鳴海歩

登録日:2012/02/08(水) 12:20:23
更新日:2024/03/06 Wed 19:22:38
所要時間:約 17 分で読めます





お前が背を向けた未来、

ちゃんと見せてやる。




鳴海歩(なるみ あゆむ)は『スパイラル~推理の絆~』の主人公。

誕生日:12月1日
血液型:AB型

CV*鈴村健一(アニメ)/石田彰(ドラマCD)
※なお、鈴村氏は解説本付属ドラマCDでも歩役を務めている。


私立月臣学園高等部に通う男子高校生。学年は1年。
月臣学園は設備・教員共にトップクラス故に偏差値はかなり高い、全国でも屈指の難関校として知られており、
相応に優秀な優等生ばかりが通う学校であるのだが、歩は『家から近い』という理由だけで選んだため、
入ってからは『自分は場違いな学校に入ったのではないか』と思っている*1


長い揉み上げと耳のピアスが特徴的な美少年だが、基本的に他人に興味を示さず、
無口で何を考えているか解らないという協調性のない性格が災いしてクラスでは浮いている。

ただ、一見クールな割に根はお人よしで、困っている人を見ると放って置けない。
……ほどではないが、知った人間が困っていると放って置けない性格でもある。

兄・鳴海清隆には『損な性格』と言われており、本人も自分の性格をそう感じているが、直せそうにはないらしい。

基本的に面倒くさがりだが、お人よし故に身近な人がトラブルに巻き込まれたり、手伝いを請われた場合は嫌々ながら関わる。
面倒くさがりなために争いは避ける主義で、争いになると『ああもう怖いったらありゃしない』と心の中はガクブルらしいが、
土壇場になると平然とトラブルを解決する行動力や豪胆さを発揮する。


ドライな一面もあり、『フランダースの犬』を見て号泣するひよのに「なぜ泣かないのか」と聞かれ、
「感動的な話だとは思うが泣くほどではない」と泣くどころか平然と返したことも。

小説版では復讐に燃えるヒロインやら過去の番長話で盛り上がるヒロインやら、
物騒な逸話のあるピアノを恐れるヒロインやらに非常に醒めたツッコミを入れていたが、これは歩が「常識人」であるためと思われる。
しかしいくら「冷静になれ」「おかしいだろ」とツッコミを入れてもヒロインたちにはガン無視され、
時にはタコ殴りにされ、強引に付き合わされてしまうことになる悲しいポジションにいる。


自分が犯人と疑われた事件がきっかけで結崎ひよのと同行することが多く、
昼休みや放課後には新聞部に顔を出したりもしているが、ひよのに対する態度もこれまたドライ。
見るからに忙殺されているひよのを尻目に弁当箱を広げて昼食を取ったり、
賞味期限から数日経過した豆腐を冷奴と評して出したりし、ひよのにキレられることも多い。
しかし、一見歩が冷血漢、鬼、人でなしに見えても、実はひよのの自業自得であることもあり、
むしろ歩がドライなのはひよののそういう面を知っているから、という可能性もある。

自分を面倒に巻き込む一番のトラブルメーカーでもあるために意識的にそっけなくしている面もあるだろうが、
本当に困っていると助けてしまう辺り詰めが甘い。


また、不気味なほど落ち着いていると小学生の頃に大人に言われるほどクールな歩ではあるが、
不用意に異性に近付かれて照れるなど、歳相応な反応をみせることもある。

とはいえかなり鈍感なため、異性の好意には冗談のように疎い。
そのため、上記のようにトラブルを歩に助けられたことで彼に好意を抱いた女性はことごとく歩に好意をスルーされる憂き目に遭う。
いつも一緒にいるひよのからの好意にすら気付かず、「好みじゃない」とバッサリ切るほど。
ただ、なんだかんだでひよのと息は合っており、『新聞部員』として見做されているだけでなく、恋人同士と勘違いされることも。
ちなみにタイプは『パッと見カッコイイけど中身は可愛らしい年上の女性』。

初恋が苦い結果に終わったこともあってか、生来のお人よしな性格からか、恋愛ごとには鈍感なことに加えてかなり奥手。
初恋の女性と同居し、その女性が弱りきっている状態で傍にいながらも決して手を出すことはせず、
おまえはどこのヒロインだと思わざるを得ない献身振りで彼女を支えていた。
後にとある女性には「弱ってるところを突けばイチコロだっただろうに、この甲斐性なしめ」と謂れのない批難を受け、
当の初恋の女性にも「あんたにそんな度胸があればとっくに変なことになっていた」とヘタレ認定された。*2


過去にいろいろあったため、『何も信じない』ことを信条としている。
字面だけ見るととんでもない社会不適合者に見えるが、何事に関しても過度に期待をしないという意味ではリアリストに通じるものがある。
歩のこの姿勢は、序盤こそ歩の過剰なまでの後ろ向きさを表すものとして機能していたが、
後半においては彼が現実に立ち向かうための剣となり、起死回生の案を生み出した。


趣味・特技はピアノと料理。
どちらも超高校生級の腕前で、それ以外の事もやろうと思えばすんなりできる才能を持っている。
ただ、兄である鳴海清隆が『神』とさえ呼ばれるほどの天才であったことと、弟故に得意分野が兄と被ってしまったことで、
幼少期から「得意分野(好きな分野)を見つけて夢中になる」→「一定の評価を世間から得る」→「兄が同じ分野で結果を残していることを知る」
「実際に兄に目の前でその技術を見せてもらって『自分ではこの領域に一生辿り着けない』と自覚して挫折する」というサイクルを繰り返したことで、
『何をやっても兄に敵わない』というトラウマをもっているため、自分の才能を過小評価している。

そのため、やろうと思えば割と何でもできる才能を持っていながら、当人は何をするにも消極的。
他者に感謝されても「兄貴ならもっと上手くやれた」と考えて自分を誇りに思う事はまずなく、
さらに言えば、「清隆ならもっと上手くやれた」というのが歩の謙遜ではなく単なる事実であることが大半という救えなさ。
「自分の完全な上位互換が身近なきょうだいにおり、その事実をいやというほど知っている」となれば、こうもなるだろう。

料理に関してはかなり造詣が深く、彼の手料理を食べた人間はまずその美味しさに驚き、
同時に普段はクールな歩がここまで食べる人のことを考えた料理を作ったという事実に愕然とする。
外伝で語られたところによると、小学生時分に親元から離れて清隆と二人暮らしになってから料理を始めたといい、
それから数年が経ち、清隆がまどかと知り合った頃には、若い頃から様々な店で外食する機会があったであろう清隆をして、
「そこらの適当な店で外食するよりは、家に帰って歩の手料理を食べた方が味もコスパも良い(意訳)」と称され、
後にまどかと付き合い始めてからも、歩に希望を伝えて(歩の分も含め)自分たちの食事を作ってもらったりしていたらしい。

また、当の本人がかなり健康に気を使っているため、基本的にはヘルシーかつ栄養バランスに優れた料理を作る。
あまりの家政夫っぷりに、作中女性キャラクターから「お嫁さんに欲しい」と思われた。
その他、暇なときには料理雑誌を読んでいることが多く、趣味も入っていると推測できる。


頭の回転が早く、高い洞察力と深い知識を持つために名探偵並の推理力を持つ。
その様は神がかりめいて、論理を超えた「一種の超能力」と言われるほど。
しかしやはり上記のトラウマからあまり行使しない。

それらのトラウマを植え付けられたことや、初恋の女性と清隆が結婚したことから、清隆には複雑な感情を抱いている。
ちなみに、性格面では本編でも外伝でも兄とは(良い意味でも悪い意味でも)まったく似ていないと言われているが、
外伝ではくるみ曰く「パッと見は似ていないが、人との間の取り方や些細な仕草といった部分がそっくり」と評されており、
人通りの多いところを歩いていたら唐突に、清隆の知人らしき人物から「身内の方ですか?」と話しかけられることが多かったという。
(※なお、この話をした時の歩は心底うんざりした様子であり、くるみにも「そら兄貴を鬱陶しがるわ」と内心で同情されている。)


やや口が悪い……というか余計なことを口走る悪癖があり、
よく一緒にいる結崎ひよのや同居している義姉の鳴海まどかに余計なことを言っては殴られるのがテンプレート化している。
小説版では同じく口が悪いツンデレ上級生と丁々発止なやり取りをし、結果額を割られている。
しかし懲りることはなく、デレを見せた彼女にまた余計なことを言って殴られている。歩ェ…

なお、スズメバチの毒に対するアナフィラキシー・ショックのアレルギーを持っており、スズメバチからは全力で逃げ出すらしい。





~以下、シナリオのネタバレ~









□原作

学内で起きた殺人事件の容疑者にされてしまった歩。
謎の新聞部部長、結崎ひよのの助力と自らの推理で疑いを晴らすものの、
そこから『ブレード・チルドレン』を名乗る者達と対決することになる。

アイズ・ラザフォード、浅月香介、竹内理緒……失踪した兄・清隆と関係があるらしい、
彼らとの命を懸けたゲームをなんとか乗り越える中、歩は兄の失踪の理由とブレード・チルドレンの関係を探り始める。

そして、ブレード・チルドレンを狩る『ハンター』側に付いたブレード・チルドレン、カノン・ヒルベルトに拉致された歩は、
彼から自らがチルドレンにとってどういう存在なのかを尋ねるが……。






~中盤のネタバレ~








歩は、彼らにとっての『希望』だった。

とある事情から命を狙われ続けていたアイズ、理緒、香介らブレード・チルドレンに、『神』たる鳴海清隆が接触。
清隆によって彼らに対する攻撃は下火になったものの、やはり命を狙われる彼らに、清隆が示した『希望』こそが歩だったのである。

拉致された自分を助けるために学園で死闘を続けた理緒らチルドレンやひよの、まどかの尽力もあって解放された歩。
自らが彼らの救いになるなど信じられず、諦めてカノンを殺そうとすらした歩だったが、ひよのの叱咤で活力を取り戻し、策によってカノンを無力化する。
その歩の力を見た理緒らチルドレンは(まあ理緒は以前から歩を信頼していたが)、彼を信じることを決めたのだった。







以下、終盤のネタバレ




カノンをなんとか止めるも、大怪我を負った歩は入院することに。
そこで、チルドレンの監視をする『ウォッチャー』土屋キリエから、自らの境遇を知らされる。

かつて世界を作った存在・『造物主』。
天地を創造し、自然や動物を創造し、そして人間を創造した『造物主』は、ある日ふと「人間を滅ぼそう」と思い立った。
そうして『造物主』は、「自らとその血族による支配」を目的として行動する『悪魔』を創造。
『悪魔』は「天才」として人間社会に取り入り、その才覚で社会の頂点に立ち、人間たちに自らの血族…つまり、自分たちを滅ぼす『ブレード・チルドレン』を造らせた。
その危険性を察知する人間もいたが、『造物主』からの加護を受けている『悪魔』を人間たちには殺すことが出来ず、人間の滅亡は日に日に迫っていた。
そんな『悪魔』を止めんと『もう一人の造物主』が創造した、『悪魔』を殺せる力を持つ『神』。それこそ、一連の騒動に深く関わっている鳴海清隆だった。

ミズシロ・ヤイバの肋骨は生まれつき一本欠けていた。『ブレード・チルドレン』が生まれた直後に肋骨を外科的措置で一本除去されるのは、これが由来である。
もしも創世神話のように、『造物主』が生み出した『悪魔』の肋骨を掠め取って『もう一人の造物主』が『神』…つまりは鳴海清隆を作り出したというのならば、
まさしくヤイバは『アダム』、清隆は『イヴ』と言える間柄であったが、目的の違いから、清隆…『イヴ』は『アダム』の子を成す女性ではなく男性として生み出された。
そして清隆は、ある日ふらりとヤイバの前に現れるや、あまりにも呆気なく彼を殺害してみせた。
それまで『悪魔』をどんな凶弾や凶刃も防いできた加護も『神』には通じず、ヤイバの最期の顔は「信じられない」と言わんばかりであったという。

残る問題は、既に生み出された『悪魔』の子供たち…すなわち『ブレード・チルドレン』の処遇であった。
ヤイバほどの強運は持たずとも、その血を継いだ彼らは優れた資質を生まれ持っており、さらに、かつてミズシロ・ヤイバが語ったように、
それまでどれほど人間に友好的であっても、時が来ればまさにスイッチが切り替わるように『悪魔』として覚醒して人間を滅亡させようと動き出すといい、
『悪魔』となる前に彼らを排除しようとする「ハンター」と呼ばれる勢力が生まれ、実際に殺されるチルドレンも出てきた。
そんな状況に対し、『神』たる清隆が『ブレード・チルドレン』を救う役割を持っていると示唆したのが、『神の弟』…つまりは歩であった。
『神』ではないが『神の如き力を持つ者』が、何故『造物主』たちが作り上げたこの血塗られた盤面に「ひとりポツンと立っている」のか。
その理由こそが、『ブレード・チルドレン』の救済であると清隆は語り、「ハンター」から『ブレード・チルドレン』を保護し始めたという。

だがそれは清隆の嘘であり、実は『悪魔』にも『悪魔の弟』たるミズシロ火澄(ヒズミ)が存在していた。
『神の弟』たる歩は、自らの対極に位置する火澄を殺すべく、造物主に造られたのだ。
カノンを「きょうだい殺し」に走らせた『絶望』は、ブレード・チルドレンを助ける者などこの世界には存在しないという残酷な真実であった。

清隆の嘘と、自身は『ブレード・チルドレン』を救う立場になどいないことを知った歩だったが、最早動じることはなかった。
乗り越えて来た修羅場と初恋との決別、新たな自分の理解者の存在が、歩を成長させていたのだ。

そして、退院した歩は『悪魔の弟』である火澄と初邂逅。運命を受け入れ、殺される覚悟を決めたと言う彼と同居することになる。

愛想が良い火澄と一緒にいることでクラスメイトから歩は注目され始め、その非凡な能力と端正な容姿、そして生来のお人好しで瞬く間に火澄と共にクラスの注目の的に。
女子から告白される、バスケに勤しむ等、普通の学生生活を送る歩だったが、事態はそれを許さず、短い平穏は終わりを告げる。

逮捕され、保護されていたカノンを火澄が殺す事件が発生したのである。
アイズらが彼を捜す中、歩は火澄本人からの連絡で彼と接触。自分と火澄がどういう存在か知ることになる。

『神の弟』と『悪魔の弟』……鳴海歩とミズシロ火澄は、『神』と『悪魔』……鳴海清隆とミズシロ・ヤイバの『クローン』であった。
世界初のクローン人間として生まれた彼らだったが、今でさえ未発達であるのにそれよりも遥かに未熟であった十数年以上前の技術で生まれた彼らの身体に何の問題もないはずがなく、
不完全なクローニング技術で生み出された弊害で、十代後半から遅くとも二十歳までの間に死亡してしまうという。
『造物主』は、
『神』(清隆)が『悪魔』(ヤイバ)を殺し、『神の弟』(歩)が『悪魔の弟』(火澄)を殺し、そして『神』を『神の弟』が殺す。
一人残った『神の弟』も成人する前に遺伝子に絞め殺され、『悪魔の子供たち』(チルドレン)は人間に殺し尽くされるという、世界の異物を一掃するシナリオを描いたのだ。
これを遺伝子研究で知った火澄は、『ブレード・チルドレン』を救うべく行動していた自分が彼らよりも救いのない境遇にいることを悟り、絶望して研究を止めた。

あまりにも救いのない人生に悲観した火澄は自殺を図ったこともあったようだが、身体的には『悪魔』そのものと言ってもいい『悪魔の弟』であるからか、
他人に殺されそうになっても、自ら命を断とうとしても、信じられないような『奇跡』がその都度起こって助かり、『造物主』が定めた結末を迎えるか遺伝子に殺されるまで死ねないことを悟る。
そして火澄は、いつか起こる『その時』までの余生を、唯一自らと同じ境遇にいるが故に自らを理解してくれるであろう歩と送りたいがために、歩に接触したのだった。

またこの時に歩は、天才・清隆のピアニスト人生を守るためにかつてピアニストでありながら怪我とたび重なる治療ミスで永久にその道を閉ざされた母親が、
清隆の治療に何が効果的で何が悪影響か調べるため、そして有事の際は臓器等の移植用の献体として利用するための実験用人体(テスト・ボディ)として、
クローニング技術によって独断で自分を作ったことを知る。
真実を知った歩は、かつて実家にいた頃に母親が自分に一切の興味を示さなかったこと、父親がたまに自分を哀れむような目で見ていた理由をようやく悟る。
清隆が自らピアニストを辞め、その指を折った時点で母にとって自分は何の存在価値もない物になり、父はそのためだけに生まれた自分を哀れんでいたのだと。


しかし、それらの残酷な真実を知らされてもなお、歩は諦めないことを告げた。

唯一同じ境遇にいる歩は、火澄の絶望と、それを共有できる唯一の人間と余生を過ごすことが自分にとっても救いになることを痛いほど理解していた。
だが、チルドレン救済を心に決めていた歩は、既にカノンを手にかけた火澄とは一緒に行かず、火澄を殺すこともしないという意思を告げ、
最期の時まで一人孤独に生きろと最後通牒を突きつけた後、絶望に涙する彼に背を向けた。

歩にとっても、火澄と共に行かないという決断は自身の唯一の救いを手放す行為に他ならない。
しかし、チルドレンを救うため、そして真の意味で清隆と決着を付けるために、歩は軋む心を抑えつけながら、断腸の思いで訣別を選択したのであった。


訣別後、別口で真実を知ったひよの達の前でチルドレンの救済策を語る。

それは、歩自身が『造物主』とやらに定められた「『神』の殺害」と「速やかに盤面から消え去る(=成人前に死ぬ)」という運命に抗ってみせることで、
チルドレンにも「『悪魔』となる」、もしくは「『悪魔』になる前に人類に殲滅される」という運命に抗う決意を持ってもらうというものであった。

一見すると策と言うにはお粗末にしか見えないが、本質を考えるとこれしかないことが分かる。
究極的に言ってしまえば自分を幸福に出来るのは自分だけであり、他者から期待するようなものではない。
しかし、悲惨な運命を背負わされたチルドレンにその運命に抗えと説得力をもって言えるのは、彼らよりも悲惨な運命を背負いながらも抗う人間しかいない。
そして、そんな人間と成り得る境遇にいるのは、かつて火澄が思い至ったように、『神の弟』と『悪魔の弟』だけであった。
歩は敢えて自分の唯一の救いと理解者を手放し、それでも『ブレード・チルドレン』以上に悲惨な運命に抗い続けることで、彼らの悲観的な意識を変えようとしたのである。

だが、彼らの意識を変えたところで、彼らを脅威と考え、実際に何人ものチルドレンを殺してきた「ハンター」は既に後戻りできなくなっている。
「ハンター」の手からチルドレンを守るには、『神』こと鳴海清隆に彼らを抑えてもらうしかないが、それには歩が清隆に打ち克つのが必要不可欠であった。


そして、清隆から呼び出しを受けた歩は、決着を付けるべく彼の待つ場所へ向かう…。






■最終回のネタバレ






清隆とついに対峙した歩は、自身の救済策を話した上で、自分の示す「チルドレンを守る」という役割を担うよう求めた。
しかし、そんな歩に、清隆は残酷な事実を告げる。

清隆は歩に『神』たる自分を殺し、孤独から解放してもらうことを目的に、彼から様々なモノを奪ったこと。

カノンや火澄が追い詰められていること、そのままでは凶行を起こすことを知りながら、自分の目的のために何の手も打たず利用したこと。

……そして、歩が信頼を寄せる『結崎ひよの』は自分が創り上げた架空の存在であり、この世には存在しないということ。

清隆は悪びれる様子もなく、それらの残酷な真実を告げる前と変わらない、涼しげな顔で告げるのであった。


全ては歩に深い絶望を味わわせ、自分を憎ませ、彼に自分を殺してもらうがための、『神』の冷酷な策略であった。

そして歩は、清隆の狙った通り、怒りの表情のままに渡された拳銃を清隆に向けた。
清隆が笑った直後に銃声が響き………








「歩……何故わざと外した?」

「お前を今、支えているのは何だ?」



「わるいがそれは、『企業秘密』だ」





歩は空に撃っただけで清隆を撃たなかった。

清隆は、歩が自身の策略に気付き、その全容を正確に推理していても、それでも感情のまま自分を撃ち殺すように仕組んだはずだったが、
歩は全ての残酷な真実を冷静に受け止め、清隆の望みを打ち砕いてみせたのであった。


自身の敗北を悟った清隆は、歩が自分に望む役割を果たすことを告げた。

歩はついに、清隆を乗り越えたのである。




そして、その帰り道、歩は『結崎ひよの』であった女性と出会う。

『彼女』の懺悔をいつものやり取りで受け止める歩。
たとえ『結崎ひよの』が架空の存在であったとしても、歩と『彼女』の間に結ばれた絆は消えていなかった。

しかしだからこそ、歩は『彼女』とも訣別しなければならないと考えていた。
『彼女』がいればそれだけで、悲惨な運命は変わらなくとも、自分が幸せに見えてしまうからという考えからであった。

そんな歩に『彼女』は、『結崎ひよの』が得ていた「望みを叶えてもらう権利」をもって、握手を求める。
歩はその願いを快諾し、お互いに相手の息災を祈る言葉をかけ合った後、その場を後にするのであった。









そして、数年後。
歩は日々悪化する体調にめげず、ピアノに打ち込んでいた。

そんな彼を、懐かしい顔が尋ねる。かつて結崎ひよのであった『彼女』だった。

ブランクがあったとは思えない、いつも通りの会話をした後、歩は『彼女』にピアノを披露する。

それは、ようやく歩が手にすることのできた彼自身の『音』だった…………。






■アニメ版
基本的には設定は同じだが、原作ストックがカノン編完結前だったので、
中盤からチルドレンとハンターの抗争などのオリジナル回で話が進み(カノンとの対決も漫画とは違った形であるが)、
そのまま最終回を迎えた影響で、『神』等の話は出てこない。

かつて天才の兄に初恋の女性と両親の関心をとられたものの、
自分を理解してくれる人間を得た天才の弟で終われたという、歩にとってまだ幸せな展開かもしれない。


■小説版
その巻ごとの小説版ゲストヒロインに絡む形で謎解きをする。
本編よりもややコミカルな歩と漫才じみたひよのとのやり取りを見られるので、本編で歩の境遇に切なくなった読者は一読を勧める。
彼の視点で物語が展開する関係もあり、地の文などで漫画版以上の皮肉っぷりやツッコミに割と失礼で人でなしな彼の思考が楽しめる。
特に2巻の「鋼鉄番長の密室」では番長の王国に対するツッコミを筆頭に全編に渡ってキレッキレである。
そして自覚しないままフラグを建てる鈍感モテ男っぷりを披露する。
その相手はボーイッシュな剣道少女、ツンデレな美少女先輩、お淑やかな令嬢……もうコイツ死ねばいいのに……いや、やっぱ死ぬな。

同じく収録されている、清隆が警部として結婚前のまどかと働いていた頃の話である『小日向くるみの挑戦』では、
後半に清隆に巻き込まれ、丸め込まれる形で清隆に挑戦するヒロイン、小日向くるみの助手に。

小学生にして大人顔負けの家事スキルと、高校生の頃を暗示するかのような子供らしくない可愛げのなさ(協調性のなさ)を発揮している。
その可愛げのなさは初対面にしてくるみに『可愛くない』と判断され、作ったお菓子も『美味いのが腹立つ』と言われるほど。
歩自身の行動が原因ではあるが『絞め殺すぞ』と言われたこともある。

お人好しもこの頃からで、清隆の部下になったばかりでストレスフルなまどかを偶然見かけ、初対面にもかかわらず*3話しかけて愚痴を聞き、清隆について忠告をしたり、
別に個人的な付き合いはなかった、かつての担任教師が切羽詰まった表情でいるのを見かけ、半ば強引に夫婦生活の悩みを相談されてそれに付き合ったりしているが、
一方で、知り合いであっても事件の関係者であるならば「その人が犯人なら」という前提で事件の真相を推理することに(第三者視点では)抵抗感がなかったり*4*5
異常な犯人の動機と動向*6を「状況的に犯人はその人しかいないから」というだけで正確に見抜くなど、清隆同様に悪い意味で常人離れした精神性も垣間見せており、
兄弟と関わることとなったくるみには最終的に「もう鳴海兄弟には関わりたくない」と思われている。

なお、この時期からまどかにはまるで姉のような親愛を向けられており、くるみ曰く『姉弟めいた雰囲気』を醸し出していた。

清隆の無茶振りに辟易しながらも彼に付き合う様子や、
初恋の女性であるまどかが清隆に好意を抱いていく様子を見ていたからであろう切ないモノローグも描かれ、歩が何故清隆を憎みきれなかったのかも理解できる。

また、歩が直接登場しなくとも清隆が歩の様子を言及する場面もあり、
風邪をひいた歩を看病しようとした清隆に『うっとうしいから消えてなくなれ』と言い放った話や、
来て欲しくなかったために授業参観のプリントを隠していたにもかかわらず清隆に来られ、
機嫌を損ねて大喧嘩して食事を作らなくなったなどの話が清隆やまどかの口から語られている。

少なくとも歩は心底清隆をうっとうしがっていたと思われるが、話だけだと割と仲が良い兄弟に思えてくるのが不思議である。

どうでもいいが『小日向くるみの挑戦』で清隆が正真正銘種無し(無精子症)ということが明らかになったので、おそらく歩も同じである。

余談だが、女怪と呼ばれた女傑(令嬢ヒロインの祖母)と天賦の才を感じさせる大富豪の孫娘(小日向くるみ)に、
現在の歩も過去の歩も『只者ではない』という評価をされており、歩の自己評価の低さと清隆の天才振りを実感できる。


■スパイラル・アライヴ
基本的に出番なし。最後に清隆が失踪して原作1話のやりとりをする。








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最終更新:2024年03月06日 19:22

*1 ちなみに、実際にはブレード・チルドレンを集める目的で創設された学校で、幼少期から人並み以上の才能を持つ者が多いチルドレンが自ずと集まってくるように、トップクラスの学習環境を整えている。清隆の目的を考慮すると、歩が高校入学の際に「家から通いやすい学校」を選ぶと予測して、歩と同居する際に意図的に月臣学園が近いマンションを選んだ可能性もある。

*2 後者は「いくら奥手な自分でも、妙齢の、それも初恋の女性に薄着(入院着)で抱きしめられたら理性を失いかねないぞ(意訳)」と忠告した際に返された言葉で、「度胸」は「女性の弱みにつけ込めること」ではなく「据え膳食わぬは男の恥」的なメンタルの意味合いと推測される。ちなみに歩はこう返されて何も言えなくなり、大人しく抱きしめられるままになっているので、自覚はしっかりあった模様。

*3 一応、以前にまどかの話を清隆から聞いており、兄の性格からしてストレスフルだろうと同情していたところに、まさしく精神が限界に達してそうな女性と出くわし、その女性が「清隆」と口走るのを聞いて「間違いなく兄の部下だろう」と実際に話す前から素性を察してはいた。

*4 例えば、著名な探偵漫画『名探偵コナン』の主人公、江戸川コナンは「もし知り合いが容疑者ならば、その人が犯人でないという証拠を駆けずり回って探す」としており、憧れの人が容疑者となった事件では、その人が犯人ではないかという服部平次の推理に凄まじい反発を見せていた。

*5 この容疑者は、前述したかつての担任教師で寿退職した若い女性、かつ、在職中は歩とそれなりに親しかったという人物で、そんな人を犯人という前提で推理できるばかりか、証拠が出れば彼女が間違いなく逮捕されるであろう推理を警察官・刑事としてのまどかに話し、実際に逮捕されたとまどかに伝えられても「ああ、そうですか」くらいの態度で受け止めたと聞いたくるみは、「コイツ大丈夫か?」と他人事ながら歩の将来を心配していた。

*6 例えるなら「地震に備えて防災グッズを買っておこう」くらいの感覚で、殺す動機がない時から淡々と、しかしかなり時間をかけて準備を整えており、いざ動機が出来たからそれを使って殺したというもので、『常人』であるくるみは「殺す動機が出来たであろうタイミングから考えて、ここまで用意周到に準備を整えるのは不可能であり、犯人はこの人しかいないが有り得ない」と結論付け、「明らかに殺人事件なのに犯人がいない」という袋小路に入ってしまった。