魍魎の匣(小説)

登録日:2011/05/03(火) 07:56:59
更新日:2023/02/06 Mon 23:15:53
所要時間:約 8 分で読めます




匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。





●魍魎

魍魎……。
形三歳の小児の如し、色は赤黒し、目赤く、耳長く、髪うるはし。
このんで亡者の肝を食ふと云。




魍魎(もうりょう)(はこ)


京極夏彦の小説作品。
処女作『姑獲鳥の夏』に次いで発表された「妖怪シリーズ」の二作目。
作者がプロ作家として世に送り出した初めての作品であり、新本格派の登場により俄かに活気づいていた本邦ミステリー小説と云うジャンルの中で、
既存のミステリーの枠に嵌まらない作品として賛否を集めた『姑獲鳥の夏』に対して、ズバリ「推理小説」と銘打たれて刊行された。
95年に「講談社ノベルズ」から発売、現在は文庫版も存在する。
また、映画化に併せてアニメ化やコミカライズもされているが、本項目では原典の紹介のみに止める。
また、そのメディア展開の広さに反してシリーズ中でも特に“昏い”内容の作品でもある。


なお『長門有希の100冊』に選ばれている。


【概要】

……昭和二十七年秋。
「雑司ヶ谷」の事件から約一月後……。
帰宅途中の木場修太郎は、少女……柚木加菜子の人身事故に遭遇する。
明瞭としない、現場関係者、錯綜する情報……。
朦朧とした状況の中で立ち顕れる運命の女。
……そして、木場もまた山中の「箱」に導かれる。

木場から遅れて……漸く痛手から立ち直りつつあった関口巽は自作の短編集発行の話題の席上で新進の幻想作家・久保竣公との邂逅を果たす。
更に、知己のカストリ雑誌の編集者・鳥口守彦に乗せられ「連続バラバラ殺人」の調査に巻き込まれるのだった。

……全編に渡り繰り返される「箱」そして「魍魎」と云うモチーフに沿って語られる「連続バラバラ殺人」「柚木加菜子誘拐事件」「穢れ封じ御筥様」の話題。
奇妙な符合を以て突き付けられる事件と、心に秘密を抱えた登場人物達の言動が、事件を更に複雑な物にして行く……。


●火車



【関連人物】


  • 柚木加菜子
CV:戸松遥
波欺猫の様な顔立ちに鈴の様な声を持つ美少女。
ある夜、彼女が線路に転落し列車に轢かれる事から物語は始まる。
……更に生死の淵を彷徨っていた筈の彼女は忽然と姿を消すが……。
本作ではボクっ娘だが、真実の彼女には短編「小袖の手」で出遭える。

  • 柚木陽子
CV:久川綾
「加菜子を―死なせはしません」
元女優・美波絹子
加菜子の姉。
加菜子の生存の為に彼女を「箱」館へと移送させる。

  • 雨宮典匡
CV:檜山修之
加奈子と陽子の同居人。

  • 増岡則之
CV:三木眞一郎
弁護士。
“さる筋”から依頼された代理人。

  • 楠本頼子
CV:高橋美佳子
「母さんの莫迦」
加菜子の友人。
事故の間際にも側に居た。
後に加菜子が「黒手袋の男に突き落とされた」事に思い至る。

  • 楠本君枝
CV:津田匠子
「出て行け! もうりょう!」
頼子の母。
美しい女性だったが、生活に疲れ陰りがみえており、頼子から疎まれている。

  • 寺田兵衛
CV:チョー
「穢れ封じ御筥様(おんばこさま)」を名乗る「魍魎祓い」の霊能者。
……以前は腕の良い「箱」職人だった。

  • 福本
CV:うえだゆうじ
「※※ちゃんは嫌われてたんだ」
駅前派出所の警官。
加菜子の人身事故に立ち会う。


  • 石井寛爾
CV:宇垣秀成
神奈川県警察本部の刑事。
階級は警部。
役人然とした人物で、現場での指導能力は皆無。
蒙古系の顔立ち。
加菜子の警護の指揮を採っていたが……目前で何者かに攫われてしまう。

  • 久保竣公
CV:古谷徹
『蒐集者の庭』にて文壇デビューを果たした新進作家。
年齢は二十代前半。
相手の言動を遮る様な喋り方をする。
黒い服に、真夏でも薄手の白い手袋を嵌めている。
作中作『匣の中の娘』は彼の筆に依る物。
百鬼夜行 陰』では、ある人物を間接的に人を喰らう鬼に変えてしまい、
ルー=ガルー 忌避すべき狼』の世界の人達に多大な迷惑をかけた。

  • 須崎太郎
CV:成田剣
美馬坂の助手。
頭でっかちの子供を一回り大きくした様な見た目の男。
「加菜子誘拐(消失)事件」の最中に殺害される。

  • 美馬坂幸四郎
CV:田中正彦
「箱」館〓「美馬坂近代医学研究所」の所長。
「蜥蜴の様な男」と形容される。
本作の最重要人物だが、詳しい人物像、情報が開示されるのは最後の最後である。
「不死」の研究をしていた天才的医学者で元々は免疫、酵素の研究者であった。
現在では、ある事情からその名はタブーと化している。
京極堂こと中禅寺秋彦とは戦時中に関係があり、その過去から中禅寺は終盤まで彼について口を噤んでいた。
加菜子を“生かそう”とする。



【主要登場人物】


  • 鳥口守彦
CV:浪川大輔
「おや、また三鷹ですね」
カストリ雑誌「實録犯罪」の若手編集者。
少々目の間隔が詰まっている事を除けばなかなかのイケメンらしい。
体力自慢の若者で年齢は二十代半ば。
どんな食べ物でも「がつがつ」と食べるのを信条としている。
彼の間違った「諺」や「故事」は定番のネタの一つ。
ボケを気取るがなかなかに聡明な人物。

  • 青木文蔵
CV:諏訪部順一
木場の部下の小芥子みたいな顔をした特攻崩れの若い刑事。
二十代後半に差し掛かったばかり。
東北出身。
「暴走」により謹慎を食らった四角い(尊敬する)先輩に代わり奮闘する。
本作の開始時点では関口らを「怪しい仲間」と呼んでいたのだが、鳥口同様に以降は彼らの下僕と化す。

  • 木下
CV:石川和之
青木同様、木場の部下。
短編『毛倡妓』に今回の事件も載っている。

  • 中禅寺敦子
CV:桑島法子
「稀譚月報」の記者。
「黒い服に白手袋の幽霊」の「噂」を追う。

  • 中禅寺千鶴子
CV:皆口裕子
坂マニアの京極堂の妻君。
一見西洋人風に見える顔立ちの和装美人。
京都の菓子司の娘で、元々「京極堂」とは彼女の実家の屋号だった。
預けられていた敦子とは姉妹同然に育つ。

  • 里村紘市
CV:青山穣
「駄目駄目。縫ったってすぐ切っちゃうの。僕は」
外科医。
警察に“一応”依頼されているが、監察医を趣味でやっている解剖マニア。
登場は前作からだが、かなり奇矯な人物で、「怪しい仲間達」とは古くからの馴染み。

  • 伊佐間一成
CV:浜田賢二
「真っ黒い干物みたいなのが入っていた」
釣り堀屋。
通称「いさまや」
今作のラストに登場する次回の主要人物。
次回の主要人物が唐突にラストに登場するのもシリーズのお約束の一つ。

CV:関貴昭
「悪党、御用じゃ」
東京都警視庁刑事。
深夜の帰宅途中に加菜子の人身事故に遭遇……。
そして、成り行きの中で美波絹子(陽子)に出会う。
実態の無い澱んだ空気の中で、彼女の為に戦う事を決意するが……。
今回の事実上の主役。

CV:木内秀信
「捻くれた奴だ。ならば、一番幸福から遠いのは君だ。そして、私だ」
小説家。
今回の通称は関、猿、御亀様。
「雑司ヶ谷」の事件を題材に描いた『目眩』が高い評価を受け、初の単行本出版の運びとなる。
そして、鳥口に引き摺り込まれる様にまたも複雑な事件に関わる事になるが……。
終始迷いっ放しの語り部。


CV:森川智之
「これ、僕の」
探偵。
今回はシリーズでも珍しく、自身の能力や家族についての心情を吐露する場面がある……が、
顔見せ程度の登場だった前作とは違い、後半からの登場にも関わらずの本領発揮。
“さる”筋から加菜子の消息を依頼されるが……。

CV:平田広明
「嘘なものですか。この僕が云うのです」
古本屋の主人。
神主。
憑物落としの陰陽師。
通称は「京極堂」
どうでも良い様な古今東西の知識と戦中からの因縁。
「魍魎」の考察から事件の全容を導き出す。
……彼をして「魍魎」は正体が解らぬから厄介らしい……。

●方相氏





【余談】

前作『姑獲鳥の夏』がタイトルの内「うぶめ」と云うモチーフをのみ繰り返していたのに対し、
本作では『魍魎の匣』と云うタイトルの内「魍魎」と「匣」と云うモチーフがしつこい迄に繰り返されている。
この手法は以降のシリーズにも引き継がれており、主要登場人物の役割分担と共に、
シリーズとしてのスタイルが本作により完成されたとも云える。






※以下、若干のネタバレ。






殺すつもりなどなかったのだ。ただ、匣に入れたかっただけだ。



匣の中に充満しているのは訳の解らない魍魎なのだ。



だから、私の実体は私でなくて匣の方なんだ。



私は、魍魎の匣だ。







追記、修正する輩は『科学の再婚』の成就を願いつつお願いします。










































「ほう」

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最終更新:2023年02月06日 23:15