鉄道員(小説)

登録日:2010/11/09 Tue 14:04:51
更新日:2023/10/05 Thu 15:14:56
所要時間:約 7 分で読めます




―あなたにおこる やさしい奇跡―


鉄道員(ぽっぽや)』は、浅田次郎の小説作品、及び同作を表題とする同氏初の短篇小説集である。
1997年に集英社より刊行。2000年には文庫版が刊行されている。

収録作品の内『鉄道員』『ラブ・レター』『オリヲン座からの招待状』は映画化されており、特に1999年に公開された映画版『鉄道員』は当時多くの話題を集めた事で知られている。

映画公開と同年の1999年には、ながやす巧による漫画版も『ラブ・レター』共々月刊アフタヌーン誌にて連載、単行本化している。


【概要】

作者である浅田次郎が長編『蒼穹の昴』の上梓後、自らの資質を問い質すべく短篇に挑んだ時期の作品を纏めた物である。
掲載誌、物語の方向性はバラバラなれど奇跡をテーマにしている点は一致している。
また、読み手の年齢や性別によって好きな作品が極端に分かれる事でも知られ、ファンの間でも論争が耐えないと云う。


【物語】

各話のあらすじ、登場人物を簡単に記す。


【鉄道員】

廃線を間近に控えた「北海道旅客鉄道・幌舞行単線」の最終駅、幌舞駅の駅長・佐藤乙松の最後の一日と、その日に彼が出会った奇跡を描く。

  • 佐藤乙松
罐焚きから始まり、勤続45年、定年を間近に控えた幌舞駅駅長。
炭鉱で栄えた町も今では寂れ、自身も遅くに出来た娘や妻を亡くす経験をして来た。
「…俺ァ、ポッポヤだから、身うちの事で泣くわけいかんしょ」

  • 仙次
美寄中央駅の駅長で、乙松とは一つ年下で苦楽を共にして来た仲。
乙松とは家族ぐるみの付き合いで、時代の中でいつしか自分だけ安全な場所に移ってしまった事を申し訳なく思っている。

  • 少女
乙松の前に現れたセーラー服姿の美少女。
前夜より乙松の前に現れていた少女達の姉だと云うが…?


【ラブ・レター】

新宿歌舞伎町で裏ビデオ屋の雇われ店長をしている高野吾郎は、ブタ箱帰りに知り合いの刑事から身に覚えの無い妻の遺体引き取りに行く様に伝えられる…。

  • 高野吾郎
裏ビデオ屋の雇われ店長。
20年近くを歌舞伎町で過ごして来た。
言われるまで結婚届を出したことすら忘れていたが、千葉への道中、意外な物を受け取る事になる…。

  • サトシ
吾郎が仕事を世話して貰っている佐竹興業の若いの。
10代後半のヤンキー上がりだが、要領が良く頭が回ると吾郎は評している。

  • 康白蘭(カン・パイ・ラン)
吾郎の妻(といっても就労のために吾郎が書類上だけ名義貸しをした偽装結婚)。
佐竹興業が中国から斡旋して来た出稼ぎの娼婦。
夫に手紙を残しこの世を去る…。


【悪魔】

昭和中期を舞台に、ある上流家庭が家庭教師の出現により崩壊して行く様を当時、子供であった主人公の視点で描く。

  • 主人公
当時は小学五年生位。
この物語の語り部。

  • 蔭山
主人公に付く事になった家庭教師。東大の医学生。
長身で嫌な笑い方をする。
やがて、屋敷内に住み始めるが…。


【角筈にて】

プロジェクトの失敗の責任を取り遠く、リオデジャネイロへの左遷を命じられたエリートサラリーマンが日本での最後の日々に出会った幻から、己の過去と出会う物語…。
そして…。

  • 貫井恭一
東大卒のエリートだったが、詰め腹を切り海外赴任を命じられる…。
かつて父親に捨てられた経験を持つ。

  • 久美子
貫井の妻。
貫井が身を寄せた親類の娘で、貫井とは兄妹の様な関係だった。
過去の堕胎により、子供を産めない身体になってしまった。

  • 父親
かつて、何も告げずに貫井を捨てた父。
…貫井は少年時代に別れたままの姿の父の幻を見るが…。


【伽羅】

バブルの頃を舞台にブティックのマダム相手の服の卸業をしていた主人公が体験した微妙な恋情と人間関係がもたらす幻想的な物語が描かれる。

  • 主人公
「サン・ドミニコ」のトップ・セールス。
当時は20代半ば。
素人商売を食い物にし利益を上げて来たが、静との出会いに変化が訪れる。

  • 小谷
主人公のライバルで「ブローニュ」のトップ・セールス。
「伽羅」の存在を主人公に教える、が…。

  • 立花静
「伽羅」のオーナー。
30代半ばの美しい女主人。


【うらぼんえ】

夫の不倫による夫婦関係の危機に瀕していながら、ちえ子は田舎の旧家である夫の祖父の新盆へと向かわねばならなくなった。
非は夫にあるのに、身寄りの無いちえ子は、ただ一人夫の親類達に責められねばならない…。
…その時、迎え火に乗ってちえ子の前に現れたのは…。

  • ちえ子
30歳。
薬局の薬剤師。
幼い頃に離婚した両親共に親権を放棄され、祖父母に育てられるも20歳には天涯孤独となる。
夫の不倫に非があるにも関わらず、夫の実家では彼女の味方は誰一人居なかったが…。

  • 邦夫
ちえ子の夫。
大学病院の外科医だが、若い看護婦を身籠もらせてしまう…。
この事が、奨学金を返す為に仕事を優先させ子供を作る事を拒否して来たちえ子の立場を無くしてしまう事に…。

  • おじいちゃん
ちえ子の祖父。
江戸っ子気質の職人だった。ちえ子にとっては大きな存在…。


【ろくでなしのサンタ】

クリスマス・イブの夜にブタ箱から出た柏木三太は、刑事達のからかいに乗せられたかの様に大量のブタマンに花束、背にはデカいスヌーピーを背負って、気紛れのサンタになる事を決意する…。

  • 柏木三太
30歳前後のベテランのポン引き…。
その名前からクリスマス・イブに釈放される事をからかわれるが…。

  • 母ちゃん
良い味出してる三太の母ちゃん。
ダメ息子を持ちながらもビル清掃で頑張る強い人。

  • 北川
40がらみのメッキ職人。
仲間の悪巧みに乗せられるままに巻き込まれ、工場の地金の盗難を行った。
実際の罪自体は軽い…のだが…。
彼自身は知らないが、家族にはサンタからのプレゼントが待っていた。


【オリヲン座からの招待状】

幼い日々を過ごした西陣の映画館「オリヲン座」から閉館と謝恩興業を報せる便りが届いたのは、ある春の日の事だった…。
自分の勝手で捨てておきながら、地位の為に婚姻関係を破棄しないだけの別れた筈の妻…。
しかしながら、他の男の手により美しくなってゆく妻の姿に戸惑いを感じる主人公の心境と語りを通して、故郷の名画座の閉館と、それまでに「オリヲン座」に関わった人々の想いが描かれる…。

  • 三好祐次
40代半ば。
成長著しい大企業の出世頭。
都心のマンションに一人住まいせざるおえなくなった時に若い部下と不倫関係になり家庭を崩壊させるも、地位の為に未だに婚姻、親権関係を手放してはいない身勝手な人物。
男が出来、美しくなってゆく妻の姿に戸惑いを覚える自分に気付く…。

  • 良枝
祐次の妻。
40代に入ったばかり。
祐次とは同郷で、彼の同級生の妹だった。
パート先の妻子ある男性と不倫関係にあり、その事で祐次を戸惑わせる…。
家族は西陣から口にも出来ない理由で出て行かざるをえなくなった様で、体面を気にする祐次に対して、半ば感傷的に「オリヲン座」へ行く事を嘆願する。

  • 仙波留吉
「オリヲン座」の主人。
オリヲン座の小僧として、見習い映写技師から先代が若くして死んだ後、先代の奥方と結婚。
オリヲン座の灯を守り続けて来た。
上記の経緯から口さが無い西陣の人間からは陰口が絶えぬ人物だったが、子供には優しく、年齢を重ねた祐次や良枝の事も覚えていた。


【余談】

後書きによれば『ラブ・レター』は作者の 身近で実際に起きた物語との事。
その内容から特に女性読者に人気だと云う。

作者自身の姿を描いているのは『角筈にて』『伽羅』『ろくでなしのサンタ』の3作品。
最初の2つは作者の経験を、最後はかつての作者自身の姿を投影したとの事。
作者自身の回想譚から総合すると、『悪魔』の「僕」も過去の投影かもしれない(父親の性格付けや結末で「両親と離れ親戚に預けられる」等)。
尤も作者は一応両親との関係は(互いに居場所が分かるくらいには)それなりにあったらしい。

『鉄道員』の「北海道旅客鉄道」の鉄の字は本来の金に失、では無く、金に矢と書くのだと云う事を説明する描写がある。
民営化により厳しい運営が予想される状況を憂いての願いを込めた名称だと云う。

『蒼穹の昴』での直木賞受賞を逃した作者だが、翌年本短篇集により、見事に第117回直木賞を受賞した。




ついき?しゅうせ?い、
しゅっぱあつ、しんこおォ????????ッ!!

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最終更新:2023年10月05日 15:14