マタンゴ

登録日:2011/06/04 Sat 22:17:21
更新日:2024/03/28 Thu 18:17:28
所要時間:約 6 分で読めます





“あほうどり号”へようこそ。
お疲れのようだね。よかったらこのキノコでも食べてくれたまえ。

どうだい? 美味しいだろう?
ん、気になるかね、このキノコ?
このキノコはね……。










「マタンゴ」


吸血の魔手で人間を襲う“第三の生物”マタンゴの恐怖!



1963年8月11日公開
上映時間 89分
同時上映 『ハワイの若大将』


原作 福島正美



【概要】

本作はSFであり、特撮であり、ホラーである。
最初の明るい船出からは想像もつかない無人島の不気味さや恐怖演出、人間の汚い部分をこれでもかというほど見せつけるリアルなストーリーが魅力の異色作。
ウィリアム・ホープ・ホジスンの『夜の声』を下敷きに「映画のための」原作小説が書かれた。
福島氏と連名で星新一氏の名前も原案者としてクレジットされているが、あくまで名前を借りただけも同然らしい。

見たい人はしばらくキノコと、きのこの山が食えなくなる覚悟でどうぞ。


【ストーリー】

謎の島から生還したという男、村井が語ったのは、不気味で信じがたい話であった……。

太平洋ヨット旅行に出た7人の若者達だったが、突然の嵐で謎の無人島に漂着してしまう。
生き残るために食料と脱出方法を探す7人は、ボロボロの難破船を発見。飢餓と猜疑心に理性を狂わされる中、彼らが見たものとは――


【登場人物】

◆村井研二(演:久保明)
城南大学心理学研究室助手。行動力と正義感を併せ持つ好青年だが……。

◆関口麻実(演:水野久美)
歌手で笠井の愛人。そしてビッチ。なんかエロイ。

◆相馬明子(演:八代美紀)
村井の恋人。麻実とは逆に清楚なイメージ。

◆笠井雅文(演:土屋嘉男)
若社長。元凶といえなくもないが、ある意味一番可哀想な人。

◆小山仙造(演:佐原健二)
臨時雇いの漁師の息子。途中で金の亡者に。「無人島で金持ってどうする?」と言いたいが、帰る気満々なポジティブさは評価に値する……のかな?
佐原氏は役作りのために自分の歯を折ったとか。
ちなみにこのエピソードには「撮影中に差し歯を紛失。結局クランクアップしても見つからず作り直し」というオチがある。

◆吉田悦朗(演:太刀川寛)
推理作家。だけどリアルでの推理力はない。〆切がない世界は楽しくないご様子で狂気に陥る事に。
小説を「過去の小説コピペを合わせただけのもの」とほざく、作家の風上にもおけないヤツ。

◆作田直之(演:小泉博)
笠井の部下でヨット“あほうどり号”の船長。やたらとリーダー面するが、最後は……。






以下ネタバレ



◆Matango
南海で発見されたキノコ。某国が行った核実験の放射能で、成分が突然変異を起こしたものが繁殖したとされている。
麻薬のような神経を麻痺させる物質が含まれているらしく、食べると幸せな気分になったり幻覚を見たりする。
食べると、男性の場合は顔の形が崩れ、女は色っぽくなる等過程は違えど、結局は……。








◆マタンゴ怪人(演:天本英世)
本作最初のトラウマ
人間とマタンゴとの中間形態である。演者の方は『仮面ライダー』の死神博士を始め日本の特撮界隈ではお馴染みの俳優さん。
なんかイボイボな気持ち悪い外見をしてるが服は着てる。
キノコを食べた難破船の船員の成れの果てで、この段階では人語は発せなくなるが、自我は残ってるらしく、自分の顔を見たくないとかで船内のを割って森で現実逃避してた模様。
村井達が流れ着いたのを知り、「仲間になれ」と拐いに来る寂しん坊。でも口には出さない。素直じゃないなぁ。




そして更に……、








第三の生物《マタンゴ》
マタンゴ人間から第二の変態を遂げ、完全にキノコ化した人間。こうなってしまえば自我は消え失せ、完全に怪物として生きる羽目になる。
どことなく原爆のキノコ雲にも見える。とても気味悪い笑い声をあげる。上の画像の奴以外にも、しめじっぽい奴もいる。

雨期になると増殖するらしい……うぇ。

こいつらも執拗にキノコを食わせて仲間にしようとしてくる。
こいつらに囲まれるシーンは本作のトラウマの一つ。

後にマタンゴの笑い声に加工を施したものが、円谷プロダクションによってケムール人バルタン星人の音声に使われることになるが、
両者の登場作品、特にバルタン星人の登場する空想特撮ドラマ『ウルトラマン』が有名になってしまったこともあり、
オリジナルのマタンゴの笑い声よりも加工済みのバルタン星人の声の方が聞き覚えがあるという人がかなりいる。
何だか少し悔しい。


【結末】

※以下ステルス。見たい人は自己責任で。

キノコを食べると「マタンゴ」になってしまうと知った一行。しかし、食料は少なく、その僅かな食料も奪い合い殺し合いにまで発展する。


そして、ある者は自ら命を絶ち、ある者は食欲に負け、「マタンゴ」を食べ……。

そして村井は「マタンゴ」達や「マタンゴ」を食べてしまった仲間達に囲まれ……。

……とある精神病院。

村井の話は医師達には信じがたいものであったが、信じざるを得なかった。

何故なら村井の顔が少しずつ「マタンゴ」化していたのだ………!

……ラストシーンは60年代当時の活気に満ち溢れる東京の風景で、マタンゴ化していく村井の心情と世間の差を示しており、恐怖を鮮烈に印象づけるものとなっている。



【余談】

名前の由来は実在するキノコの一種「ママタンゴ」(標準和名は「ツチグリ」)。東北地方の一部の地域や東南アジアで食べられているものだとか。

ロケ地は大島である。みんなノリノリだったらしく、撮影が終わると麻雀したりお酒飲んだり踊ったりしたとか。
ただ、撮影自体はマムシやムカデ、各種害虫のせいで非常に大変で、笹井を演じた土屋氏によると霧の演出のためにスモークを焚いたらそれにやられた大量の虫が樹上から降ってきて大騒ぎになったという。

劇中で食べられたキノコは米粉を使ったお菓子である。風月堂による蒸したてが毎度撮影所に送られた。
そのままでは味気ないからと笠井役の土屋氏の提案で砂糖を加えたところ、美味しくなったのて好評だったらしい。
スタッフも撮影中につまみ食いを繰り返すなどしていた。かなりの数が食い荒らされたが元々数が多かったせいか撮影の支障にはならなかった模様。

麻実役の水野氏は後に孫に「怪獣大戦争」と一緒に見せたらしい。曰く「『この人おばあちゃんよ』って見せると懐かしく感じて……」

映画の宣伝などではマタンゴが吸血怪物であるかのような文言も見られるが、実際の映画中にそのような描写はない。

ある意味必然と言うべきか、B級ホラー映画フリークだった若き日の大槻ケンヂにも衝撃を与え、同タイトルの楽曲があったりする。
彼はその後も色々とキノコと縁のある人生を送っているだけに、何とも言えない。

『マタンゴというキノコは人に寄生いたします
あまねく全ての人がお庭にキノコを植えたら
キノコ人間になってしまった君の家のタマミちゃんが
目立たなくなるからいいねぇ
おめかしをして ドレスを着せて
パーティーにも連れて行けるからいいねえ
いくら頭が良くたって かわいくたって
キノコ人間じゃねぇ……』




ちなみに同時上映の『ハワイの若大将』は加山雄三主演のヨットレースの映画である。それと一緒にヨットが遭難する話を流した東宝……どこかおかしい。

本作「マタンゴ」は現在の60代以上の人々(公開時に10代以上だった世代)にキノコへの強烈なトラウマを植え付けた映画として名高く、
人によっては、同時上映の『ハワイの若大将』を忘却の彼方へ追いやるほどだったとされ、
その後もキノコ人間が話題に上がると、本作が引き合いに出されるほどの鮮烈な影響を持って語られる「伝説」と化している。


【小説媒体】

前述の通り、本作の原案となったのはウィリアム・ホープ・ホジスンの短編小説『夜の声』。
ホジスン氏の短編集、または怪奇小説のアンソロジー問わず、定期的に収録もしくは復刊されてるので、触れる事はそこまで難しくないだろう。

また、本作の50年後を舞台にした東宝公認の続編がオリジナル小説として刊行されている。
その名も『マタンゴ 最後の逆襲』。いかにも東宝特撮映画を意識したタイトルだろう。
作者はホラー・ミステリー作家の故・吉村達也氏。吉村氏は子供の頃この映画がかなりのトラウマになっていたとか。
マタンゴがバイオテロに利用されるという荒唐無稽な筋ではあるが、某登場人物のその後や本作のオマージュもふんだんに盛り込まれ、ファンには必読の小説である。


【玩具展開】

このように、強烈なホラーテイストなキャラクターだが、少数ながら玩具展開が行われている。

かつて、玩具メーカー『ブルマァク』が展開していた玩具に、『三輪車シリーズ』というものがあった。
ウルトラマンやゴジラ等のヒーローや怪獣が、三輪車に乗っているフィギュアで、ネジをまいて走らせて遊ぶ玩具である。

そして、その中になぜかマタンゴがラインナップされている。
玩具はもちろん、パッケージの妙にリアルな、三輪車に乗るマタンゴはシュールそのもの。

『一体、どの年齢層を狙ったのか?』『なぜマタンゴが選ばれたのか?』
全ては謎のままである。
もしかすると、製作者もまた、マタンゴだったのかもしれない。











とは書いたが、実はこれ後年ファンが製作したネタ商品
当時の玩具を再現したパケ絵、着色に騙された方も多い……筈。

とまあどう考えても子供向けとは言いがたいが、2016年発売のTCGバトルスピリッツのコラボブースター『怪獣王ノ咆哮』にシン・ゴジラを筆頭とする怪獣達に混じって緑のカードとして収録されている。
元々購入する年齢層がやたら高いと評判のコラボブースターだったが、まさかこんな奴まで参戦するとはと映画を知るファンを驚かせた。
ちなみにそれよりも前の2010年には「マタンゴル」という明らかにマタンゴなカードも登場している。
どちらも緑の系統:樹魔、バニラのスピリットだが、マタンゴルの方がやや重量級。サポートは共有できなくも無いので、同じデッキに入れてみるのも一興か。

2021年9月にはプレミアムバンダイ限定で「東宝マニアックス」のレーベル第1弾商品としてマタンゴのソフビが受注販売された(翌年3月発送)。


【「マタンゴ」を元にしたキャラ】


マタンゴ(ドラゴンクエストシリーズ)
マージマタンゴ(同上)
ゲゼマタンゴ(SDガンダム外伝2 円卓の騎士)
股子島(パワプロクンポケット
マタンゴ(ライブアライブ近未来編
マタンゴ(スーパーボンバーマン3
マタンゴ王国(聖剣伝説2

M25マタンゴ星人(ぱにぽに)

股んGO!くん(南国少年パプワくん)

マタンゴ、マッドハッター(魔物娘図鑑

マタンゴ娘シジメ(モンスター娘TD)

ママタンゴ(ケロロ軍曹)……もじったら元ネタに戻ってしまった。
※ 他に心当たりあるかた追記お願いします。



……とまぁこんなところかな。
え? あぁこのキノコももちろん「マタンゴ」だよ。
私もさっき食べたばかりでね、お裾分けというやつだ。


なぁに心配はいらない。直にいい気持ちになる。しばらくしたら君も私も……。










キノコを食べながら追記・修正よろしくお願いし……。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • マタンゴ
  • キノコ
  • トラウマ
  • 東宝
  • 特撮
  • SF
  • ホラー
  • 映画
  • 小説
  • 衝撃のラスト
  • 東宝特撮映画
  • 誰得三輪車
  • 新種
  • バルタン星人
  • 天本英世
  • 夜の声
  • ウィリアム・ホープ・ホジスン
  • 最後の逆襲
  • 吉村達也
  • 植物怪獣
  • 沙耶の唄
  • リア充鑑賞推奨映画
  • 無人島
  • 漂流
  • みんなのトラウマ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年03月28日 18:17