コンスタンディニとドルンティナ

登録日:2019/06/26 (水) 23:48:24
更新日:2019/06/30 Sun 17:36:17
所要時間:約 4 分で読めます




『コンスタンディニとドルンティナ(Kostandini dhe Doruntina)』は、アルバニアに古くから伝わる民話である。


むかしむかし、あるところに、10人の子供に恵まれた母親がおりました。*1
そのうち9人が息子で、末のドルンティナが娘でした。


ある日、年頃になった娘のドルンティナは嫁ぎに行くことになりました。
しかし、その嫁ぎ先というのが遠い異国の地。母は不安で仕方ありません。
「このうちに何かあったら、誰がドルンティナを連れてくるんだね?」
さらに兄弟も反対していましたが、ただ一人、末の息子のコンスタンディニだけがこの結婚に賛成していました。
コンスタンディニは言いました。
「大丈夫だよ母さん、何かあったらぼくがドルンディナを連れてくる。ここに誓い(ベーサ)を立てるよ」
「ドルンティナ、この縁談はいい話だよ。さあ、行っておいで」
家族に見送られながら、ドルンティナは遠い異国の地へと旅立っていったのでした。


ところが数年後、戦争やペストによって、一家は兄妹のうち実に上の8人を立て続けに失う不幸に見舞われてしまいました
さらに無情にも最後に残ったコンスタンディニにも、死神がまとわりつくようになりました。
日に日に弱っていくコンスタンディニ。母はたいそう嘆き、呪いました。








ああ、コンスタンディニ!誓い(ベーサ)はどうしたのかね!もしあなたに死なれたら……



誰がドルンティナを連れてくるんだね?!







一方、嫁ぎ先でドルンティナは子宝に恵まれ、幸せに暮らしていました。
ある日、彼女は近所の披露宴に招かれました。
子供たちが外で遊んでいると、一人の男が声をかけてきました。
「きみたちのお母さん、ドルンティナはどこにいるんだい?」
子供たちが中で踊っているよと答えると、男は言いました。
「伯父さんのコンスタンディニが迎えに来たと伝えておくれ」


子供たちの知らせを聞いて、外に出たドルンティナは驚きを隠せません。
「コンスタンディニ兄さん……!こんな所まで、いったいどうしたの?」
「母さんがずっと会いたがっているんだ。一緒に来てくれないかい?」
二人はすぐさま、馬に乗って遠い故郷へと出発しました。


しかしドルンティナは、だんだんと不安になってきました。
久々に会ったコンスタンディニの姿が、すっかり変わっていたことに気づいたのです。
「ねえ兄さん……肩が骨しかないみたいだわ。どうしたの?」
「ああ、長旅だったからね。それに、埃だらけだし」
「顔も何だか前と違うみたい……」
「ああそれも、埃のせいさ」
この後も、ドルンティナは兄の変わりようを心配して、あれこれ尋ねましたが、
コンスタンディニは決まって、「埃のせい」としか答えませんでした。


やがて二人は、故郷の教会までたどり着きました。
「先に母さんの所へ行ってくれないか。ぼくはキリスト様にお参りしてから行くから」
ドルンティナは兄に言われるがままに家に行き、戸口の前で言いました。
「お母さん、開けてください!」
しかし帰ってきた言葉は冷たいものでした。
「あっちへ行っとくれ、死神め!子供たちみんなをさらって……どうせ私の命も取りに来たんだろう?」
「違いますお母さん、私です、ドルンティナです!コンスタンディニ兄さんに連れられて、帰ってまいりました」
この言葉を聞いたとたん、母の声はみるみるうちに震えていきました。








何を言っているんだい……?




コンスタンディニはとっくに死んで、お墓の中なんだよ?







……そう、コンスタンディニが「キリスト様にお参りする」と言ったのは、自ら埋葬されていた墓に戻るためだったのです。
そして母が戸を開けると───









一方が口づけしました。


もう一方も口づけしました。





一方の心臓が割れました。



そして、もう一人の心臓も割れました。









  • 余談
この物語は多くの作家や芸術家にも影響を与えており、かのグリム兄弟の兄ヤーコプは「この伝説は、常に人々にとって最も衝撃的な歌の一つである」と評している。*2
中でもこの話から生まれた最も有名な作品は、イスマイル・カダレ*3の小説『誰がドルンチナを連れ戻したか(Kush e solli Doruntinën?)』であろう。
ミステリーの体裁をとりつつも、そこから浮かび上がるのは、カトリックと正教会の対立の狭間で翻弄される小国アルバニアの悲哀と、世界との結びつきを願うメッセージである。
この小説が出版された当時のアルバニアは、すべての国と国交を断絶した鎖国状態であった。
それだけに、異国に嫁いだドルンティナと彼女を連れ戻したコンスタンディニを題材にしたのは、まさに象徴的と言えるだろう。
カダレ作品では他にも、『砕かれた四月』や『草原の神々の黄昏』で、この物語が取り上げられている。


また、この物語で重要な概念となっている誓い(ベーサ)とは、アルバニアに古来から根付く慣習の一つであり、さらに掘り下げて言うなら「名誉の誓約」。
一度誓いを立てたら約束を果たさない限り、逃げられないものとされた。
これを聞くとケルトのゲッシュに近いものを感じるが、こちらは呪術的なものではなく、人間の内側から自然と生まれ、自発的に行われる道徳律・指標といったニュアンスが強いものである。
もう一つのアルバニアの慣習、(カヌン)(家族を殺されたり、名誉を傷つけられたときに復讐を正当化する慣習)も根底には誓い(ベーサ)があり、カダレ作品では『砕かれた四月』がこれをテーマにしている。


追記・修正は、遠くへ嫁いだ妹を連れ戻してからお願いします。


参考文献
ぎょうせい 1978年 小澤俊夫/編、飯富道夫/訳『世界の民話 第16巻 アルバニア・クロアチア』P138-P142
白水社 1994年 イスマイル・カダレ/著、平岡敦/訳『誰がドルンチナを連れ戻したか』
Constantin and Doruntinë
Legjenda e balada shqiptare
Besa e Kostandinit
Besa (Albanian culture)

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