SCP-4559

登録日:2019/05/17 Fri 01:24:48
更新日:2024/02/17 Sat 20:46:11
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ご来店ありがとうございます。…はい、お会計は2000円です。


じゃあクレジットで一括。


かしこまりました。…はい、こちらお返しいたします。こちらがレシートになりますが…


いらないです。






価値のない施し、逡巡の反応、……絶対なる自由と選択。





SCP-4559はシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスThaumiel

…え、上の文章からThaumiel要素が見当たらないって?そもそも上のやり取りはなんなんだよって?


概要

本オブジェクトに関する科学機関とその他の組織における全情報は、不正確な情報による偽装の下除去されるという特別収容プロトコルが制定されている。

で、肝心のオブジェクトの内容だが、これは一言で言うと、

食料雑貨店において個人がレシートを必要とするか否かの選択に関係する確率的異常

である。
ちなみに客が常にレシートを必要とするケース、および事前承諾なしに常にレシートを手渡すケースではこの異常は発生しない。
そうではなく、客の自由意志に基づいてレシートの授受が決定されるケースにおいては、このSCP-4559事象が発生するのである。

財団がこのレシートの授受の割合についての研究を行ったところ、
なんとレシートを客が受け取るかどうかは、性別・精神状態・財産といったステータスに一切左右されないことがわかったのである。






いやわかるよ、言いたいことは

それのどこがオブジェクトとして収容され(出来るのかそもそも知りたいが)、しかもよりによって財団の切り札たるThaumielなんだよと思うかもしれない。

しかしこれはちゃんとした理由があるのである。

ずばり。


財団が知る宇宙において唯一かつ全く予測不可能あるいは“ランダム”である現象

だからである。

よく考えてほしい。
量子力学だってシュレディンガーの猫とかでネタになるように、結果が不明なものは多々ある。
天候だって予報しても外れるときは外れてしまう。

けれど、それでも有意に「予測」を立てることは出来る。だから量子力学や天気予報というのはなりたつのである。
もし「予測」すら出来ないのなら、量子力学なんていまごろ魔法か何かと同じ迷信扱いされているだろうし、
洗濯物だって安心して干せない。

で、だ。
レシートを客が受け取るか受け取らないかは予測を立てることすら出来ないのである。
いくら支払ったか気にしそうにない金持ちがそれでもレシートを貰ったり、
逆にケチケチしたことを言うオバハンに限って、意外にもレシートは貰わなかったり。


「予測を立てることができない」のが何で大事なの?


さて、「乱数」というものをWiki篭り諸兄は知っているだろうか。
詳しい解説はこちらの記事に譲るが、乱数とはわかりやすく言ってしまえば「次に何が出るか全くわからないランダム数字」のことを指す。
たとえば、ゲームの「ランダムに起こる〇〇」(ポケモンの「ゆびをふる」とかスマホゲームのレアガチャとか)。たとえば物理現象の確率を計算する場面。
たとえばパスワードの生成や暗号化技術などのセキュリティ分野……などなど、乱数が活躍する場面は意外と多い。

もちろん、ただデタラメな数値を一回出せればそれでOKというモノでもないので、実際の現場では「予測不能な数字を出す手順(プロトコル)」、言うなれば乱数発生機が必要となる。


実は現代人類の科学力をもってしても完璧な乱数発生機を生み出すことはできていない。
コンピューターで乱数を生み出すこともできるが、それらは「疑似乱数」と呼ばれる。つまり、ある程度の偏りは存在するわけだ。
たとえばソシャゲ等で見られるガチャであっても、その偏りを見抜き、狙った目を引き当ててしまう猛者というのは存在する。言わずと知れたTASさんとか。凄腕のRTA走者とか。*1
もちろん、制作者としてはこのパターン看破を許すわけにはいかない。ゲームなら楽しみを損なう程度で済むが、これをセキュリティ関係や暗号の分野でやられればそこからハッキングを許すことになるし、科学実験なら誰かにパターンを見破られずとも正確な割合が出せなくなる。乱数にパターン=偏りがあれば、本当は20%の確率で発生する現象が「24%の確率で発生します」と算出されてしまうわけだ。

だから、誰にも、絶対に予測ができない"完璧にランダムな"乱数というのが必要になってくる。




で、財団でも収容に際してランダムな挙動をすることが求められるシチュエーションがあるようである。
我々の世界ではこういった場合、コンピュータで疑似乱数を作り出し、それをもとに実験を進めたりする。
が、オブジェクト相手にそれをやると、色違い6Vで適正性格のポケモンを狙って出してモンボ1発で捕まえるTASさんやRTA走者が如く、
あっさりパターンを見抜かれてしまうのだろう。アノマリーなめんなよってところか。
そうしたオブジェクトの収容に困った財団が行き着いたのが、「食料品店のレジの防犯カメラから確認したレシート授受の情報を利用した乱数発生器」だったのである。

なにしろパターンがないから、乱数パターンを見抜かれることもない。
よって、この手の乱数が必要となるケースでも有効と考えられたのであろう。
ヘンスワース/アリス数発生器はアメリカ合衆国内のおよそ20,000の食料雑貨店の防犯カメラの映像を利用し、ランダムに整数を作り出しているという。
そしてこれらは、39のSafeクラスアノマリー、21のEuclidクラスアノマリー、8つのKeterクラスアノマリー、2つのThaumielクラスアノマリーの収容に用いられているというのである。
まさかアメリカの買い物客たちも、自分たちの買い物が世界を救っているなんて知るよしもないだろう――。








SCP-4559 - Would You Like a Receipt?(レシートはいかがですか?)



追記・修正は、今日買い物先でレシートを受け取った方がお願いします。



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最終更新:2024年02月17日 20:46

*1 たとえば、「金曜日で秒数の末尾が2の時にガチャを引くとレアが出やすい」など。