取れる一言を返している。

ちなみに真理の扉には各人ごとにセフィロト・ツリーやサラマンダーなどの、それぞれ違った図柄が刻まれている。
…のだが、彼の『扉』は空白。それには何も刻まれていなかった。

考察の域を出ないが、エドやアル、マスタングらが長い人生の中で経験から価値観を独自に変化させていった(=それが真理の扉の柄として現れた)のに対し、
お父様はそれ以上の年月を過ごしながらも何一つ学ばず、精神的な成長もしなかった(持っているものは他人から強奪したものばかり、知識は真理の扉の知識を丸写し……等)ため、という説がある。

形態

  • 第一形態
フラスコの中にいた頃。
黒い球体のような、生物とも非生物とも言えない存在。フラスコの中から出ると死んでしまうらしい。
黒いもやの球体と単眼をしているが、場合によっては両手を生やしたりできる。
バックベアード様のように、真理と現実の間の空間の裂け目から眼球だけが覗いているのだろうか?
この時は感情を切り離していなかったので、人を皮肉ったり、茶化したりと愛嬌があった。
ホーエンハイムは容姿が似ている事から最初に切り離したプライドがこの本当の姿の影響を一番受けていると考察したが、性格や口調などはむしろエンヴィーに近い。
作者からは「マリモ」と呼ばれている。

  • 第二形態
作中で一番多く出番のあった形態。
壮年期のホーエンハイムそっくりの姿。しかし感情を切り離したり色々やったためかホーエンハイムより老けている。
作中で最も多く見せる姿であり、お父様と言えばこの姿を連想する人も多い。
この時点でチートに片足を突っ込んでる。
上述通り、ホーエンハイムのDNA情報を用いて作った「入れ物」である。
感情を切り離しており、無表情、無感情だったが、エド達と初対面した時は長年あっていなかった親戚の人のような嬉しそうな反応をしていた。

  • 第三形態
ホーエンハイムによって「入れ物」が壊された際の「中身」。
ホーエンハイムは、「ホムンクルスは昔同様『入れ物』さえ壊せば死ぬ」と考えていたが、
実際は数百年間掛けて「入れ物」の中にさらに巨大な黒い入れ物を用意することで克服していた。
破壊された皮袋をチュルチュルと飲み込んで戦闘を再開するシーンはかなりグロテスク。
人の影に目が沢山ついたようなグロいビジュアルだが、戦闘能力は高い。最初に切り離したプライドに似ている。
飛び道具を吸収したり、ホーエンハイムを収納したり、身体は堅いうえに伸縮自在だったりと、第二形態以上にチート。
感情が再び豊かになっている様子。
黒い触手を伸ばして相手を捕縛したり、ホーエンハイムを一時的に取り込んで無力化にできたりと戦闘力は向上している。
国土錬成陣発動後に神の力を取り込もうとする時には超巨大な姿になっていた。

  • 第四形態
最終決戦時、地球の真理…つまり神を取り込んだ姿。
青年期のホーエンハイムやエルリック兄弟に似た筋肉質で若々しい姿になっている。腰巻とサンダルのみという露出度の高い衣装。でも声は第二形態の渋い声のまま。*6
疑似太陽を用いた核融合による小型の擬似太陽、司令部の半分を一瞬で消し飛ばす破壊光線、錬成陣無しで直接人間を賢者の石に精製、更には全ての攻撃を反射するバリアー等、
等価交換を完全に無視したその能力は名実ともにハガレン最強。チートを超えている。
どれだけ激しい戦いを繰り広げようと腰巻がズレることはない。
アニメ版ではサンダルを履いておらず露出度が上がっており、女性スタッフがイケメンに描いて欲しいと熱弁した影響を受けて作画されている。



■補足

  • ホーエンハイムと容姿が似ている理由
前述したように、肉体を作る際に彼の体内に含まれるホーエンハイムの血の情報 (DNA) を利用した為。
当時はあくまで外に出ると死んでしまう存在であった為、フラスコから出るにしても二足歩行ができる「入れ物」が必要だった。
そこで人間の形をした「入れ物」として、ホーエンハイムと同じ外見を持つ「皮袋」を用意した。


  • 錬金術封印について
本来のアメストリスの錬金術は、地殻変動のエネルギーを用いるもの…と解説されていた。
しかし実際は「お父様」の賢者の石がアメストリス全土の地下に流れており、賢者の石による術式を地殻変動のエネルギーと術者の間に挟む事によって、錬金術の力を恣意的に制限するという一手間が加わっている。
よって、「お父様」の意思次第でアメストリス国の錬金術は途中でシャットアウトされ不発するようになる。
通称「すごい屁」。

地下に広く賢者の石が流れているため、下記の錬丹術になじんでいて「気」を読むことに長けるシン国の者にとっては、
アメストリス国は足を踏み入れた瞬間に強烈な違和感を感じる土地になっている。
曰く「地面の下に大量の何かがうごめいているような感覚」だが、賢者の石の原料を考えると言い得て妙である。

なお、シン国で主流である「錬丹術」はアメストリス国の錬金術とは異なり、龍脈と呼ばれるエネルギーの流れを読み解き利用するもの。
根本的に原理が違うため、例えアメストリス国内であっても「お父様」の錬金術封じの効果を受ける事が無い。
傷の男(スカー)の右腕に刻まれた錬成陣やメイの使う術は錬丹術である。


  • ホムンクルス
自らの「傲慢」「色欲」「強欲」「怠惰」「嫉妬」「暴食」「憤怒」の感情を分離し、それらを元に賢者の石を核として生み出した人造人間(ホムンクルス)
感情を捨てたのは「完全な存在になりたかった」為とのことで、こうして冷酷な性格が完成した。
何故か彼らに自身を「父」と呼ばせており、その点についてホーエンハイムにも「人並みに家族が欲しかったのではないか」と指摘されたが、答えることは無かった。
抽出した感情そのものである「傲慢」は心の奥底では暖かい家族に惹かれ、「嫉妬」は人間の繋がりの強さに憧れ、
「強欲」が本当に求め続けていたものは魂で繋がっている仲間だったが…今となっては確かめる術はないだろう。
ホムンクルス達は大なり小なり、皆彼を慕っているからこそ父と呼び続けたであろうに…


  • 国土錬成陣と人柱の目的
「お父様」は地球を一つの生命体と考え、その真理の扉を開くことで、人間一人の真理とは桁違いの莫大な情報を手にしようとしていた。
地球の扉は太陽と月が一致する日食の時にしか開けず、さらにその為のエネルギーとして、真理の扉を通り帰還できた者、通称「人柱」5人によるエネルギーの反発が必須とされていた。

しかし、「約束の日」時点で「人柱」はエドとイズミ、アル、ホーエンハイムの四人しか確保されていなかったため、
当日、「人柱」足り得る力量を持つマスタングに強引に扉を開けさせることで確保した。

また、首尾よくその地球の扉を開き、その力を入手した後は、その莫大な力を維持する為に数千万人の魂単位の大量の賢者の石を確保する必要があり、
「お父様」は国土錬成陣によって、かつてのクセルクセスの時のようにアメストリス国の人間すべてを賢者の石に錬成した…が、
その目的を察していたホーエンハイムは発動前に「布石」としてカウンター用の錬成陣を描き、その発動のための賢者の石を予め設置していたため、錬成は失敗に終わった。

余談だが、原作の四コマでは雨が降ってお父様の計画が失敗するというネタが描かれている。
しかし実際に雨などの悪天候によって太陽光が遮断され失敗するのは「地球に落ちる影」を使った逆転の錬成陣であり、「日食」は雲に隠れるだけで雨に関わらず行われる為、お父様の計画は失敗しない。
つまり雨が降って詰むのは人類側である……
晴れて良かったね。


  • 東の賢者
アメストリスに錬金術を伝えた「東の賢者」とはお父様のことで、
「西の賢者」はシンに錬丹術を伝えたホーエンハイムであることが示唆されている*7



■正体について

作中では言及されなかったが、「真理の扉」の中身の一部(分体)とされるのが一般的解釈。
断末魔の台詞や、生まれながらに広範な知識を持っている点等、様々な面で合点がいく。





追記 修正 加筆 訂正 よこせ

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最終更新:2024年02月08日 07:19

*1 因みに、両名ともそれぞれの出演作ではナレーションも担当している。

*2 ゆえに、中心となる一定区域とその真上の空間に位置する人間には錬成の効果が及ばない

*3 人体錬成は死者を錬成しようとすると必ず失敗するが、生きた者を錬成するのならば成功しうる

*4 アニメ版では、黒い手に飲み込まれる前にクセルクセス人の魂が解き放たれた。

*5 真理を見た場合、代価として身体のどこか一部分を失う現象が起きるが、失われる部位はその者が絶望、あるいは錬金術を行使したことを後悔するような部分が選ばれる、という「お父様」の仮説

*6 実写映画ではエド役の山田涼介が役と声を担当している

*7 金髪金目とされている、ホーエンハイムが砂漠でシンの商人に助けられシンを訪れているなど