機動警察パトレイバー 2 the Movie

登録日:2010/02/14(日) 23:25:58
更新日:2024/04/18 Thu 03:17:59
所要時間:約 7 分で読めます






我地に平和を与えんために(きた)ると思うか。我汝らに告ぐ、しからず、かえって分争(あらそい)なり。


今よりのち、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれ争わん。


父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に

ルカによる福音書、第十二章五十一節から五十三節*1



本作は1993年公開の『機動警察パトレイバー』シリーズの劇場版第二作。

【概要】

2002年を舞台に、テロ事件から始まった架空戦争危機を描いた作品。
現在のところ初代特車二課のエピソードで映像化されたものでは時系列的に最後のものであり、
首都東京を舞台に「戦争」を再現するテロリストと闘う彼らの最後の活躍が描かれている。
『The Movie 2』ではなく『2 The Movie』であり、一応、TV版⇒新OVA⇒本作という時間軸になる。
ただし、旧OVA⇒劇場版1作目を意識した描写も見られ、一方で漫画版初出でTV版後期・新OVA版のレギュラーだった熊耳武緒はなぜか影すらない(本作前売り券特典のドラマCDには参加したそうな)。
このため2023年時点での公式サイト内の見解では押井監督繋がりで「アーリーデイズ→劇場版1作目→本作→THE NEXT GENERATION -パトレイバー-」とされている。小説版では特に顕著。

娯楽性を重視した1作目から一転して、旧OVA版(アーリーデイズ)の「二課の一番長い日」を更に推し進めたような内容。
押井節全開の非常にドライな社会派サスペンスドラマに重点を置いているためエンタメは控え目で淡々と場面が進む。
映像は美麗であるがレイバー戦はほとんどなく、主人公機であるイングラムなんてラスト数分しか戦わない。
ロボットアニメとして見ると多分損する。

しかしカミソリ後藤の切れっぷりを手軽に味わえる作品でもある。
また、しのぶさんの啖呵もカッコいい。

押井守による小説版もあり、主に尺の都合でカットされたシーンも再現されている。

【あらすじ】

1999年、東南アジア某国にPKO(国連平和維持活動)として派遣された陸上自衛隊の1個レイバー小隊が、反政府軍部隊の襲撃に遭遇。司令部からの武器使用許可が下りず、反撃も出来ぬまま壊滅した。
そして一人の男が生き残った。

2002年冬、自衛隊の関与を疑わせるベイブリッジへのミサイル攻撃、BADGEシステム*2へのハッキングによる架空の東京爆撃事件が発生。
この事件に乗じて権力拡大を図る警察と、自衛隊が各自独走、遂には首都圏は事実上の戒厳令下に陥る。

そして雪が降り積もったある日の朝、三機の攻撃ヘリからミサイルが発射された。

虚構の街に放たれた実弾が、人々に真実の戦争を見せ付ける。


【主な登場人物】


今作の主人公。
特車二課第二小隊隊長。
ヘラヘラしながら警察内のしがらみに辟易しながらも、荒川から依頼されて事件を独自に調査、推理する。
二課壊滅後も独自のパイプを駆使して立て直し事態の収拾に向かう上司にしたい男ナンバーワン。

  • 南雲しのぶ(榊原良子)
今作のヒロイン。
特車二課課長代理並びに第一小隊隊長。
出世コースにいながら柘植学校の生徒の時に柘植ととある関係にあったため、それが元で特車二課に島流しされた過去を持つ。
柘植の出現とその行動に心を揺らしつつも責務を果たそうとするが…

  • 柘植行人(根津甚八)
今回の事件の黒幕。元陸上自衛隊二等陸佐。
レイバーの運用などを研究する多目的歩行機械運用研究準備会(通称柘植学校)の創設者兼リーダーとして数々の成果を上げたが、レイバーにとって無謀とも知っているはずの熱帯湿地帯を主な活動地域とするPKOへの派遣に志願。
PKOでは陸自レイバー小隊の指揮官として行動していたが反政府軍の襲撃に遭い小隊は壊滅、ただ一人生き残る。
帰国後は行方不明になっていたが、実際はある目的のために一派を率いて極秘裏に活動しており、自衛隊関連事件において暗躍する。
風貌のイメージは「ロバート・ショー」

  • 荒川茂樹(竹中直人)
陸幕調査部別室を名乗る謎の男。常に笑っている様な口元と視線の定まらない目が印象的。
事件の詳細や裏を後藤にリークし、戦争観を語り合う。
風貌のイメージは「五分刈りの中年営業マン」

装備開発課に転属し篠原重工八王子工場にテストパイロットとして出向中。
レイバー好きっ娘だったころはなりを潜め、かなり落ち着いた性格になっている。
押井監督曰く「今まで女性キャラの気持ちがわからなかったが、本作で初めて『女性の変化』を意識的に描けた」と振り返っている。

野明と同じく装備開発課に転属し、八王子工場に開発者として出向中。

特車隊員養成学校の教官として怒鳴りまくり機材をぶち壊す日々。さすが日本警察の奇跡。
小説版では香貫花と微笑ましい関係にある様子。

  • 進士幹泰(二又一成)
子どもが出来ました。やったね進士さん。
本庁総務部総務課長に栄転し、養成学校の視察に来て太田を叱っていた。
後藤の召集に本来応える義理は無かったものの、自分でもわからない使命感にかられて後藤の元に向かった。
小説版ではかつての同僚達との飲み会にて自分達の「特車二課」時代に一種のピリオドを打つ抒情的な発言があり、
その後の招集もあって感傷的な雰囲気が増している。

唯一第二小隊に残っている。
終盤ではその体躯を生かし対戦車ライフルを撃つ。やっぱかっこいい…

  • 榊清太郎(阪脩)
我らがおやっさん。
すでに引退した身だが、二課壊滅の報を聞き、自ら整備班を率いてイングラムの換装の陣頭指揮を取る。

引退したおやっさんに代わり、整備班長についている。

  • 松井孝弘(西村知道)
腐れ縁故、相変わらず後藤さんの無茶な頼みでこき使われる。



【レイバー】


AV-98 イングラム
現役を引退し八王子工場に下取され試験機となっていたが、不測の事態用に後藤が手配しており、出撃する。
今回はリアクティブアーマーを装備しており、特殊部隊を思わせるデザインになり印象がかなり異なる。

  • 1号機
野明が搭乗。
頭部に特に大きな変化はない。

  • 2号機
太田が搭乗。
度重なる損傷のせいか、後頭部の装甲がヘルダイバーのものになっている。
作中でも戦闘と自損事故で更に壊れる。

  • 3号機
南雲が搭乗。
頭部が大きく変わっており、強力なECM装備を使用できる。


◆AV-2 ヴァリアント
イングラム引退後に特車二課の装備となったレイバー。
立ちんぼで警備するシーンくらいで全然活躍しないままぶっ壊された。


◆TRT-66 イクストル
アメリカ陸軍の軍用レイバーで柘植一派が使用する。
正確にはレイバーもどきと呼ぶべきロボットであり、作中では無人の移動砲台として使用されている。
宮崎駿曰く「散水機」、河森正治曰く「歩くファランクス」


◆AL-97B改 ハンニバル
陸上自衛隊の軍用レイバー。
冒頭のゲリラ戦と首都への治安出動シーンに登場。


◆ラーダー
柘植が冒頭で搭乗する陸上自衛隊の指揮用の6脚式レイバー。

◆99式装輪レイバー ロードランナー
神奈川県警所属の複座式装輪レイバー。
伸縮可能の脚で渋滞もなんのその。ベイブリッジ爆撃の直前に登場。


なお、MGでイングラム全機のアーマー装備、EXモデルでイクストルが立体化されている。
後年コトブキヤからはハンニバル2種とヘルハウンド(戦闘ヘリ)がキット化されたが、1/72スケールであり残念ながらMGシリーズ(1/35)とも旧キット(1/60)とも一致しない。

また公開当時にはイングラムスペシャルとして6in1キット(1商品で1~3号機のそれぞれ通常版、劇場版で6種を選択して組み立てられるコンパチモデル)が発売された。


【レイバー以外の登場メカ】


  • AH-88 ヘルハウンド
アメリカ陸軍・陸上自衛隊に配備されている架空の攻撃ヘリコプター。前作にも登場している。
折り畳み可能な巨大スタブウィングが特徴的な、テールローターを持たない「ノーター」方式の大型ヘリコプター。
長砲身20mm四銃身ガトリング砲を固定武装に、対戦車ミサイルやロケット弾ポッドを装備している。
柘植の決起シーンで登場。移動用コンテナに格納しており、スタブウィングとメインローターを展開して離陸している。
事実上中盤の主役で3機で東京の重要な橋や通信施設を爆撃する。
なおアニメでは自衛隊機であるが小説では米軍機を自衛隊機に偽装した機体になっている。

  • 01-6RB-II
陸上自衛隊に配備されている架空の観測用ヘリコプター。
ヘルハウンドと同じくテールローターを持たないノーター機で、機体下部の可動式アームに複合センサーポッドを搭載している他、ローター上部にもマスト・マウンテッドサイド・レーダーを装備している。

  • F-16J
航空自衛隊の支援戦闘機で、現実で言うF-2に相当する機体。
1998年より配備されているという設定で、劇中では登場するのは第3航空団第8飛行隊所属機:コールサイン「ワイバーン」のSIFと
映像加工された下記の米軍機を自衛隊機と偽装したものだけで実機は登場していない。

  • F-16改 ナイトファルコン
アメリカ空軍のF-16架空改修機。
カナード翼や推力偏向ノズルを装備する他、ステルス性の向上が図られている。
ベイブリッジを攻撃した機体は当該機であったが本来は発射する意図はなくその後行方不明になっている。

  • F-15改 イーグルプラス
航空自衛隊の要撃戦闘機で、F-15Jの架空改修機。
カナード翼を持つ3サーフィス機で、3次元推力偏向ノズルを装備する他、主翼をステルス形状に改修し兵装ステーションを半没式にするなど、ステルス性の向上も図られている。
劇中では百里基地の第7航空団第204飛行隊所属機「ウィザード03」と、小松基地の第6航空団第303飛行隊所属機「プリースト21」が登場。

実在する陸上自衛隊の主力戦車
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 74式戦車改
実在する陸上自衛隊の主力戦車「74式戦車」の架空の改修型。高コスト故に配備が遅れている90式戦車を量的な面から補うべく改修された。
砲塔前半部と車体正面に爆発反応装甲を、車体側面にサイドスカートを装着している他、IR(赤外線)サイトの装備と射撃管制装置の換装が行われている。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 1式装甲車
陸上自衛隊に配備されている架空の装軌式歩兵戦闘車。2001年に制式化された。
89式装甲戦闘車よりも大型の重装甲車で、90式戦車から車体の基本コンポーネンツを流用した上でフロントエンジン化している。
武装は89式同様35mm機関砲を搭載しているが、近接戦闘を重視しているため89式とは違い対戦車ミサイルは搭載していない。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 99式指揮通信車
陸上自衛隊に配備されている架空の指揮通信用装甲車。
8輪駆動の指揮統制車両で、82式指揮通信車*3とは違い本格的な前線指令部機能を有する。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 2式装甲車
陸上自衛隊に配備されている架空の偵察警戒用装輪装甲車。
87式偵察警戒車(実在する陸上自衛隊の偵察警戒用装輪装甲車。82式をベースに開発された)の後継として、上記99式をベースに開発された。
99式同様8輪駆動で、プロペラ推進による浮航能力を有する。砲塔には35mm機関砲と対人警戒用レーダーを搭載しており、車体後部に6名まで搭乗が可能。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。





【余談】


下積み時代のバナナマン設楽がモブ役で出演している。







追記・修正は既に編集されているかもしれない画面ではなく、現場の状況を自分の目と耳と知恵を使って解釈した上で判断してからお願いします。





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最終更新:2024年04月18日 03:17

*1 筑摩書房刊・世界古典文学全集5「聖書」(関根正雄・木下順治編)より引用。

*2 公開当時実際に運用されていた航空自衛隊の防空指揮管制システムで、正式名称は「自動警戒管制組織」。現実では2009年7月に運用を終了し、後継の「自動警戒管制システム(JADGEシステム)」に置き換えられている

*3 実在する陸上自衛隊の指揮通信用装甲車。第二次大戦後日本において初めて実用化された装輪装甲車でもある。

*4 正確には使ったものの二課に妨害されて失敗した、また腹心と思われる人物は使うつもりはなく止めに入っていた

*5 特に「かつての特車二課メンバー達の飲み会」に関するエピソードは押井監督も気に入り、絵コンテまで書いたが尺の都合で削らざるをえず、後の小説版で表現された。