悪魔くん

登録日:2012/01/25 Wed 20:59:27
更新日:2024/03/13 Wed 12:24:47
所要時間:約 5 分で読めます




エロイムエッサイム……


エロイムエッサイム……


我は求め、訴えたり!




『悪魔くん』とは、『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な水木しげるが描いた漫画。

当時、貧乏のドン底だった作者が「腐りきった世の中をぶっ壊せるのは悪魔しかいない!」と思い込んで描いたそうな。
魔法陣という言葉の発祥ともされ、テレビドラマは日本のテレビ番組に変革をもたらしたともされる。

悪魔くんは大きく分けて4種類ある。
すべてに共通しているのは、「悪魔くん」と呼ばれる天才少年が悪魔を召喚し、その力で世の中を平和にするために奮闘するということ。




☆悪魔くん千年王国


1番目の悪魔くん。1970年に『週刊少年ジャンプ』に掲載。
水木作品では唯一のWJに連載された作品だが、まずお祭り系作品では呼ばれることは無い。
本名は「松下一郎」
「精神的奇形児」「東方の神童」「救世主(メシア)」と畏れられる。
らっきょうのような頭でタレ目、トラ縞シャツがトレードマーク。

小学2年生にして「一万年に一人の天才」と言われるほど頭が良く、しかも父親は大手電気メーカーの社長。性格は冷静かつ冷酷で魔法を使える。

腐りきった世の中を平等な理想社会にするために千年王国計画を打ち立て、国家転覆を狙う危険人物
電機会社の御曹子という立場を利用し、父親に家庭教師を連れて来させて生贄にし、古代の異邦人を蘇らせることに成功。
そのカリスマ性を活かし、学校で演説して子供たちを服従させる。
さらに魔法の箒に乗って空から「洗脳する薬」を撒き東京中の子供たちを洗脳、独立国家を作って自衛隊と戦った。
子供を使う辺りがえげつない。
だが部下のケアや締め付けをきっちり行わなかったのが祟って(それしなくても忠誠を誓う部下がいたのが凄いが)、最期は凄まじい末路を遂げるが……。

本作では悪魔くん自体はミサイルを捕まえて投げ返すほど強いが、使徒たちは殆どが急ごしらえの非戦闘員の為
洗脳された子供たちにけがは得た程度でしかなく、屋獣を除いて戦闘力はイマイチである。


☆マガジン版


2番目の悪魔くん。1966~1967年にかけて『週刊少年マガジン』で連載。
本名は「山田真吾」
服装は松下くんと同じだが、黒目がちでイケメン
強力だが強欲な悪魔「メフィスト」を召喚し、その辺の事件を解決する。
いちおう千年王国の思想は持っているようだが、回を重ねるにつれてどうでもよくなっていった。

そのヘタレっぷりには定評があり、敵に洗脳されるわ、敵に捕まるわ、蜘蛛にされるわでもう散々。
メフィストが頼れるもんだから、最初から最後まで頼りっぱなし。
ヘタレだからこそ愛されるキャラクターと言える。
見た目も、松下と違ってまだあどけなさが残っている。
最後は笛を失い普通の子供に戻る。

なお本作は『墓場の鬼太郎』をアニメ化する際に「こんな不気味な漫画をテレビでやって売れるわけねーだろ(意訳)」と断られたため、
「じゃあ別の企画を」ということで貸本版のリメイクとして実写ドラマ化(後述)が決まり、それに準ずる形で連載された作品である。
結果的にドラマ版悪魔くんは成功し、『墓場の鬼太郎』は『ゲゲゲの鬼太郎』に改題され1968年からアニメ第1期が放送されることとなる。
つまり今、『ゲゲゲの鬼太郎』が国民的アニメになっているのは山田くんのおかげである。


☆コミックボンボン版(アニメ第1作


3番目の悪魔くん。
本名は「埋れ木慎吾」
縞シャツではなくクレヨンしんちゃんのような赤い半そでシャツを着て、唐草模様の風呂敷をマントのように巻いている。
アニメになったため、悪魔くんの中では一番有名と思われる。

巨大要塞「見えない学校」を根城に十二使徒を従えて、魔界・天界・妖精界・地上の四大世界を征服しようとする「東嶽軍」と戦う。
性格は主人公らしさ溢れる優等生。
十二使徒も全て生粋の白悪魔や妖怪だけあって戦闘力は歴代使徒の中で最強レベル。それぞれ見せ場があり、だいぶ少年漫画らしくなった。

他の悪魔くんと比べて良くも悪くも陽性の存在であるため、雑誌の悪魔くん特集でナチュラルに省かれたり
「子供と腐女子のための漫画に堕した」などと酷評される程度には評価が低かったものの、最近はDVD化などで再評価の気運が高まりつつある。
『最新版 悪魔くん』のタイトルで、コミックボンボンでもコミカライズされた。
また、ファミコンでRPG化されている。


☆アニメ第2作(令和悪魔くん)


4番目の悪魔くん。
本名は「埋れ木一郎」
「水木しげる生誕100周年記念プロジェクト」の一環として2023年11月9日よりNetflixにて世界独占配信される事が決定した。
主人公、埋れ木一郎が相棒のメフィスト3世と共に事件を解決しながら自分の出生を追っていく奇怪探偵バディストーリー。
上記の埋れ木真吾や妹の悦子も同じ声優で登場し、前アニメの明確な続編との事。
しれっとメフィスト2世と悦子が結婚してたりする。


【他】


★貸本版


最初に描かれた悪魔くん。全5巻を予定していたが、人気が出ずに3巻で打ち切りに。
後の「悪魔くん千年王国」のベースである。
わかりやすく言えば「千年王国」の読み切り版みたいな感じか。
「千年王国」とはところどころ違う点もあるが、流れは同じ。
TVドラマ「ゲゲゲの女房」ではこれの執筆秘話が描かれ、最後のページに書き残した「悪魔くんは7年後に復活する」というセリフを水木が実現させる過程を描いている。

打ち切りなため、いきなり終わった感は否めない。

※余談だが、連載当時の子供から「悪魔くんは難しい」という旨の手紙が来たそうな。


★悪魔くん世紀末大戦


「貸本版悪魔くん」の続編で34年後の話。
「千年王国」とは話が繋がっておらず、パラレルワールド的な立ち位置なので注意。

あまりにも昔の作品の続編ということで、ダイジェストで「貸本版」の話を纏めた第0話が掲載された。
「貸本版」の最終的な勝者である悪魔ロソン(本名は本作で判明)を始めとした悪魔・邪教により人心がより荒廃し、
富と権力が支配するディストピアを舞台に、復活した悪魔くんの新たな戦いが始まった……ものの、こちらも打ち切り。

打ち切りでは定番の「俺達の戦いはこれからだ!」で終わる。


鬼太郎 対 悪魔くん


単行本は無く、1話完結。
ゲゲゲの鬼太郎」と「悪魔くん」の夢の共演。
しかも対決ときたもんだ。
ご存知、幽霊族の最後の生き残りであり不死身の「鬼太郎」と、地獄界を征服し更に強くなった悪魔くん「松下一郎」。
妖怪軍団と悪魔軍団の衝突!
これは燃える!
まあ、和解するけど。


★実写版(白黒)


1968年に放送された、山田くんが活躍するマガジン版をベースにした特撮ドラマ。
当時第1次怪獣ブームの真っただ中だったため、悪魔だけでなく、怪人やより怪獣っぽい怪物たちとも戦う。
連載当時のグラビアではしょっちゅうウルトラマンなどといっしょくたにされていた。

メフィストが「兄弟」である事も特徴で、弟を地獄大使こと潮健児氏が演じていた。
なお、これは兄の方の吉田義夫氏が急病により途中降板したことに対しての緊急措置。


★実写版(月曜ドラマランド)

『ゲゲゲの鬼太郎』の実写ドラマ化が好評だったため、それに続く形で1986年にリメイクされた単発ドラマ。
脚本は浦沢義雄で、EDを担当した秋元康が本人役で出ている。
本作での悪魔くんは「伊藤真吾」というまた今までの悪魔くんとは別人の設定。
VHSやLDどころか、DVD化も配信もされておらず事実上の封印作品みたいな扱いになっている。

なお、翌1987年のVシネマ『ゲゲゲの鬼太郎 魔笛エロイムエッサイム』ではサブタイからわかる通り悪魔くんが登場する。
しかしこちらでは本名が山田真吾になっており、配役も変わっているため上記のやつとはパラレル設定らしい。


★水木しげるのノストラダムス大予言


1993~1994年に発売された上下2巻の読切漫画であり、水木が手掛けた最後の『悪魔くん』。
主人公は山田くんであるが、マガジン版の続編ではなく完全なパラレル作品で、松下版のカエル男や『ゲゲゲの鬼太郎』の妖怪が使徒として登場する。

ミシェル・ノストラダムスの大予言を題材としているが、本作のノストラダムスは何の役にも立たない普通の詩人兼医者でしかない。
本作のラスボスは史上最強の悪魔であるシーレンで、それを復活させたのは死神伯爵(『鬼太郎』『サラリーマン死神』に出てくる死神のそっくりさん)。
水木の別作品『劇画ヒットラー』に登場するアドルフ・ヒトラーがその死神伯爵を暗殺してシーレンの新たな手先となり、
ヒットラーと愛人エヴァの息子であるダニエル・ヒトラー(架空の人物)が「邪悪のメシア」として立ちはだかる。
パニックものなだけあって、アメリカが石油利権欲しさにアジアに進出するわ、原発が地震で爆発するわ、津波が押し寄せるわ、意図的なウイルス兵器によるパンデミックが行われるわ、ロシアが侵略戦争を行う、思いっきり日ユ同祖論*1に触れているわ、今では絶対に単行本化不可能な描写が目白押しである。

余談だが、数年後に連載される藤崎竜版『封神演義』とは終盤の展開が少し似ている*2。偶然だろうが。

★突撃!悪魔くん


水木先生がなぜ「悪魔くん」を描いたのか、当時の先生の状況を描いた自叙伝。
そのため、悪魔くんは扉絵以外は一切出て来ない。

悪魔くんを期待して読むとガッカリするだろう。
だが、これを読めば「悪魔くん」という強烈な漫画が出来た理由も少なからず理解できる。
昔も今も、世の中とは理不尽なものである。


【オマージュ・後作への影響】


『HAUNTEDじゃんくしょん』などで知られる創作演劇集団「ら・むうん」全作品のオマージュ元(ベース)作品である事実は、あまりにも有名である。

同作原作版(あからさまなオマージュキャラのためアニメ版には出てこない)をはじめとして、彼らの作品を通じて登場する怪少年の高校生「近江慎吾」がそれに当たる。
とはいえ彼は上記の各悪魔くんよりも現代ナイズされ、かなり世間ズレしている。
裏設定ではこの世間ズレ、彼も当初は上記の悪魔くんたちのように理想のために戦ったが人間の仲間(しかも相思相愛だった想い人)の裏切りに直面。
裏切りの真意(何らかの善意ないしは人ゆえの逆らいえぬ本能によるもの)を知って苦悩し「人は神でも悪魔でも救う事はできぬ」と悟り理想を捨てたためとされる。

なお「ら・むうん」は元々、水木作品の同人集団からスタートし、時に水木より制作指導を受けながら二次創作を行っていたため、ある意味で水木の弟子的な扱いの集団でもある。
(初期メンバーもアニメ版悪魔くん制作スタッフの一部が中核に存在する)



また『妖怪ウォッチ』の主人公・天野ケータは、その設定や外見から埋もれ木真吾がモデルではないかと言われたりもする。



キリストでも釈迦でもマルクスでも悪魔くんでも、皆同じ事だ


それぞれ方法は違っているが、根本にある考えは同じなんだ


世界が一つになり、貧乏人や不幸のない世の中を作る事は……


遅かれ早かれ、誰かが手をつけなければならない人類の宿題ではないのか……




エロイームエッサエム♪

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最終更新:2024年03月13日 12:24

*1 現在の学説では否定されている。

*2 ネタバレになるが「主人公が蓬莱山に助力を求める」「現在の文明が二度目と判明する」「悪の貴公子が実は主人公と表裏一体と判明する」といった点