SCP-1955-JP

登録日:2019/04/07 Sun 01:25:24
更新日:2024/01/21 Sun 18:25:10
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この子を、そちらにお送りします。
みなさんの元で一緒に暮らし、お役にたつのが夢なのです。
心やさしい子ですから、みなさんのために精一杯 きっとがんばってくれるはずです。
どうか、よろしくお願いします。

酩酊街より 愛をこめて





SCP-1955-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト (SCiP) の一つ。
メタタイトルは「やさしい子」。
酩酊街」出身のオブジェクトのひとりでもある。
オブジェクトクラスはEuclid。


特別収容プロトコルは以下の通り。


SCP-1955-JPは小型の複合型発信機を取り付けた上で、内面に緩衝材を設けた標準規格猛獣飼育ケージ内にて管理されます。ケージは防音加工を施した中規模収容コンテナの中心部に設置され、コンテナ内における職員の発話、特に感謝や賞賛に類する表現はその一切が禁じられます。SCP-1955-JPのバイタルサイン並びに身体状況は常時モニタリングし、予期せぬオブジェクトの衰弱に備えてください。オブジェクトの転移事象が発生した際は、発信機からの取得情報と民間人等による各種通報記録の統合から転移先を割り出し、地区配備職員による早急な再確保手順が成されます。




SCP-1955-JPが何かというと、首に麻のバッグをかけたオスのわんこ。犬型のオブジェクトである。
見かけこそただの犬だが、DNA上ではかつて日本にいた絶滅生物・ニホンオオカミそのものであること、飲まず食わずで排泄もしないのに生存できていること、テレポートする能力を備えていること、非常に強力な生命力と薬剤耐性を持つなど、よくよく見ると異常存在なのには違いない。



先ほど「首に麻のバッグをかけた」と述べたが、SCP-1955-JPは困っている人やトラブルに巻き込まれた人の前に現れ、その麻バッグからドラえもんのごとくその場その場で役立つものをプレゼントし、その人に感謝されたり褒められたりすると何処かへ消え去るという行動パターンを繰り返し取っている。
つまりこいつがすることは基本的に善意の、それも捻りや曲解の一切ない「人助け」である。



発生場所: 東京都 ██区 ███公園

事案内容: 夜間パトロール中の警察官によって保護された児童の側に、SCP-1955-JPが目撃されました。児童は当時保護者による“躾”として屋外環境に放置されており、発見時のSCP-1955-JPはブランケットを羽織った児童に自らの身体を寄せ、暖める様な仕草をとっていたと報告されています。保護に当たった警察官がSCP-1955-JPの行動を賞賛すると、当該オブジェクトはその場から消失したとされます。

付記: 警察組織内での報告を経てその発生が把握された事案の1つです。後に行われた当該児童に対する聴取から、所持していたブランケットはSCP-1955-JPがSCP-1955-JP-Aから取り出し提供したものであると証言されました。



ただ人助けをするだけでなく、出現時の状況によっては臨機応変な対応、空気を読んだ行動もできる優秀なわんこでもある。
例としては、意識不明の者がいれば吠えて助けを呼び、凍える子供がいれば身を寄せて温めてくれるなど。現実の犬にもこうした気配りのできるものはいるが、SCP-1955-JPもその例に漏れずというわけである。

有用かつ無害な為、本来ならそのまま放置・隠蔽してもいいくらいなのだが、そこは財団、異常存在とあればそれが何であれ収容しなくてはならない。
複数の目撃証言をもとに、財団はSCP-1955-JPの捕獲に踏み切ったのだった。



































SCP-1955-JPは収容された。






現在確保されているSCP-1955-JPの様子は、当初目撃者より証言されていた内容・写真記録等と大きく変わり非常に凶暴かつ敵対的です。発見された際の当該実体は全身に重度の熱傷を負っており、表皮は一部が炭化や壊死による組織の脱落、それに伴う創面への感染症を表していました。内部組織・骨格にも損傷と治癒の痕跡がみられるほか、表皮の付着物からは灯油が検出された事などから、SCP-1955-JPは人為的に損傷を受けた事が推測されています。




灯油をまんべんなく浴びせられ、生きたまま全身の皮膚を焼かれていた。
骨には折れた形跡、内臓には傷ついた痕があり、まるで殴る蹴るといった暴力を振るわれでもしたかのような有様だった。
その状態でなお生きていた。

SCP-1955-JPは、あの名犬であったことを疑うほど、身も心も、痛々しく荒み変わり果てていた。



SCP-1955-JPが捕獲されたのはとある大学生グループによる通報がきっかけだったのだが、端的に言うと彼らが犯人だった。
犬猫や小動物をつかまえては集団で虐待する。件の大学生グループはそうした「遊び」を日常的に行っているらしかった。SCP-1955-JPは、そんな彼らの被害者のひとりとなってしまったのだ。

結論を言えば、財団は大学生達に罰を与えることをせず、事情聴取と記憶処理といういつもの手順だけを踏んで彼らを釈放した。
罰しなかったのではない。できなかったのだ。

財団はオブジェクトと自らの存在を隠す秘密組織である。
たとえその大学生たちを罰したとて、その記憶を彼らに残すことは許されない。財団の、オブジェクトの存在が世間に知れることなどあってはならないからだ。
だから、オブジェクトへの虐待「ごとき」握り潰さねばならないのだ。
財団は残酷ではないが、冷酷である。
……否。冷酷でいなければならないのである。

虐待の末、人間を激しく憎むようになってしまったSCP-1955-JPは、今なお財団によって収容されている。
SCP-1955-JPが持つ強力な薬物耐性により麻酔も効かず、そして全身が炭になるほど焼け焦げてなお生きていられる生命力ゆえ、財団も苦痛を味わい続けるSCP-1955-JPをどうすることもできない。



財団の理念「確保・収容・保護」には、「人類を異常存在から守る」という意味と同時に、「異常存在を悪意ある人間から守る」という意味も含むのだが、今回に至っては、財団はその任を果たせなかったことになる。

過ぎてしまった今はもう、ただただ「収容」し続けることでしかSCP-1955-JPを守れないのである。




そのうち、「酩酊街」からの手紙が届くようになった。


回収日: 20██/██/██

あの子は元気にしていますか?
みなさんのお役にたてていますか?
あの子の夢が叶っているなら、私たちはとても嬉しいです。

……言えない。




あの子は元気にしていますか?
幸せに暮らせているでしょうか?
さいきん返事がこないので、ほんの少しだけ心配です。




言えない。
今の彼がどうしているか、だなんて。



あの子はあなたと一緒にいますか?
お返事くださると幸いです。





誤魔化してしまおうか。
あるいは、本当のことを打ち明けるべきか。




今度、そちらにお邪魔します。
ご迷惑だったらごめんなさい、お土産もたくさんお持ちしますので…
その時がきたら、よろしくお願いします。

酩酊街より 愛をこめて


知られてしまう。
人間のためにやってきた彼を、その人間が虐げたことが知られてしまう。
もしも酩酊街の人々が今の彼を目にしてしまったらーーー




愛をこめて、追記・修正をお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1955-JP - やさしい子
by rkondo_001
http://ja.scp-wiki.net/scp-1955-jp

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最終更新:2024年01月21日 18:25