ピクサー・アニメーション・スタジオ

登録日:2019/08/17 Sat 19:50:22
更新日:2023/11/05 Sun 11:28:28
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ピクサー・アニメーション・スタジオは アメリカ合衆国のアニメーション制作会社。

【歴史】

ピクサーは1986年、ルーカスフィルムのコンピュータ・アニメーション部門をスティーブ・ジョブズが買収して設立した会社である。
ジョブスはその年の需要予測を見誤り過剰在庫を出したため、加えて当時の代表社長を糾弾しようと画策したとされるため、自らが立ち上げたApple社を辞めさせられていた。
ルーカスフィルム側の背景として、1979年から始まったコンピュータグラフィック (CG) 研究者エドウィン・キャットマルの3DCGソフトウェアの研究に拠る現金流出を止めたかった事と、
ルーカスフィルムの視点がCG作成ツールよりむしろ映画制作に移っていた事があった。

独立当初はディズニーと協力してコンピューターグラフィックス製作用のハードウェアを製作する会社であった。
1988年にはこの3DCGソフトウェアはRenderManとして完成し、
ハードウェアの販売を促進する実演のための短編CGアニメーションを制作していたピクサーの社員ジョン・ラセターは1989年にRenderManを売り出すことを提案する。

ジョン・ラセターは設立の当初にウォルト・ディズニーと兄のロイから多くの支援を受けているカリフォルニア芸術大学出身で、多くのアニメーターがここでアニメに関する技術を学んだとされ
カリフォルニア芸術大学の教室番号の一つ「A113」という番号が後の監督作品『トイ・ストーリー』などピクサー社の作品には隠しメッセージとして登場している。

だがコンピュータ及びソフトウェアの売り上げでは会社の業績が悪化したため、
1991年、従来の主力部門であったシステムやコンピュータの販売部門を縮小し、CG作品の製作に力を入れ始め、
ピクサーでの長編CG作品の作成が決定するが、外部企業のためのCGアニメーションのコマーシャルその他の短い素材制作を続け、
1995年にディズニーのCGアニメ映画の長編作品では処女作『トイ・ストーリー』として公開され、大ヒット作品となる。

独立20周年となる2006年、ウォルトディズニーカンパニーは、ピクサーアニメーションスタジオの購入を発表。買収条件の一環で、
エド・キャットマルとジョン・ラセターがウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのリーダーにも任命される。


【作風】

エド・キャットムル曰くピクサー自体の紆余曲折を反映して、創造的なプロセスのうち最も重要な部分は、当初のアイデアではなくアイデアの進化であり、
ブレイントラストなる会議を経て当初のつまらないアイデアを守り育てることをモットーとしている。
「角を立てたくない」「恥をかきたくない」等で率直さを欠かないようジョブズを呼ばないなど制度化されており、
アンドリュー・スタントン曰く「ピクサーを病院だとすると映画は患者でブレイントラストは医師団」
ジョナス・リベラの表現は少し違って「映画は胎児で、ブレイントラストは産婦人科医」

製作工程

コンセプトアート

作品のイメージを規定するためのイラストを描く。

ストーリースケッチ

ストーリーマンとアニメーターが二人一組になり、演技やセリフ、BGMまでイメージした詳細な場面を一つの絵に起こす。同じ場面を複数の組が作り、各々プレゼンテーションを行う。

ストーリーボード

ストーリースケッチを展開順に並べ、よりよい展開を検討する。

ストーリーリール

完成したストーリースケッチに暫定的なアフレコをしてラフな映画のモックアップとしてのストーリーリールをつくる。

ブレイントラスト

この時点でのストーリーリールを上映し、気に入ったシーンや真実味が感じられない箇所、改良が必うようだと思う箇所、必要ない箇所について議論する。
ストーリーテリングの専門家と言えども見ただけでは問題点はわかっても真の原因は特定できない可能性が高いので、
強制する権限はなく、提案や助言はするが、実際どうするかは監督に任せられている。
これを3~6ヵ月(1バージョンのストーリーリールができるまでこれくらい)ごとに繰り返す。


ピクサーのストーリーライティングの22のルール

ピクサーでストーリーを担当していたエマ・コーツはストーリーライティングの22のルールをTwitterに投稿している。

1.成功より挑戦に敬意を表する

主人公の成功という結果ではなく、諦めずに挑戦し続けるという過程を賞賛すること。

2.自分ではなく観客が見たいものを常に念頭に置く

自分が書いていて楽しいものではなく、読者にとって面白いものを書くこと。この2つには、非常に大きな違いがある。

3.終わりまで書いたら書き直しテーマの本質を探る

テーマを追いかけるのは非常に重要だ。しかし、ストーリーの本質は書き終えてみるまでは、ライターにも分からない。だから、書き終えたら必ずリライト(書き直し)しよう。

4.定番のストーリーラインを押さえる

むかしむかし、あるところに・・・。毎日・・・。そんなある日・・・。そして・・・。そして・・・。そしてついに・・・。
このシーンは基本的にはこの物語は時間をかけて観る価値があるという約束をしてくれるシーン。冒頭に視聴者に約束を与えるのがすぐれた物語の条件。

5.キャラクターをシンプルにして魅力を伝える

たくさんのキャラクターがいたら、シンプルにまとめて、キャラクターに焦点を合わせて、キャラクター同士の力や魅力を結合させよう。

6.キャラクターに試練を与える

キャラクターの好きな事、得意な事とは正反対の試練を与えての試練を与えて、キャラクターに挑戦させよう。キャラクターは、その試練にどのように立ち向かうだろうか?

7.物語のエンディングは決めておく

伝えたいメッセージがしっかりと伝わるように、ストーリーの中盤部分を書く前に、エンディングを決めてそこから逆算をしていく。エンディングを考えるのは本当に骨が折れる仕事だ。だからこそ、前もってやっておこう。

8.完璧でなくてもとにかく書き終え、より良いものを追求し続ける

まずは、荒くても書き上げる。ストーリーを書き上げたら、それが完璧になっていなくても公開しよう。そして、また書き続けて、次はもっと良いものを作ろう。

9.アイデアに詰まったら、“絶対起こらない展開”リストを作る

アイデアに詰まったら、“書くべきではない展開”のリストを作ろう。多くの場合、全然違う発想を集めれば集めるほど、思いもよらない良いアイデアが湧いてくる。

10.自分の好きな物語から離れてみる

好きなストーリーから離れよう。あなたのアイデアは、それらのストーリーから大きな影響を受けている。自分のストーリーを書き始める前に、自分の中の常識を破壊しておこう。

11.アイデアを紙に書き起こす

アイデアを紙に書き起こすと頭の中が整理される。そして、そのアイデアが、あなたの頭から離れなければ、それは素晴らしいアイデアだ。そして、そのアイデアを他人に話してはいけない。

12.一番最初のアイデアは無視する

一番最初に浮かんでくるアイデアは無視しよう。二番目に浮かんでくるものも、三番目に浮かんでくるものも・・・。すると、明確な良いアイデアが浮かんでくる。そして、そうやって最終的に出て来たアイデアに、あなた自身が驚くはずだ。

13.魅力的なキャラクターには軸(コンセプト)がある

キャラクターにはハッキリとした意見を持たせよう。酷い選択をしてもキャラクターが魅力的なのは、決して軸がぶれないから。消極的で受け身なキャラクターは自分が書いていて楽しくても、観客から見ると退屈です。

『ファインディング・ニモ』のマーリン・・・・自分の子供を危害から守る事
『トイ・ストーリー』のウッディ・・・・持ち主の子供にとってベストな行動を取る事

ウッディは最終的には献身的に成長するので、最初は自己中な性格を持たせる必要があります。
どうすれば自己中なキャラクターを感じ良くすることができるのか? 一番のおもちゃであり続けるという条件さえ満たしていれば、親切で、寛容で、おもしろくて、思いやりがあるキャラクターにできる。

14.自分の信念を知る

なぜ、そのストーリーを伝えなければならないのか、心から伝えたいと思っている信念は何なのか、あなたの信念が、ストーリーの根幹となる。

15.リアルな感情描写をする

もし、自分がストーリーの中のキャラクターの立場だったら、どう感じるだろうか?そうした感情描写の正直さが、非日常的な状況に親近感を与える。

16.キャラクターの背景を作り込む

キャラクターが抱えているリスクや過去は何だろうか?キャラクターが何に賭けているのか、何のために挑戦をするのか、キャラクターが貫こうとしている信念を読者に分かるようにします。もし、そのキャラクターが失敗したら、どうなってしまうだろうか?キャラクターの挑戦に対して障害を用意しよう。

17.努力は無駄にならない!

あなたの努力の全てはムダにはならない。もしうまくいっていなくても、気にせず進み続けよう。そうした経験は、結局あなたの糧となって戻ってくる。

18.自分と向き合う

自分自身を知ろう。自分のベストの力が出ている時と、焦って悩んでいる時との違いを知ろう。ストーリーライティングは、あなたを磨くのではなく、自分自身を試すことだ。
自分を知ることによってストーリーに深みがでます。

19.試練の到来は偶然、試練の克服は必然

キャラクターに偶然、試練が重なることは素晴らしいことだ。しかし、その試練を克服する際には、偶然の要素があると興ざめしてしまう。

20.エクササイズ!

嫌いな映画を見て、その映画の構成要素を分析しよう。どこをどう変えれば、その映画を好きになれるのかを考えてみよう。

21.人のリアルな心理を追求する

自分自身の様々な行動や、その行動を取るにいたった動機を知ろう。ストーリーは、クールに書こうと思わない。

22.ストーリーを一言で表せるようにする

あなたのストーリーのエッセンス(肝)は何だろうか?それを短い言葉で伝えるなら?それが明確なら簡潔な言葉で伝えられるはずです。


2+2の法則

また、22のルールの他に「2+2の法則」という理念が共有されている。
観客に最初から4という答えを与えず、点と点を結ばせて自ら2+2を計算させる、という意味。
これは、映画プロデューサーのアンドリュー・スタントンが『ファインディング・ニモ』をボブ・ピーターソンと一緒に製作中に
“観客は、自分自身で主題を見つけたがってはいるが、自分がそうしていることに気づきたくはない”
と気が付いた。人は目の前に問題があれば解こうとし、推論や推理をしそれを補いたくなってしまう。
だからストーリーテラーは、観客に主題を見つけさせようとしている事を上手く隠さなければならず、
どのような材料をどんなタイミングで観客に与えるのかを考えなければならない。


ドラマは不確実性の混ざった期待である

物語は必然性を持ちながらも予測不可能だから、素晴らしいともスタントンは語る。
『ファインディングニモ』の中で、物忘れの酷いドリーの言動に、観客は「次に何が起こるの?」と、ハラハラさせられる。
その裏には、「お父さんは広大な海で、本当にニモを見つけられるのか?」という、より大きな緊張感が常に流れている。
次に何が起こるのか?という「小さな期待」と、結末はどうなるのか?という「大きな期待」が同居していることで、観客を最後まで惹きつけることができる。



プロット(創作)

ピクサーのストーリー・アーティストのマシュー・ルーンは、ストーリーを一行でまとめたアイディアメモを作り、『トイ・ストーリー』以降の作品は三幕構造をとっていると語る。

第一幕

基本設定が提示される。舞台となる世界や、キャラクターの人間関係など。そのうえで、思いがけない方向にストーリーが展開していく予兆を提示します。
  • ファインディング・ニモ・・・カクレクマノミのマリーンと妻が新しい家にいること。夫婦は子どもの誕生を待ち望んでいること。オニカマスに襲われて、妻が死亡してしまうこと。残されたから赤ちゃんが生まれ、ニモを溺愛するようになること、などが相当。

イントロダクション

主人公の紹介。および主人公に目的を与える。主人公の好きな物、特徴づけるものを明らかにする。

まず、主人公の
  • 状況設定
  • 大切なもの
  • 弱点
を決める。


「大切なもの」とは、例えば…
  • ウッディ(トイ・ストーリー)・・・アンディ(ウッディの持ち主)
  • マーリン(ファインディング・ニモ)・・・家族(妻と子供)
  • インクレディブル(Mr.インクレディブル)・・・スーパーヒーローの地位


弱点」とは「大切なものを愛し過ぎ、執着しすぎるとそれが弱みとなる」ということ。
  • ウッディ・・・アンディの「お気に入り」の地位
  • マーリン・・・良い父親であること
  • インクレディブル・・・自分の仕事に誇りを持ちすぎること


主人公の「大切なもの」「弱点」が決まったら…


「嵐雲」

嵐の兆しを起こす。あくまで嵐の兆しであり、災難そのものではない。
  • ウッディ・・・アンディの誕生日(自分の人気を脅かす、新しいオモチャがやってくる)
  • マーリン・・・イソギンチャクの外に出ると危険だらけ
  • インクレディブル・・・バディ・パイン(熱狂的ファンの少年)の登場

「大切なもの」を失う。

  • ウッディ・・・アンディのお気に入りの座をバズ・ライトイヤーに奪われる
  • マーリン・・・ニモ(子供)をダイバーにさらわれる
  • インクレディブル・・・社会的に糾弾され、ヒーローの地位を奪われる

「屈辱」

主人公に「屈辱」を与え、世界は不公平だと感じさせる出来事を起こす。
  • ウッディ・・・みんなの前で空を飛ぶバズ。単なるカウボーイ人形のウッディは嫉妬する
  • マーリン・・・(そもそも自然界は不公平な場所だから、屈辱は不要)
  • インクレディブル・・・人助けしたのに犯罪者呼ばわりされ、地味な職業に追いやられる

「岐路」

主人公を「岐路」に立たせ、2幕へ進む。

屈辱を受けた主人公は
a) 健全な道
b) 分別のない、無責任な選択
のどちらかを選択しなければいけないが、a) を選んだらそこで物語は終わってしまうので、必然的にb) を選んで代償を支払う羽目になる。


  • ウッディ:a) 引退する b) バズを排除して、ふたたびアンディのお気に入りに復帰する
 →代償:バズと共に置いていかれる

  • マーリン:a) 子供を信じてまっとうに育てる b) 過保護に育てる
 →代償:子供がダイバーに連れ去られる

  • インクレディブル:a) 一般市民として平凡に生きる b) 妻にウソをついてヒーロー活動を続ける
 →代償:組織に目をつけられ、大きな事件に巻き込まれる


1stブレイク

導入部の状況が一転し、ストーリーのゴールが設定され、主人公の旅が始まる。主人公は安全で退屈な日常から、危険で刺激に満ちた世界へと移動する。
  • マーリン・・・ニモがダイバーに捕獲され、マーリンが救出に出発する。

第2幕以降

主人公は、失った大切なものを取り戻す旅をして、最後にそれを取り戻すと弱点も克服している。

中間部

中間部では主人公が旅の途中でさまざまな困難に出逢い、乗り越えていく。主人公のタスクは次第に困難さを増していき、クライマックスを迎えたところでタスクが最大となる。ここで重要なのは、旅の最初と最後で主人公が精神的な成長と遂げること。そのための仕掛けとして、途中で「必ず」主人公が旅の目的を一時的に忘れてしまい、目的が変化すること。
  • マーリン・・・旅の途中で相棒のドーリーと泳ぎの速さ比べに夢中になってしまい、ドリーを危険に陥れてしまう。その結果、マーリンの目的はニモを探すことではなく、一時的にドリーを助けることに変わる。こうしたエピソードを通して、マーリンは他者を信頼することを覚えていく。

2ndブレイク

中間部の状況がさらに一転し、主人公は外的にも内的にも大きな変化を経験して、精神的な成長を遂げていく。
  • マーリン・・・マーリンとドーリーは鯨に食べられてしまう。その結果、マーリンはニモに会えないかもしれないと覚悟する。こうした試練を経てマーリンは精神的にさらなる成長を遂げていく。

クライマックス

主人公の精神的な成長が、主人公を取り巻く外的・内的な変化を上回り、すべてを好転させる。これによって主人公は世界が大きく変化する様を目の当たりにする。
  • マーリン・・・鯨の潮で吹き上げられたマーリンとドーリーがペリカンのナイジェルに会い、彼の助けを経てニモを救出することに成功する。

もう一ひねり

成長を遂げた主人公が、当初設定されたストーリーのゴールにたどり着いたところでもう一つ試練が到来し、映画のテーマが示されて締めくくられる。
  • マーリン・・・他者を信頼することを覚えて、精神的な成長をはたしたがドリーが他の魚たちと共に、漁師の網に捕らえられてしまう。ここでニモはみんなで協力すれば脱出できると提案するも、過保護のマーリンは危険すぎると却下するが、ニモはマーリンならできると主張し、ドリーはニモを信頼するように説得し…マーリンが仲間を信頼すると共に、過保護だった自分を反省したとき、網が破れて大団円を迎える。
    「親の過干渉や過保護に対する戒め」という映画のテーマが示される。

【主な作品】

トイ・ストーリーシリーズ

ファインディングシリーズ

モンスターズシリーズ

インクレディブルシリーズ

カーズシリーズ

独立作品等

  • バグズ・ライフ(1998年)
  • レミーのおいしいレストラン(2007年)
  • WALL-E(ウォーリー)(2008年)
  • カールじいさんの空飛ぶ家(2009年)
  • メリダとおそろしの森(2012年)
  • インサイド・ヘッド(2015年)
  • アーロと少年(2015年)
  • リメンバー・ミー(2017年)
  • 2分の1の魔法(2020年)
  • ソウルフル・ワールド(2020年)
  • あの夏のルカ(2021年)
  • 私ときどきレッサーパンダ(2022年)
  • マイ・エレメント(2023年)


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最終更新:2023年11月05日 11:28