塩屋敷の旦那(東方Project)

登録日:2019/03/19 Tue 22:12:30
更新日:2024/04/09 Tue 12:24:17
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……残念ながら、妖怪の魔の手から守るべき人間はもう居ない


本項目における塩屋敷の旦那とは、東方Projectのコミカライズ作品『東方鈴奈庵』第36・37話「人里に湧く馬の酔う木 」に登場する人物である。
当エピソードのキーパーソンではあるが作中では旦那自身は一度も登場しておらず、彼に関する描写は全て小鈴をはじめとした他の人物による発言によるもの。
そして、このエピソードは『東方』屈指の後味の悪いオチで締め括られる。



【概要】

人間の里でも有数の財力を誇る塩問屋、通称“塩屋敷”の主人。
名前は不明だが、作中では主に“旦那”または“長者”と呼ばれる。
鈴奈庵のお得意様で、正月明けには小鈴が園芸の本*1を回収しに塩屋敷に行っている。これらの貸本は綺麗な状態で返却している。


昔は良い人柄だったそうだが近々は滅多に姿を見せなくなり、家族同然の馬をまだ元気だったにもかかわらず殺すように使用人に命令する事が多くなっていた。年末には必要以上に馬の屠殺を繰り返していたらしく、殺した馬の味を気に入ってよく食べていたという。


他にも、使用人を長く仕えた者であっても追い出すなどのような奇行が目立つようになっていた。イラストのみながら室内で日本刀を振り回して家具を破壊した様子さえ確認でき、傍から見ても彼が乱心したとしか思えないような有様だった。


また、作中冒頭では屋敷の敷地内にある墓地を囲むように植えてあったアセビの木を使用人に伐採させていた。このアセビは使用人や魔理沙の発言から長年植えてあった物をわざわざ、それも冬に伐らせていたようだ。アセビは魔除けや動物除けのために墓地に植えられる事が多いと言うが、妖怪や野生動物がはびこる幻想郷ではこの行動が他者にどう見られるかは考えなくても判るだろう


人が変わったかのような常軌を逸した行動が目に余るようになった事から不審に思った霧雨魔理沙が彼の周辺を調査していた。この事は博麗霊夢も把握しており、二人はかねてより旦那をマークしていたようだ。


本を回収し終えて鈴奈庵に帰ってきた小鈴は、玄関からただならぬ気配を感じた。彼女が思わず玄関を出ると、外には深い霧が広がっていた。そこで小鈴は霧の中から馬らしき存在が近づいてくるのを目の当たりにした。


その馬には、首がついていなかった。



【人里に湧く馬の妖気】

首の無い馬を見たショックによりその場で気絶した小鈴だったが、マミゾウの助けもあってか翌日には店番に復帰していた。小鈴は事情を聞きに来た魔理沙とマミゾウに首の無い馬の話をする。当初マミゾウは霧の日に乗馬して里の中を歩く者はいないだろうと話していたが、魔理沙の光の乱反射による見間違い説を聞き納得した様子だった。結局、その場では首の無い馬は小鈴の見間違いだったという事で結論付けられた。


実際にはそんなはずもなく、小鈴に気を遣ってあっさり自説を撤回したマミゾウに腹を立てた魔理沙は一連の経緯を霊夢に相談した。すると霊夢は小鈴の見た物を「首無し馬」という名前の妖怪ではないかと語った。霊夢曰く、不気味な見た目ではあるが歳神様が乗る縁起の良い存在らしい。だが、魔理沙が塩屋敷の旦那が馬を殺し続けている話を霊夢に伝えると彼女の態度は浮かない物に変わった。


同じ頃、マミゾウもまた首の無い馬の正体を察していた。
それは、“馬憑き”という極めて危険なおぞましい妖怪だろうとのこと。
馬憑きは人間の口に頭から入り込み、その人間を完全に支配するという。そして人間がこの妖怪に取憑かれたら最後、二度と元には戻らない
これほど性質の悪い馬憑きだが憑依できる人間にはある一つの条件が存在する。


……大切な馬を粗末に扱った人間である。


マミゾウは首の無い馬の話を聞いて塩屋敷の旦那に馬憑きが憑依した事を確信したが、今回は人里で人間に憑依した馬憑きの大胆さに興味を抱いたため、応援するべく静観を決め込んだ。その矢先、彼女は塩屋敷に駆けつけた霊夢とすれ違う。霊夢が塩問屋で起こっている事に気付いたのかと警戒するマミゾウ。しかし、霊夢は屋敷に入ることなく踵を返したのを見てほっと安堵する。


だが霊夢は一本残らず伐採された屋敷のアセビを目にした直後、沈痛な面持ちで呟いていた。



アセビは馬が嫌う木。この屋敷のアセビが全て伐られているという事は……

……残念ながら、妖怪の魔の手から守るべき人間はもう居ない



【真実は馬酔木の中に】

小鈴が首の無い馬を目撃してから数日後、彼女は喪服に身を包んでいた。


塩屋敷の旦那が亡くなったのだ。


“病死した”旦那は鈴奈庵の常連だったため、その葬儀には小鈴も参列するのだという。


鈴奈庵を訪れていた魔理沙から「首無し馬は吉兆だ」と伝えられた小鈴だが、数日前まで元気に園芸の本を借りて読んでいた旦那が急死した事に疑問を抱いていた。そこに事件の香りを感じた小鈴に呆れた魔理沙が口止めをした。


その後、田畑を行く葬列を遠目に眺めるマミゾウを“仕事を終えた”霊夢が問い詰める。
惚けるマミゾウを睨む霊夢だったが、彼女自身も旦那の件については「塩の長者の悪行から生まれた悲劇」として納得していたためマミゾウをそれ以上追及することはしなかった。


【元ネタ】

やむを得ない事情があったとは言え“霊夢が人間を殺害した”というこのエピソード。


この話に登場する馬憑きは日本各地に伝承が残る妖怪ではあるが、“塩の長者”、“飼っていた馬を殺して食べていた事”、“馬憑きが長者の口の中に入り込む”といった点から直接の元ネタは江戸時代の怪談『塩の長司 (塩の長次郎とも) 』だと考えられる。
巷説百物語』でも取り上げられたこの話では、馬憑きに憑依された長者は苦しみのあまりこれまでの自分の悪事を叫び続けた挙句重い荷物を背負った馬のようになって死んでしまったという。
東方における馬憑きと伝承上の馬憑きの性質が全く同じとは限らないが、多くの伝承では馬憑きの犠牲者は精神に異常をきたした末に悲惨な死を遂げている『巷説百物語』では「馬の食べ過ぎで虫(寄生虫)に当たった」という身も蓋もない考察がされたが


霊夢のした事は外の世界から見て全面的に正しいとは言えないかも知れない。しかし、この事をふまえて考えると幻想郷とそこに生きる人間を守るのが仕事の博麗の巫女は同時に、一人の人間の尊厳を守ったと推察できる。

そして時は過ぎ、令和の時代、なんと馬をモチーフとしたキャラクターが登場することとなる。



やれやれ、馬憑きもあっさり追記・修正されてしまったのう
Wiki籠りが妖怪になったら面白いと思ったんじゃが


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最終更新:2024年04月09日 12:24

*1 18世紀に永田調兵衛が書いた『大倭本草』や外来本の園芸雑誌など