禁止カード(MtG)

登録日:2011/07/06 Wed 22:13:23
更新日:2024/01/12 Fri 19:13:50
所要時間:約 45 分で読めます




TCGにおいて、何らかの凶悪カードや極悪コンボが環境を支配した場合、運営側はそれらのエラッタや使用禁止で環境のバランスの適正化を図る。
これはTCGの元祖たる『Magic the Gathering』とて例外ではない。〇〇の冬とかついたらほぼ確実に規制される。

MtGの禁止カードは、おおよそ

  • 黎明期ゆえのぶっ壊れカード
  • テストプレイ・調整不足によるオーバーパワー
  • カードプールの増大による凶悪コンボの発見&開発
  • トーナメントの進行を阻害しかねない要因
  • マローが作った

あたりに大別できる。他のTCGもマロー以外は大体そうかもしれない。

MtGにおいては、昔は「禁止カードを出すことは、商品に欠陥があったことを認めるのと同じ」という思想が中心的であった。
そのためどれだけ環境を歪めるカードでも、後のセットで露骨な対策カードを出すことで禁止カードにしないようにしていた。
猛威を振るった《リシャーダの港》に対する《テフェリーの反応》《サーボの網》が分かりやすい。
それこそ20年以上前の話になるが、クレーム対応が厳しいアメリカではそのあたりは特に顕著であった。
「パックから禁止カードが出た時は、不良品なので別のパックと交換してくれる」というサービスまで行なっていたことがある。

しかし、この方針も時代と共に変わりつつある。
特に「タルキール龍紀伝(DKT)」~「イニストラードを覆う影(SOI)」期のスタンダード以降大きく変わることとなった。
この時代は《集合した中隊》を使用したデッキ(【カンパニー】デッキ)が猛威を振るい、環境の25%を占めるようになっていた。
この場合、禁止カードを出さないというスタンスがマイナスの方向に働いてしまった。
つまり「どうせ《集合した中隊》は禁止にならないんだから、しばらく距離を置こう」と一度離れたプレイヤーが二度と戻ってこなくなるというわけだ。
環境のマンネリ化を防ぐため、スタンダードのローテーション間隔が一時的に「半年に一度」に変更されていたという当時の事情も悪化させてしまう。
結果としてスタンダードからプレイヤーがどんどん離れていってしまった。

これ以降、スタンダードのローテーションは1年に1度に戻り、おかしくなった環境の調整手段として禁止カードが出されるスタンスへと変化した。
つまりこうでもしないと、環境のマンネリ化と壊れた環境への対処ができない時代になってしまったのだ*1

現在はインターネットの発達や動画配信の一般化、MtGAのリリースやデッキリスト公開制などにより、環境が煮詰まる速度も非常に早くなってきている。
そのため開発陣が予想できなかった凶悪コンボが瞬く間に環境デッキとして世界中で猛威を振るうことも多い。
そのため、公式は現在では「環境を大きく歪める危険なカードは早めに禁止に指定する」というスタンスをとっている。
かつての、特にスタンダードの「禁止カードが出ないカードゲーム」という神話は崩れていると言ってもいい。
「禁止カードを出さない売り方」というもの自体がすでに限界が来ているのかもしれない。
実のところ過去のスタンダードでも禁止はそこそこあったりしたのだが*2

ただ
  • 最近の禁止カードは同じ方向性のカードが禁止になることが多い*3
  • 特定の色やアーキタイプを強力に推しすぎ*4
  • 単体で禁止になるようなパワーレベルのカードを出し過ぎ*5
と言われることもあり、近年の開発の調整能力が疑われているのも確かである。
とはいえ、下手にセット全体のパワーをデフレさせるのも危険であるとの公式コラムも出ている。
上手い塩梅で調整が行われ続けることを願っていきたい。


MtGでは禁止・制限指定が他のTCGに比べ、迅速に行われている。
その理由の一つは、トッププロ間で争われる高額の賞金トーナメントが開催されていることが大きい。環境の熟達の速度は他TCGの比ではない。
そのため下手に放置しておくと「環境が【○○】1強」という状況に陥りやすいのだ。
中古市場で当該デッキのパーツの値段がどんどん釣り上げられ、適応できなかったプレイヤーが離れていき、それがトーナメントごとに加速して……
と、対応が遅いと傷口がどんどん深くなっていく。
そのため、この禁止改訂の期日も時代によって変わってきている。
過去には「禁止改訂のたびに次の改訂の日時を指定する」という方式だったのが、その後「米国時間の毎週月曜に禁止を発表する」という方式に変更される。要は年に52回禁止タイミングがあるということ。また理論上「緊急禁止」が無くなることにもなった。
しかしながら、禁止がいつ出るか分からないというのはある日突然カード資産が暴落するリスクを抱えなければならないということでもあり、紙の高額カードを購入する事をためらわせることにもつながる。特にスタンダードでは使えるカードの数に対して禁止が多いということもあり、紙のスタンダード環境からのプレイヤー離れにつながった*6
こうした状況を踏まえて各フォーマットの変更のほとんどを年に一回、秋に発売されるカードセットの公式プレビューが始まる前に行うこととなった。年一回の禁止とは別に環境の大きな崩壊に対処するための禁止もあり、これは各セットの発売後3度目の米国時間の月曜日に行われる。こちらはあくまで例外的な処置であり、《守護フェリダー》レベルの突出したカードにしか行わないとされている。その後、発売後3度目に変えて2度目~5度目とある程度幅を持たせるようになった。

ちなみに、現時点で最速の禁止記録は第一位が統率者戦における《呪文追い、ルーツリー》のカード情報の公開と同時に禁止。*7
第二位が当該カードが一部フォーマットにおいてトーナメントリーガル(=公式大会で使える)になる当日に禁止
第三位が発売から10日でモダンで禁止である。
なお二位の《精神の願望》については、タイプ1とタイプ1.5*8という、過去の強力カードとの相互作用による危険性が明白であったという理由もある。
そのためローテーションのあるフォーマットでは特に禁止指定はされなかった。
スタンダードにおいてはファンデッキのお供として穏やかに、エクステンデッドでは本来想定されていた力を【デザイア】としていかんなく発揮した。
たびたび問題があったように言われる「0日禁止」も、むしろ好意的に捉えられてさえいた。
当時のエターナルプレイヤーからすれば「こんな環境でプレイしなくてよかった」ということなのである*9

禁止までの日数が短いというのは大問題のように思われるが、こういったものは単に数字として分かりやすいので騒ぎやすいというだけでもある。
前述したとおり、逆に本来禁止にして対処すべきカードを禁止せず放置した時間が長いと、その分傷もどんどん深まってしまうのである。
パイオニアのコンボカード4種類あたりはその好例で、一度安定した環境がコンボだらけということでプレイヤーの人口そのものが減ってしまった。
近年でも《創造の座、オムナス》が発売後17日で禁止となっており、これには多くの反発や残念だが当然という見解があった。
しかしこの迅速な禁止によって一強他弱から解放された形でやっとまともにメタゲームが回るようになったのも事実なのである。
それにしたって17日でメタを停滞させるというのはそもそもの性能がやりすぎではあるが
現場猫「何を見てヨシ!って言ったんですか?」


さて、下記で紹介するようにMtGの歴史上、禁止カードは非常に数が多い。
そうなる理由は欠陥が多いMtGの歴史の長さに加えて、フォーマットやレギュレーションの違いによるところが多い。
現在のウィザーズの方針は「スタンダードとリミテッドのバランスだけは考えてる、他のフォーマットは禁止でバランスをとる」となっている。
そのためパイオニアやモダン以下での頻発は仕方ないと考えている。
つまりはスタンダードでは何でもないorなかったカードが下の環境で大暴れ、なんてことがザラにあるのだ。
《宝船の巡航》や《時を越えた探索》はその分かり易い例である。
モダンやレガシーのことを考えてスタンダードをエキサイティングで面白くできるカードを刷らないのはもったいないというのもある。
それでもモダン以下で確実に間違いなく即座に規制されるようなカードは刷らない方針ではあるらしい。
ただ、複数の環境に跨って禁止となったカードも多々あり、単純に壊れてるだけなものも多い可能性は否定出来ない。
2019年頃では「下環境を狙って」刷ったカードがあると公言している。*10
どれがそれとは明確にはなっていないが、それらがスタンダードでは明らかなオーバーパワーとなっている可能性もある。

ちなみにエラッタに関しては、昔は一部のカードで「壊れた動きをするからエラッタでそうできないようにする」としていたことはある。
しかし2007年に「カードパワー調整のためだけのエラッタはしない」「そのようにエラッタされたカードはできる限り元に戻す」という方針に転換。
現在では「壊れてるからエラッタで封じます」という事例はなくなっている。(エラッタ(TCG)の項目も参照)
もっとも、そのせいで禁止カードが出る羽目にもなったのだが。《Time Vault》や《閃光》はこの例。
ただし2020年には、再び「カードパワー調整のためだけのエラッタ」の可能性が公式コラムでたびたび示唆されるようにもなった。
そして実際に「相棒」持ちの10枚がエラッタ*11の犠牲にされている
これは
  • デジタル化した(MOと)MtGAでは現在のテキストをすぐに確認できる
  • 他のデジタルカードゲームの調整方法(いわゆるナーフ)がプレイヤーにある程度歓迎されている
などの世相の変化も大きい。
もしかしたら今後は、禁止カードがエラッタによって開放されるようになることもあるのかもしれない。
何度も言うが、時代の変化によってMtGの販売姿勢もかなり変わってきているのである。

MtGAでは禁止カードをエラッタした上で解禁するヒストリックの変則ルール「鏡よ、鏡」が開催されたこともある。
そしてそれを経て、カードの再調整と紙媒体で再現不可能なオリジナルカードを用いた新フォーマット「アルケミー」が新たに設立された。
















追記・修正は《大会常連、スパイク/Spike, Tournament Grinder》の能力を起動してからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • MtG
  • TCG
  • TCG用語
  • 禁止カード
  • シナジー
  • 凶悪コンボ発見
  • 所要時間30分以上の項目
  • これって、壊れてる。
  • 悪党の展示場(環境的な意味で)
  • 大会での使用不可

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月12日 19:13

*1 スタンスが変化して間もない「カラデシュ(KLD)」時代に3枚の禁止カードが出た時は、禁止の内容よりも禁止カードが出たこと自体、あるいは禁止説明がふざけすぎてたことに文句を言うプレイヤーが多く、そういった風潮を諫めるべく「カンパニー時代を思い出してくれ」と禁止を歓迎するコラムが取扱店に掲載されたりした。

*2 特に初の日本語版が発売された「第4版(4ED)」には禁止カードがゴロゴロと入っていたため、ショップに設置された「ご自由にお取りください」箱に《チャネル》とか《露天鉱床》が山盛りになってたらしい。

*3 《成長のらせん》《裏切りの工作員》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《創造の座、オムナス》《僻境への脱出》はランプ系デッキ向けのカードだし、《荒野の再生》《創案の火》もマナに関係するカードである。

*4 同じデッキで使われた《むかしむかし》《王冠泥棒、オーコ》《夏の帳》が典型例。《暴れ回るフェロキドン》と《ラムナプの遺跡》、《ならず者の精製屋》と《霊気との調和》もそれぞれ同じデッキからの禁止である。

*5 「ラヴニカの献身(RNA)」~「ゼンディカーの夜明け(ZDR)」の期間は禁止の代わりにエラッタが出た「イコリア:巨獣の棲処(IKO)」と「基本セット2021(M21)」を除いて毎回禁止が出ている。

*6 日本では初心者はパイオニアから参入しベテランはモダンに流れる傾向があり、米国では統率者戦が圧倒的に人気である。

*7 条件を満たしたデッキだとゲーム外から唱えられる能力を持つカードの一つ。ルーツリーの条件=統率者戦の基礎ルールなので統率者戦では100%満たせる「入れ得」になってしまうため。

*8 タイプ1はヴィンテージの旧名称。タイプ1.5は今のレガシーに相当するフォーマットだが、こちらは禁止のシステムが大きく異なる。

*9 後の【ホガーク】や【氷雪】のようにバランスが著しく悪い壊れた環境でプレイせずに済んだのでむしろよかった、ということ。使わせてほしかったという意見も前述したエクステンデッドの【デザイア】が暴れているのを見て次第に収まっていったようである。

*10 特に「パイオニア環境にこのカードを参加させたい」という理由からの再録も多い。

*11 正しくはルール変更

*12 2色カードを最大10枚(は流石に理想過ぎて無理だがだいたい3~4枚以上)確保できる《ニヴ=ミゼット再誕》を軸に据えたコントロールデッキ。デッキのほどんどが多色カードな上《ニヴ=ミゼット再誕》が5色なのでマナ基盤はかなりタイト。

*13 ヒストリック、及びカジュアルフォーマットのブロールも入れれば四冠。

*14 MOのリーグで4勝以上のデッキで20%、ちなみにモダンだと31%だった。

*15 もっとも、成績上位のデッキの内の2割というのは《隠された手、ケシス》などの過去に禁止になったカードと比較しても決して低くはない数字であり、既に禁止になってもおかしくはない水準だったと見なすこともできる。

*16 マナ総量が3以下で土地でないカード1枚が追放されるまでライブラリーの一番上から1枚ずつ追放していき、そのカードをマナコストを支払わず唱えるか手札に加える能力。

*17 追加コストでクリーチャーを生け贄に捧げ、そのクリーチャーより最大で2マナ重いクリーチャーをライブラリーから戦場に出すソーサリー。

*18 発見5を持つ7/6トランプルのクリーチャー。

*19 戦場に出たとき、コントロールしているクリーチャーに+1/+0修整と速攻を与える6マナのクリーチャー。

*20 一応、後に1枚だけ引き分けを発生させるカードが存在するが、それは「その時点でライフの一番多いプレイヤーが勝利」という効果の一環でしかなく、引き分けを目的にしたカードではない。

*21 MtGでの競技環境においてはサイドボードのこと。

*22 一応残りの1割には既存の【ドレッジ】などのデッキの他、制限カードが多いことを逆手にとった《呪文追い、ルーツリー》を採用したデッキなんてのもあった。

*23 当時あったジョークに「ルールスが制限になったら相棒にするしかなくなるから逆に強化される。メインデッキに必ず1枚以上入れろというルールになった方が弱体化する(=ルールスは相棒の条件上自身をメインデッキに入れれないため)」なんてものもあったほど

*24 強力な統率者同士でマッチングするようにするシステム。例には《二ヴ=ミゼット再誕》と《龍神、ニコル・ボーラス》が挙げられている。

*25 逆にとっくにスタン落ちしているはずなのになぜか使える《統率の塔》《秘儀の印鑑》なんてのもある。

*26 結果的にそのディレクターがループを引き起こしていたプレイヤーを2時間の利用停止(BAN)にすることで終わった。

*27 優先権を持っている間タイマーが減り続け、0になるとマッチ負け

*28 自身は7マナだが、自分のカードが与えるダメージを2倍にする人間。もとはイクサランのレア

*29 初期忠誠度が1上昇したかわりにマナ・コストが(1)増加し、常在型能力が「あなたのターン中、すべての対戦相手は呪文を唱えることができない」という《龍王ドロモカ》と同様のものになった。

*30 キャントリップと土地のプレイ権増加のソーサリー

*31 不特定1マナが加わり5マナに。

*32 《結束に仕える者》との2枚コンボ。

*33 弱いカードというわけでは全く無く、ゼンディカー当時の環境では【ジャンドコントロール】や【タイタンヴァラクート】対策で使われた実績あるいぶし銀カードである。モダンでは島渡りのお膳立てとして【マーフォーク】で採用される。

*34 《オークの弓使い》と《一つの指輪》は結局強すぎたため、その後再調整という名のナーフがなされた。タイムレスでは本来の性能で使用できる。

*35 【ラクドスミッドレンジ】とそれに青をタッチした【グリクシスミッドレンジ】

*36 自分のメインフェイズであり、かつスタックが空である状態

*37 これを逆手にとったType0の戦術に、アンティをかけて勝負しないことを前提に「この記述が書いてあるカードを53枚デッキに入れて初手を固定する」というものがある

*38 通称Type0。FoWなどのマトモな呪文は無意味。神聖の力線や白大長なども乗り越えてほぼ確定0~1キル可能となる

*39 指定したインスタントかソーサリーが唱えられた時にコピーする。

*40 指定したカードのコストを(1)減らす。

*41 デッキの下限値を5枚減らす。

*42 他にもいくつか銀枠セットは存在する。ほとんどが他社とのコラボカード

*43 美麗なフレームレス土地の代わりに入ってるので引いた人は悲しいが

*44 公式によると、あくまで「トーナメント使用不可」であり、カジュアルなプレイでは対戦相手の合意により使用可であることを強調するためと説明されている。また、同一セットに銀枠と黒枠が混ざるためカードの横から見分けられてしまうことも一因であると推測されている。

*45 白人至上主義者の標語「14 words」とハイルヒットラーを連想させる88(Hがアルファベットの8文字目であることから)の組み合わせ。14-88といった感じで使われる

*46 史実の十字軍は、聖地奪還の大義名分のもとに虐殺や略奪や侵略といった蛮行を繰り返した正義とは程遠い集団である。

*47 チャップリンが当時のナチスやヒトラーを風刺した「独裁者」という映画で、鉄十字の代わりに×を2つ書いた「ダブル・クロス」を使ったのがわかりやすい例

*48 三国志という話自体が日本や中国以外で知名度が低いので仕方がないが

*49 例えばポータル三国志初出の《三顧の礼》。効果自体は値段もつかないようなコモンカードの同型再販なのだが、同名カード1枚しか使えない統率者の需要で5000~1万円の値段がついていた。しかし統率者レジェンズで再録されると一気に100~1000円程度に大暴落したことから極端な供給不足だったとわかる