ヒュドラ(ギリシャ神話)

登録日:2019/3/17 (日曜日) 23:09:00
更新日:2024/02/14 Wed 07:40:56
所要時間:約 11 分で読めます




ヒュドラとはギリシャ神話に登場する海蛇の姿をした怪物である。
名前はギリシャ語で水蛇を意味するhydrosに由来し、英語ではハイドラとも。
ヒドラと表記することもある。

猛毒を持っており、ヘラクレスがその毒を用いたことでも知られる。

▽目次

概要

●多頭の怪物

テュポンエキドナの間に生まれた数ある怪物の一体であり、
黄金のリンゴを守っていた多頭竜ラドンや冥府の番犬ケルベロスとは兄弟の関係に当たる。

首の数は伝承によって5本から9本と一定しないがとにかく多頭であることは確かで、
体内には非常に強力な猛毒を備える上に首は斬り落としても再生するだけでなく増えるという厄介な特性を持っており、
しかも中央の首だけは不死身だった為どうやっても殺すことができないという攻守ともに優れた反則のような能力を備えていた。


ヘラクレスの12の試練の2つ目の試練に登場する事で有名であり、
再生力と猛毒でヘラクレスを苦戦させるものの、従者として同行したイオラオスが持っていた松明で傷口を焼いたところ再生不能にできることが判明し、
中央の首以外を全て切り落とされる。
先述した通り中央の首だけは焼いても切っても死なない言わば不死身の首だったため、
やむを得ずヘラクレスは大岩で中央の首ごと岩の下敷きにすることでこれを倒した。

ちなみにこの時泉に住み着いていた巨大な蟹でヒュドラの兄弟でもあったカルキノスはヒュドラを援護しに行くもあっさり踏みつぶされて死亡している。
死後はヘラの手によって天に上げられ、それぞれうみへび座とかに座になったとされている。


●ヒュドラの猛毒

ヒュドラの猛毒に目を付けたヘラクレスはそれを鏃に塗り、毒矢としてその後の試練でも使うようになるのだがこれが数々の悲劇を生むことに…

4つ目の試練であるエリュマントスの猪生け捕りの際にケンタウロスとの協力もあって何とか討伐に成功するものの、
ヘラクレスがケンタウロスの酒を勝手に飲んだことで諍いとなってしまい、その際にヒュドラの猛毒を使った矢を放ったが
誤ってケイローンの膝を射てしまった。
神の血を引くケイローンは不死だったがそれが仇となってしまい死ぬこともできずに
地獄の苦しみを味わい、その苦痛から逃れるべくプロメテウスに不死の力を譲るとそのまま昇天してしまった。
このことはさしものヘラクレスの心にも遺恨を残しており、同時にこれが悲劇の序章に過ぎないとは思いもしなかった…

6つ目の試練ではステュムパリデスの怪鳥を討伐するためアテナから借りた銅の楽器を打ち鳴らして
驚いて飛び立ったところを次々に撃ち落とすのに使われた。
殆んどを撃ち落としたようだが数羽は取り逃してしまったという。

10番目の試練では巨人ゲリュオンを難なく射殺し、彼の飼う牛を奪い取ることに成功した。

そして最後に登場するのが試練が終わった後である。
12の試練を達成し、ようやく平穏な暮らしを手に入れたヘラクレスはニンフのディアネイラと結婚し、幸せに暮らしていたが、
悪しきケンタウロス・ネッソスによって強姦されかけているのを見たヘラクレスはこれを毒矢で射殺した。
だが死の直前ネッソスは自分の血は媚薬になるので衣服に漬けるといいと言い残していた。

この言葉を信じていたディアネイラは丁度ヘラクレスがオイカリアの王女へ変心しているのを知り*1、これを着せた。
だがネッソスの遺言は全くのデタラメであり、着せた途端に肌は焼け爛れていき苦しみ始めた。
ヒュドラの毒は血液と混ざっても毒性は全く消えていなかったのだ。
それを後悔したディアネイラは発狂し首を吊って死んでしまう。

半身が神であり、かつて自分が死に至らしめたケイロン同様にもがき苦しむヘラクレスは自分がもう助からないと悟ると、
積み上げた木の上に体を横たわらせ、そのまま火をつけることで肉体を全て焼き尽くし天に昇って行った。

このようにヒュドラ自身は試練の序章で討伐されたにすぎないがその猛毒は物語の最後まで禍根を残し続け、数々の悲劇を生んだ挙句、
最終的には自分を討ち取ったヘラクレス自身をも葬ったのだった。



余談

刺胞動物にもヒドラという生き物が存在し、こちらもその名に恥じぬ強い生命力と再生力を備えている。
無論、神話のヒュドラが名前の由来である。

毒の強さは最後まで衰えることなく、不死であったはずの賢者に死を選ばざるを得ない苦痛を与え、
最終的にはギリシャ神話最大の英雄をも死に追いやったことから神殺し、
或いは英雄殺しの魔物と言われることもあるのだとか。

ヒュドラのような多頭の竜や蛇はオリエントを中心に世界各地の神話に登場し、
特にあの八岐大蛇とは姿が酷似していることからギリシャ神話も
何らかの形で日本にも伝わったのではというトンデモ説がある。



創作物に登場するヒュドラ

そんなヒュドラだが現代の創作文化にもよく登場する。
多頭というインパクトからファンタジー系の創作ではひっぱりだこであり、しばしば毒属性の強大なモンスターとして登場するが、
首の再生能力まで再現するのはなかなかの難題であるせいか、単なる猛毒の多頭蛇として扱われる事も多い。

ちなみに手足が生えた多頭のドラゴンの姿で描かれることもあるが、こちらも原典においては海蛇として伝わっている為、厳密にはドラゴンではない。

稀に再生能力持ちで弱点を突かないと絶対に倒せないとされることがあったり、
海蛇の姿でなくとも猛毒を持っていたり不死身に等しい再生能力を持つモンスターの名前にこのヒュドラの名前が冠されるといったケースも存在する。

デザインにおいても、多数の首をどう表現するか(1枚絵にどう収めるか、立体的にどう生やすか)という命題は、紀元前から現代に至るまで昔も今も創作者を悩ませ続けている。

ラヴクラフトの著作に端を発する一連の神話体系であるクトゥルフ神話内には「ヒュドラ」と名がつく神性がいくつか存在している。
うちひとつはクトゥルフの配下であるダゴンの妻「母なるヒュドラ」。
名前こそヒュドラだが見た目はダゴンとほぼ同じ巨大な魚人である。

いまひとつはアザトースの配下である神ヒュドラである。
こちらは神話のヒュドラの正体であると設定されており、自ら刈り取った生物の頭を多数生やした原形質の海として描写されている。ジンメンかよ。

ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』に登場する敵「やまたのおろち」の亜種、つまりザコ。首は5つ。
毒ではなく火炎の息で攻撃してくる他、頭の数が多いからか二回攻撃もしてくる。
強化版のキングヒドラはラスボス前の中ボス3連戦の一番手として登場する他、リメイク版では隠しダンジョンの雑魚としても登場する。

ダイの大冒険』では超竜軍団のモンスターとして登場。
キルバーンにより操られ、5匹のドラゴンを引き連れてベンガーナの港に襲来。
砲撃をものともせずに暴れまわりダイを苦しめたが、竜の紋章を解放した彼に敗れ、魔王軍の「ダイは竜の騎士である」という嫌疑を確信に変えた。

ちなみにDQ3では青緑色、アニメ版ダイ大では平成版は赤、令和版は水色をしている。

FF3では何の因果かエキドナの色違いとして登場。そのため逆さ吊りにされたゾンビのような姿をしている。
4では二首蛇として登場。DS版では毒使ってくる。
5では首が八本に増え、4で最大の弱点だった雷に耐性を有する。こちらでは竜と明言されている。
Tでは三首ドラゴンとして登場。レベルによるが雷神シドを一発でKOする程の強力な雑魚モンスターである。派生として、ハイドラとティアマットが存在する。
FFではよくあることだが本当に外見が安定しない。

なおFF5ではヒュドラの死体がハイドラというややこしい名前で復活するが、
戦闘がテイルズ方式になった1114ではこちらの名称がヒュドラの読みになっている。ああ、めんどくさい。

凶暴な亜竜族の一種。大トカゲの体に無数の蛇の首を持つ巨大な怪物で、年を取るごとに首が増えるという。
生まれたては兎ほどのサイズで、2年もたたないうちに家にも入りきらないほど成長する。毒は個体によってあったりなかったり。
リナほどの魔導士でも、竜破斬レベルの魔法を使わねば倒せない。
SFC版では2番目の中ボスとして登場する。

ティターン神族12柱が一角レアが、大地から作り上げた九頭竜の怪物。
まあ言うなれば神話の時代のヒュドラをモデルとしたゴーレムとでもいうべきか。
分裂する頭と、テミスの裁きの天秤(重力波)の同時攻撃でアイオリアを苦しめたが、駆け付けたアルデバランによりコアとなる中央の首を破壊され土に還った。
後述するヒドラ市とは異なり徹頭徹尾「ヒュドラ」と呼ばれている。

  • ヒュードラー(光神話 パルテナの鏡シリーズ)
人間界を侵攻する巨大な蛇の魔物で、闇の女神メデューサの手先。ボス敵としてピットの前に立ちふさがる。
ちなみに、原典では兄弟にあたるケルベロスも、首を1つ減らしてツインベロスと名前を変えて、メデューサの部下として登場。
双葉社版ゲームブックでは、ピットに名乗った際に「頭が9つある伝説の蛇?」と聞かれて「違う、それはヒドラだ。俺様は、ヒュードラー!」と、ヒドラとの関係を否定するような発言をしている。

続編の「新・光神話パルテナの鏡」では、「三つ首竜ヒュードラー」と名前を変え、その名の通り首が3つに増えた怪獣サイズになって再登場。
3つの首の人格はそれぞれバラバラで、仲は悪く、絶えずコントのような喧嘩をしている。
首は斬り落とされてもなお活動可能で、時間をかけて回復すれば首から胴体を再生することも可能。
胴体からが再生する本家ヒュドラとは逆だが、強靭な生命力があることは原典と共通している。
一方、毒を使うという描写はない。

  • キングヒュドラー(バキ外伝 烈海王は異世界転生しても一向にかまわんッッ)
スレイヤーズと同様の多頭蜥蜴型をしている「蛇の王」。
かつては10年かけて山脈の標高を2割ほど削ったとされる正真正銘の化け物で、150名の討伐隊を皆殺しにし、
ドラゴンをも倒したと言われる近衛師団の総力を決して地下に封印されていた。
更にピット器官を有しているため、完全な暗闇の中でも得物を捕食する。
死後、異世界に転生してきた烈海王に襲い掛かるも、胴着を用いて牙を引き抜かれ、
その牙を利用した手裏剣術や蛇殺しの鷹拳*2で次々とピットを潰されて、首を潰される。
神話通りの再生・自己進化でより強力な姿となって烈に挑んだが、戦いの高揚感を得て本領を取り戻した烈に攻撃を裁かれ、
最後は唯一の弱点である心臓を寸勁で吹き飛ばされ死亡。
これにより烈は片足の喪失*3から解放され、完全復活を果たした。



ヒュドラがモチーフになった創作物

単純に蛇の魔物である以外にも、「首が複数」「逸脱した再生力」「毒使い」などのユニークな特徴を持つヒュドラ。
それらになぞらえ、ヒュドラの名を冠している創作物も多く存在している。

GOD神話怪人の一人。トカゲと蛇を合わせたような姿をしており、体を液状化したり、爬虫類を操ったりできる。
首は切り落としても再生する(ただし生えてくるのではなく浮かんで自動的に元に戻る)、口から溶解液を吐くなどなかなか原点に忠実。
だがその手に持ってる蛮刀はなんだ、蛮刀は。せめて鞭とかに出来なかったのか。
胴体は再生できなかったため胸にXキックを食らって爆死した。

アロエと淡水生物の方のヒドラを合わせたような姿のファントム。宿主はダイバーの男。
体中の触手を伸ばして相手を痛めつける。

  • B'Tラレーニャ(B'T X)
七魔将の一番手・ミスリムが操る巨大なB'T。ヒドラがモチーフであり、胴体は質力200%のガードシステムで守られていてあらゆる攻撃が効かない。
頭を破壊されても胴体から送られる再生エネルギーで再生でき、口から吐くウェザリングブレスであらゆる物を砂に変えて風化させる。
壊された頭への再生エネルギー供給を遮断されると、エネルギーが逆流して自爆してしまう。

ジークジオン編で、ティターンの魔塔に出現する、ザクの頭を持ったヒドラ。首は8つ。

うみへび座から名づけられたOZ製のガンダム。本作や一部ガンダム格ゲーでのラスボス。
頭部はヒュドラというよりは阿修羅像のように三つの顔面を持ち複合型センサーの機能を持つ。
他の機能としては精神感応システムやビーム砲を内蔵した二門のショルダークローなど。全体的にこいつに似てる。

『ZOIDS SAGA』以降のゲーム作品に登場するファントム騎士団所属機体。
アーム兼ヘッドの3つのユニットを状況に応じて自在に組み替え使い分けるのが特徴。
設定的にはジェノザウラーの派生機体と思われ、分類は恐竜型。

マーベルユニバースにおける典型的な悪の組織。「ハイドラ」か「ヒドラ」かは訳者による
古代から脈々と存在していた秘密結社を第二次世界大戦時にナチスドイツ、日本帝国系のヴィランがこの名前で作り替えた。
一人の指導者(頭)を失ってもすぐに代わりの指導者が沸いてくる上にAIMなどの派生組織もうんざりするほど多くしぶとい。
レッドスカル、ヴァイパー、ストラッカーなど毒使いの関係ヴィランも多め。
ちなみに神話系のヒドラはかつてハーキュリーズ(ヘラクレス)が戦った相手として存在し、名前の元ネタになったことがはっきり語られている。

サヴァイヴァー・ドージョーに所属する、三つ目の爬虫類めいたバイオニンジャ。
四肢を切られようが首を切られようが即座に生え替わるほどの高い再生能力を持ち、ゾンビーニンジャに回転鋸で細切れにされても仲間に拾い集められて再生した。
ただし、再生には大量のエネルギーを必要とするため、他のバイオニンジャ達に比べてバイオインゴットの消耗が激しい。そのせいもあってか初登場時からしばらくは休眠状態だった。
また、再生能力以外に特殊能力はなく、毒などへの耐性も特に高くはない模様。

いわゆる青銅二軍の一人で、モヒカン、痩躯、老け顔のかませ犬。
その聖衣には「ヒドラの毒牙」という毒が仕込まれており、必殺技「メロウポイズン」はそれによる攻撃。

ご存知三つ首の怪獣。
元ネタ自体はロシア映画『豪勇イリヤ』にも出てくるスラヴの竜ズメイであるが、「ギドラ」という名前はロシア語の「Гидра(ギデラ)」つまりヒュドラに近い。その際、映画のズメイは日本で「キングドラゴン」として紹介された。

OPS(Ophiuchus=蛇使い座)型の女型メダロット。
女型らしからぬデブいフォルムだが、変形すると背中の複数のパーツが展開し、それぞれが蛇の頭のような振る舞いをする。

小説版に登場する、首5つに剣肢7本のメガデス級ギア。
都市壊滅級の強さを誇り聖騎士団を全滅させかけたが、バフをかけまくったクリフが三日三晩の戦いの果てようやく封印。
後に一部分のみ復活して暴れてたが、ファウストジョニーも対処はできていた。




追記・修正は英雄を毒で死に至らしめてからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • ギリシャ神話
  • モンスター
  • ドラゴン
  • 海蛇
  • うみへび座
  • 猛毒
  • ヒュドラ
  • ハイドラ
  • ヒドラ
  • ヘラクレス
  • 毒竜
  • 多頭竜
  • 大蛇
  • 英雄殺し
  • 神殺し
  • 幻獣
  • 西洋妖怪
  • 怪獣
  • テュポンの一族
  • アニヲタ悪魔シリーズ
  • 不死身
  • 再生
  • 神話の怪物
  • クトゥルー神話

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月14日 07:40

*1 誤解とする説もある

*2 烈の故郷である中国では蛇=竜を鳥が喰らうということで鳥は龍に勝るとされている。詳細はガルーダ(インド神話)の項目を参照の事。

*3 異世界に来た時に五体満足になっていたが、長らく片足だった為本領を活かせずにいた