晒し投げ

登録日:2019/05/16 (木) 22:23:26
更新日:2024/01/12 Fri 17:47:47
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自滅でしたな。自滅だよ。自滅、自滅


―秋山幸二





晒し投げとは、野球で投手が大量失点をしたのにもかかわらず、投手交代が行われずに続投し続ける状況を指す。


【概要】


炎上した姿を観客に晒す見せしめの懲罰行為として意図があるので、「懲罰投球」「懲罰続投」とも呼ばれる事が多い。

野球はアウトカウントを増やすことで進行するため、投手がアウトを取れないと相手の攻撃が終わらず大量失点に直結する。一方的な失点が続く場合は諦めて投手を交代するべきだが、何らかの事情でベンチの首脳陣が晒し投げを決断する場合もある。
投手は交代の指示が出ないと嫌でも投げる羽目になり、大量失点をしている時点でまともに抑える力がないのに更にボコボコ打ち込まれる。当たり前のように失点しながら運よく乗り越える状況が続いてしまう。
しかし実力・気力ともヘロヘロで抑える術もない投手はまぐれの打ち損じやお情けを祈るしかない。容赦ない猛攻を浴びながら投げ続ける姿は球場を悲愴感に包み、マウンドにいる投手は涙目を隠し切れなくなることも。それが中継カメラに映されるとTVの前の視聴者にすら悲愴感を味わせる。

晒し投げをさせる側の意図も様々だが、嫌がらせとしてのケースは(少なくとも近代野球では)ほとんどない。例えばエース級が晒し投げを強要されるのは「苦しい時こそ諦めてはならない」「この試合を捨ててでもお前の成長に懸ける」という期待のこもった首脳陣からの喝の意味合いが強い。
逆に敗戦処理や一軍に上がったばかりの投手が晒し投げをする場合は、「お前一軍失格だけどせめてけじめとして最後まで投げろ」という見切りだったりもする。
単に大量失点が想定外のために交代の準備がままならず、結果として晒し投げ状態になることも多いが。

異常な球数による肩の消耗や投手への強烈な精神的負担などの危険性から、晒し投げは投手の選手生命を破壊しかねないとして批判する声も大きい。
観客視点としては、お金を払って見ている試合ゆえ試合放棄のような晒し投げをされては大損である。大炎上によって試合テンポが遅延されがちであるため、エンターテイメント的にダレるという意見もある。

しかし、他の中継ぎへの負担を減らせる事や明確な捨て試合を作り出せるなど、無視できないメリットも多い。
プロ野球は春から秋まで140試合以上を戦うため、負け試合に何人もつぎ込むより一人だけフルボッコで試合を終えた方が他の投手を温存でき、チーム運営的には晒し投げによって間接的に疲労や怪我のリスクから選手を守ることができる。
晒し投げを命じられた投手としても、すぐに降ろされるよりはある程度長く投げたほうが防御率へのダメージは少なくなる事もあるので、懲罰行為にも救いはあったりする。
尤も、一軍続行が基本確定的なエース級の投手以外が晒し投げ状態になると、防御率が多少変化しようが二軍行き濃厚になるだけなのだが。

以下では、NPBにおいて起こった有名な晒し投げ状態の一例を紹介していく。


【有名な晒し投げの例】


1987年9月2月の南海戦(柏崎)で発生した園川一美の晒し投げ。この試合での完投負けはパリーグワースト記録を叩き出した。

若き園川は13失点(自責点は7)という屈辱的な失点をするが、最後まで投げ続けて汚名を被った。
この晒し投げは精神的にも肉体的にもキツイと思われたが、6日後の日本ハム戦で登板すると今度は完封勝利を果たす
この極端さは園川が記録以上に記憶に残ると言われる一例と言えなくもない。

  • 中山慎也(オリックス)
2009年5月1日の楽天戦(Kスタ宮城)で発生した中山慎也の晒し投げ。「中山晒し投げ事件」としてNPB史に名前を残した。

元々中山は制球力に難のある投手で、事件当日も3回に楽天打線に捕まり一挙8失点。
この時点でファンは中山の今シーズンの出番の終了と敗戦処理の登場を確信したのだが、何と試合の最後まで中継ぎは一切姿を見せず。
以降もグダグダな投球を見せる中山は、15安打・12失点(7与四死球、2暴投)・148球で完投と言う意味不明な投球内容を記録した。
12失点の完投敗戦は園川一美に続いてパリーグ史上ワースト2位の記録である。

大石大二郎監督は試合後のコメントで「中継ぎ陣を休ませたかったというのもあるが、途中で降板させたところで(中山本人にとって)何の勉強にもならない」とコメント。
しかし、中山はこれ以降の登板でも勉強したような投球は見られず、2009年はシーズン未勝利で二軍暮らしという中山にとって地獄のような年と化した。

  • 巽真悟(ソフトバンク)
2012年4月11日の日本ハム戦(北九州市民球場)で発生した巽真悟の晒し投げ。中継ぎが晒し投げを強要された例。

先発したレニエル・ピントが2回1/3を6失点と爆発したことで巽が後続を任されるのだが、残念なことに制球力が悪く試合は崩壊。
大量点差と秋山監督の呆れが重なったのか、巽は敗戦処理ですら出来ない敗戦処理を任され、3回2/3を11安打・4四死球・8失点と醜態を晒す。
試合は0-14と大惨敗し、巽は稲葉篤紀に二打席連続被弾(しかも満塁弾→3ランコンボ)を許してしまった。

試合後には秋山監督が『ピントの後の投手はプロじゃないね』と話したという真偽不明の怪情報が2ちゃんねるで流れるなど事態は混沌化した。
ところが、前述の秋山監督のコメントはガセであり、実際のコメントは「自滅でしたな。自滅だよ。自滅、自滅」である。
しかし、自滅という単語を連呼する実際のコメントの方が恐怖を感じるとして、秋山監督の恐ろしさを物語る代名詞の一つとなった。

  • 藤浪晋太郎(阪神)
2016年7月8日の対広島戦(甲子園)で発生した藤浪晋太郎の晒し投げ。「藤浪161球事件」とも呼ばれる。

この日の藤浪は初回から投球が荒れており、試合開始直後に四球と味方の守備が絡んで炎上した。
ところが、藤浪は5失点・131球の状況での打席でも代打を送ることが見送られ、8回も投げる事態になったが失点を重ねた。
最終的に8回7安打8失点161球という、異常な投球数と失点数に反した消費イニングの長さという滅茶苦茶な成績を記録した。
藤浪はシーズン5敗目を記録したと同時に、チームの自力Vも消滅するという後味が悪い結末に終わった。

続投理由について、金本監督は「何球投げようが10点取られようが、最後まで投げさせるつもりだった」とコメント。
しかし、金本監督の晒し投げの意図はファンやメディアの間でも大きく賛否分かれた(なんとアメリカのメディアでも報じられた)。

翌年以降は藤浪は成績的に迷走を極める事となり、迷走の原因の一つ(実際関係あるか分からないのだが)として本事件を挙げる声も少なくない。
なお、藤浪は以前にも140球以上の晒し投げをさせられており、これが初めてではない。

  • 有原航平(日本ハム)
2017年4月8日のオリックス戦で発生した有原航平の晒し投げ。

初回にいきなりロメロに2点2塁打を許すなど8失点するが、最後まで投げ切って完投負けを果たした。
8失点以上での完投負けは、球団的には1983年9月21日の西武戦(後楽園)で木田勇が達成した以来実に34年ぶりだった。

吉井投手コーチは「このチームのエースにならないといけない男。ああいうふうになっても投げる姿を皆に見せないと」とコメント。
有原は開幕試合でKOされてから2試合連続でKOされるという悔しい事態となった。



  • 美馬学(ロッテ)
2021年6月5日のDeNA戦で発生した美馬学の晒し投げ。

最少失点だったとはいえ初回から3回まで全て失点する不安定な内容のまま、4回に伊藤光の2点2塁打、オースティンの2ランなどで5失点の炎上。4回8失点となり交代かと思われたが、なんと5回もそのまま登板。
当然まともに抑えられるわけもなく楠本泰史にトドメの2ランを被弾。登板全イニング失点、5回を13安打・11失点と自己ワーストの結果となった。

この晒し投げの精神的ダメージがぬぐえなかったのか、翌週の巨人戦では3回10失点と大炎上。
2試合連続2桁失点、21失点と見るも無残な結果で2軍降格を言い渡された。

  • 近藤廉(中日)
2023年8月25日のDeNA戦で発生した近藤廉の晒し投げ。
前のシーズンは負傷もあり1軍出場がなかった近藤はこの日2年ぶりとなる出場選手登録を果たすと、8-2と敗色濃厚な同試合の9回表に4番手としてマウンドに送り出された。

しかし、先頭の佐野恵太にいきなり初球を中前安打とされると続く牧秀悟、ソトにも被安打。中堅手のまずい守備もあっていきなり2失点を喫してしまう(この2点は非自責点)。
それでも何とか2アウトは奪ったがそこからが真の地獄。次の柴田竜拓への四球からDeNAはまさかの10者連続出塁。途中強烈な三直が三塁手とカバーに入った遊撃手の双方のグラブをぎりぎりですり抜けて安打となる不運も重なり、近藤は今季初登板にして地獄を見ることとなる。

しかし、近藤を送り出した時点で中日の控え投手は勝ちパターンしか残っていなかったため、首脳陣は近藤を降板させず*1。最終的に近藤はこの回だけで62球を投げさせられ*2、8安打5四死球の10失点(自責点8)、防御率を僅か30分で72.00まで破壊されるという壮絶な投球結果となった。試合後には相手先発でこの試合で2桁勝利を達成したバウアーが取材前に近藤を激励するという異例の一幕も発生している。そして翌日、近藤はこの試合で投げた他の投手達*3ともども2軍送りとなってしまった。その翌日、近藤は酷暑の中、外野ポール間走200本を強制させさせられるという拷問が行われたことが女性セブンによって報じられた。

皮肉にもこの試合は中日・大島洋平が通算2000本安打達成まであと2本というタイミングでの開催だったことから中日のお膝元・東海地方ではNHKが地上波中継を行っていたが、惜しくもこの日の偉業達成はお預け*4となったばかりか近藤の晒し投げが公共電波で東海3県全域に発信されてしまうという、中日ファンにとって悪夢と言うべき地獄となった。


追記・修正は161球投げて13失点しても完投する投手にお願いします。

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最終更新:2024年01月12日 17:47

*1 一応ブルペンでは守護神のマルティネスと藤嶋健人が投げていたが、結局どちらも登板しなかった。ネット掲示板では「マルティネスが投げていたのは首脳陣の近藤続投の判断に反旗を翻したからで、藤嶋はそれについてきた」という話が流布されたが、マルティネスがブルペンにいた理由のソースは現時点でなく、釣りネタとみられている。

*2 1イニングで62球は巨人・斎藤雅樹が1991年に投げたのと同数で、NPB史上2位タイ。NPB史上1位は2008年に阪神・吉野誠が投げた64球だが、実は斎藤と吉野の事例も相手チームは横浜であった。

*3 この試合は先発・松葉貴大と2番手・福島章太も振るわず大量失点をしていた。3番手で投げた岡野祐一郎だけは1回を出塁0に抑える好投だったが、巻き添えを食らう形で共に抹消されている。

*4 ただし1安打は記録しあと1本までは迫った。その後、翌26日のDeNA戦で晴れて通算2000本安打を達成。