辺境の老騎士

登録日:2019/02/21 (木) 22:49:18
更新日:2023/07/23 Sun 17:09:57
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老騎士の、旅が始まる。


辺境の老騎士とは、小説家になろうで連載された小説である。作者は支援BIS。
エンターブレインから全5巻で書籍化(イラスト:1~3巻・笹井一個、4,5巻・菊石森生*1)されている。
また「辺境の老騎士~バルド・ローエン~」(漫画:菊石森生)のタイトルでコミカライズがヤングマガジンサードにて連載中。こちらは既刊6巻(2020年5月現在)。


あらすじ

四方を巨大な壁に覆われる世界。

その世界の辺境にある壁の切れ目にて魔獣を狩る役目を負ったテルシア家に仕える老騎士バルド・ローエンは、自身の力の衰えを感じて騎士の位と資財を返上し、老いた愛馬と共に死出の旅へと出る。

道すがら美味しい物を食べて気ままに過ごそうとした彼の旅は、人々との出会いと別れの中で思わぬ冒険譚に発展していく――

概要

なろう小説には珍しい、少年や青年やおっさんでなく騎士を引退した老人が活躍する物語である。
また「グルメ・エピック・ファンタジー」とも名乗るだけの事はあり、料理の描写が素晴らしくバルドが様々な土地で食す異世界料理が彼の感動と共に美味しそうに描写されるのも見所。

原作は序章・終章を含めて全10章で構成されており、エンターブレインから出版された書籍版は全10章が連載、講談社から出版されたコミカライズ版は現在第1章の終わりまで連載中。


登場人物

【序章から登場】

○バルド・ローエン
物語の主人公。辺境に居を構えるテルシア家に仕える騎士であり人民の騎士(ガルデガーシ・グエラ)と呼ばれる。
年齢は(この世界では既に老人の齢である)58歳。
幼い頃に父の知り合いである流れの騎士に一年あまり剣の手ほどきを受け、その後テルシア家の従者を助けた事がきっかけでテルシア家に仕えることになる。

若い時分から鍛え上げてきたその肉体は、今も若い騎士に決して劣る事の無いお爺ちゃん。
コミカライズ版ではジョジョ第三部のジョセフのようなガタイの良い筋肉モリモリマッチョマンである。
だが年齢による身体の衰えはいかんともし難く、仇敵であるコエンデラ家の思惑から主家を守る思いもあり、騎士を引退し旅に出る事を決意する。とは言え長年の戦闘経験と勘、そしてもって生まれた幸運で、老いてなお極めて高い戦闘力を誇る。
旅では食事が一番の楽しみとばかりに、道すがら旅先の多彩な料理に舌鼓を打っている食いしん坊じじい。食べるだけでなく料理を作るのも得意。

騎士になって長年を経たゆえか思慮深い性格となっており、納得のいかない事や悪感情を抱いた事について、何故自分がそう思ったのか深く考え答えを出すことが出来る。
ただし恋愛関係に関してはとんでもないにぶちんであり、かつて彼が部下の恋を取り持とうとした場合、全てうまくいかなかった。*2

聖職者の説教が嫌いで、誰もこの神の事で説教できる奴は居ないからという酷い理由で騎士叙任の際に守護神として暗黒神パタラポザを選んでいる。
ろくな信仰心もないが、いざという時はこの神の名を呼ぶことはあるし、神も神で数少ない信者のために何かと便宜を図るかのような奇跡を起こして下さることもある。

両親も亡くなり未だに独身で家族も無く、惹かれ合っていたテルシア家の姫アイドラとは運命の悪戯で生涯結ばれることが無かった。
しかしながら彼女と彼女の息子であるジュールランとは家族のような付き合いであった。
主家の宿敵であったコエンデラ家とのいざこざが解決した後は、北方にそびえる霊峰フューザへの気ままな旅へと赴く。

○アイドラ・テルシア
テルシア家の姫。幼い頃からバルドと仲が良くバルドに可愛がられていた。
昔は好奇心旺盛なやんちゃ娘だったが、ある事件を機にそのお転婆ぶりは鳴りを潜め領主の娘にふさわしい淑女へと成長する。
惹かれていたバルドとは結ばれる事が無く、仇敵であるコエンデラ家へと嫁ぐも、一年半後にそこで産まれた息子であるジュールランと共にテルシア家に送り返される。
その経緯とジュールランの生い立ちにはとある重大な秘密があり……?
バルドの引退と旅立ちを陰ながら応援していた。

○スタボロス
バルドの愛馬。アイドラがコエンデラ家に嫁ぐ直前にバルドに与えた。
頭が良くバルドの言う事を良く聞くが、既に30歳を超えている老馬である為か今では大人しい馬になっている。
私財を処分したバルドと共に旅へと出る。

○薬師の老婆
殺人寄生虫を宿す植物ゲリアドラの根絶のため放浪の旅を続ける魔女(トーラエル)めいた老婆。
薬の知識、病や動植物の知識、そしてゲリアドラを焼き払う火の知識に優れる。
ゲリアドラにやられて死にかけていたバルドを救い、彼とともにゲリアドラの群生を焼き払う。
その後しばらく、バルドに薬学を教えながら共に旅をした。
ある意外な人物と関わりがある。

○ヴェン・ウリル
不吉の象徴である「赤鴉(ロロ・スピア)」と呼ばれる流れの騎士。卓越した剣の才を誇り、雇われては代理の決闘を行う事を生業としている。
バルドとの決闘後にとある街でバルドと再会し、数奇な運命を辿ることになる。

○ジュルチャガ
腐肉あさり(ゴーラ・チェーザラ)」の異名を持つ、優れた身体能力を誇る盗賊の少年。
並外れた健脚の持ち主で、さらに目端が利き、貴族の家への潜入もお手の物であり性格は明るいお調子者。
ある事件でバルドに捕まるが、護送中にコエンデラ家に助けられある物を盗み出す事を条件に解放される。
バルドと再会した後は、彼と意気投合し仲間となる。
その情報収集能力や世間の裏表を知り尽くした知恵は、ある意味世間知らずでもあるバルドの旅を支える重要な役割を担った。

○ゴドン・ザルコス
辺境領の一つであるメイジア領を治める領主であり騎士。
壁のような巨大な剣を使いこなす大男で「壁剣の騎士」と呼ばれる。
豪放磊落な性格で人の話を聞かないが、領民には慕われており、代々領内から餓死者を出したことが無いのが誇り。
バルドを師と慕い、領主の仕事を妹夫婦に任せバルドのお供として旅に出る。

○ドリアテッサ・イル・パージエ・コヴリエン
大陸中央部の大国であるゴリオラ皇国に仕える美しい女騎士。ゴリオラの有力家であるファファーレン侯爵家の姫であり、コヴリエン子爵家当主。
武術大会へ出場する資格を得るべく魔獣を狩る為の旅をしていたが、策略により命を失う寸前だった所をバルド一行に助けられる。
女性ながら武の才能を持ち、バルドらを師に短期間で実力をつけていく。後にジャルチュガと結ばれ、新たな街を拓く事になる。

【辺境の人々】

○ジュールラン・テルシア
テルシア家に使える騎士で、アイドラの息子。

○シーデルモント・エクスペングラー
テルシア家筆頭騎士。バルドの教え子の一人。
序盤に少しだけ登場するが、のちにある事情から意外な形でバルドたちと再会することになる。

○カルドス・コエンデラ
コエンデラ家当主にして、序盤の敵役。強引なやり方で勢力を拡大、長年対立していたノーラ家や、中立を貫いてきたテルシア家に何度に侵攻を仕掛けた。
旅に出たバルドに対してもある目的から幾度となく追っ手を放つ。

○ジョグ・ウォード
カルドス・コエンデラの庶子。「暴風(パンザール)」の異名で知られる騎士。
黒い両手剣を振り回す傍若無人な戦闘狂。
かつて戦場でバルドに二度もあしらわれて以降、打倒バルドに執念を燃やす。
彼もまたバルドと幾度となくぶつかり合う内に激動の運命を辿り、やがて最後の最後に驚くべき奇縁へと繋がっていく事になる。

○コリン・クルザー
ジョグの取り巻きの一人。かつて貧困に悩んでいた時ジョグに助けられた恩もあり、彼に忠実に付き従う。ジョグの理解者のつもりでいる。
ほかの取り巻きと共にジョグに付き従ううちに、彼もまた数奇な人生を送ることになる。

○サイモン・エピバレス
辺境でも大きな港町であるリンツを収める人物。
バルドより少し年上。バルドと同じぐらいの身長(バルドの身長は195㎝)。
金と物のやり繰りのうまい、やり手の男だという評判だが、義理堅く豪快で、バルドの見立てでは「意外に武人肌の人物」。盗賊であるジュルチャガや流れの剣客ヴェン・ウリル、ゲルカストのヤンゼンゴやメルトケを受け入れる度量の広さもある。

○エングダル
リンツ北の山で一人暮らす、緑肌の大柄な亜人ゲルカストの男。フルネームはンゲド・ゾイ・エングダル(ゾイ氏族の戦士(ンゲド)エングダルの意)。
氏族を離れず、仲間の武功を祖霊に伝えるため二人以上で行動するゲルカストが一人でいるということは、追放された者であるということである。
寡黙かつ偏屈。誇り高きゲルカストの戦士として人間に頼み事や相談をせず、「〇〇は〇〇をする」という形で意思表示をするため、そこから意を汲み取る事がゲルカストと付き合う上で必須となる。
山中で武器が壊れた上に野獣に襲われ難儀していたバルドを助け、交流のある行商人に引き渡すまでの間、住処で寝食を共にし交流を深める。

○ハドル・ゾルアルス
前々クラースク領主。バルドが59歳時点で84-85歳と高齢だが、厳しく傲慢や独善を削りながら生きてきたことによる、さわやかな気風を纏うおじいさん。
ある主要人物と深いかかわりを持っている。

○ピネン
孫のトリカ少年と共に、外れ者(被追放者)の集落で、絶品ノゥレ料理を作っている老人。(ノゥレ:泥中に住む小魚。どこにでもいて、子供でも捕れるので、辺境では栄養源として重宝されるが、くそ不味い)
田舎で育ったとは思えぬ、叡智と品格に溢れた賢者(オーラ)

○イエミテ
森に住む小柄な亜人ジャミーンのテッサラ氏族の勇者。氏族代表として人間及び全ての亜人の言葉を覚えている。
やむおえずジャミーンのテリトリーに侵入したバルドへの裁きに関わってくる。

【パルザム王国】

○バリ・トード
本名バリアンクィズィガル・トード。パルザム王国の上級司祭。
人品卑しからざる笑顔の似合う方。王都の下街で孤児院を経営している。
王の密命を受け、辺境を勅使として訪れていた際、バルドに風土病を治してもらったのが縁で、バルドと意気投合する。
密命の内容は、コエンデラ家絡みであり、そちら方面でもバルドと絡むことになる。

○ザイフェルト・ボーエン
バリ・トードに従って辺境についてきた騎士の一人で、辺境騎士団団長。バルドの見立てでは「練達にして歴戦の勇士」。
バリ・トードの護衛として辺境を回っていた時にバルドと出会い、その後も何かとバルドと縁がある。

○シャンティリオン
バリ・トードに従って辺境についてきた騎士の一人。名字は話が進むごとに代わっていくのでここでは省略。
シャンティリオンとは『剣の王』という意味を持つ大層な名前だが、本人もまた万人に一人といわれる程の剣才の持ち主。
騎士の正義を純粋に信じているところがあり、良く言えば純真、悪く言えば世間知らず。

○カムラー
パルザム王国トード伯爵家料理人頭。
料理の腕は大陸一で、食べる人のことを考えた料理をチョイスすることができる一流の料理人だが、慇懃無礼な態度と、うまい料理のためなら格式など捨ててしまえな思想と、食材のために全く金を惜しまない感覚で、どこに仕えても長続きしなかった料理バカ。
トード家に滞在することになったバルドからは嫌われているが、料理は愛されている。

○オーロ
パルザム王国の工学識士(学者への称号、さらに上に大識、博識が存在する)。三十代のぼさぼさ髪の小男。おどおどしており、吃音の気がある。コミュ障。
新式のクロスボウを開発中だが、材料の選定に苦労している。
バリ・トードの孤児院出身であり、その縁でバルドに紹介された。
金属の可能性を信じており、合金の知識は高い。

【ゴリオラ皇国】

○アーフラバーン・ファファーレン
ファファーレン侯爵の長男で、ドリアテッサの腹違いの兄。
優秀な騎士であると同時に、相当なシスコンでもある。

○シェルネリア・トルデバダ
ゴリオラ皇国王女。十四人の王子、十一人の王女のうち一番年下。
ふわりとした優しげな雰囲気をまとっているが、その雰囲気と裏腹に女性が軽視される時代において、少しだけ女性を見直させたいという願いを持つなど、容姿に合わずなかなか手強い。政治的な駆け引きの実力も相当なものを持つ。

○カリエム侯爵夫人
皇国の女性の園で一目置かれる人物。長年貴族社会で生き残ってきただけあって只者ではない。
詳細は省くが、何かとバルド一行に裏で便宜を図ってくれている人物。
一方で、バルドが皇国に寄り付きづらくなった原因を作った張本人でもある。

用語

大障壁(ジャン・デッサ・ロー)

人類の世界を守るかのように覆う巨大な壁。壁には一箇所だけ切れ目があり、そこから壁の外に巣食う魔獣が侵入してくる。
命名の由来は、古代の王ジャンが一夜で壁を作り上げたとされる神話から。
その人知を超えた巨大な壁になぞらえて、「なんてことだ!」と驚きを示す感嘆詞としても使われる。

オーヴァ川

対岸が見えないほどに巨大な大河。多くの人類が住む中央部と大障壁に近い辺境を隔てている。多くの魚が採れる豊かな河。

霊峰フューザ

オーヴァ川の遥か上流にそびえる山。死人の魂が集い、そこから神の園へと導かれると言い伝えられている。

魔獣(キージェル)

人類を襲う凶暴な獣。これは比喩ではなく、人類に対し敵対的であり、人類を見つければ積極的に襲ってくる。野獣が変化した姿であり、目の色が変わり肉体も巨大化する。
周囲の野獣を凶暴化させる作用もあり、魔獣一体だけでも小さな村には壊滅的な被害をもたらす脅威となる。
その戦闘力は凄まじく、辺境で鍛え上げられたテルシア家の騎士をもってしても魔剣無しでは白兵戦では不利であり、毒による攻撃が最善と教えられている。

魔獣は壁の切れ目から侵入するか、稀に壁内の野獣が変化する事で現れるとされているが、長年の戦いにより壁内の多くの魔獣は駆逐され、今では辺境以外ではほとんど見かけることが無い。
またこの世界では馬を代表とする家畜には額に角が生えており、それが魔獣化を防いでいるとされる。(年を取ると角が小さくなる)

魔剣(エルグォードラ)

魔獣の硬い肌を切り裂くことが出来る剣。かつて魔獣に対抗するべく鍛造されたが、素材に希少な金属を使用したり特殊な技術で作られている為、貴重かつ高価な品。
対魔獣の最前線であるテルシア家でもその所有数は少ない。
また量産された魔剣以外に、そのベースとなったとされる「古代の魔剣」が存在すると伝えられている。

テルシア家

大陸東部辺境の壁の切れ目にて、魔獣の侵入を防ぐ役目を務めている一族。
抱える騎士団は魔獣と常に戦っている為精強であり、テルシア家を下そうとするコエンデラ家の大軍に対しても負ける事が無いほど。
バルドはその筆頭騎士であった。

コエンデラ家

辺境に覇を唱える一族。辺境一帯を支配しようと目論んでいる。
難癖をつけてはテルシア家の治めるパクラ領へ何度も攻め込んでおり、現領主カルドス・コエンデラとバルドとは因縁深い間柄である。
物語開始時点で辺境の有力家を一家下して大領主となっており、それを皮切りにテルシア家への圧力を強めている。

パルザム王国

大陸中央部にある大国。近年隣国との戦争が終結し、そこで活躍した王子が凱旋し、このたび王位を継いだ。
新王は戦勝と戴冠の喜びを広く伝えるため、辺境各地に勅使を派遣している。

ゴリオラ皇国

大陸中央部にある大国。パルザム王国の北にあり、現在王国とは友好関係にある。
五年に一度、パルザムと合同で「辺境競武会」と呼ばれる武術大会を開催している。

亜人

この世界に住む人間以外の人型種族。緑の肌を持つ武勇に優れる巨人「ゲルカスト」や森に住む弓の名手「ジャミーン」などの種族がいる。
かつては平原にも多くの亜人が住んでいたが、人間の勢力が増すと人間とは距離を置いて暮らすようになっている。



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最終更新:2023年07月23日 17:09

*1 笹井一個氏が御逝去されたため

*2 真相:独身の性格イケメン筆頭騎士「お嬢さん、(私の部下の良さを語るため)一緒に食事でもいかがです?」。ジョグ曰く「寝取りじじい」