登録日:2019/06/26 (水) 23:48:24
更新日:2024/01/21 Sun 17:56:41
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『コンスタンディニとドルンティナ(Kostandini dhe Doruntina)』は、アルバニアに古くから伝わる民話である。
むかしむかし、あるところに、10人の子供に恵まれた母親がおりました。
そのうち9人が息子で、末のドルンティナが娘でした。
ある日、年頃になった娘のドルンティナは嫁ぎに行くことになりました。
しかし、その嫁ぎ先というのが遠い異国の地。母は不安で仕方ありません。
「このうちに何かあったら、誰がドルンティナを連れてくるんだね?」
さらに兄弟も反対していましたが、ただ一人、末の息子のコンスタンディニだけがこの結婚に賛成していました。
コンスタンディニは言いました。
「大丈夫だよ母さん、何かあったらぼくがドルンディナを連れてくる。ここに誓いを立てるよ」
「ドルンティナ、この縁談はいい話だよ。さあ、行っておいで」
家族に見送られながら、ドルンティナは遠い異国の地へと旅立っていったのでした。
ところが数年後、
戦争や
ペストによって、一家は兄妹のうち
実に上の8人を立て続けに失う不幸に見舞われてしまいました。
さらに無情にも最後に残ったコンスタンディニにも、死神がまとわりつくようになりました。
日に日に弱っていくコンスタンディニ。母はたいそう嘆き、呪いました。
ああ、コンスタンディニ!誓いはどうしたのかね!もしあなたに死なれたら……
誰がドルンティナを連れてくるんだね?!
一方、嫁ぎ先でドルンティナは子宝に恵まれ、幸せに暮らしていました。
ある日、彼女は近所の披露宴に招かれました。
子供たちが外で遊んでいると、一人の男が声をかけてきました。
「きみたちのお母さん、ドルンティナはどこにいるんだい?」
子供たちが中で踊っているよと答えると、男は言いました。
「伯父さんのコンスタンディニが迎えに来たと伝えておくれ」
子供たちの知らせを聞いて、外に出たドルンティナは驚きを隠せません。
「コンスタンディニ兄さん……!こんな所まで、いったいどうしたの?」
「母さんがずっと会いたがっているんだ。一緒に来てくれないかい?」
二人はすぐさま、
馬に乗って遠い故郷へと出発しました。
しかしドルンティナは、だんだんと不安になってきました。
久々に会ったコンスタンディニの姿が、すっかり変わっていたことに気づいたのです。
「ねえ兄さん……肩が骨しかないみたいだわ。どうしたの?」
「ああ、長旅だったからね。それに、埃だらけだし」
「顔も何だか前と違うみたい……」
「ああそれも、埃のせいさ」
この後も、ドルンティナは兄の変わりようを心配して、あれこれ尋ねましたが、
コンスタンディニは決まって、「埃のせい」としか答えませんでした。
やがて二人は、故郷の教会までたどり着きました。
「先に母さんの所へ行ってくれないか。ぼくはキリスト様にお参りしてから行くから」
ドルンティナは兄に言われるがままに家に行き、戸口の前で言いました。
「お母さん、開けてください!」
しかし帰ってきた言葉は冷たいものでした。
「あっちへ行っとくれ、死神め!子供たちみんなをさらって……どうせ私の命も取りに来たんだろう?」
「違いますお母さん、私です、ドルンティナです!コンスタンディニ兄さんに連れられて、帰ってまいりました」
この言葉を聞いたとたん、母の声はみるみるうちに震えていきました。
何を言っているんだい……?
コンスタンディニはとっくに死んで、お墓の中なんだよ?
……そう、コンスタンディニが「キリスト様にお参りする」と言ったのは、自ら埋葬されていた墓に戻るためだったのです。
そして母が戸を開けると───
一方が口づけしました。
もう一方も口づけしました。
一方の心臓が割れました。
そして、もう一人の心臓も割れました。
この物語は多くの作家や芸術家にも影響を与えており、かのグリム兄弟の兄ヤーコプは「この伝説は、常に人々にとって最も衝撃的な歌の一つである」と評している。
中でもこの話から生まれた最も有名な作品は、イスマイル・カダレの小説『誰がドルンチナを連れ戻したか(Kush e solli Doruntinën?)』であろう。
ミステリーの体裁をとりつつも、そこから浮かび上がるのは、カトリックと正教会の対立の狭間で翻弄される小国アルバニアの悲哀と、世界との結びつきを願うメッセージである。
この小説が出版された当時のアルバニアは、すべての国と国交を断絶した鎖国状態であった。
それだけに、異国に嫁いだドルンティナと彼女を連れ戻したコンスタンディニを題材にしたのは、まさに象徴的と言えるだろう。
カダレ作品では他にも、『砕かれた四月』や『草原の神々の黄昏』で、この物語が取り上げられている。
また、この物語で重要な概念となっている誓いとは、アルバニアに古来から根付く慣習の一つであり、さらに掘り下げて言うなら「名誉の誓約」。
一度誓いを立てたら約束を果たさない限り、逃げられないものとされた。
これを聞くとケルトのゲッシュに近いものを感じるが、こちらは呪術的なものではなく、人間の内側から自然と生まれ、自発的に行われる道徳律・指標といったニュアンスが強いものである。
もう一つのアルバニアの慣習、掟(家族を殺されたり、名誉を傷つけられたときに復讐を正当化する慣習)も根底には誓いがあり、カダレ作品では『砕かれた四月』がこれをテーマにしている。
追記・修正は、遠くへ嫁いだ妹を連れ戻してからお願いします。
- カーチャンが変に連れ帰す事にこだわんなきゃ起こらなかった悲劇なのかもなぁ....... -- 名無しさん (2019-06-27 00:56:43)
- なんでそこでバッドエンドになるんだ -- 名無しさん (2019-06-27 01:12:41)
- 毒親のお話に見えるが、含意がよくわからないな -- 名無しさん (2019-06-27 11:18:35)
- オチはドルンティナも母親も死んだってことでいいのか? -- 名無しさん (2019-06-27 17:23:44)
- 英語版だと直球に「二人は死んだ」と書いてあるのに。意味不明な訳するなよ -- 名無しさん (2019-06-29 19:18:45)
- ↑参考文献に挙げたぎょうせいの『世界の民話 第16巻 アルバニア・クロアチア』 読みました?本当にそう書いてあるんですよ -- 建て主 (2019-06-29 20:31:20)
- でも子供の数が10人てことは英語翻訳版を元にしてるってことだよな。 -- 名無しさん (2019-06-29 21:08:16)
- ↑兄弟が10人というのも、世界の民話や『誰がドルンチナを連れ戻したか』が元です -- 建て主 (2019-06-29 21:12:54)
最終更新:2024年01月21日 17:56