トラック野郎

登録日:2019/08/17 (土) 00:33:36
更新日:2024/02/13 Tue 21:35:38
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男意気地の一番星が天下無敵の大一番


東映制作の長距離トラック運転手を主人公に据えた鈴木則文監督、愛川欽也・菅原文太W主演の喜劇映画。

菅原文太演じる桃次郎、愛川欽也演じるやもめのジョナサンが全国各地を仕事で訪れ、桃次郎が行く先で出会ったマドンナに一目惚れ。
惚れたマドンナを巡ってライバルのドライバーとトラックの運転勝負や殴り合いのケンカを繰り広げ、桃次郎がマドンナの趣味に合った付け焼き刃の知識を披露。
マドンナとの恋は成就しないけど、ラストは一番星号が悪条件の荷物や人の運送を引き受け、目的地に向けて激走。道中警察の追跡や検問を突破し、道なき道を走り、到着する頃にはトラックがボロボロというのがお約束。
ソープランドをトルコ風呂と呼ぶ、野糞立ちション、運転しながら性行為、警察がやられ役などの危なっかしい描写の数々から地上波では最近だと主演2人の追悼企画として放送されたに過ぎない。

この映画をきっかけに、長距離トラックドライバー・デコトラ乗りを目指した人間も少なくない。

メインキャスト

  • 星桃次郎/一番星桃次郎
演:菅原文太
大型トラック「一番星号」のドライバー。真っ直ぐで卑怯な真似を嫌い、情に厚く、根は純情な漢。トラック仲間からの人望も厚く、相棒のジョナサンとは時に大喧嘩もする親友。
愛用している腹巻きには星のマークが入っている。腹巻きは夏冬通して服の上から着用。アウトローな風体で喧嘩っ早いが、義理人情に篤く、仲間思い。
運転中にウンコをもよおすのはお約束で、我慢出来ないときは茂みに隠れて野糞も躊躇わない。そして野糞している所をマドンナに見られそうになるのもしばしば。
無類のソープ好き・女好きであり、ソープを「心の故郷」と呼んで憚らず、抱いた嬢は1000人以上と公称し、時に売春婦とセックスしながら運転している。住所不定で、手紙や贈り物は行きつけの川崎のソープに届けられる。
行きつけのソープではテル美嬢が桃次郎の嫁ポジションとして面倒を見ている。

惚れたマドンナ相手に自己紹介する時はトラックドライバーであることを隠し、職業について見栄を張ったり、をついたりする。マドンナの前でソープや便所の話はタブーであり、話を振られると下品と一蹴するのは毎度お約束。
マドンナにはほぼ一目惚れだが、最後は99%フラれる。フラれたら潔く手を引き、時にはマドンナと想い人の関係を取り持つ。

東北の寒村の生まれだが、生まれ故郷はダムの底に沈み、知り合いを頼って下北半島に移住。
しかし下北半島に移って1年も経たないうちに父親は漁業中の事故で死亡。母親とも間もなく死に別れている。このためか、故郷に対する思いは誰よりも強い。

苦手なものは水泳、

一番星号の車種は第1作目のみ三菱・Tシリーズ951型、第2作目以降は三菱・Fシリーズ。

  • 松下金造/やもめのジョナサン
演:愛川欽也
中型トラック「やもめのジョナサン号」のドライバー。温厚で明るく人情派。桃次郎とは時に大喧嘩もする親友。
トラックドライバーになる前はトラックドライバーから「花巻の鬼台貫」と呼ばれた警察官だったが、パトカーを酒酔い運転したために警察を追われ、何の因果かトラックドライバーとなった。

(※台貫とはトラック・ダンプ用の秤のこと。つまり鬼台貫は、台貫を使って過積載の取締を厳しく行う警察官のこと。)

本名で呼ばれることはめったになく、親しい人からは「ジョナサン」と呼ばれる。

「松下運送」と書かれたツナギを着ていることがあるが、これは松下電器のツナギの「電器」の文字をバッテンで消して「運送」と書き込んだもの。

愛車のやもめのジョナサン号は側面に大きく1万円札が描かれ、運転席背後のカーテンはお札をデザインしたもの。行灯の表記は聖徳・太子・現金輸送車・日本銀行御用達などお金に関する物が多い。(なおお金は運んだことがない)

やもめと名乗っているが、妻子持ち。嫁の名前は「君江」で、母ちゃんと呼んでいる。子供は実子の幸之助・幸次郎・美智子・華子・幸三郎・サヤ子・幸四郎・幸五郎・幸六郎の他に捨て子だった由美がいる。既婚者なのに行灯に「花嫁募集中」とあるのはツッコミ無用。
ちなみに母ちゃんもトラックを運転でき、長距離の仕事から帰ってきたジョナサン相手に夜の情事を迫るのがシリーズのお約束。

やもめのジョナサン号の車種は第1作目のみ三菱・Tシリーズ650型、第2作目以降は同じ三菱・Tシリーズ652型。

  • 哥麿
演:宮崎靖男
口ひげを生やした桃次郎・ジョナサンの仕事仲間。第3作以降最終作まで全て出番が存在する。
哥麿という役柄では第3作目が初登場だが、演者は第1作目と2作目にも出演している。1作目では台貫場で拝み倒す運転手として、2作目では宮崎という名前の運転手役で出演している。
ちなみに演者の本職は俳優ではなくトラック運転手。デコトラ団体哥麿会の創設者で、トラックの手配を担ったすごい人。

シリーズ作品一覧

  • 御意見無用
1975年8月公開のシリーズ第1作目。
後述するが、元々企画がポシャった別の作品の穴埋めとして急遽制作されたため、2作目以降と比べると設定に違いが多く、桃次郎に殴りかかったり、ケンカを挑んだりと血の気の多いジョナサン、ラストの激走で警察から援護するライバルがいないなど違和感を感じやすい。
ラストは盛岡から下北の港まで8時間かかるところを2時間で走り抜ける。

  • 爆走一番星
1975年12月公開のシリーズ第2作目。
御意見無用が大ヒットしたことで正月映画もトラック野郎で行こうと東映の岡田社長が決め、制作が決定。ちなみにサブタイを決めたのも岡田社長。
挿入歌として西来路ひろみの歌う「残り火の恋」が使用されているが、脚本が完成した段階で使用することが決まったために直す時間がなく、殆ど聞こえないレベルまで音量が絞られている。その西来路ひろみも土産物屋の店員として出演している。
ラストは日付が変わるまでに長崎へ向かうよう頼まれ、岡山から長崎目指して爆走する。
本作に登場するバキュームカーの雲竜号は東映が調達して改装したものではなく、実際に業務に使用されていたものを借り受けた。

  • 望郷一番星
1976年8月公開のシリーズ3作目。
冒頭の過積載検問のシーンに松鶴家千とせがドライバーのニヒル役で出演。持ちネタの「わかるかナ?」を披露している。
ラストは18時の札幌での競りに間に合うよう、生魚40トンを載せて釧路から札幌まで爆走。追ってくるパトカーをクラッシュさせ、落橋寸前の吊橋を無事に渡り、最後は市場内でタイヤがバーストして自走不能に。

  • 天下御免
1976年12月公開のシリーズ4作目。
当初のタイトルは「一番星とサーカスの花」になるはずだったが、制作協力するはずだった木下サーカスから作中のサーカスの描写についてクレームが入った結果天下御免にタイトルが変更された。これに合わせてマドンナの設定も変えられている。
ラストは20トンの荷物と女性を倉敷から境港経由で京都に17時までに送り届けられるよう爆走する。今作は警察との激突シーンがない。

  • 度胸一番星
1977年8月公開のシリーズ5作目。
シリーズで唯一桃次郎がマドンナと相思相愛になるが、そのマドンナは台風で命を落とし、桃次郎の思いは叶わないものになる。
ラストは公務執行妨害と過積載で逮捕されたジョナサンが運ぶはずだった3000万円相当のブリを桃次郎が運ぶことになり、金沢から新潟へ向けて爆走する。

  • 男一匹桃次郎
1977年12月公開のシリーズ6作目。
警察官役として桂歌丸三遊亭小圓遊が出演している。
ラストは佐賀県の唐津からマドンナの想い人が待つ鹿児島空港に向けて6時間はかかる道のりを4時間で走り抜ける。なおこの頃の九州自動車道は鹿児島空港近傍まで伸びていない。

  • 突撃一番星
1978年8月公開のシリーズ7作目。
SFブームを反映し、一番星号にUFOの飾り付けや宇宙と交信するパラボラアンテナが取り付けられている。天下御免に代議士役で出演していた金子信雄が今作では急患の受け入れを診療時間外を理由に断る病院の院長役で出演している。
ラストはマドンナと重傷を負ったマドンナの恋人を乗せて日曜日でも受け入れてくれる病院を探して爆走する。

  • 一番星北へ帰る
1978年12月公開のシリーズ8作目。
当初はマンネリを打破するために「波頭を越える一番星」というタイトルで沖縄の暗い一面を含んだ企画が提出されたが、岡田社長の「南はあかん!」という指令により、東北が舞台となった。
それでも桃次郎の過去が描かれる、マドンナが子連れの未亡人で桃次郎が一目惚れしないなどシリーズ屈指の異色作。
ラストは花巻から200km離れた岩手県の大野村に向けて人工透析機を積んで爆走する。

  • 熱風5000km
1979年8月公開のシリーズ9作目。
本作ではジョナサンが個人ドライバーから運送会社の雇われ運転手に転身している。今までのライバルは全員自分の車を持つ個人ドライバーだったが、本作のライバルは雇われ運転手で自分の車を持っていない。またマドンナがトラックドライバーとしてハンドルを握っているのは今作だけである。
ラストは石垣島へ漁船に乗って帰る母親に幼子を会わせるため、長野県の上松から富山県の魚津まで爆走する。

  • 故郷特急便
1979年12月公開のシリーズ最終作。
本作は同時上映作品の不振により、およそ3週間ちょっとしか劇場上映されなかった。
ラストはマドンナを乗せて特急列車で3時間半かかる高知から高松港への道のりを2時間半で爆走する。

制作の経緯と終了に至る経緯

元々ジョナサン役の愛川欽也がアメリカのロードムービードラマの吹き替えをしており、いずれ自身主演のロードムービーを作りたいと考えていた。そんな時にちょうどトラックドライバーのドキュメンタリー番組が放送され、バラエティ番組で共演した菅原文太と共に自らトラック野郎の原型となる企画を東映に持ち込んだ。(そのドキュメンタリーには哥麿の演者も出ていた。)
当初は東映の岡田茂社長も前向きだったが、後の企画会議で「トラックの運ちゃんの映画なんて誰が見るんだ!」と一蹴され、一旦企画はボツに追いやられてしまう。
しかし別の映画の企画が俳優の都合でポシャってしまい、岡田社長の鶴の一声でボツ企画から復活した。
あくまでも没になった映画の穴埋めとして作られ、シリーズ化の予定はなく、予算も潤沢とは言えなかった。しかしこれが蓋を開けてみたら同年公開の別の大作映画よりも大ヒットし、すぐにシリーズ化が決定した。

興行成績は安定しており、ジョナサンの子供を演じる子役が総入れ替えになったこと以外、演者の大規模な交代はなかった。
しかしシリーズが続くに連れて興行成績が落ち、10作目を以て事実上の打ち切りとなった。打ち切りの理由として
  • 菅原にとって桃次郎を演じることが苦痛に感じており、スタッフから興行成績について嫌味を言われた事をきっかけに降板すると言った。
  • 岡田社長がトラック野郎のようなシリーズ物を盆や年末年始に公開して手堅くコツコツ稼ぐよりも、大作映画を稼ぎ時に公開して一気に稼ぐ方向に転換した。
  • コケにされまくった警察からクレームが入った。またトラックの違法改造も警察が問題視していた。
などが言われているが、真相は定かではない。

またある映画雑誌には「延期であってシリーズ打ち切りではない」と書かれたものの、その後には

東映のいう延期は、過去の例でいうと事実上の中止であるため、もう、文太・キンキンのコンビが復活することは九分通りないだろう

と続き、実際一番星号もジョナサン号も売却されている。
ただし一番星号に関しては故郷特急便仕様の姿で電子戦隊デンジマン第8話に映り込んでおり、少なくともデンジマンのロケ中は一番星号は東映が所有していた可能性が高い。

実は90年代に1度復活させようという話が持ち上がったことがあり、脚本を書いて岡田社長に見てもらったが、辛辣なコメントをされて却下されたという。


一番星号とジョナサン号のその後

一番星号は売却後、80年代前半頃はとあるパチンコ店に看板代わりに置かれ、後半には多くの部品が欠落した廃車状態で中古車販売店に引き取られた。それを大阪府の個人トラックドライバーが購入し、修復の上仕事で使用していた。
この修復は一部の電飾や装飾までは直しきれておらず、あくまでも仕事で使用するのに必要な修復という意味合いが強かった。しかし強化された排ガス規制に適合できなくなり、2014年に哥麿会へ譲渡。
譲渡後は電飾関係を含めて徹底したレストアが実施され、現在もイベントなどで展示されている。廃車状態からの復活を2度も経験しており、伝説のデコトラとまで言われている。

一方ジョナサン号は千葉県の運送会社が購入したものの、業務用車両としての使い勝手が悪く早くに手放され、各所を転々とした後荷台箱含めて全て解体されたが、2010年に群馬県のトラックパーツショップがレプリカを制作している。

余談

炎神戦隊ゴーオンジャー第37話に登場したエンジンバンキ(CV:稲田徹)はトラック野郎シリーズを思わせる小ネタが随所に仕込まれていた。気づいたのは親世代だけだろう。

ちなみにトラック野郎というタイトルには「トラ喰う野郎」という意味も込められている。ここで言うトラとは『男はつらいよ』の車寅次郎の意味。

派生作品として『ダンプ渡り鳥』がある。こちらの主演は黒沢年男と梅宮辰夫。


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最終更新:2024年02月13日 21:35