太公望(藤崎竜版封神演義)

登録日:2009/11/11 Wed 02:40:57
更新日:2024/02/15 Thu 15:02:02
所要時間:約 24 分で読めます




この項目では藤崎竜版封神演義の太公望について説明する。
実在した歴史人物については「太公望」を参照。

CV:優希比呂(仙界伝 封神演義)/小野賢章(覇穹 封神演義)


【概要】

ジャンプ漫画「封神演義」の主人公。

崑崙山に所属する道士*1で、連載開始時点で72歳。
そのため結構な高齢者……に見えるが、仙人はもちろん道士でさえ100歳以上・1000歳オーバーは珍しくない仙人界なので、72歳スタートという太公望は仙人会では新入りも新入り、子供同然である。
後述の通り、仙人界に所属し不老の仙術を学んだのは12歳以降なので、外見年齢は青年である*2

しかしながら、彼は崑崙山の教主・元始天尊の直弟子であるため、崑崙山では運営幹部「崑崙十二仙」と同格の兄弟弟子となっており、その序列は高い。
楊戩黄天化など、十二仙の弟子からは「師叔(スース)」と尊称される立場にある。


修行を怠けて励まないことから、師匠である元始天尊に「殷王朝に巣食う悪い仙人を倒して魂を封印する」という「封神計画」を授かり、紆余曲折の末に「周の武王」を助ける「軍師」となり、殷を滅ぼすこととなる。

旅立ちにあたって、元始天尊から大気や風を操る宝貝「打神鞭」と空飛ぶムーミン霊獣「四不象」を授かる。
さらに打神鞭をアップグレードさせる形で、中盤から崑崙山本部からエネルギーを供給できる「杏黄旗」、終盤ではスーパー宝貝の一つ「太極図」を追加装備していくこととなる。


【前歴】

本名は呂望
もともとは西方の遊牧民族・羌族の頭領の息子であったが、12歳の時に殷の異民族狩りに遭い、一族郎党を滅ぼされてしまう。
この異民族狩りを命じたのは、その時の殷王朝の王妃が、没した王の殉死者を増やすと言い出したことから起きた。

そこに現れたのが元始天尊で、彼からその王妃は「千年を生きた妖狐の仙女」であり、彼女の仙術によって国が操られ、多くの人間が犠牲になっていることを教えられた。
これを知った呂望は、家族や仲間たちの仇を討つため、そして「仙人のいない人間界」を作るために、元始天尊に導かれるかたちで崑崙に入り、仙術を学び始めたのである。


そしてそれから六十年を経た現在*3、殷王朝に再び「千年を生きた妖狐の仙女」妲己が現れ、国を操り暴虐を始めたことで、
あえて怠け者道士の姿を周囲に見せることで、「無理難題を吹っ掛ける」という口実を元始天尊に与えて、自ら【封神計画】をこなす立場についたのである。


【能力】

上述したとおり、「怠け者道士」というのは彼の見せかけの姿に過ぎない。
実際には元始天尊の一番弟子で、かつ見えないところで真剣に修行していたため、修業期間はわずか30年に過ぎないながらも能力はいっぱしの仙人にも引けを取らない。

とはいえ、金鰲島で「通天教主以上」と呼ばれる妲己聞仲趙公明のようなバケモノ級とは比べるべくもない。


そんな彼の最大の武器は「頭脳」
とにかく洞察力や分析能力などに優れており、仲間たちや敵の長所や短所を、本人たちさえ理解していない事柄や、奥底の心理面に至るまで理解・分析し、
「バロメーターで言えば段違いに上」*4な強敵たちをも撃破していく。
「崑崙で最高の頭脳をもつ策士」というのは偽りではなく、楊戩などは呆れるとともに戦慄を覚える場面さえある。



上述したとおり戦闘そのものは不得手だが、その有り余る頭脳によって、王貴人殷郊のような本来は対抗できない格上にも善戦することが可能。
「杏黄旗」を用いてパワーを供給することで、攻撃力ならば元始天尊や通天教主すらしのぐ趙公明を相手に渡り合う場面さえあった。
そして終盤では、楊戩や哪吒に匹敵するほどの黄天化を、太極図すら使わずに圧倒するほどの実力を見せつけている。
「甘ったれるなよ天化!!」

しかし、やはり根本的には戦闘そのものは得意ではない。
趙公明戦でも最後はパワーで押し切られ、聞仲との戦いでは「聞仲の打撃を理解し、風をうまく使って跳ね返す」という策略を、想定以上のゴリ押しで正面から砕かれてしまった。
最終版では「あいつは決め手に欠ける」と哪吒から評されている。

胡喜媚との一騎打ちの時はその能力に太刀打ちできず、
ギブアップすると見せかけて胡喜媚がベタ惚れしている四不象(一番の相棒)を人質にとって宝貝を取り上げとどめにだまし討ちという、
およそ主人公として卑怯極まりない蛮行を行ったにもかかわらず、最後は敗れて死亡するハメに陥った。

しかしこれらの行いは、もちろん彼が卑怯者なわけではなく、進んで憎まれ役・汚れ役を担おうとするある種の自己犠牲精神のため。
最初から最後まで目的を見失わず、倒すべき敵を弁えているという精神面の強さも持つ点も当時のジャンプ主人公としては稀有である。


【性格】

表向きはマイペースで飄々とした、ある種人を食ったような性格

普段から老人のような口調でしゃべっているが、ところどころで子供じみた振る舞いをしたり、死んだ魚のような眼をしたり、デキの悪い宇宙人ぬいぐるみのような姿になったりと、とにかく韜晦やまぜっかえしが上手いため、仲間たちでさえその本心や実力を測り切れていない
後述する通り、平気で卑怯・卑劣な真似をしたり、それを仲間たちに指示したりするところもあり、あるロリキャラを騙し討ちにした時には敵はおろか味方たちからもブーイングの荒らし嵐を食らった
いわく「妖怪よりタチが悪い」「仲間なのが恥ずかしい」などなど。

作中では多くの仲間が戦死したが、表立っては苦痛や後悔といった感情を露わにせず、すぐに「いつも通り」の表情を見せる。



だが、それらの姿はあくまで「表だけの顔」「見せる姿」であり、本質は別。
内心では「仙人のいない平和な人間界」への確固たる信念を秘めており、その為ならたとえどれほど蔑まれ、傷付こうとも決して歩みを止めず、振り返ることもしないという、作中で誰よりも強い心を持った熱血漢でもある。
師である元始天尊からは「なんというわがままで一途なやつ」と評された。


また、見せる謀略と韜晦の裏では仲間に対する優しさと厳しさも持っており、「みんなが生きて残れるように」と、必死になって知恵を巡らせている。

実は楊戩や金鰲十天君の一人・王天君からは「一切の制約を取っ払い、最初っから仲間たちや故郷を捨て駒にするつもりで策略を巡らせば、彼の目標はもっと簡単に、もっと手っ取り早く、もっと苦労せずにこなせた」と指摘されている。
仲間たちの戦死を、誰よりも悲しみ、そして苦しんでいるのも彼だ。

悪魔のような知恵と、それをフルに生かせない「いいヒト」の相克が、彼の奥底には渦巻いていたのである。



しかしこうした彼の二面性や相克は、常にいい結果ばかりをもたらしたとは言えない。
いつもの韜晦や本心とは違うそぶりは、仲間たちを奮起させて、彼らの能力をフル以上に発揮させる潤滑剤となっていたが、他方で太公望への不信や軽視、あるいは過剰な依存などを招くことにもつながった。
黄天化の暴走と死は、天化が太公望を理解せず、また太公望が仲間たちと正面から向き合わなかったから起きた結果でもあった。

もちろん、楊戩や白鶴、四不象や黄飛虎など、仲間たちにも太公望の真意や実力を悟っている人間は相当いた。
しかし彼らは太公望から何かを打ち明けられたのではなく、自分で思いを巡らせた結果として太公望を理解したのである。
天化は最終盤まで太公望の強さも内面も理解しておらず、それらを認めたのも(立場や来歴の近い)楊戩よりずっと遅かった。

+ 天化と太公望の関係
天化と太公望の関係には、楊戩・哪吒・雷震子と太公望の関係にあったものが欠けている。それは初対面時の対立

楊戩・哪吒・雷震子はそれぞれ最初の出会いで太公望と戦い、いずれも敗れて太公望の実力の一端を知って、以後は太公望への信頼が芽生えた。
また四不象は初期には「アホ道士」と疑ったが陳桐戦で見直し、黄飛虎は当初は妲己配下かと疑って威圧し、のちに太公望の失敗をフォローして彼の人格を確かめている。
申公豹も最初の雷公鞭への対処と王貴人との戦い、そして妲己敗戦後に打神鞭を受け取るか否かで太公望の実力と信念を確かめている。
比較的縁の薄かった張奎にも「尊敬するほどには聞仲のことを理解していない」と指摘することで、彼の意識を変えている。

しかし天化のみは初対面時に言葉を交わしただけで終わり、以後も天化は太公望の実力を軽んじているフシが見られた。
四聖戦直前の「あんた本当に強いのか」発言、太公望が趙公明に挑む直前のいぶかしげな表情、そして紂王戦さなかの四不象に指摘される場面がそれに当たる。
(特に紂王戦さなかの天化は「信じれなくなりそう」「父も十二仙も見殺しにしたのか」など、語調は抑えながらもキツい発言をしている。また初期と違い今度は過大評価になっている)
結局、天化が太公望と本気でぶつかり合い、その実力に驚くのは終盤も終盤、張奎戦よりもさらに後のこととなる。

実は太公望も、本気を出す場面では不思議と天化がいなかったり気絶したりだったため、天化に対して実力や信念を見せる場面がなかった。
初期に四不象が「こんな事(情けない姿を見せて汚れ役を担い仲間を奮起させる)ばかりしてちゃ、いい事しても人の恨みを買うだけっスよ」といったのが、天化に関して当たったともいえる。




こうした、一人のキャラクターとしては複雑怪奇なまでの多様性や、それらを貫く一本貫く信念、そして底知れない謀略のすごみなどから、
知性派の軍師ポジションという「ジャンプ漫画主人公」としてはかなり珍しいキャラクターでありながら、人気投票ですべて一位をマーキングするほどのぶっちぎりの読者人気を誇っていた。




















ここから先は、本シリーズの根本のネタバレです。

上記の記述を見て面白そうと感じ、これから読んでみようとお考えの方は、この先は読まれないことを強くお勧めします。

























「オレとあんたは同一人物なんだよ」


300年前……「呂望」が生まれるずっと前のことである。
当時、千年狐の猛威を警戒した通天教主は、冷戦期だった崑崙山との関係改善を図って息子・楊戩を崑崙に差し出した。
それと引き換えに、元始天尊は金鰲島に弟子の王奕を送った。
しかし王奕は、妖怪以外を認めない金鰲島では監禁状態のまま妖怪たちの悪意にさらされて精神をゆがめていき、加えて妲己の干渉によって徹底的に「壊され」、王天君となった。

その王奕=王天君だが、彼は「魂を分割できる」という特殊能力があった。
妲己は王天君の魂を三つに分割して、それぞれ妖怪ベースの肉体に宿して三人の王天君を作り、己の愛する手足として使っていたのである。


しかし、その王奕の特殊能力を最初に知って、利用したのは妲己ではなかった。
王奕の「最初の持ち主」だった、元始天尊であった。
彼は、通天教主から楊戩を差し出すという申し出を受けた時、「楊戩は欲しいが、王奕も手放したくない」という欲心を抱いていた。
そのために、彼はあらかじめ王奕の魂魄を二つに分けて、片方だけを王奕の肉体に戻して通天教主に差し出し、残りは保存した。

その保存した王奕の片割れを、元始天尊は200年ほど後、異民族に襲われて落命していた羌族の棟梁の息子――呂望の肉体に宿させたのである。

つまり、太公望と王天君はどちらも「王奕」という同一人物なのだ
実はコミックスの表紙で、一巻の太公望と十三巻の王天君が「逆さまに映っている」のは、それが「彼らの本当の姿ではない」ことの暗示である。


それが明かされたのは、太公望が胡喜媚に敗れて肉体を失った時期。
「王天君」であることに疲れた王天君が、太公望と融合して元の「王奕」に戻りたいと訴えた場面である。
王天君と融合して王奕として生き返らなければ、死んで何事もなせない――
だがその選択は、「わしとて、わしとして、わしなりにやってきた」太公望にとって、己が人生さえ否定されるようなあまりにも辛すぎる結果であった。

しかし、彼には選択肢などなかったし、どれほど辛い選択であっても、己に対する苦痛であれば飲み干してしまうのが「太公望」なのである。
「ここまで不幸か、わしの人生…」一言だけ嘆いて、それでも太公望は王天君と融合した。



【王奕】

太公望と王天君のルーツは王奕である。ならば、その王奕は何なのか?

その王奕こそ、妲己を裏で操る黒幕「歴史の道標」女媧の同胞、始祖の一人、伏羲(ふっき)であった。



まだ人間が生まれていない地球に、故郷の星を失い、宇宙船で放浪していた宇宙人が降り立った。
その宇宙人こそが「始祖」であり、その中でも最も強い力を持っていたのが女媧である。

つまり太公望(および王天君)の正体は宇宙人なのである。
太公望の手抜き人形デザインのモードはまさかの伏線……だったのだろうか?*5


女媧は地球を故郷の星と同じにすることを考えていた。地球の原生生物を破壊しつくし、もう一度故郷を再現しようと。
だが、彼らの星は彼らが持つ、あまりにも強大な力が故に滅んだ。
伏羲たち、他の始祖は強大な力を弱めるため、地球の生物や大地・空気と融合し、共生するべきと考えたが、女媧は猛烈に拒絶。
説得は不可能とあきらめた始祖たちは女媧を封印し、地球生物との融合を果たした。

だが、封印されても女媧は死んではおらず魂だけで封印を抜け出し、のみならず魂だけでも能力の一部を駆使することができた。
彼女は、かねてからの目標――「故郷の星を創る」ために歴史を操り、故郷と違う世界になれば壊し……を幾度も繰り返したのである。
しかしあまりにも長い繰り返しと破壊は、その度に地球の生物を強くし、逆に女媧の魂を疲弊・劣化させていった。


他方、始祖たちも女媧が抜け出す恐れは認識していた。
その一人、伏羲=王奕は世界と融合することなく残り、地球の生物が女禍を倒せるほどに強くなった時、仙人の前に現われた。
女媧の存在を明かし、その行為を止めるために。

元始天尊と燃燈道人に接触して、一連の真実を明かし、計画を練った王奕は、自らその実行役となるべく、
「始祖・伏羲」としての記憶を封印して「元始天尊の弟子・王奕」としての別の記憶と人格を作り上げ、「時」が来るまで待ち続けていたのだ。


太公望と王天君が合体した後は、太公望をベースにしつつ、王天君のブラック成分が混ざった雰囲気のデザインになるため、太公望と区別して「伏羲」と呼ばれている。*6
対女媧戦で使用した太極図によるパワーアップでは半妖態のような禍々しいデザインになり、戦闘スタイルも肉弾特化型になる。
封神台を開放して更にパワーアップした時はスーパーサイヤ人髪が白くなる(こちらは「白伏羲」と呼ばれる)。

王天君と太公望が融合して始祖としての真の力を取り戻し、数多くの仲間たちの力と絆を揃えた伏羲はすべての力を使って女媧を撃破するが、それは同時に女媧との相討ちでもあった。
死ぬまでのわずかの間に2人はしばしの語らいをした後、女媧の「最後のわがままだ。一緒に死んでくれ」という頼みに応えるかのように消滅してしまった…









と思いきや、実は星の太母(マザー)となった妲己に助けられていたことが判明した。
やるべきことを最後の最後までやりつくした彼は、その後「標」から外れた世界をあてどもなく漂っている。


多くの同胞、場所を失い、それでも前に進んできた彼が、本当の意味でようやく立ち止まり振り返ることができたのは、最終話の最後のページである。




(うれ)うる()かれ
 天下誰人(たれびと)か彼を()らざらん




後日談にあたるWSのゲーム「仙界伝弐」では全クリ後の隠しキャラとして登場。
全クリ後だから良いものの、地味にバランス崩壊する性能。
なおこのゲームでは、王天君との因縁で最終章で同一人物だと知った時に詰め寄ったが事態が事態の為一時休戦にした楊戩との決着が見られる。




「項目を追記するのじゃな、太公望」
「修正だよ、公主」

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  • 数奇な運命を背負った男

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最終更新:2024年02月15日 15:02

*1 仙術を学ぶ者のうち、いまだ弟子段階にある者。免許を受けると「仙人」となり、道士を弟子に迎えることになる。

*2 知らない人からは「ボウズ」と呼ばれたこともある。

*3 太公望の家族を焼き討ちした王妃=千年狐は、ほどなくして聞仲と四聖に撃破された。

*4 王天君の「十天君と十二仙の能力差」についての評価。個々の能力は十天君がはるか上だが、太公望は知略でこの差を覆していることを評価した。

*5 実際楊戩も突っ込んでいる。

*6 四不象は伏羲の姿をした太公望のことを「伏羲さん」と呼んでいる。