独立捜索剣虎兵第十一大隊

登録日:2011/12/23(金) 01:55:08
更新日:2023/06/22 Thu 21:43:12
所要時間:約 13 分で読めます





よろしくないわけでもあるのか、曹長?

命令はでている。

僕等は剣虎兵なのだ。

断然攻撃あるのみだ。

粉砕してやる。



佐藤大輔・著の仮想戦記小説『皇国の守護者』に登場する戦闘部隊。
作中の小さな島国 <皇国>軍に存在する組織で、主人公の新城直衛は当初ここに所属している。
新城と共に、この部隊は<北領紛争>という地獄を戦い抜いてゆくこととなる。
元ネタは士魂部隊で有名な帝国陸軍の戦車第十一連隊及び陸上自衛隊の第11戦車大隊(※2019年に第11戦車隊へ縮小改編)だと思われる。



初めにあらすじの解説を。


【北領紛争とは?】

<皇国>内地とは海を隔てた北の大島『北領(ほくれい)』を舞台にした<皇国本土決戦>の緒戦。
皇紀568年1月14日の<帝国>軍来襲から同年2月24日の<皇国>陸軍独立捜索剣虎兵第11大隊予備隊降伏までの期間を指す。
ストーリーの幕開けを兼ねた最初の山場でもある。


<帝国>の来寇には事前の通告が無く、<皇国>側は満足な準備期間を取れなかった。
具体的には、平時における軍政機構『北領鎮台』を戦時編成である『北領軍』に改編する事が出来なかったのである。
それでも北領鎮台は集成第一兵団の編合により兵力は約30,000と、<帝国>東方辺境領軍の約22,000を上回っていた。
鎮台司令長官にして、五将家のひとつである都南公爵家『守原家』出身の陸軍大将・守原英康は勝利に自信を持っていた。


だが、初戦であり両軍が全力を結集した決戦でもある『天狼会戦』で鎮台はあっさり惨敗。
しかも旗色が悪いと悟るや英康自身はさっさと逃げ出し、残存兵のほとんども英康に続いて撤退、主邑の北府も喪失する有様だった。
増援の到着により約40,000に膨れ上がった<帝国>東方辺境領軍に対して、再編後の北領鎮台は約18,000で兵力差が逆転。
装備や士気といった戦力倍増要素も勘案した実質的な戦力比は6:1まで開き、この時点で北領の陥落は確定してしまう。


当然ながら鎮台が北領から脱出するには船を使わねばならない。
しかし、事前に<帝国>に買収されていた港湾都市・美名津の市長は船渠の使用を拒否。
作中世界の大原則<大協約(グラン・コード)>の市邑保護条項によって、鎮台が協力を強制する事は不可能である。
脱出は大幅に遅れ、そしてこのままではそれが叶う前に<帝国>軍に追いつかれるのは確実だった。


頼りとなるのは、予備に指定されていて天狼会戦後も無事だった『独立捜索剣虎兵第11大隊』。
彼らは万の味方を救う為の捨石として、決死の殿軍を務めねばならなくなった――。




以下、本題。


【独立捜索剣虎兵第11大隊】

本編開始の2年前に編成された、<皇国>軍史上初となる剣牙虎(サーベルタイガー)と共に戦う部隊。
猛獣を伴う都合上、<皇国>軍従来のカッチリした隊列戦術ではなく突撃戦・乱戦で最も戦力を発揮する性質を持つ。
しかしその野蛮さは他の兵科から嫌われ、また未だ実戦での有用性が確認されていなかった為に天狼会戦では後方の予備戦力に回されていた。
そのおかげで会戦での惨敗後も大隊の被害は軽微(会戦直後での残存兵力は47名減の827名、剣牙虎は約15頭減の85頭)で済む。
……が、鎮台主力の南下に遅れてしまった不幸も重なり、一足先に逃げた味方を逃がすための時間稼ぎ役を強いられてしまう。
迎え撃つべき敵は数万。大隊の全滅はほぼ確実である。


新城は第2中隊の本部分隊に配属された兵站将校(正式な役職は中隊兵站幕僚)。
当初は大した指揮権を持たないが……。




【部隊構成など】

独立捜索剣虎兵第11大隊(定数:人員874名/剣牙虎約100頭)
┣大隊本部(本部小隊)
┣第1中隊(捜索剣虎兵中隊)
┃├中隊本部
┃├捜索剣虎兵小隊(4個分隊基幹)
┃├捜索剣虎兵小隊(4個分隊基幹)
┃├中隊尖兵小隊
┃├中隊騎兵砲分隊
┃├中隊導術分隊
┃├中隊短銃工兵分隊
┃└中隊療兵分隊
┣第2中隊(編制内容は第1中隊と同一)
┣第3中隊(鉄虎兵中隊)
┃├中隊本部
┃├鉄虎兵小隊(4個分隊基幹)
┃├鉄虎兵小隊(4個分隊基幹)
┃├鉄虎兵小隊(4個分隊基幹)
┃├中隊導術分隊
┃└中隊療兵分隊
┣大隊鋭兵中隊
┣大隊騎兵砲小隊
┣大隊短銃工兵小隊
┣大隊導術小隊
┣大隊輜重中隊(段列)
┣大隊療兵小隊
┗大隊給食小隊



大隊は大きく3つのナンバー中隊+αの人員に分かれ、それらを伊藤少佐率いる大隊本部が取り纏めている。
<皇国>では異例の三兵編成(本来は歩兵・騎兵・砲兵の組み合わせだが、本作では諸兵科連合部隊(コンバインド・アームズ)という意味を持たせてる)で、
未だ実験部隊扱い故、各中隊は思いついた戦術を即座に試せる、つまり独力で戦闘を行える構成になっているのが特徴。


RPGっぽく言うと、

  • 通常の部隊
→戦士だけ、魔法使いだけ……といった職業別に纏められ、軍として動く際に初めて他の部隊と協力しあう
=部隊単独では相性の悪い敵に対応不可

  • 11大隊を構成する中隊
→初めからバランス良くパーティーを編成済
=どのような敵にも対応可能

と、このようなイメージ。


ただし多くの馬が剣牙虎を恐がるので、通常の部隊には居るはずの騎兵が居ない。
もっとも騎兵は叛乱対策で五将家に独占された状態であり、元より配備される可能性は低かったと思われるが。
よって一般的な歩兵である銃兵、剣牙虎と共に戦う剣牙兵、騎兵砲を持つ砲兵が主戦力となる。




【人物紹介】

小説版では新城以外の描写は控えめだが、漫画版ではそうした人物にもキャラ付けがされている。
1990年代の野球ファンはお察しだろうが、姓名の元ネタは球界関係者だったりする。

以下、ネタバレを含む。










《大隊本部》

○伊藤少佐
開戦時の大隊長。
騎兵出身だったが他の部隊から左遷される形で第一一大隊に回され、世の全てを恨んでいると噂されている人物。
しかし本人の能力は決して低くなく、戦場では自ら前線に出ることを厭わない実戦派でもある。
そうした雄姿は新城をして噂から来ていた認識を改めさせた……が、その直後に戦死。
漫画版の追加要素として、よりによって騎兵であるバルクホルン大尉に討たれるという皮肉な最期が演出されている。
なお、新城の事は嫌いつつもその能力は高く評価していた。


《第二中隊》

新城直衛
主人公。本人の詳細は項目にて。
若菜が自滅したのち、中隊長を引き継ぐ。
その後、敵を強襲する大夜戦にて伊藤少佐を含む自分以上の将校が全滅。
大隊指揮を代行する羽目に。また、この直後に大尉へ野戦昇進する。


○猪口
新城の右腕となる曹長。
作品項目、または新城の項目を参照のこと。


○千早
幼い頃より新城が世話してきた雌の剣牙虎。
作品項目、または新城の項目を参照のこと。


○若菜大尉
第二中隊長。新城よりやや若く、実戦は北領でのこれが初。
将家生まれというだけで大尉となったことに加え、軍人としての能力も低いため部下からの信頼は皆無。
天狼会戦後はなんとか頑張ろうとするが、やはり判断を誤ってばかり。
その果てに勝手に死地に赴くも、新城には“真面目な馬鹿”は無駄に味方を死なせるとして見捨てられる。
漫画版では、得点稼ぎで致命傷を負った北領鎮台司令官の副官を救助しようとして撤退に手間取り、西田小隊を捨て駒にする無能振りを晒した。


○西田少尉
士官学校時代からの新城の一つ年下の後輩。
大隊では猪口と並んで新城が親しくする数少ない好人物だったが、
漫画版では若菜の失敗を尻拭いさせられる形で敵の足止め役にされ、奮戦むなしく戦死する。
死の直前には、気まぐれで最前線まで出向いていた敵の総指揮官・ユーリアの眼前まで迫っていた。
一方、小説版では伊藤少佐も死ぬ夜戦の中で地味な最期を遂げる。
それはそれで戦争の無情さを示している。


○漆原少尉
素直な好青年という印象の若い少尉。
当初こそ新城の差配に信頼と好感を持っていたが、<帝国>軍による北領各地の食料調達(=現地略奪)阻止の為、
<帝国>軍が辿り着く前に進路上の村々を焼く」、という非情な作戦に従わされて以降はその全てを真逆の物としていく。
焦土作戦時は第一一大隊の予備隊となる集成第三中隊へ配属されていたが、偽装襲撃で少女を誤射した心的外傷によって将校としての役割を放棄してしまう。
しかし戦況がいよいよ逼迫してきた頃になると色々と吹っ切れ、ちょっとした諧謔味を帯びた味のある将校へと成長する。
新城は彼の成長を見て「得難いものを得た」と心中で喜ぶが、直後に流れ弾を頭に受けて死亡する。


○兵藤少尉
戦闘では常に最前線に配備される『尖兵小隊』の小隊長。
その配置に相応しく戦闘向きの苛烈な気質を備えるが、仲間に対してはその生死を強く案じる優しさも持っている。
特に、数少ない残存少尉仲間である漆原や妹尾にはその傾向が強かった。
また現実的な思考の持ち主でもあり、漆原が激しい反感を抱いた前述作戦にもその必要性を認識し、新城への一定の理解を示している。
後に集成第一中隊長へ就任し、新城が率いる予備隊の出撃後は第一一大隊主力の代理指揮官に任命される。


○妹尾少尉
新城らとは別の第三中隊にいたが、先述の夜戦でそちらは壊滅、相棒の剣牙虎までも喪う。
彼自身は生き残り、数少ない将校として漆原、兵藤と共に大隊を支える。
前述の作戦に向ける心情は、概ね兵藤と同様。
集成第二中隊長へ就任することになる。


○金森二等導術兵
第二中隊に所属する数名の導術兵の一人で、まだ少年といえる程に若い。
冬場における導術の使用はただでさえ消耗が激しく、若く経験の浅い金森にはその傾向がより顕著になる。
それを押して新城への少年らしい健気な信頼から力を酷使し続けた結果、戦況末期に衰弱死する。
新城は将校として「部下が自分を恨みながら死んでいく」ことには慣れていたが、金森の死はその心に深く突き刺さるものとなった。
漫画版では死に際の金森自身と、その光景を目の当たりにした漆原や兵隊の台詞が追加されており、最期の描写がより際立った。





【その結末】

北領紛争末期、鎮台主力を逃がす為の時間を稼ぎきった新城は<帝国>に降伏、部下共々捕虜となる。
その時の大隊の残存兵力は、人が約20名、剣牙虎が千早を含めた2頭。
上に紹介した名有りの人間は、新城と猪口以外全員が死亡。


生き残った面子は内地への帰還後、近衛衆兵隊(シヴィル・ガーズ)へ転属して新城と共に再び激戦へと舞い戻っていく事となる。
武名だけ残される形となった第11大隊だったが、更なる過酷な運命が待ち受けていた。
守原家へ内通していた駒城家重臣の佐脇俊兼が大隊長に就任し、剣虎兵学校から引き抜かれた教官や助教の下で精強な部隊に再建されたものの、
集成第三軍隷下の龍口湾防衛戦では<帝国>陸軍第1教導戦闘龍兵団(ドラグーン・レーア)の爆撃で数十頭の剣牙虎や四割以上の将校が死傷する大損害を蒙って後退し、
虎城へ展開する駒洲軍に配属された後は、かつて第11大隊予備隊の降伏を受諾した第3東方辺境領胸甲騎兵聯隊(オスト・フッサール)の聯隊長だったカミンスキィ率いる
第21東方辺境領猟兵師団(と<帝国>第801独立平射砲中隊)の冬季攻勢を受けて孤立無援に陥った末に潰滅してしまうのである。
その際の生存者は僅か15名で、生還した剣牙虎は存在しなかった。



追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 皇国の守護者
  • 貧乏くじ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年06月22日 21:43