アーリマン/アンラ・マンユ(悪魔)

登録日:2012/03/19(月) 00:10:30
更新日:2021/10/11 Mon 14:43:09
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■アーリマン


『アーリマン(Ahriman)』或いはアフリマン…etc.は「ゾロアスター教」に於ける悪神。
古い呼び方に倣い「アンラ・マンユ(Angra Mainyu)」或いはアングラ・マインユ…etc.と呼び顕される場合もある。
古代インド神話のアリヤマンを原型とするとする説もある一方、両者の余りの役割の違いから名前が似てたので自然に混同されていっただけとの説もある(意図的な改竄であったと云う説も)。
尚、このアリヤマンは後にゾロアスター教ではミスラの従者であるスラオシャ、或いはラシュヌに転じたと考えられており、ミトラス教での役割は此方に近い。
ミトラス教を生んだヘレニズムではアフラ・マズダを全能の神ゼウスに、アーリマンを冥界の神ハデスに当て嵌めて説明していたとも言われる。
ハデスは泣いていい。

古代ペルシャで宗教改革者ザラスシュトラ(ゾロアスター=独:ツァラトゥストラ)により拓かれ、
後にユダヤ/キリスト教(※必然的にイスラム)から大乗仏教まで、後の世界三大宗教に多大な影響を与えた「ゾロアスター教(拝火教)」に於いて、
生命を司る光の善神アフラ・マズダと対になる、死を司る闇の悪神として畏れと崇拝を集めた(忌避をすると云う事は、裏を返せば信仰と同義になる)。

アンラ・マンユの名前の意味は『怒りの霊』であり、
獅子の頭の偶像は時間の神ズルワーンとして紹介されている場合もあるが、正確にはアンラ・マンユの偶像であるとされる。
時代が降り、アーリマンと呼ばれるようになると特定の姿は持たず、危険な爬虫類の様な不浄の生き物の姿を執って不吉の影としてのみ顕現するとされた。
正に、後の西欧社会に於ける悪魔のイメージに近い。

キリスト教に於ける悪魔の王「サタン」の原型となった存在であり、
アーリマンのイメージとして背負わされた不浄や邪悪は、そのまま西欧に於ける「悪魔」の姿として取り入れられている。


【起源】

原型となるザラスシュトラの創世神話に於いては、創造神アフラ・マズダによって創造された双子の霊の一つであった。
兄弟であるスプンタ・マンユ(聖霊)が全ての存在に自由の権利を与えた処、
アンラ・マンユ(破壊霊)は「ならば我は悪たらん!」と高らかに宣言し、彼は悪霊となったとされている。

時代が下るに連れ、最初の悪たるアンラ・マンユは次第にその地位を上げてゆき、
スプンタ・マンユ(アフラ・マズダ)と同じく時の老婆ズルワーンより生まれたもう一人の創造神として扱われるようになった。
この時、スプンタ・マンユは世界の二大原理のうち「善」を、アンラ・マンユは「悪」を選択し、それぞれの原理に基づいて万物を創造したという。

後に「ゾロアスター教」の広がりに伴い、この二神は善神オフルマズド(アフラ・マズダ)と悪神アーリマンへと名を変え、
世界の終末(最後の審判)の時までを互いの勢力を生み出しつつ争っていると考えられる様になった。
アフラ・マズダの呼称と属性、ゾロアスター教の教義の変化については「アフラ・マズダ」の項目も参考。

※……元来の古代ペルシャの神々は他のオリエント地方の神話と同様に、自然への畏怖と感謝が形象になった自然神の登場する多神教であった。
しかし、上記の様にゾロアスター教では開祖ザラスシュトラの唯一神的信仰を経て、人に恵みを与える存在を「善」、人に害を与える存在を「悪」とする「善悪二元論」を採用。
それまで雑多に信仰されていた神々を法の下に集め、再編成したのが「ゾロアスター教」だったのである。
因みに「最後の審判」「善悪二元論」のみならず「救世主」もゾロアスター教から派生した概念である。



【由来】

※以下に「ゾロアスター教」に於けるアーリマン(アンラ・マンユ)の概要を記す。

北方の暗黒に住むとされる暗黒神。
光明神アフラ・マズダ(オフルマズド)とは兄弟であり、両者は表裏の存在ともされる。
原型であるアンラ・マンユの属性を引き継いだ「暗黒の創造神」であり、
アフラ・マズダが「神聖な生き物」として犬や牛の家畜を創ると、アーリマンは「悪しき生き物」として蛇や蝿、蠍やライオンを創る。
また、無限の時を持つ善の勢力に勝つ為に有限を作り寿命を作ったのもアーリマンだという。

アフラ・マズダが豊穣の恵みを与えると、アーリマンは疫病と干ばつを引き起こす……等々、真逆の行為により人間に危害を加えたと云う。

これらの神話から判る様に、アフラ・マズダとアーリマンは互いが補完し合う世界の象徴であり、
当初はどちらかが欠けては世界は無く、故に互いが滅び合う事は無いと考えられていた様だ。

……が、それは建前で、元々の教義でも「悪」を避けて「善」を選ぶようにするのが大事とされていたし、
後には教義の上でもアーリマンは最終的にはアフラ・マズダに敗れる運命を持つ存在と考えられる様になっていった。

先ず、世界の創造の段階に於いてアフラ・マズダに敗れたアーリマンは三千年の封印についていたが復活。
アフラ・マズダの創造した「完全なる善の世界」への攻撃を始め、最高の被造物たる最初の人間ガヤ・マルタンをも殺害してしまう。
それでもガヤ・マルタンの精子だけは残り、それが大地と結合し、そこから生まれた最初の男女が人類の祖となったのだと云うのが創世神話。

……そして、この時に人類の誕生にアーリマンが関わった事で人類は「悪」の誘惑に揺らぐ不完全な存在となってしまった。
故に人類は「悪」の誘惑を退け「善」の定めに従い生きなければならないと云うのが「ゾロアスター教」の基本的な教義となっている。


……この戦いはゾロアスターの死後、二千年後に誕生する救世主サオシュヤントの到来まで続くと云う(最後の審判)。

尚、最初こそ出遅れたものの現行ではアーリマンの勢力が優勢なそうで、
故に「最後の審判」までに悔い改めなければいけないと「ゾロアスター教」では説いたのであり、
これらの構図はそっくりと後の三大宗教を始めとした宗教組織に引き継がれたのである。

……さて、アフラ・マズダとアーリマンは互いに自らの属性の分身たる眷属を従えている事でも有名である。

彼らは、「善」の勢力を「アムシャ・スプンタ(善霊)」……「悪」の勢力を「ダエーワ(大魔)」と云い、
六人ずつが存在する(アフラ・マズダとアーリマン自身も含め七人とも)。
そのイメージはそっくりそのままユダヤ/キリスト教等の「天使」と「悪魔」に引き継がれたが、
アーリマンには更に妹とも恋人ともされる月と娼婦の女神ジャヒーや蝿の支配者ナス、自らの力の化身とも謂われる最強の悪竜アジ・ダハーカらも居る。
尚、これら六大天使と六大悪魔以外の神々を諸神(ヤザタ)と云い、その中にはミスラらも含まれる。


……以上の様に「ゾロアスター教」の神話世界は「ヨハネの黙示録」や西洋の「神秘学」の源流と呼べるのがお判りになると思われる。


【神秘学】

さて、アーリマンの神話がユダヤ/キリスト教の成立や「サタン」のイメージの源流となったであろう事は上記の様に疑い様が無い所であるが、
中世の神秘学者達はアーリマンの名を、単にサタンの源流とするのみに止まらず、積極的に闇の支配者の名前として用いられた。
即ち、神に仇なす敵対者サタンの正体こそがアーリマンであり、「嘘の王」「古き蛇」「赤き竜」と呼ばれる邪悪な支配者と考えられたのである。
……無論、この説は神話とは離れた思想的な意味合いが強いのだが、
アーリマンは時にサタン、また時にはディアボロス、メフィストフェレスと呼ばれる悪魔の原型と考えられたのである。
尚、アフラ・マズダは矢張りアーリマンの敵対者であり、光と知恵の運び手として創造主より分かれた反逆天使ルシファーと同一視された。
ルシファーの堕天はギリシャ神話に於ける「プロメテウスの火」と同じであり、イエス・キリストとも結びついた。

……一種の荒唐無稽にも思える説だが、実はこうした思想は「聖書」の記述の矛盾の解釈を求めた「グノーシス派のキリスト教」から発生したと云う事が明らかにされている。



【眷属】


■六大悪魔(ダエーワ)
①アカ・マナフ(悪思)
②ドゥルジ(虚偽)
③タローマティ(背教)
④サルワ(無秩序)※インド神話のシヴァ。
⑤タルウィ(熱)
⑥ザリチェ(渇き)

※ダエーワとは、インド神話に於ける神々「天(ディーヴァ)」であり、古くは雷神インドラらの名前がそのまま挙げられていた。
逆にアフラ・マズダ(大日如来と起源を同一とする)ら「善」の勢力はインド神話では悪魔とされた「阿修羅(アスラ)」に由来する。
ディーヴァ(正確にはその語源のディヤウス)はを表すデウスの語源となり、
ダエーワは古代教会スラヴ語に取り入れられ、ラテン語のディアボロスと共に悪魔を顕すデビルの語源となったとする説がある。
六大悪魔の成立は対立するアムシャ・スプンタ(六大天使)に比べるとだいぶ遅く、善悪二元論が教義に定着して以降の物である。

■アエーシュマ
「憤怒」を司る。
より古い時代から名を知られた悪神であり、ダエーワの筆頭とされる場合もある。
旧約聖書「トビト記」に登場する悪魔アスモデウスの原型。

■ジャヒー
娼婦と月の女神。大地母神の暗黒面。
アーリマンの恋人ともされる。

■ナース(ナス)
「不浄」を司る。
蝿の女王。
後にドゥルジと習合しドゥルジ・ナスと呼ばれた。

■アジ・ダハーカ
三つ首の悪竜。
アーリマンが不浄や災いを生み出し続けたとする神話から、その化身とも息子ともされる。
「破壊」を司り、その身を切り裂かれても中から蠍や蛇が溢れ出す最悪の獣。


【主な登場作品】


◆漫画『コブラ』
ブラックストーンに宿る暗黒神。
宇宙制覇を目指す宿敵クリスタルボーイに憑依する。

◆ゲーム『女神転生』シリーズ
複数の作品に登場。
眷属の悪魔共々出るタイミングがまばらだったが、『真Ⅲ』では大ボスクラスの座を獲得。
早とちりさんや「気合いは魔法」と認識できなかった人修羅を地獄へといざなった。

Fateシリーズ
『stay night』にて、本編のストーリーの根幹に関わる存在として『この世全ての悪(アンリ・マユ)』が登場。
hollow ataraxia』では真名が『この世全ての悪』であるアヴェンジャーのサーヴァントが登場し、
メインキャラの一人としてこちらでもストーリーの鍵を握る重要な役割を担っている。
ただ、真名こそ『この世全ての悪』だが、生前は神どころか英雄や魔術師でもない、片田舎の村に住む一般人で、
とある理由から『この世全ての悪』の化身として人身御供にされ、拷問されて自我を失い、名前も魔術的に剥がされて『この世全ての悪』という役割に成り果てたという。
そのため、サーヴァントとしての能力は自称「最弱」であり、初めて呼ばれた第三次聖杯戦争では自称する通り真っ先に倒されて退場したとのこと。

◆ファイナルファンタジーシリーズ
ナンバリングから外伝まで多くの作品に登場。容姿は作品毎に微妙な違いがあるが、球体、一つ目、蝙蝠の羽といった共通のデザインを持っている。
初登場時は運ゲー気味なメテオ、以降の作品は死のルーレットをはじめとする即死系をよく使うことで有名。
なお「FF10-2」では、上記のアーリマンの他に、アンラ・マンユが全く別の姿でタルウィ、ザリチュを伴って登場している。

ToHeart2 ダンジョントラベラーズダンジョントラベラーズ2 王立図書館とマモノの封印
両作とも裏ボスとして、2ではそれに加えて八大神の悪神として登場。
1では異世界脱出に必要な「ある物」を、2では短剣系最強の「殺戮のダエーワ」を所持している。
どちらの作品でも戦闘条件に厳しい要件を突きつけてくる。

◆漫画『左門くんはサモナー
原典通り、絶対悪にしてゾロアスター最強の悪神であり、拳一つで岩を砕くことができる圧倒的な力を持つ。
ただし見た目は褐色美少女。
あらゆる災厄を振りまきすぎたせいで他の悪魔からさえも避けられてぼっちをこじらせるが、主人公「左門召介」に召喚された事で彼に惹かれる。



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最終更新:2021年10月11日 14:43