FINAL FANTASY(映画)

登録日:2010/05/29(土) 11:21:33
更新日:2024/03/04 Mon 13:14:40
所要時間:約 12 分で読めます




『FINAL FANTASY』は、2001年に公開された、ゲーム『ファイナルファンタジー』シリーズの映画化作品。
シリーズの通例としてゲームのナンバリング作品とは一部の名称が共通するだけで、世界設定は共通していない。

シリーズの生みの親である坂口博信が監督として制作を主導し、ハリウッドと手を組んで制作されたフルCG映画。

主題歌はL'Arc~en~Cielの「Spirit dreams inside」。



ストーリー

西暦2065年の地球。
人類は地球に落下した隕石から出現した謎の生命体「ファントム」の侵略により、その数を大きく減らしていた。
あらゆる物質を透過し、その性質から物理攻撃を受け付けず、触れただけで人間から精神体を引き剥がして喰らってしまうファントムに対し、人類は対抗する術を持っていなかった。
生命体から得られる生体エネルギーを凝縮した「オヴォ・エネルギー」がファントムに一定の効果を示すことは判明したものの、それでもファントムを駆逐するには至らず、多くの人類はオヴォ・エネルギーの防壁に囲まれた「バリアシティ」の内側でファントムに怯えながら細々と生きるしかなかった。

そんな中、科学者のシドはファントムを無力化する「融和波動」と、融和波動を生み出す特殊な生命エネルギー「スピリット」を発見。
「8つのスピリットを集めることで融和波動が完成し、ファントムを無力化できる」と発表するが、シドの理論は異端視され広く受け入れられることはなかった。
特に連合軍の将軍・ハインはこれを受け入れず、最終兵器「ゼウス砲」によるファントムの殲滅に執着する。

シドを師と仰ぐ科学者アキ・ロスは単独で地球の各地をめぐりスピリットの収集にあたっていたが、その最中ファントムの襲撃を受けてしまう。
窮地に陥った彼女を助けたのはかつてのアキの恋人であり、対ファントム部隊「ディープ・アイズ」を率いるグレイ・エドワーズであった。
アキはシドの理論を信じディープ・アイズと共にスピリットの回収にあたるが、これを快く思わないハインはアキを秘密裏に監視しながら、評議会で使用を見送られ続けていたゼウス砲の使用許可を得るべく策を巡らせる。

果たしてアキたちは8つのスピリットを集め、融和波動を完成させることができるのか…?

概要

国民的RPG・FFシリーズの初・映画化作品(映像化としては初ではない)。
史上初のフル3DCG映画であり、宣伝においてもCGのリアルさを売りにしていた。
実際、当時としては高水準なCGであり、技術などの面で後世に与えた影響も大きいとの事。
しかし、世間からは悪い意味で名前が知れ渡っている。

制作費は驚きの160億円(1億3700万ドル)。
興行収入は日米合わせて50億円、全世界で100億円と単体で見れば十分以上の数字だが、この尋常でない制作費から考えればかなりの大失敗。
特に日本ではたったの10億円に留まり、『ファイナルファンタジー』の祖国であるこの国で全く評価されないという結果になった。

FFナンバーの売り上げに頼った制作費管理の甘さも相まって、結果的に約59億円(約5190万ドル)の大赤字を出してしまった。
この記録的な大赤字は、あのギネスブックに興行赤字の例(参考記録)として記載されてしまったことでも有名。
※勘違いされやすいが、ギネス世界記録そのものではない。正式なギネス世界記録は、本作の6年前に公開され約1億ドルの大赤字となった『カットスロート・アイランド』である*1

また、先行公開された米国での不評が日本にも公開前に広まってしまったこと、スタジオジブリの「千と千尋の神隠し」と公開時期が被ってしまい、宣伝がそっちにむいてしまったことも思うように制作費を回収できなかった要因とされる。
この大赤字のしわ寄せは大きく、子会社の倒産や当時放映していたアニメ『FF:U ~ファイナルファンタジー:アンリミテッド~』の打ち切り、果ては社長の交代などの甚大な事態を招いた。

登場人物

  • アキ・ロス(吹き替え:戸田恵子)
生体精神波研究センター所属の女性研究員。
科学者シドと共に「ガイア理論」と融和波動に関する実験に携わっており、ファントムを無効化すべく各地をめぐり8つのスピリットを回収していた。
映画開始時には既に5つのスピリットを回収しており、廃墟と化した都市で6つめのスピリット(を宿した植物)を回収すべく行動していたがそこをファントムに襲撃され、それがきっかけでグレイと再会する。
以降はディープ・アイズの護衛のもと残る2つのスピリット回収のために行動するが、彼女の行動が強硬派のハイン将軍の暴走を招いてしまう…。

強気な性格で、シドの理論を信じる自分を曲げず、ファントムを前にしても動じない。
だが、自分を助けてくれたグレイやディープ・アイズに礼の一つも言わないなど強気というよりは自分勝手とも取れる行動も目立つ。
劇中ではオヴォ・パックのマシンガンらしき武器を持っていたが使用することはなく、戦闘は終始ディープ・アイズに任せきり、と主人公というよりはヒロイン的な立ち位置。
かつて実験中の事故でファントムに侵食されたが、研究中だった融和波動の力により体内にファントムを封じ込めて死を免れた。
それと同時に融和波動発生装置を体に組み込んでおり、彼女の存在と体内に封じ込めたファントムは物語のキーとなる。
また体内のファントムが原因で「地球とは別の惑星で、謎の種族が殺し合う夢」を時折見るようになった。アキ自身もそれがファントムの正体に迫るカギと考えており、夢を記録している。

対ファントム戦闘部隊「ディープ・アイズ」の隊長。
冒頭でアキがファントムに襲撃されている所を助け、それをきっかけにアキのスピリット回収に同行する。
かつてのアキの恋人だったが、ファントムを体内に封じたことが原因でアキは一方的に去ってしまった。しかし現在でもアキを想っており、ハインの「アキを監視し、危険な徴候があれば捕縛せよ」という命令もアキを信じて無視するなど人情に厚い。

  • シド博士(吹き替え:小林清志)
生体精神波研究センター所長。
著名な科学者で、彼の発見した生命エネルギー「オヴォ・エネルギー」はファントムに唯一有効打を与えられる手段として広く活用されている。
ファントムを無効化する融和波動とその元となるスピリットの存在、及び「地球も一つの生命であり、命を持っている」という内容の「ガイア理論」を提唱、
強硬派の考えるゼウス砲による攻撃は地球の「生命」を傷つける危険があるとしてゼウス砲の使用に反対しているが、ハインら強硬派からは「物証がない」として支持を得られていない。
既に老齢であることもあって前線に出ることはなく、バリアシティでアキを支援する立場に回る。

  • ハイン将軍(吹き替え:磯部勉)
国際連合軍の将軍。
軍内部でも強い立場にいるようで、「ファントムの武力による殲滅」に拘る。「ファントムの発生源である隕石の落下地点をゼウス砲で砲撃し一挙に殲滅する」というプランを立案・支持するが、評議会からゼウス砲の使用許可が下りないため実行できずにいる。
シドの提唱する融和波動・ガイア理論に関しては全く信じておらず一蹴しており、
それどころか体内にファントムを宿したアキを「ファントムに与する危険分子」とみなし、アキ一行のスピリット回収を妨害する。

かつて妻子をファントムに殺された過去からファントムの殲滅に狂気的な執念を燃やしており、ゼウス砲の使用許可を取り付けるべく「バリアシティのバリアを解き、壊滅させることでファントムの脅威を評議会に認識させ、ゼウス砲の使用許可を得る」という狂気的な計画を実行に移す。

FF3』のボスキャラを思い起こさせる名前だが、あったとしても名前の元ネタ程度の関係しかないだろう。

  • ライアン・ウィタカー(吹き替え:大塚明夫)
  • ニール・フレミング(吹き替え:後藤敦)
  • ジェーン・プラウドフット(吹き替え:唐沢潤)
「ディープ・アイズ」の隊員。
ライアンは黒人で気が優しく、ニールはジョークが好きで機械に強いコメディリリーフ、
ジェーンはディープ・アイズ唯一の女性隊員で女性ながらも男に負けず劣らずタフで強気。
シドやアキが主張する融和波動の存在にはやや懐疑的だが、隊長であるグレイのことは信頼しており、
アキはグレイの命を救った恩人でもあるため、グレイに従いアキのスピリット回収に同行する。

用語

  • ファントム
ある日地球に落下した隕石から出現した謎の生命体。
「あらゆる物体を透過し、物理攻撃を無効化する」「透明で、目視できない」特性を持ち、人間に触れると精神体を人間から引き剥がして殺してしまう。これにより彼らが出現した地域は人間や動植物は勿論、微生物に至るまであらゆる生物が死滅する。
唯一オヴォ・パック由来の攻撃は有効であり、オヴォ・エネルギーの攻撃を受けると身体が黄色いエネルギーを帯び、目視が可能になるとともに、
オヴォ・エネルギーの攻撃をある程度受け付けるようになる。
また人を「侵食」する特性も持っており、侵食された人間は最終的に死に至る。
劇中ではアキとグレイが侵食され、アキは融和波動を使って体内にファントムを封じ込めることで、グレイはアキが早期にファントムを取り除いたことで生存している。
様々な種類が存在しており、劇中では右腕から触手を伸ばした人間サイズのファントム、空を飛ぶ大蛇のようなファントム、無数の触手を背から伸ばした巨大なサソリのようなファントムが登場。

その正体は地球とは別の惑星が持っていた「記憶」から生まれた亡霊。
滅びた惑星の一部が偶然地球に落着し、そこから惑星に住んでいた生物たちの怒りや苦しみが亡霊となって実体化したもの。
彼らはその苦しみを他の生物の精神波を受けることで中和しようとしていた。人類に攻撃してきたのは苦しみから逃れるためであり、ハインが主張するような「侵略」ではなかった。

  • ガイア(ガイア理論)
シド博士が提唱する「星も一つの生命であり、『命』を持つ」という理論。いわば星の「魂」のようなもの。
シドはゼウス砲による攻撃が地球のガイアを傷つけるとしてゼウス砲の使用に反対していた。
ちなみに「ガイア理論」自体は実在する理論で「地球を一つの生命体に見立てる」という内容も合っているが、本作のようなスピリチュアルな意味合いはそれほど強くない。

  • 融和波動
  • スピリット
ファントムの持つエネルギーのパターンと正反対の波形を持つ生体精神波を人工的に作り出し、これをぶつけてファントムを中和・無力化しようというシドの提唱する理論。
以前からシドが研究を進めており、物語開始以前にアキに侵食したファントムを不完全な融和波動で封じ込めている。
ハインは「馬鹿げている」としてこれを一蹴しているが、アキはこれをファントムを無力化する手段と信じ、
その融和波動の元となる8つの生命エネルギー「スピリット」と、それを宿した生物を探し求めていた。
スピリットが宿る条件は全く不明で、アキ自身や魚・植物、エネルギーでしかないオヴォ・パックやファントムにも宿っていた。

  • オヴォ・パック(オヴォ・エネルギー)
シド博士が発見した、特殊な生命エネルギー、及びエネルギーを詰めたパックのこと。
唯一ファントムに有効な攻撃手段であり、オヴォ・エネルギー由来の攻撃はファントムに有効打を与えることができる。
劇中では機械の動力源、武器のエネルギー、医療用のレーザーやバリアシティの防御壁と様々なものに使用されている。

  • ゼウス砲
衛星軌道上に存在する対ファントム用の最終兵器。大量のオヴォ・パックのエネルギーを最大まで圧縮したレーザーを衛星軌道上から発射し、広範囲のファントムを一掃できる。
しかし、その強力さから使用には評議会の許可が必要。


その後と余談

スクウェア(現スクウェア・エニックス)側でも、その後公式で本作が触れられることは殆どない。
この結果を受けて、スクウェアは映像事業からの撤退を表明。
当然、後の『ディシディア』『シアトリズム』などのオールスター作品やアプリゲームにも出演できなかった。

しかし、「FFシリーズの映像展開」は程なくして再開され、2005年には『FF7』の続編である『アドベントチルドレン』をDVDで発売、こちらは大ヒットを飛ばしている。
そして2016年に発売された『FINAL FANTASY XV』も、発売に先駆け本編の前日譚となるCG映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』が公開されている。
こちらも鑑賞したファンからの評価は悪くなく、おおむね好評である模様。

よく、時期が近いこともあって「本作の赤字がエニックスと合併するきっかけになった」「実質的にはエニックス側の吸収合併」
と言われることがあるが、SCEが資本参加した事で乗り切っており、そもそも本作の負債は『FF10』のトリプルミリオンや『キングダムハーツ』の売り上げで回収されており、根拠のない風説である*1

英語版には「The Spirits Within」*2というサブタイトルが付いており、
後に『FF11』に「スピリッツウィズイン」なるスキルが登場している。ネタにされることの少ない本作の数少ない外部出演(?)である。

キャラクターデザインは「ストリートファイターII MOVIE」「新機動戦記ガンダムW」で名を広めつつあった村瀬修功氏が担当した。
参加の経緯はスクウェア側が「プリプロ用に手描きの設定表を作って欲しい」と村瀬氏に依頼したのが発端。
あの、それって「セルアニメで制作する案もあった」ってことですよね…?
その後本作が縁となり村瀬氏が「FINAL FANTASY Ⅸ」に参加するきっかけとなった。

映画公開と同時期にノベライズ版が発売されている。
著者は『スタートレック』のノベライズ等も手掛けた実績を持つディーン・ウエスレー・スミス。
ノベライズ版は、映画の方で説明不足で描ききれなかった世界観および事件の詳しい経緯や、
主人公・アキの葛藤などの内面描写、彼女を取り巻く周りの人物達の行動などが丁寧かつ詳細に補完されている。
「映画の内容は全く分からなかったが、小説を読んで初めてストーリーの内容が理解できた」という声もあり、
2時間弱という制約のある映画でこの複雑なストーリーを全て詰め込もうとするのはいささか駆け足過ぎたのかもしれない。


追記・修正は投げ出さずに映画を見てからお願いします。

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最終更新:2024年03月04日 13:14

*1 正確には傘下のデジキューブの不振とエニックスの出版部門にあったし、エニックス側もIPの薄さと出版部門におけるいざこざが問題だった(詳しくは当該項目参照)し現に合併の際は比率でモメた程である。

*2 坂口氏曰く「邦訳するとすれば『内なる魂』」。