機関車

登録日:2019/03/17 (日) 10:42:37
更新日:2023/05/31 Wed 14:26:04
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機関車とは、鉄道車両の一つ。
原則として旅客を乗せず、動力を搭載して車両を牽引(ないしは後押し)するためのものである。
ここでは、鉄道の動力配置方式についても記述する。


概要

鉄道の黎明期はその動力が蒸気機関であったため、小型化することは不可能であった。そこで生み出されたのが、一つの車両に動力を搭載して他の車両を引っ張るという方法であった。
それを動力集中方式といい、動力を搭載した車両を機関車という。
その動力が蒸気機関であれば「蒸気機関車」だし、電気ならば「電気機関車」、ディーゼル機関なら「ディーゼル機関車」となる。
後に技術が進展してくると、動力を小型化した上で離れた運転台から制御できるようになり、車両の床下に配置可能となった。これを動力分散方式という。
電気ならば「電車」、ディーゼル機関ならば「ディーゼルカー(気動車)」である。

かつての鉄道は貨物輸送がメインであったため、それに必要な機関車も各国の鉄道で多く用いられた。旅客を輸送するときは客車をつければよいので、貨物列車が多ければそちらの方が効率がよかったのである。
今でもアメリカなど大陸諸国では鉄道貨物輸送が非常に盛んなため、動力集中方式が鉄道の基本となっている。
また超高速鉄道であるTGVは、開業してから10年以上動力集中方式でかっ飛ばしていた。*1
しかし、日本において動力集中方式はあまり多くない。これは以下に挙げる特徴がことごとく日本の鉄道事情と合致していないからである。


動力分散方式と比較した動力集中方式の特徴

  • 重いものを運べる
機関車だから当然だが、物を牽引するという点においては機関車より鉄道車両で優れているものはない。このためJR貨物は勿論、JR旅客各社でもレールやバラストを運ぶ貨車や検測車を牽引するために機関車を保有している(東海除く)。
しかし、大手私鉄の大半では運ぶものが事業用の場合でもあまり重くないことから、電車を改造した事業用電車やモーターカーで対応するケースが多い。最近ではJR東日本もレール輸送ディーゼルカーを導入している。

  • 車両のメンテナンスの手間が省ける
鉄道車両を含めた動力車のメンテナンスで最も手間がかかるのは、他でもない「動力車」である。
機械的な負荷のかかる歯車や複雑な制御装置、何より主電動機(モーター)やエンジンなどの原動機などが詰め込まれている動力車は、動力源を持たない「客車」「貨車」とは整備の手間が段違い。
ましてやその「動力車」が多数組み込まれた動力分散方式となれば…。
その点で言えば「動力車」が機関車だけに集中していれば、メンテナンスの手間がぐっと少なくなる。
ちなみにJR東日本(209系~E231系まで)やJR西日本JR北海道、阪急電鉄などで電車であっても編成中のモハ(つまり動力車)の比率を低く抑える傾向がある/あったのも、このような事情もある。
但し最近はVVVFインバータなどの無接点制御の進歩や構造の簡単な交流モーターの普及などで、動力分散方式であってもメンテナンスの手間は省けるようになってきているが。

  • 車両が重い
上の特徴とトレードオフになるが、動力を集中して一つの車両に詰め込むということは、当然その車両重量が重くなることを意味する。
重いことはレールに対する粘着力を高めるというメリットもあるが、レールや路盤に与えるダメージが大きくなるデメリットもある。更に高速走行などしようものなら保線屋への負担が増えることになる。
なお、軸重という概念がある。これは車軸一つにかかる重さを示したものであり、構造規格の低い路線では橋や高架橋といった構造物が軸重の重い機関車に対応していない。
そのため、例えば東海道本線を走っている機関車を阪和線*2に入れたらたちまち橋が壊れてしまう危険があるのだ。軸重が軽い動力分散方式ならばこのリスクは低い。

  • 勾配に弱い
元々鉄道は勾配に弱い交通機関だが、動力集中方式では更に厳しくなる。なにせ、重いものを一つの車両で引っ張りあげる事になるからだ。
動力分散方式なら車体は軽いし後ろの車両にも動力があるが、動力集中方式ではそれは望めない。
機関車の出力を上げるだけでは重さが増えてデメリットも大きくなるため、勾配が厳しい区間ではスイッチバックを行ったり、機関車を二台以上「重連」にして引っ張ったり、列車の最後尾に機関車をもう一台「補機」として接続し後押しする等の対策が必須となる。

勾配対策が必要ない路線でも、秋には落ち葉を踏んで空転するケースが相次ぐ。
対策として機関車には「砂撒き装置」と呼ばれるものが搭載されており、レールに砂を撒いて車輪の摩擦係数を上げることで空転を防ぐ。
近年では砂がセラミックの粉に置き換わっており、より摩擦係数を上げられるようになっている。

なお、信越本線横川~軽井沢間では66.7‰というすさまじい勾配のため、電車や気動車ですら重連の補機を必要としていた。
これは北陸新幹線開業と同時にその区間が廃止になったため今では見られない。

  • 高頻度運転に向かない
これはコストの問題だが、機関車の単価は電車1両分より高い。
客車のコストと電車の編成を合わせれば微妙なところだが、それでも短編成だと電車や気動車の方に軍配が挙がる。
更に、加速度については分散方式が圧倒的に優れている。
そして集中方式では折り返しの際、機関車を列車の先頭につけ直す「機回し」の作業が必須となり、そのための駅構内配線を確保しなければならない。
このため、特に地方の鉄道においては短い編成の客車列車を高頻度で運転することはおおよそ不可能となる。

なお、他にも「機関車を付け替えるだけでいいので電化区間から非電化区間への乗り入れが容易」、「旅客列車においては車内の静音性で分散方式に勝る」といった特徴がある。


日本における機関車

さて、日本列島は島弧と呼ばれる地殻変動の激しい地域にある。
それは日本の鉄道敷設が多数の山に阻まれ地質も安定していないところに行われていることを意味している。
つまり、動力集中方式は高速走行の際に軌道に与えるダメージが大陸諸国より大きく、更に山を越えるために勾配が多く、都市が集中していて土地が狭い日本ではあまり向いていないのである。

そして分散方式である新幹線の成功や1970年代以降の鉄道貨物輸送の衰退により、国鉄は旅客輸送重視へ大きく舵を切った。「動力近代化計画」として旅客列車は動力分散方式中心にすると宣言したのである。

一応、地方線区の輸送力を確保するために50系客車を新造するなど集中方式も用いたが、それは貨物列車が減って余っていた機関車を活用するためのものであり、民営化後これらの列車は分散方式へと置き換えられていった。*3

かくして、大都市圏の人間にとって「機関車」は貨物列車でしか基本的に見ないものとなり、鉄道車両を指す一般名詞としては「電車」が馴染み深くなっていくのである。

以上のことから、現代の日本の鉄道において機関車が活躍するのはSLを除いて貨物列車が大半である。
しかし、国鉄末期には消滅すると思われていた貨物列車は平成の世を乗り越えて今も息づいており、機関車も未だ日本国内では定期的に運用されているのである。

そんな機関車であるが、国鉄~JRにおける形式名はアルファベットと数字の組み合わせで示される。
例としてEF210を挙げると、以下のような意味がある。

  • 最初のE……動力方式を示す。電気なら「electric」のE、ディーゼルなら「diesel」のD。最近では「hibrid」のHもある。ただしSLにはない。
  • 次位のF……動軸数を表す。この場合はFなので6つモーターがついた車軸があることを示し、最多はHの8軸。一部の機関車は軸重を減らすためモーターのない車軸をつけることがあり、車軸数=動軸数とは限らない。
  • 番号……電気機関車の場合、国鉄時代は60番台までが直流・70番台が交流・80番台が交直両用・90番台は試作機と分けられていた。民営化以降は200番台が直流・500番台が交直両用・800番台が交流となっているようだ。

たまに貨物列車を見かけたら確認してみてほしい。


動力方式が特殊な機関車

ここまで述べてきたのは電気・ディーゼル・蒸気といった動力方式のものであったが、その他にも機関車の動力方式は存在する(計画倒れのもの含む)。

内燃機関車

ディーゼルのほか、ガソリンや石油なども含めた広義の概念。
日本でもディーゼル機関車が一般的になる以前は信頼性の面からガソリン機関車の方が主流だったが、引火の危険や出力の面からディーゼルへと置き換えられ一本化された。
また、戦時中には物資の不足から木炭ガスで走るよう改造されたりもしている。

蓄電池式機関車

架線から電気をとるのではなく、積んであるバッテリーから電気をとって駆動する電気機関車。
炭鉱や工場など、架線を引けないがディーゼル機関車では燃焼の危険がある場所で多く使われ、日本国内でも現役だったりする。

ガスタービン機関車

要は「ジェットエンジンを機関車に使えばめっちゃパワー出るんじゃね?」な代物である。実際に作られて運用もされ、TGVは当初これを使うことが前提で構想された。
しかしそうこうしている間にオイルショックが到来。軽油と比べて単価の高いジェット燃料は費用対効果に見合わなくなり、一気に廃れた。
ガスタービンエンジン自体も高速域での燃費こそいいものの、低速域での燃費が劣悪という問題を抱えている。
しかし、最近では技術が上がったことで効率のよいガスタービンエンジンが作られるようになったため、再び開発されているとかいないとか…。

原子力機関車

原子力の平和利用が検討されていた1950年代に考案された。
原子力を動力にするといっても、仕組みは原子力発電所と同様に発生した熱を用いてタービンを回し、発電して車輪を動かす。しかし放射線を防護するためにとんでもない重量が必要と発覚し、ボツになった。事故時のリスクは言うまでもない。


フィクションにおける機関車

鉄道ミステリー小説なら、長距離列車ということで機関車の出番は多い…が、やはり事件が起きるのは客車なので機関車そのものの存在感は薄い。
また、「鉄道」をモチーフにしているものは大半が「電車」モチーフであり、機関車は出てきても精々蒸気機関車のみ。もうちょっと出してあげてください…。




追記・修正は25‰の坂で貨物を引っ張りあげながらお願いします。

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最終更新:2023年05月31日 14:26

*1 この他、TGVと同様の方式を採用した超高速鉄道は動力集中方式を多く採用したが、ドイツのICEが転向したのを皮切りに2019年現在は分散方式が主流である

*2 主要幹線だが、もともと私鉄路線で構造規格は電車での高速運転が前提となっているため低い

*3 日本の事情として、機関車の運転免許は電車や気動車のそれとは別物であることも挙げられる。民営化直後は旅客列車の運転を貨物会社に委託するケースもあったが、やはり自前で運転士を用意した方が楽なのでそちらにシフトしていった。