シャーマン・ファイアフライ

登録日:2019/7/15 (曜日) 14:08:05
更新日:2019/07/17 Wed 22:18:28
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第二次大戦中、イギリス陸軍が開発・運用した戦車
アメリカ合衆国が開発したM4シャーマン戦車をイギリスが持ち前の紳士力魔改造することによって生まれた、英米合作のステキ戦車である。

ちなみに一般的には「シャーマン ファイアフライ」の名で知られているが、正式名称はあくまでシャーマン、正確には「シャーマンC型」である。

「ファイアフライ」とは英語で「蛍」の意味で、その主砲の激しいマズルブラスト(発射時に砲口から噴き出す爆炎)からつけられた愛称。
よってシャーマンファイアフライと同じ17ポンド砲を搭載する他の車両にも、同じく「ファイアフライ」の愛称で呼ばれていたものがある。


【どんな戦車?】


端的に言えば「ドイツ軍のティーガーパンターなどといった重装甲戦車に対抗するため、主砲を強化したシャーマン」である。

……え?そんだけ?と思われた方もいるだろうが、実際そんだけである。

だが当時のイギリス軍にはドイツ重戦車に対抗できる砲を持つ戦車がおらず、戦車同士の正面戦闘では一方的な不利を強いられていた。
というのもティーガーの正面装甲100mm厚に対し、イギリス軍の持つ火砲は

・ロイヤルオードナンス2ポンド砲……貫通力約30mm
・ロイヤルオードナンス6ポンド砲……貫通力約90mm
・75mm砲M3(アメリカ製)……貫通力約70mm
・76.2mm砲M1(アメリカ製)……貫通力約90mm
・3インチ砲M5(アメリカ製)……貫通力約100mm

※貫通力は距離1000mのRHA装甲に対し、一般的な徹甲弾系を使用した場合の数値

といった有様だったのである。

そのためティーガーやパンターに対抗できる砲を持つ「だけ」のファイアフライだが、しかしそれだけでその存在意義は十分に大きかったのだ。


【主砲】


ドイツの重装甲戦車どもを撃ち抜くために選ばれた主砲は、1942年から生産が始められた新型対戦車砲「ロイヤルオードナンス QF 17ポンド砲 Mk4」

名前から解説すると、まず「ロイヤルオードナンス」というのは開発したイギリス王立兵器工廠(Royal Ordnance)を指す。
次に「QF」というのは「quick-fire」つまり速射という意味で、弾頭と装薬が一つの薬莢にまとめられた砲弾(拳銃やライフルの弾みたいな形のヤツ)を使う大砲のこと。

17ポンドというのは「砲弾の重さが17ポンド(約7.7kg)」の意味で、砲口の直径を使うのがメジャーになっていた世界の趨勢に逆らい、古臭くて不便伝統的な重量表記をしているのがいかにも英国である。
ちなみにこれは正確に言うと「徹甲弾」の、それも「弾頭(敵に向かって飛んでいく先っぽ)」のみの重量であり、薬莢部分を含めた砲弾全体だと17kgぐらいになる。

Mk4というのは言うまでもなく「4番目のモデル」という意味であり、戦車搭載用に改修されたタイプであることを意味する。

口径は76.2mmで、他のM4が搭載する76.2mm砲M1と一緒。
しかし同口径ながら両者のスペックを比べると

口径比 初速 弾薬重量 弾頭重量 貫通力
76.2mm砲M1 52 秒速792m 11.2kg 7kg 約90mm
17ポンド砲 55 秒速884m 17kg 7.7kg 約140mm

と全く別次元の貫通力を実現していることがわかる。

この強烈な貫徹力の源は、端的に言えば大量の発射薬と、それによって得られる猛烈な弾速である。
砲弾の重量がM1に比べて1.5倍になっているのは、それだけ大量の発射薬を使って発射するからなのだ。
例えていうなら通常の44口径拳銃弾がM1の弾で、17ポンド砲の弾はマグナム弾みたいなものだと言えよう。
なんともストレートな力技だが、見ての通りその貫通性能はドイツの重装甲戦車を相手取るに十分な数値であり、他の戦車では太刀打ちできないその正面装甲も撃ち抜くことができた。

またこの数値は徹甲弾のものであり、新開発された「Mk1 T APDS弾」を使うとその貫通力は250mm超という凄まじい数値に達する。
これはパンターどころかティーガーIIの砲塔正面、エレファント重駆逐戦車の戦闘室すら貫通可能な数値である。


【基本構造】


前述の通りアメリカで生産、輸送されてきたM4中戦車のイギリス仕様を改造したものなので、砲まわりを除けば基本構造は殆ど同じ。
……かと思いきや、実はそれ以外にも改修点は結構多い。

箇条書きすると

1.17ポンド砲の重量で砲塔の前だけが重くなってしまったため、釣り合いを取るため砲塔後部に箱型装甲を追加、ついでにその中に通信機を搭載。

2.17ポンド砲弾は75mm砲弾の1.5倍ぐらい太く、またシャーマンは被弾時に砲弾が誘爆しやすかったため対策を兼ね砲弾ラックの配置を変更。車体左右から車体床の装甲ラック内へ。

3.砲弾ラックや砲塔旋回装置のスペース確保のため、側面装甲を一部内側から削って薄く

4.車体機銃と機銃手席*1も撤去し、そこにも装甲つきの砲弾ラックを配置。これによって乗員が5名から4名に。

5.砲尾がでかすぎて装填手の出入りに支障をきたしたため、脱出ハッチを砲塔左に追加。

6.75mm用のスタビライザー(砲安定装置)は17ポンド砲の重さに耐えられなかったため、撤去

7.流用できなかった防盾を撤去、自前で新開発した大型防盾を装備

8.トラベルクランプ(移動時に振動で主砲を傷めないように固定する装置)、砲の清掃棒、修理キットなどの車外装備品を17ポンド砲用に変更

などといった感じになる。外見ではわかりにくいが、結構いろんなところが改修されてるのがわかるだろう。

ちなみに膨大な数が生産されたシャーマンは多くのバリエーションを持つが、ファイアフライの素体となったのはその内の2種類。

最初に作られたのはシャーマンV(アメリカ名:M4A4)を素体としたもので、「VC」と呼ばれる。
素体となったM4A4はエンジンにクライスラー社の「A-57マルチバンク」を搭載したタイプである。
このエンジンは正規のエンジンが不足することを危惧して採用された代替エンジンだったが、副列30気筒という珍兵器全開な代物だったためか殆どがイギリスへのレンドリースに回されていた。

しかし珍兵器すぎてファイアフライの開発時には既に生産がストップしており、間も無く素体は通常のシャーマンI(アメリカ名:M4)へ変更された。こちらは「IC」と呼ばれる。
またシャーマンIには車体前面装甲が丸くてキュートな鋳造構造になっている「ハイブリッド」タイプもいて、こちらは「IC Hybrid」と呼ばれた。


【開発】


第二次大戦初期、イギリスでは
「これからのドイツ戦車はさらに重装甲化していくだろうし、それに対抗できる対戦車砲を開発せねばならない」
という認識が持たれ、また同時に主砲としてその砲を搭載する戦車の開発も決定された。

そのために開発されたのが17ポンド砲であり、これ自体は早くも1941年の終わりごろには完成の目途が立っていたのだが、

・ドイツのIII号戦車IV号戦車の装甲が思ったほど増強されず、既存の6ポンド砲や75mmでもそれなりに対抗できた
・アメリカから供与されたM4シャーマンが十分すぎる性能を発揮した上、大量に調達できた
・イギリス軍は鉄道輸送のために戦車にサイズ制限を課しており、17ポンド砲を乗せられる大型戦車の開発は難航した
・大航空戦「バトル・オブ・ブリテン」のため、人や資源は航空機関連に優先して回された
・初期の連敗のせいで既存兵器を大量喪失しており、その穴埋めの方が優先された

などといった理由から、それ以上の進展が殆どない状態となっていた。

だが1943年1月、北アフリカの戦いにおいてドイツの新型重戦車「ティーガーI」の存在が確認されたことで、事態は急変する。
当時のイギリス軍が主力にしつつあったシャーマンや新型のクロムウェル巡航戦車は、ティーガーに対し火力・装甲共に殆ど相手にならないほどに劣っていたのである。
それでも物量で勝るアメリカ軍は「ポーゥ キョウテキトージョーダナ?」と余裕をこいていたが、イギリスの方は「コノママレラゼンメツダナ!」とこれを深刻に受け止める。

そして17ポンド砲の完成を急ぐとともに、それを搭載する戦車も優先度をドーンと繰り上げて開発を進めていくことになった。

最初イギリス陸軍が「本命」としたのは、クロムウェルをベースに再設計したA-30(後の巡航戦車チャレンジャー)だったが、これは小型な車体に起因する様々な問題から完成が遅れまくっていた。

17ポンド砲を搭載し、かつティーガーの砲に耐える装甲を持つ重巡航戦車A-41(後のセンチュリオン)の新開発も決定したが、本格的な反撃に移りつつあったイギリス軍にとって事態は切迫しており、到底これらの完成を待っている余裕はなかった。

困ったイギリス軍だったが、そこに意外なところから解決策が提示される。
王立砲術学校のブライティ少佐、及び王立戦車連隊のウィザリッジ少佐が「ならシャーマンに乗せたらよくね?」と基礎設計プランつきで上申してきたのである。

軍上層部は面子・政治/産業的事情・自国製兵器への執着・紅茶切れなどといった様々な理由からこれを一度却下してしまうが、

・翌年6月に予定されていたノルマンディー上陸作戦に配備を間に合わせる必要があった
・A-30の開発はあまり進まず、年内に量産に入るのは難しそうだった
・砲兵用の自走化した17ポンド砲(後のアーチャー対戦車自走砲)もダメそうだった
・そこそこ強い3インチ砲M5を搭載するアメリカのGMC(戦車駆逐車)M10は、米軍内での配備が優先されたために回ってこなかった
・シャーマンは既存のイギリス戦車と違い大きなターレットリング(砲塔を差し込む穴)を持ち、簡単に17ポンド砲を乗せられそうだった
・シャーマンなら既に十分な数が供給されていたため、即座に改修・配備が開始できた
・数の上では既にイギリスの主力となっているシャーマンをそのまま流用できることは、運用面でもプラスだった
・一刻も早く17ポンド砲搭載車を欲する王立戦車軍団の新ボス、ブリッグス少将が強力な支持者となった

などの理由から最終的にはこれを認め、ヴィッカーズ社のチャーツィー技師を中心とした開発チームで本格的な実用化を進めることになったのである。
そしてトラブル続きのA-30と異なりこちらは順調に進み、プラン提出から約半年後の1944年1月には試作機の完成にこぎつけた。

またその頃になると既に他の17ポンド砲搭載車は完成時期や性能面などでファイアフライに劣ることが明白になっており、首相チャーチルからも「ファイアフライの開発・配備に全力を注げ。Fuck Hitler」の命令が出された。
このため最終テストも終わっていない1月にして既にパーツの量産が開始され、また同じく2月には2100両分もの発注がされるほどだった。


【運用】


実戦デビューは1944年のノルマンディー上陸作戦以降で、その時点で既に300両を越えるファイアフライが西部戦線向けの部隊へと配備されていた。

ちなみにその編成は通常のシャーマンとの混成が基本で、通常のシャーマン3両:ファイアフライ1両の割合で1個小隊が編成されていた。
こうした混成小隊は補給や整備の都合上、また移動性能の違いで足並みをそろえにくいため忌避されるものだが、シャーマンを小改修しただけのファイアフライはこうした編成も問題なく可能だったのである。

そして実戦に投入されたファイアフライはその強烈な貫徹力によってドイツ戦車を次々と撃破し、概ね期待通りの戦果を挙げることに成功する

特に英米はこの時点で新型戦車パンターの実態をろくに把握しておらず、正面装甲ならティーガーをも上回る(車体の実厚は80mmだが、優れた傾斜により140mm相当の防御力を発揮した)パンターが、しかも結構な数で出てきたため大苦戦を強いられた。
よってパンターの正面装甲をも撃ち抜けるファイアフライの価値はさらに高まることになり、イギリス戦車部隊の中核として「連合軍で最も重要な戦車」とすら言われるようになったのである。

しかし実戦ではその抜きんでた火力を評価された一方、急造品ゆえの欠点もまた現れてくるようになった。

最も顕著な弱点としては、車体がシャーマンそのものであるが故の「防御力不足」が挙げられる。
例えばファイアフライの徹甲弾は1000mでパンターの車体正面装甲140mmを貫くことができたが、パンターの徹甲榴弾の方は2000mでシャーマンの車体正面装甲80mmを貫通できてしまうのだ。
わかりやすく言うなら
「鉄の斧を持ち、鉄の鎧を着たパンター」 VS 「鉄の斧を持ち、パンツ一丁のファイアフライ」と言った感じであり、
「パンツ一丁でひのきのぼうを装備したシャーマン」よりはマシとはいえ、正面戦闘で不利なのに変わりはなかったのである。

また当然というべきかファイアフライの強烈な火力はドイツ側にも脅威と認識され、「ファイアフライを見つけたら他の戦車より優先して撃破せよ」という命令が下されていた。

このため戦車隊では通常のシャーマンが前衛として索敵を行い、発見した敵を後衛のファイアフライが撃ち抜くというスタイルをとったり、その目立ちすぎる長砲身を偽装(前半分だけにカモフラージュを施し75mm砲に見せたり)するなどして、なんとかファイアフライを守ろうと努めた。

またその17ポンド砲自体、決して完璧な兵器というわけではなかった。

例えば17ポンド砲はカタログスペック上徹甲弾で1000m先のパンターの正面装甲を貫通できたが、実戦では「もっと距離をつめないと抜けないんだけど!!」という声が少なくなかった。
というのもパンターの車体正面は垂直方向から55℃傾けた所謂「傾斜装甲」なのだが、こうした傾斜装甲は口径が小さい砲弾に対して特に有効に働いてしまうのである。

さらに17ポンド砲は強力な反動のため、M3やM1などと比べると命中精度が明らかに悪かった
これがAPDS弾になるとさらに悪くなり、「1000m以下ではほとんど命中が期待できない」とすら言われるほどだった。

こうした理由から、遠距離からティーガーやパンターを撃破できるはずのファイアフライであっても、実際にはしばしばもっと近距離で戦わざるを得なかった。

また他にも、

・砲弾の巨大化や無理なレイアウトから、通常のシャーマンに比べ砲手の装填速度が半分以下に
・17ポンド砲は高速でしか砲弾を発射できないため、榴弾は着弾の衝撃で壊れないように外殻を厚くせねばならず、その分中に詰められる火薬の量が減って榴弾威力が弱い
・17ポンド砲の徹甲弾は火薬が一切入ってない純粋な徹甲弾であり、貫通はできてもその後の破壊効果がちょっと弱い
・マズルブラストが激しすぎて目立つし、乗員の目に著しい悪影響を与える
・搭載弾数が通常のシャーマンに比べて少なすぎる
・重量が増えた分、機動性や足回りの耐久性が悪化している

など色々な欠点が報告されたが、基本的に「急造品なんだからしょうがないだろ!」と開き直って放置され、数をそろえることの方が優先された。
というか実際のところ、それほどまでにファイアフライは前線部隊から切望されていたのである。

製造はノルマンディー作戦以降も継続して続けられ、最終的には2000両を越えるシャーマンがファイアフライへの改修を受けている。
ノルマンディー当時には1小隊に1両が基本だった小隊編成でも、次第に2両づつ配備されるケースが増えていった。

ただし前述の通り榴弾の威力が弱かったため歩兵支援性能が低く、2両にするとバランスが悪いとして1両にとどめる所も多かったらしい。


【評価】


第二次大戦中の英米の戦車はドイツの重戦車に対し攻防共に圧倒的に後れを取っており、そんな中で唯一火力において対抗できたファイアフライの評価はとても高い。
当然欧米のミリオタの間でも人気が高く、「(大戦中)最強のシャーマン!」と称賛されることも少なくない。

しかし純粋にスペックを見た場合、「そこまでの性能か?」という疑問は残らなくもない。
ものすごく率直に言えば、ファイアフライとは「貫徹力を増強した代わりに、様々な部分を劣化させたシャーマンに過ぎない」という言い方も間違いではないのだから。

実際1943年にファイアフライの試作砲塔を参考入手したアメリカ軍でも、比較試験の結果
「17ポンド砲塔型は確かに優れた貫徹力を有するが、それ以外の殆どあらゆる性能において76.2mm砲M1に劣る」
「また76.2mm砲M1も高速徹甲弾(HVAP)を使えば1000mで130mmの貫通力を持ち、必要十分な性能がある」
「よって総合的に見れば明らかに76.2mm砲M1の方が優秀である
という結論が出された程である。AGFは死んだ戦車兵たちに謝って、どうぞ

だがしかし、兵器にとって最も重要な性質とは、何より「必要な性能を持ち、必要な時に、必要な数が存在すること」である。
高性能だが、高価過ぎてまともに運用できない」兵器など絵に描いた餅に過ぎないし、「遅れてきた名機」なんてものも遅れた時点で既に名機とは呼べないんである。

そう考えると、
「ドイツ軍のティーガーやパンターを撃破できる火力を持ち」
「ドイツへの侵攻作戦作戦が本格化した時期に」
「既存兵器を改良し、短時間で大量に用意できた」
ファイアフライは、まさに兵器として最良の性質を持っていたとも言えるだろう。


【イギリス外での運用】


とまあ実戦で優れた働きを見せたファイアフライだったが、イギリスの認識としてはあくまで急場しのぎ用の兵器であり、ドイツの敗戦に伴い製造・配備が停止され、順次新型戦車への更新が進められている。

退役したファイアフライはイタリア、レバノン、アルゼンチン、ベルギーなどの友好国に対して売却され、戦後もそれらの国でしばらくの間運用されることになる。
特にレバノンは政情不安定から内乱が続いたため、ファイアフライも現役戦車としてバリバリ活躍していた。

またこうした戦後の再利用とは別に、実は大戦中にもイギリス以外の連合諸国で運用されたファイアフライが結構いた。
なにせファイアフライは
・シャーマンと同じく、戦車として振る舞える装甲と機動性がある
・既に連合国各国に大量配備されていたシャーマンと部品や人員を共用でき、補給面でも合理的
・それでいてティーガーやパンターを撃破できる火力を持つ
と、「ドイツ重戦車が闊歩する西部戦線に来た連合国軍に、とりあえず渡す用」としてはある意味最良の戦車であった。

具体的にはカナダ、チェコスロバキア、ニュージーランド、ポーランド、南アフリカなどの戦車部隊へ供与されて活躍しており、カナダ軍のエース、ラドリー=ウォルターズの活躍などは特に有名である。

また前述したように「17ポンド砲の存在などフヨウラ!」としたアメリカ軍自身、結局のところ大量のファイアフライをイギリスへ発注する羽目になっている。
ノルマンディー以前のアメリカ軍は

・パンターは高性能だが、ティーガー同様に少数生産の駆逐重戦車のはずで、特に対策する必要はない
・どうしても必要なら、戦車駆逐大隊のGMCが急行して撃破するから大丈夫
・そもそも戦車の第一任務は歩兵支援であり、対戦車能力は必要ない

という見通しを立てていたが、これらの全てが、しかも完璧なまでに外れていた。つまり

・パンターは主力中戦車であり、III号戦車を更新するべく相当な数が量産、配備されていた
・GMCは装甲が薄すぎて使いづらい上に、陸戦ではそもそも「必要になったら急行する」ということ自体難しかった
・敵戦車が出てきた時に対抗できないのではそもそも歩兵支援ができない

というのが実際の所だったのだ。
一応前述したようにM1でも高速徹甲弾を使えばドイツの重戦車に対抗できなくもなかったが、激甘な見通しのせいで肝心の高速徹甲弾の生産量が絶望的に足りておらず、
「1か月あたり1両に1発支給されればラッキー」とまで言われる状態だった。

このためアメリカ軍では

「シャーマンじゃティーガーに勝てない?大丈夫!シャーマンがゴキブリの如く殺されてる隙に、数が多い他のシャーマンが横や後ろに回り込んで撃破するからね!」
「シャーマンじゃパンターに勝てない?大丈夫!シャーマンがハエの如く潰されてる隙に、航空支援がきて上から撃破するからね!」
「シャーマンじゃヤクパンに勝てない?大丈夫!シャーマンがアリの如く轢かれてる隙に、GMCが駆けつけてきて撃破するからね!」

といった感じの戦い方をとるしかなく、そしてまあ実際にそれで何とかしていた(ただし戦車兵は逝く)。

しかし1944年末に起きた「バルジの戦い」で、「アメリカ軍の戦車兵は、ナチスのティーガーやパンターに対し、全く性能的に劣る戦車での戦いを強いられている!」とセンショーナルな報道がなされたことで風向きが変わる。

前線の将兵にとってみれば何をいまさらという話ではあったが、本土のアメリカ国民にとってはショッキングなニュースであり、コトはこじれにこじれてほとんど政治的スキャンダルにまで発展する。
慌てた陸軍上層部は、完成はしたものの「シャーマンで十分」という判断で放置されていた新型重戦車T26E3(後のM26パーシング)の配備を進めると共に、とりあえずの急場しのぎとしてファイアフライを製造することにしたのである。
あれ、なんかデジャヴ……?

アメリカ軍向けファイアフライの製造はイギリス・アメリカ双方に発注されたが、生産・配備が終わる前にドイツが降伏したため、実際には一両も配備されることなくキャンセルされている。
ただし新規生産分ではないイギリスの保有車両がアメリカ軍に提供されており、第755戦車大隊C中隊に12両が配備されている。


【有名な戦い】


「ランジェーヴェルの戦い」

ノルマンディー上陸作戦の直後に行われた「パーチ作戦」中の6月14日、ランジェーヴェル村で起きた戦い。
イギリス第4/7近衛竜騎兵連隊のウィルフレド・ハリス軍曹が指揮するファイアフライは、占領したランジェーヴェル村の近辺でこちらに向かってくるパンター2両を発見。
あらかじめ狙撃位置を確保していたファイアフライは、800mの距離からパンターの正面に向けて発砲し、見事に2両とも撃破することに成功した。
遠距離からドイツ重戦車の真っ向正面を貫けるファイアフライの面目躍如と言ったところである。
またハリス軍曹はその後、遅れてやってきたパンター3両も側面攻撃によって撃破している。

「ミハエル・ヴィットマンの最期」

1944年8月8日に起きた、ファイアフライ関連ではおそらく最も有名な戦い。
戦闘自体は「ファイアフライや対戦車砲の一斉待ち伏せ攻撃で、ドイツ戦車を反撃の暇も与えずに殲滅した」というごくありがちな戦闘だったのだが、その「戦果」の大きさ故に非常に有名になった。
この戦いでファイアフライに撃破され乗機のティーガーIと共に戦死したヴィットマン大尉が、ドイツ第1SS装甲師団に所属するドイツきっての戦車エースだったためである。

ちなみにこの戦闘、戦車兵から砲兵、地上攻撃担当の空軍兵まで「ヴィットマンはわしが殺した」と手柄を主張しまくったため証言が入り乱れてエラいことになっており、実は現代にいたるも「誰がヴィットマンの乗るティーガー007号車を仕留めたのか」という確定的な結論は出ていなかったりする。


【バリエーション】


「ファイアフライ・チューリップ」

イギリス軍がシャーマンに現地改造を施した「シャーマン・チューリップ」のファイアフライ型。
強固な陣地や建造物にたてこもるドイツ歩兵を掃討できる大火力を持たせたバリエーションだが、その実は砲塔左右にRP-3型3インチロケット弾(60ポンド榴弾頭)をガイドレールと共にポン付けしただけという至ってシンプルなもの。
外見が限りなくメタルマックスしていて男の子に刺さる。

「レバノン政府軍仕様」

前述の通り大戦後内乱が続いたレバノンで使われたファイアフライVC。
VC型の複雑怪奇なエンジンはやはりというかなんというか信頼性に限界があったため、同じくイギリスのおさがりであるシャーマンIII(M4A2)のディーゼルエンジンに乗せ換えられている。


【ミリオタじゃない人向けの見分け方】

豆知識として、「戦車ってみんな同じに見える~!」という方や「イージーエイトやスーパーシャーマンとはシルエットが似ててわかりにくくない?」という方のために、簡単な見分け方をご紹介しよう。
数あるシャーマンの中からファイアフライを見分けるためのポイントは以下の3点で、

A.車体機銃がふさがれている
シャーマンの車体右側(向かって左側)にちょこんとつきでた丸いモジュールがあり、多くは銃身が突き出ている。ファイアフライにはこれがなく、箱型の装甲で完全に覆われている。

B.車体及び砲塔の側面にパネルのような薄い増加装甲が数枚ある
中から削った分を補強するため溶接された増加装甲。面積が広くて目立つうえ、基本的にファイアフライ専用の仕様なのでわかりやすい。

C.主砲の先端にでっかいマズルブレーキがあり、かつ後ろにいかにも後付け臭い箱がついている
17ポンド砲の反動を抑えるためのマズルブレーキがある。ビジュアル的にはもっとも目立つが、マズルブレーキ自体は他のシャーマンにも持つタイプが少なくない。

このあたりに注意すれば、君も今日からファイアフライ博士だ!


【フィクション作品】


模型


並々ならぬシャーマンへの偏愛で知られるアスカモデルから出ている、1/35各モデルが最もポピュラーか。
お値段がリーズナブルな上に出来・組みやすさともに良好であり、タミヤから出ているモデルや、ナオミフィギュア付きのガルパンモデルもこのモデルを流用している。
ちなみにかつてはファイアフライの素体はシャーマンI、V以外にもあると勘違いされていたため、模型界ではシャーマンIIをファイアフライ化したIIC型、IIIをファイアフライ化したIIIC型*2などもいる。


映画


「撃滅戦車隊3000粍」


1950年のイギリス映画で、主人公2人のうち片方がファイアフライに搭乗している。
第二次大戦終結から間もない時代の作品であり、シャーマンは勿論ティーガーすらも実物で登場する”豪華キャスト”作品で、当然「ファイアフライ役」にも実車のファイアフライが使われている。

しかし全編が小粋なブリティッシュジョークに煌めいてはいるがアクション・ミリタリー要素は控えめで、割と古典的「戦争映画」な感じ。
よって戦闘部分も割とあっさりめで、中盤では「主人公の片方が指揮するファイアフライがティーガーを撃破する」という一応の山場こそあるが、マジであっさりなので期待してみると拍子抜けする。


「遠すぎた橋」

1977年の英米合作映画で、第二次大戦における連合軍最大の失態と言われる「マーケットガーデン作戦」を映画化した作品。
当時の映画界の名優たちをずらりとならべた豪華キャストと、実物兵器を多用した迫力の映像が魅力の色あせない名作。

イギリス軍戦車として多数のファイアフライが登場する。しまくる。史実の編成を無視して。
もっとも撮影に使われたファイアフライの中で本物は1両のみで、同時に映るシーンでは通常の105mmシャーマンを改造したもの、遠景ではグラスファイバー製のハリボテを乗用車にかぶせたものらしい。

しかし多数のファイアフライが登場はするが、主役クラスとの関わりが薄く、あんまり目立つシーンがないのは残念なところか。


アニメ


ガールズ&パンツァー

言わずと知れた国民的美少女戦車アニメには、全国大会1回戦の対戦相手「サンダース大学付属高校」の副隊長、ナオミの乗車として登場。
サンダースはアメリカをイメージした学校であり、つまり幻のアメリカ軍ファイアフライということになる。でもその割になぜかVC型。

映像作品の中でも屈指のファイアフライ優遇作品であり、シャーマン系のみで構成されたサンダースにおけるエース戦車として大活躍してくれる。

主役サイド以外のネームドキャラは基本的に車長のことが多いが、ナオミは砲手を務めており、スタビライザーが外されているファイアフライで、精度が悪い17ポンド砲を、全速行進間射撃でバスバス当ててくるという人知を超えた腕前を持つ。
西住殿は通信傍受機よりもナオミ車が射撃コンピュータを不正搭載してる可能性を疑った方が良いと思う


ゲーム


「パンツァーフロント」

PCゲーム市場で発展してきた戦車シミュレーションをコンシューマに移植してみました、ってかんじのPS用ゲーム(3作目はPS2)の古典的名作。

経緯からしてかなりシミュレータ寄りのゲームであるため、装甲や砲弾貫通といった部分でもかなり精密な設定が行われているのが特徴。
しかし初代と2作目ではなぜか「ファイアフライの砲弾はAPDS弾なのだが、弾属性がAPCR(硬芯徹甲弾)になっている」という謎のバグがあり、傾斜装甲に弱いという欠点が消滅していて全車両中最強を争える貫徹力を持つ脅威の存在となっていた。


World of Tanks

PCをメインに展開中のオンライン戦車TPSで、どちらかというとリアルさよりゲーム性の方に比重をおいたカジュアルめの作品。

ファイアフライはイギリスツリーの中戦車ルート2のtier(戦車のレベル)6に「Firefly」の名でIC Hybrid型が登場する。

このゲームでは様々な戦車が国家別に登場するが、その性能を大雑把にまとめると
ソ連 大 正 義
中国・ポーランド・チェコスロバキア 同志よ!!
フランス 憧れのパリーシュ
アメリカ さすがは宿敵……
イギリス ネ タ 枠
イタリアスウェーデン 適当
日本 「などと申しております同志スターリン」
ドイツ 「なるほどシベリア送りだ」

のような感じになっていると言われている(偏見)。*3

よってイギリス所属であるファイアフライの性能も大変にネタ臭……ピーキーなものとなっている。

端的に言うと「貫通力はtier7で、HPがtier6で、他の全てがtier5」という感じで、格上に対しても脅威となる貫通力を持つ反面、格下に対しては貫通力が過剰となって唯一の長所が失われてしまうという切なさを持つ。

また通常ツリーのファイアフライとは別に、リアルマネーで買えるプレミアム戦車として、ヴィットマン撃破者の有力候補とされた*4ジョー・イーキンス砲手搭乗のファイアフライをモデルとしたVC型も登場する。
こちらは挙動がやや重たくなった代わりに他全ての性能で通常のファイアフライに勝り、プレ車補正で資金や経験値も稼ぎやすくなっている。



「17ポンド砲さん、(追記:修正の)準備はどう?」
「とっくに出来てる。いくぞ」

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