その男、凶暴につき

登録日:2019/05/14 Tue 20:26:34
更新日:2024/04/04 Thu 06:35:16
所要時間:約 9 分で読めます




コドモに、見せるな。



■その男、凶暴につき

『その男、凶暴につき(英:Violent Cop)』は、89年に松竹富士が制作、配給した日本映画。
人気タレントであるビートたけしの主演、初監督作品として注目される一方で、タレント映画の常識には当てはまらない凄まじいまでの暴力性が話題となった。
本作以降、たけしは本名の北野武名義で映画制作を続けていき日本映画界を代表する一人となる。
本作は、その北野映画の第一作目である。

主要スタッフ

  • 監督:北野武
  • 脚本:野沢尚
  • 製作:奥山和由
  • 音楽:久米大作
  • 撮影:佐々木原保志
  • 主演:ビートたけし


【概要】


【物語】

港南警察署の刑事、我妻涼介は暴力や恐喝も用いて行き過ぎた捜査を行う危険な男。
先日もホームレスに暴行を加えたのを目撃した中学生の一人の家に現行犯逮捕もせずに押し掛け、散々に脅して強引に出頭させたのが問題になったばかり。

騒動ばかり起こすので同僚からも距離を置かれている我妻を、新任の署長でエリートの吉成も危険視しており、君の様な刑事が必要だと嘯きつつ、目の上のたん瘤として釘を刺すのだった。

私生活では心を病んだ妹の灯を抱え、自分の居ない間に男を連れ込んだりする妹の行動に心を痛めたりしつつも、鬱屈した怒りを犯罪者にぶつける日々を送っていた。

我妻の唯一の理解者は先輩の岩城。
また、新人の刑事で一見すると情けない印象で周囲からもバカにされていながらも、実際には中々に有能で、何処と無く掴み所の無い菊地が相棒として付くように。

そんな中、管轄内の港で麻薬の売人である柄本の惨殺死体が発見される。
我妻は、柄本と関係のあった客を車で轢いてまで逮捕したり、売人に過剰な暴行を加えながら情報を集め、麻薬の横流しをしていたのは岩城だと聞かされる。
悩む我妻だが、その矢先に岩城は口封じの為に自殺に見せかけて殺害されてしまう。

菊地の質問には曖昧な返事を返しながらも復讐を誓った我妻は、遂に一連の麻薬ルートの首謀者である実業家の仁藤の許まで辿り着く。
仁藤の子飼いでアッー!趣味で被虐趣味の殺し屋の清弘は、自分達にまで到着した我妻を危険視し、次々に関係者を殺害した上に灯を拉致するのだった。

怒りに燃える我妻は、今や仁藤の手にも余るようになった清弘を強引な嫌疑で署まで呼び寄せ、一人だけで対面して凄まじい暴行を加えた末に銃殺までしようとする。
しかし、菊地や他の同僚達に取り押さえられて未遂に終わり清弘は釈放されてしまう。
この行為については流石に見過ごされずに免職処分が降された我妻だが、吉成のせめてもの温情によって辞職を薦められ、我妻は自ら刑事を辞める選択をするのだった。

…しかし、それでも諦めない我妻は知己の裏ルートから拳銃を手に入れて仁藤の下へ。
清弘の暴走には関知していないとする仁藤を射殺した我妻は、灯の監禁場所でもある清弘のアジトの倉庫へと辿り着くが、既に清弘は連れてきていた仲間達とのトラブルにより重傷となっていた。
しかし、清弘は向かってくる我妻に何発かの弾を撃ち込むが止められず、反対に頭を撃ち抜かれて殺される。
そこへ、監禁されている間に薬漬けにされて犯され続けたことで完全に壊れてしまった灯が現れ、死体となった清弘の身体をまさぐって麻薬を探すのだった。

妹が身も心も完全な廃人に成り果ててしまった事を察した我妻は、何も言わず灯を射殺する。
全てが終わり倉庫を後にする我妻。しかしその矢先に突如として何者かに暗闇から打たれ死亡する。
それは仁藤の配下の新開だった。そして我妻を始末した新開は密かにこう呟く。

「……どいつもこいつもキチガイだ…」

……こうして、狂宴は終わった。

それから暫く後、かつての仁藤のオフィスを菊地が訪れた。
仁藤の後を引き継いだ新開は菊地に金を渡し、菊地に岩城の替わりが務まるのかと問うと、菊地は不敵な笑みを浮かべて余裕だと応えるのだった。

何かを感じた新開の秘書の視線が菊地を追っていくことを捉えた場面で物語は終わる。


【主な登場人物】


  • 我妻涼介(ビートたけし)
主人公。
暴力を利用した強引な捜査ばかりをする凶暴な刑事。

  • 我妻灯(川上麻衣子)
我妻の妹。
精神を病んでおり、長らく施設に入っていた。

  • 菊地(芦川誠)
新人刑事。生真面目に見えて一組ずつ女性バーテンが相手をするようなバーに出入りする等、意外な一面がある。

  • 吉成(佐野史郎)
まだ若い新署長で、発言からキャリア組のエリートだと思われる。
自分の居る一年間だけは我妻に大人しくしていてくれと冗談めかして言っていたものの……我妻を疎ましく思う反面、事情を聞き出す相手として重宝していたような面も。

  • 岩城(平泉成)
我妻の唯一といっていい、頭の上がらない先輩だが、金が必要だったのか密かに麻薬の横流しを行っていた。
その事実を知った我妻本人に事情を話す等していたものの、その矢先に消されてしまう。

  • 岩城の妻(音無美紀子)

  • 仁藤(岸部一徳)
実業家として高級レストラン経営をする反面、売人達には知られていないものの、麻薬の密売ルートのトップとして君臨していた。
我妻を懐柔しようともしたものの、自らの理屈の通じない我妻に呆けなく射殺されてしまう。

  • 新開(吉澤健)
仁藤の腹心。

  • 秘書(速水渓)

  • 清弘(白竜)
仁藤の飼っている残忍な殺し屋。
男色趣味者。

  • 柄本(遠藤憲一)
麻薬の売人。
清弘に麻薬の出所を盾に、より高い地位を望む交渉を行うものの、その最中に殺される。

  • 橋爪(川上泳)
麻薬の売人。
我妻とも顔見知りで、凄まじい暴力の末に麻薬の出所が岩城であることを話してしまい、清弘に消されてしまうことになる。

  • 清弘の手下
織田(寺島進)、植田(小澤一義)、片平(佐久間哲)と名前が設定されている。
灯をレイプして薬漬けにするも、追い詰められていく清弘の狂気に反抗しようとしたしたことで殺されてしまう。



この他の主な出演は石田太郎、上田耕一、等。


【余談】


  • 準主役級の配役となった芦川誠は、売れない役者としてバイト生活をしていた所を草野球を通じて軍団と知り合ったことが縁でたけしに拾われた。以降、北野映画の常連となると共に安定した役者人生を歩むことになる。また、この後でドラマで大ブレイクする佐野史郎や、芦川と同じく北野映画の常連となると共に映画、ドラマでの活躍が増えていった寺島進も本作では脇役ながら既に起用されており、興行成績に関わらず「後に売れる俳優を見出だす」北野映画のジンクスは既に発揮されているのかもしれない。

  • 2012年の英映画『セブン・サイコパス』で主人公が見ているのが本作。監督のマクドナーが北野映画の大ファンであることから。



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  • ……どいつもこいつもキチガイだ…

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最終更新:2024年04月04日 06:35

*1 芦原誠によると剣道着に身を包んで「 赤胴鈴之助だ!」と突入してきたという。

*2 実際に、たけしは興行的には失敗となった映画も少なくない。