始皇帝(Fate)

登録日:2018/12/13 Thu 00:35:14
更新日:2024/03/22 Fri 13:03:49
所要時間:約 27 分で読めます









※注意※



この先には『人智統合真国シン』の重大なネタバレが含まれています。






●歴史上の概要

中国・春秋戦国時代の国「秦」の君主。本名・嬴政。
紀元前221年に史上初めて中華の統一を成し遂げ、王の上に立つ者として「皇帝」を定め、始皇帝と称した。
始まりの皇帝、故に始皇帝である。

秦の公子であった父・「子楚」が当時休戦協定で人質となっていたため、趙の首都・邯鄲で生まれた。
加えて子楚は20人以上の兄弟がいる妾腹の子であったため、曾祖父の昭襄王は一切配慮せずに趙を攻め、
しかも子楚が政と母を置き去りにして逃げてしまったため、政は敵国の中で身を隠しながら生きる羽目になった。

前250年、昭襄王が没し、1年の喪を経て祖父の。安国君が孝文王として即位。
呂不韋の工作によって子楚が太子となったため、趙は国際信義上やむなく政を母と共に秦に送り返した。
孝文王はわずか在位3日で亡くなり、荘襄王として子楚が即位したが、荘襄王も在位3年で亡くなり、図らずも政は13歳にして秦の王となることになった。

その後は頭角を現し、斉・燕・韓・魏・趙・楚を併呑。中華の統一を成し遂げ、春秋戦国時代に終止符を打った。
ちなみにこの頃、滅ぼされることを危惧した燕から暗殺者を送り込まれている。それが荊軻である。

統一後、中国神話における「三皇五帝」を超える存在として「皇帝」の称号を造語し、名乗るようになった。
「始皇帝」の誕生である。
また、王綰らから指示を「命」→「制」、布告を「令」→「詔」、自称を謙譲的な「寡人」→「朕」にすべしと答申があり、以降はこれを使ったという。

始皇帝は大規模な政治改革を行い、中央集権体制を構築。封建制を終わらせ、中央から派遣する官僚が治める郡県制に転換した。
さらに通貨や文字、度量衡の統一によって経済を一体化し、一つの文化圏を作り上げた。
他にも北方の遊牧民に対する防壁である万里の長城や大運河などの大規模土木事業を行い、広範な交通網を整備した。

統一の翌年から始皇帝は天下巡遊を始め、泰山にて封禅の儀を行った。
この頃から始皇帝は神仙思想に染まりつつあり、それに取り入ろうとしたのが「方士*1」を自称する者たちであった。
中でも盧生という人物は強い影響を与え、盧生が献上した『録図書』という予言書にある「秦を滅ぼす者は胡」という文言を信じ、討伐に乗り出すほどだった。

胡の討伐が成功に終わった後、祝賀の席で淳于越という博士が「郡県制を改め封建制に戻すべし」という意見を述べた。
始皇帝はこれを群臣の諮問にかけたが、郡県制を推進した李斯が再反論し、
そしてそういった先王尊重の思想を持つ集団の「妄言」の原因となる占星学・農学・医学・占術・秦の歴史を除く全ての書物を、博士官にあるものを除き焼き捨てる建策を行い、始皇帝はこれを認可した。
その結果、民が所有する書物を全て焼き捨てる「焚書」が行われた。

その後も不老不死の成果は上がらず、しかも盧生や侯生といった巨額の資金を始皇帝から引き出していた方士が始皇帝への怨言を吐いて逃亡。
これに怒った始皇帝は残った方士らを尋問にかけ、他者の告発が相次いだため、法を犯した者460人を生き埋めにした。これを「坑儒」という。
名前に反して儒家を標的としたわけではなかったが、結果的に罪が判明した儒家を処刑することとなった。
これらを合わせて「焚書坑儒」と呼ぶ。

紀元前210年、49歳で死去。
一説では、水銀を長寿の薬と信じて服用していたため、水銀中毒になって亡くなったと言われる。





これなる姿はひとたる存在の極致

死を克服し、陰陽を超越し、不滅の真理に至りし唯一存在たる真人


即ち、朕である!

●異聞帯での概要

……と、ここまでが汎人類史の歴史。(実際の歴史に関するより詳細な情報は本人の項目を参照)

Fate/Grand Order』における始皇帝は敗北した人類史「異聞帯」の存在である。

ロストベルトNo.3「人智統合真国シン」が剪定されるきっかけとなったのは2200年前(BC.210)、始皇帝が不死の存在となったことだった。
異聞帯の始皇帝は殷王朝の遺跡より仙人・太乙真人の作による人造人体、即ち哪吒の残骸を回収し、そのオーバーテクノロジー技術を研究することで人造人体・『会稽零式』を開発。
太乙真人のオーバーテクノロジーと会稽零式の未来予知を可能とするほどの高速演算能力を利用して技術のブレイクスルーを達成し、遂には肉体を機械化する術を得た。

汎人類史でも始皇帝は不死の存在になりかけていたが、荊軻が不死殺しであるヒュドラの毒を仕込んだ匕首で傷をつけたことで不死性を失ってしまい、その17年後に没した。
異聞帯でも同じことがあったようだが、こちらの始皇帝はそこから新たな不老不死の方法に至り、不滅の存在となった。
汎人類史でも哪吒の残骸は回収されており、機械人間の開発まではこぎつけていたようだが、それを自分に転用するところまではいかなかった様子。
ちなみに異聞帯でも同じことがあったが、今の始皇帝にとってはこの頃の方法は「殊更に拙い」ものだったらしく、「むしろ阻んでくれて助かった」と前向きに考えている。

始皇帝が不老不死の絶対君主となったことで、秦帝国は鉄壁の治世によって王の死による政情不安などの戦乱時代を回避することとなり、
戦争という時間の無駄を省いたことと、仙術を元にした科学技術の発展によって西洋ルネサンスに先駆けて産業革命を達成。
  • 火薬のいち早い導入
  • 仙術由来の生化学により強靭な肉体を得た兵士達
  • 仙術による病魔の根絶
  • 冷凍英雄技術による英雄の半永久的保持
  • 産業革命に伴い躍進を果たした圧倒的技術力
  • 会稽零式の無双の戦闘力
によって地球全土を征服し、史上初の統一国家「永世秦帝国」を樹立した。

更に地球全土を支配するに足る能力を求めて機械化聖駆を2200年拡張し続けた結果、
始皇帝の身体は居城であった阿房宮をも呑み込み、その巨体を咸陽上空に反重力で浮遊させるまでに至る。
そのため、既にその姿は人型を留めていない。

機械化聖躯の内部構造は人体ではなく自然環境そのものを模倣したものであり、ミニチュアの山林に水銀の河川が流れるという人工庭園の様相を呈し、
体そのものを小宇宙とし、実際の自然界の運行と照応させる風水魔術の原理によって、阿房宮型始皇帝は駆動している。

機械化聖躯が巨大な演算機械であること、技術力を自身の一身に引き受けているだけあって、その技術力もまた絶大。
シャドウ・ボーダーを短期間で解析し、デッドコピーレベルとは言え戦車を量産。
弩級戦艦ほどのサイズが必要になるが同様のものは再現可能と言い切っている。
汎人類史との技術の方向性を不思議がる面はあったが、逆に言えば技術の方向性を見抜いている。
長期戦になって更なる解析をされたら何が出てきたことやら…

性格はいかにも傲慢・尊大ではあるが、「キモ過ぎる」「それちょっと不敬であるな」「きたないなさすが策士きたない」と所々にフランクな言葉が混じり、マスターの腹筋をくすぐってくる。
不敬な行為を指摘することはしても即座に処罰したりはせず、民を愛し、自らを仰ぎ見ることを全面的に許す寛大な性格。
それでも一度秦の平和を乱すとなれば住民を大虐殺することにも躊躇ない(心苦しさは感じているが)。
単純な演算だけでなく知的レベルも非常な切れ者であり、カルデアやヒナコ・コヤンスカヤの行動の端々から彼らの真意やコヤンスカヤの素性を見抜き手玉に取るほど。


●永世秦帝国

異聞帯の始皇帝が統治する地球規模の統一国家。
上記の通り圧倒的な技術躍進に伴い、地球の衛星軌道上を取り囲む軌道エレベーターのごとき『長城』など汎人類史以上の技術力と文明の発展が成し遂げられた超国家。
国家を運営するエネルギーは品種改良された麦を利用したバイオマス燃料による火力発電が基本。
ちなみに麦は食用としても転用可能で、手入れせずとも勝手に育つトンデモ作物。
兵力は後述の凍結英雄以外では、現在は自動人形を兵士として使用しているため生身の兵士は咸陽の近衛兵を除き存在していない。


極めて突出した技術力を持ちながらも、始皇帝は圧倒的な超科学技術のリソースを世界や文明の発展のためには使わなかった。
「民は一切思想せずに自分に盲目に従えばそれで良し」という考えの元、民が蒙を啓くことを許さず、あらゆる技術・文化を首都咸陽のみで独占したのである。
通信技術は始皇帝の聖駆にしか持ち得ず、民の様子は常にその演算能力により監視される。
緊急時の兵や物資と言った住民に必要なものはロケットに搭載されて飛ばす形で「下賜」される。
そして民に余計な知識を広めようとする者を「儒」と呼び、一度その存在が確認されれば、
衛星軌道上に防壁として存在する長城の一部がパージされ、儒が確認された一帯に墜落して住民もろとも消し飛ばす。

始皇帝にとっては儒とは病原菌のようなものであり、一度でもそれに毒された可能性があれば、全てを消すしかないと考えているのである。
「智を得た者は惑う。妄念に囚われ、他者を排し、ままならぬ世に恨みを募らすようになる。
 蒙なるが故に民は安穏と健やかに生きる」
というのが始皇帝の持論である。

このため、永世秦帝国の民たちは自分が暮らしている村以外の事はろくに知らず、知識を与えられないためそれに興味を持つこともない。
更に、遺伝子改良によって常に一定量収穫可能な作物の開発にも成功しており、飢えに苦しむ心配もない。
天災は流石に起きてしまうが、天災に見舞われた民は始皇帝により新たな住処があてがわれる。
仙術由来の生化学と薬学の発展によって、免疫力を強化し、あらゆる病にかからなくなる薬も存在し、この世界の民は飢えることも病に苦しむこともない。
ただし、ホルモンの分泌量が一定値を切っていた場合、つまりある程度老いた段階で薬は致死性の麻酔薬として機能し命を落とすという薬効があるが、
これもある意味では生老病死の四苦の内、老いという苦しみから民を解放しているとも言える。
少なくとも、永世秦帝国の民が現在の生活に不満も苦しみも持っていないというのは事実である。

結果として、他者と争うという構図は存在しなくなっており、戦という概念は既に民の間では忘れ去られている。
せいぜいが酔っぱらいが暴れる程度であり、それくらいは大した力もない村の駐在員だけで何とでもなる。
つまるところ、始皇帝は民から知識を奪い、生きる上で生じるあらゆる苦しみをなくすことで平和を実現したのである。
この世界の民は現在の生活に満足しており、また違うものに憧れる知識もないため、何かを祈るという情念を失っている。
加えて民に余計な知識を与えかねない芸術や詩などの芸能文化も全て始皇帝が独占。
芸術の才があると認められた者は咸陽に招かれ、そこで芸術家達は歓喜しながら始皇帝を讃える作品のみをひたすら作り続けては棺桶同然のみすぼらしい寝床で休み、作品を死ぬまで作り始皇帝に捧げ続ける。

民の住む集落はよく言えば穏やかで素朴、悪く言えば原始的。
文字は当然のことながら種蒔きした回数で年を数えるので暦はなく、
前年に誰が交わったのかわからないということから恋愛感情がなく、
子供が誰と誰から生まれたのかわからないということから親と子といった家族の概念すらない。
作中では言及されることはないが、ゲーム内で民が喋る際には「農夫A」とか「少年」といった感じに識別されている。
皇帝の側近である衛士長すら素性はバレバレでも名前がないため、名前を付けるという文化すらなくなっているのかもしれない(汎人類史で1574年生まれの秦良玉に名前があるため、なくなったならそれ以降だろう)。

そんな状態が何百年も続き、更に時折現れる英雄は驪山にて凍結され、必要となった時に目覚める「凍結英雄」となっている。
つまり死んでいないため、英霊にならないということであり、
後述のように民が不幸を感じず、祈りや憧れといった感情を持つことも無くなったという要素も加わった結果、
英霊の座との繋がりが断絶し交信が不可能になるという稀有な事態が起きてしまっている。
もっとも、始皇帝に言わせれば「死んだ英霊をわざわざ蘇らせ使役するなどという紆余曲折がそもそも笑止の至り」といったところ。

群れを成しては人間はなにも成し遂げられぬ。不和が、相違が、利権の矛盾が互いを縛り貶め合う。
故に人に間は必要なし。類するもの必要なし。
ただ終極にして至高の真人だけが、天を裁き地を制して種を統べる。
民はただ土に憩い、食、性、眠を満たして安らかにあれ。

それが始皇帝が到達した泰平の世界である。

知識を与えられず隷属させられていると見れば確かに不幸な民なのかもしれない。
しかし、民は不幸を全く感じておらず、始皇帝に二心さえ抱かなければ終生の幸福が約束されていたこと、二心を抱かれてもやむをえないような不幸な目にはあわせていないこともまた事実である。
異郷の獣を放って民を傷つけたコヤンスカヤを拷問にかけるなど、始皇帝は始皇帝なりの形で民を愛し(コヤンスカヤ曰く「愛玩動物」としてだが)、その手法も完成度の高いものであった。
一度は「知の翼を奪われた隷属」として怒りを見せた圧制者絶対殺すマンのスパルタクスですら、その怒りが萎えそうになっていた。
かつてこそ、反乱を扇動するような者もいたようだが、韓信や秦良玉などある程度は自前の見識を持った臣下たちも、始皇帝に対しては絶対の忠誠を抱いている。

しかし、民が何も望まない世界とは、即ち発展することもない世界と同義であり、
唯一世界を発展させる選択権を持つ始皇帝も、地球を統一したことで満足し、星の外へ進出しようと目を向けることはなかった(星の外からの侵略は警戒し、長城を築いている)。
結果、この世界は行き止まりの人類史とされ、剪定の対象となったのであった。


もっとも、自分の治世に圧倒的な自負を持つ始皇帝は自分の世界が剪定されているという話を「妄言」と切り捨てており、
地球全土に届くはずの自分の知覚機能が限られた領土しか観測できないことも、小癪な嵐が邪魔をしているとしか思っていない。
これは中国異聞帯担当クリプターである芥ヒナコが、自分の目的のために空想樹を隠蔽しているためでもある。

その他だと、そもそも科学技術を始皇帝が一手に独占している関係上小型化や量産性を高めることは不得手…というよりも最初から関心がなく、情報テクノロジー関係の技術も汎人類史に劣っている。

●ストーリーの活躍

カルデアに対する戦意の低さとボケ老人の如くコヤンスカヤの名前を何度も間違えていたことから彼女からは甘く見られていたが、
実はコヤンスカヤの『正体』と『本性』を見抜いており、「その呼称で呼ばれてはやり辛かろう」と温情としてわざと名前を間違えていた。
一方で虞美人に対しては一目置いている。
仙界探索を行い、そこで入手した扶桑樹によって神仙の秘訣たる医術を解明するに至った始皇帝だったが、
既にその時には真人たちは姿を消していたらしく、虞美人は始皇帝が初めて目にする真人であった。
興味を持った始皇帝は虞美人と、その身体の秘密を提供する代わりに項羽の身柄を引き渡す、という取引を交わしている。


実際のところクリプター陣営のことも全く信用しておらず、特に秦に仇なす様子でもないので放っておいただけだった。
しかしカルデアがシャドウボーダーに乗って現れたことで、これを使えば嵐の外へ調査に赴けるとカルデアとの交渉を決断。
油断していたコヤンスカヤを捕らえ、その身柄と引き替えにシャドウボーダーの技術を解析させろという取引を持ちかける。

しかし、荊軻が子供に詩や文字を教えていたことを知り、態度が一変。
カルデアを「儒」と断定し、カルデアよりも先に村の住民を周囲一帯ごと消し飛ばしてカルデアに絶望と敗北感を刻もうとしたが、スパルタクスがその攻撃に対し真っ向から叛逆し砕いたことで、その姿に対する憧れが民の中に生まれ、英霊の座への経路が繋がるという結果を招く。
まあ来たのは謎のUMAだったが。

そうしてカルデアと完全に敵対する形となり、汎人類史における因縁の相手である荊軻と一対一で対峙することとなる。
一切揺らぐことなく「人」を「人」たらしめるのは「責」であるとし、「人」である己の治世を誇るが、荊軻もまた、それに真っ向から反論する。



常に交信の手段を求め発展させ続ける民
誰もが相互理解を理想とし共栄の道を模索し続ける民
それが汎人類史における『人』……すなわち人民だ

人民……民にして人、だと?

我々はまだ終わっていない
未完成だからこそ今よりはるかな高みを目指せる
貴様一人の独善によって完成した理想郷よりも、ずっと遠くの未来を見据えて人民は歩んでいるんだ

……その栄華は絵に描いた餅だ。なんの確約もないではないか

ああ、夢だ。幻のまま潰えるかもしれない
だからこそ誰もが祈り、願望する
人間は、人類は、まだ見ぬ次の領域を目指せると
そう夢見た者たちが英霊となり、そう祈った者たちの召喚に応じる
それがサーヴァント。抑止力の代行者
貴様の永遠の治世には、ついぞ現れることのなかった存在だ


荊軻が語る汎人類史の人の在り方を始皇帝は「危険すぎる」と断じ、自らの治世とは相容れぬと理解するも、荊軻が始皇帝への切り札として持ってきたスマートフォンをあえて解析させることで、汎人類史の技術及びスマートフォン内に仕込んだコンピュータウイルスという「毒」により機械体は完全にフリーズ。
そしてコヤンスカヤの手によって、ヒナコが封じていた空想樹が現れたことで始皇帝は自らの世界が切り捨てられた人類史だったという事実を理解した。

だが、


……フフフッ、ハッハッハッハ!
何を馬鹿な。落胆する要素がどこにある!

正しき在り方の帰結として、永世秦帝国は今ここにある
夢見人は胡蝶の夢と現の己を判じ得ぬ。同じ事だ。世界もまた夢を見るのなら――

朕の滅びた混沌末世と、秦の健勝なる栄華の世界、
どちらが真なるものかなど、誰に審判できようか!

全く気にすることなく、それどころか「勝った世界が編纂事象となるのなら、全て打ち砕いてくれよう」と俄然やる気になってしまう。
常人ならば自身の身命をかけた成果が否定されればorzとなったことであろうが、2200年君臨してきた始皇帝の精神は、自身の成果が世界に否定されたごときでは折れたりはしなかったのである。
ヒナコが空想樹を封じていたのはこうなることが分かっていたからであり、始皇帝の先兵として項羽が戦いに駆り出されるのを防ぐためであった。

本来であれば阿房宮の質量によって全員を押し潰せばそれで事足りるところだったが、
荊軻の策によって演算回路にダメージを受け再起動したばかりであったことと、
荊軻との問答で人類史の進むべき方向性を決する戦いは、『人』の在り方で競われるべきと考えを改め、
扶桑樹から得た羽化昇天のメソッドを、虞美人から収集した生体データで検証し、培養することで完成した極限まで進化した秦のサイバー仙術の結晶たる人型躯体、「真人躯体」を開帳する。
機械体を捨てる羽目になったものの真人躯体を使い、勝利を確信していた荊軻を不意打ちの一撃で仕留めると、そのまま瓦礫と化した阿房宮の中から遂に降臨する。
剪定されるに至った己の世界の不備、そしてむざむざと存在証明を否定された汎人類史の脆弱さ。
どちらにも非があり、義がある。ならば、どちらが編纂事象の座を得るべきか、議論による決着は不毛。
であれば、より強い方が次なる世界の難局に立ち向かうべし
それが始皇帝の決定だった。

そして激闘の末、先に膝を付いたのは始皇帝であった。
汎人類史の『人民』のしぶとさを知った始皇帝は、その可能性を認め、汎人類史へと世界を託すことを決定した。

ここで怒りに我を忘れたヒナコが空想樹を暴走させるが、始皇帝はカルデアの支援に回る。
世界を汎人類史に託すことは決めたが、秦帝国が始皇帝の領土であることまでは譲っていない。
秦皇帝として誰彼構わず人を呪うヒナコを放置することはできなかった。
空想樹を倒し、2200年の弁舌でヒナコを説き伏せ、彼はカルデアを見送った。
機能の回復した長城を使い世界を検分し、最後まで「人」としての責務を果たしながら。

そして、異聞帯が消滅するまでの時、始皇帝は天から民を見守る天子ではなく、
民たちと同じく大地を歩む者として、愛すべき民たちと同じ視点で共にあることを選んだ。
そして民たちと共に、去るシャドウ・ボーダーを見送るのだった。


征け。新たなる人理の窮地へ

その双肩が担うものの重みを忘れるな



















いやまあ何だ、ああは言ったが其方の道行きも気がかりでな。やはり傍らにて見守ることとした

体裁としてはサーヴァントという形で構わぬ故、有難く思うが良いぞ


その一週間後、期間限定サーヴァントとして実装。
気が変わってひょっこりカルデアへと現れたのであった。
クラスはルーラー

●サーヴァントとしての概要


ILLUST:東冬
CV.福山潤

身長:180cm
体重:65kg
出典:史実及び異聞帯
地域:中国
属性:秩序・善
性別:
言うまでもないが真人躯体の数値である。


◆ステータス
筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
B+ B+ B+ B+ B+ B+

◆スキル
○クラス別スキル
対魔力:B+
概ね紀元前の魔術に対しては対処できるが、それ以降に汎人類史で編み出された術は異聞帯の始皇帝にとって未知であるため、突破口になり得る。

〇保有スキル
書は焚すべし:A
他者の魔術回路に対し重圧を与える事が可能。
2000年以上に渡り全世界を支配し続けた為政者としての始皇帝の結論。
民衆は徹底して衆愚に貶め自意識の発芽を摘み取ることで、天下泰平の礎とする。

儒は抗すべし:A
敵対者に物理的重圧を科し動作を妨げる。
坑す、とは生き埋めの処刑法を意味する。紀元前中国における大量虐殺の手段として最も効率的なものだった。
今なお圧倒的な支配と苛烈なる統制の意思として始皇帝のスキルに顕現している。

永世帝位:A
仙界の真人としての自己再生能力。
不滅の為政者としての健勝さこそが始皇帝にとっての最優先事項である。自己回復の手段は必須となる。


【宝具】
始皇帝(ザ・ドミネーション・ビギニング)
ランク:B+ 種別:対界宝具 レンジ:10~999 最大補足:60億人


遊びは終わりか?

天と地の狭間にて、人は斯く在るべしと。此処に、新たなる法を敷く――!

三皇を超越し、五帝を凌駕せし覇者。それこそが始皇帝――即ち、朕である!!


始皇帝の敷いた中央集権制度の国威の具現。
ただ独りの真人たる帝が、万民の奉仕を礎に万民を守護する法政の容。これを呪的な拘束力として世界そのものに強要する宝具。
ただし対象範囲は始皇帝が自らの領土領民と認識した範囲に限定されるため、厳密には対界宝具のカテゴリには嵌まらない。


召喚されるのは決戦で使用された「真人・始皇帝」の躯体。
これは極限まで進化したサイバー仙術の結晶であり、彼が2200年に渡り培った永世秦帝国の技術の到達点。
いわば人造仙人、人体が至りうる究極の均整と能力を備えた超生命体である。
形容し難いその姿(誰が言ったか蛍光色のド派手な蛾)で水銀らしき液体を球体にして投げつけたり、刃にして斬りかかったりして戦うが、
再臨を繰り返すと、「人型の皇帝として相応しき装いに改めてみたぞ」と、アレンジされた冕冠と冕服を身に付け、一般的なイメージに近い姿となる。

性別が「朕」となっているのはネタなどではなく、唯一絶対にして永遠不滅、繁殖の必要すらないため性別をも超越しているため。
ゲーム内で確認できるプロフィールに本当に「朕」と書いてある
ゲーム的にはエルキドゥ等と同じ「性別なし」扱い。
ただしかなり守備範囲が広い黒ひげ氏の「紳士的な愛」の対象外でありながら、
期間限定イベント『魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~』の「魔法少女になり得る女性サーヴァント」の対象ではあるという謎仕様。


担当イラストレーターの東冬氏は当初「蜂準長目(切れ長の蜂のような目つきの男)」の成人男性を想定していたが、
「全裸で性別不明の異形の美形」というオーダーがあって一時間もしないうちに没になったとのこと。
該当の成人男性の絵は氏のツイートにて見ることが出来、目つきや額の宝石(?)などに共通点が見られる。
ひょっとしたら、汎人類史の始皇帝はこちらのイメージなのかも…?


◆カルデアに来てからの始皇帝
3章クリア後は、「見守りには来たものの、汎人類史に見過ごせぬほどの破綻があれば再び敵対することとなっても、再度秦を建国するのもやむなし」と不穏なことを考えているが、絆を深めることでその態度を軟化させていく。

データベースを閲覧して想像を絶する混乱ぶりに主人公や英霊たちに同情し、
「なぁ……そなたさぁ」と軽く声を掛けてきたと思ったら、
「いっそ全てを更地にして主人公が新たな治世を開いてはどうか」と言い出す。
当然主人公にはその気はないので諦めるが、かなり残念がっているため割と本気な提案だったのかもしれない。

その後は主人公を最たるものとして、目に余る悪逆や汚埃もあるが、自分の天下にはなかった美徳や驚きがあることを認め、最終的に汎人類史を守ることを決定してくれるのだった。


◆他の英霊との関係

英霊になるようアドバイスした虞美人は始皇帝と同時に実装されており、
項羽と共にカルデアにいるのを見て始皇帝もにっこりしている。
我を忘れるほど怒り狂っていた虞美人を弁舌のみで言いくるめる言葉の巧みさにはホームズも驚愕。
始皇帝の弁舌が耳に届かなくなるほど住民を扇動した大西王って一体…

  • 不夜城のアサシン
中華を統べる地位を約800年後に引き継いだ縁遠からぬ相手。
彼女の苦痛や嘆きを知って、「せめて朕が存命であったなら」と心を痛める。
が、最終的には「そなたもまた、紛れもなく中華を統べた龍である」と、彼女のあり方を認めている。

異聞帯の歴史において、始皇帝がエジプト遠征した際に漁夫の利を狙っていたらしい。
つまり紀元前50年代あたりには秦軍はすでにペルシャ辺りまでは余裕で踏破していたということになる。えっなにそれこわい。

始皇帝 is watching youである。
更生は褒めるが信用はしないので見張るとの事。

儒の極み。マジないわー。

その他の英霊から声を掛けられることも多いが、異聞帯の歴史では敵対していた相手も少なくないため、面食らうことも多いのだとか。


◆その他
好きなものと嫌いなものは共に「水銀」
これは腐らず、乾かず、固まらずの永劫不滅を象徴するような在り方を朕に相応しいと物質としては気に入っているが、
不老不死探究の折に飲んでいた水銀がクソ不味かったたため、口に入れるものとしては嫌いということである。

「アレ本当に不味くてなぁ。もう二度と口に入れたくないぞ」

実は史書には「始皇帝が水銀を飲んだ」という記録は無い。そもそも「仙薬」が手に入らなかったので、飲んだものなどは無い。
もっとも水銀と縁が無いかというとそうでもなく、彼が葬られた驪山陵には水銀で川や海が再現されたという。
のちにその驪山から、莫大な水銀の反応が探知されたため、始皇帝陵の場所と実在が確認された(発掘はされていない。)
……つまり、現在の驪山陵内部には気化した水銀が充満している可能性が。そりゃあ二千年も水銀漬けになったら嫌いにもなるか……

聖杯にかける望みは特になし。
不老不死となった今となっては必要ないが、「そんな便利なものがあるなら二千年ちょっと早く寄越せというのだ」と愚痴っている。

なお、主人公を見守りに来たという体で召喚に応じる始皇帝だが、ピックアップの都合上、第2部3章クリア前でも召喚自体は可能。
その場合、時系列に行き違いがあったこととなり、図らずも始皇帝はこれから起こる自分との戦いを見守ることとなる。
本人的には面白そうな趣向ということで楽しみにしているらしい。
この手のタイムパラドックスを抱える可能性があるサーヴァントは始皇帝以外にもいるが、
「自分と戦うメインストーリー部分をクリア済みかどうか」でセリフの多くが変わるようになっているサーヴァントは始皇帝のみである。
始皇帝自身は、自分が召喚されたカルデアがそういうパラドックス状態にある事をきちんと認識して物を言う。

●ゲーム中での性能

『人智統合真国シン』開幕より1週間後に、最高レアリティ星5のルーラーとして実装。異聞帯の王の例に倣い期間限定。
なお、実装以前でも同章のラストバトルである空想樹メイオール戦において1回限りのサポートサーヴァントとして使用する事が出来た。

ステータスはHP/攻撃力が実装時点でそれぞれ星5中ベスト3/ワースト2という超耐久型。
クラス相性有利がとれない事もあって「素の」火力は正直微妙だが、実際は後述する宝具の存在により高いアタッカー適性を持つ。
カード構成は天草と同じセイバー型であり、スター生産力に欠ける点を除けば性能自体は優秀な部類に入る。

スキルは以下の3つ。妨害と自己強化がバランス良くまとまった構成。
個々の性能も高いが、代わりにリキャストタイムがやや長い。
  • 「書は焚すべし A」敵全体のチャージ減少&防御力をダウン(3ターン)
  • 「儒は坑すべし A」敵全体に確率でスタン付与(1ターン)&自身の攻撃力アップ(3ターン)
  • 「永世帝位 A」自身のNP増加&弱体解除&HP回復
どれも腐る場面が殆ど無い効果であり、特に足止め性能はかなり高い。
また、「永世帝位」のNPチャージ効果もかなり増加量が多く、自身の運用を大きくサポートしてくれる。

◆宝具:始皇帝(ザ・ドミネーション・ビギニング)
属性:Arts
効果:自身に無敵付与(1ターン)&ターゲット集中付与(1ターン)&攻撃力アップ(3ターン)&クリティカル威力アップ(3ターン)&スター集中度アップ(3ターン)
星5では初となる自己強化特化宝具にして、彼の戦闘での役割を決定づける始皇帝最大の武器
ターゲット集中と無敵を同時に付与するため、1ターンの間ほぼあらゆる単体攻撃を無効化する盾となる事が出来る。
更に3つの攻撃関連バフが凄まじく凶悪であり、適用中は通常攻撃、特にクリティカル攻撃の威力が飛躍的に跳ね上がる。
Artsクリティカルを決めれば重ね掛けも十分可能であり、その際の火力はもはやルーラーの皮を被ったバーサーカーとすら称されるレベル。

その役割は一言で言えば「盾役兼クリティカルアタッカー」。
同じく星5ルーラーである聖女の耐久能力と探偵の攻撃支援を足して2で割った様な性能と専らの評価である。
マーリン玉藻の前といったNP周りを補助出来るサポートを付けてやれば、2つの妨害スキルと宝具により延々と相手の攻撃をいなしつつ、爆発的に強化されたクリティカル攻撃で蹂躙する事が出来る。
更に回復面等でも補助出来れば、相手によってはほぼ無傷で完封勝利も可能。

弱点としては、クリティカルが重要にもかかわらず自前でスター生産手段を持っていない事、
そして盾役とアタッカーという本来相反する二つの役割を切り離せない事
これ以前の「FGOにおける盾役」は通常、アタッカーは他のメンバーに任せ、自身は攻撃にあまり参加しない事が多い。
しかし始皇帝の場合宝具でターゲットと一緒にクリティカルスターまで吸い寄せてしまう上に自身も殴ってナンボという性能をしているため、
他のアタッカーがいるとスターとカードの奪い合いになってしまうの恐れがある。
そのため必然的に前衛は始皇帝+サポーターという編成になるのだが、ここで一つ目のスター生産力の低さが響いてくる。
始皇帝と相性が良いArts型サポーターは軒並み攻撃によるスター生産が苦手なため、スキルや概念礼装による補完が必要不可欠となる。
詰まる所始皇帝をパーティーに入れるにはどうしても彼を主軸とした編成にしなければならず、メンバーや礼装が縛られがちなのが彼の欠点であり、ある意味では始皇帝らしい。

総じてかなりクセはあるものの、相手のクラスにほぼ左右されない耐久性と火力はルーラーとしてはやはり圧倒的。
然るべきサポートをつけてやれば、ボス戦や高難易度クエストでその実力を十二分に見せつけてくれる事だろう。

ちなみに細かい事だが、上記の通り「性別:朕」なので性別に関わる効果をメリット・デメリットを問わず一切受けないという特性を持つ。
ただし男湯女湯問わず入れるしアガルタでは絆ボーナスの対象だしプリヤイベで特攻礼装の恩恵を受けられたりする


●余談

今回ルーラークラスで現界した彼だが、グランドクラス級の霊基を持つとの事。
ただしこれはあくまでグランドクラスに匹敵する霊基を持っているということであり始皇帝がグランドサーヴァントということではない。

担当声優の福山氏は、かつてアニメ『キングダム』にて若かりし頃の始皇帝「政」役を演じていた。
それ以外にも何かと皇帝に縁がある担当声優である。

プレイヤーからの愛称は「朕」
自称および性別から付けられたものだが、おかげでオススメのパーティ編成などの略称がクッソ汚いものになってしまっている。

  • 玉朕玉システム
始皇帝の短所であるリキャストタイムの長さを、キャス狐2人で挟んで無理矢理解決するという編成。
ネーミングこそアレだが、互いの宝具もスキルもかみ合っているため抜群の相性を見せる。
ただ、中国王朝を崩壊させた張本人(狐)が始皇帝のサポートに回ると言うのは、なんという皮肉な構図だろうか。*2

なお、無敵貫通、ルーラー特攻、クラス相性の関連で、に対しては無力である。
まあ彼女がチンと玉に強いのは周知の事実であろう。

【他】

まあ、第3章のラストからしてチンと巨大な棒の戦いなので…。


本場中国にとって始皇帝は偉人の中でも屈指の人気をもつこともあり、詳しい日本人の中にはこんなキャラで中国人が怒らないか心配する声もあった。
…が、当の中国人からは始皇帝のキャラはかなり好意的に受け止められ、「始皇帝のエ〇はよ」と要求される事態に。
あちらでは過度な性的描写は当局に拘束される危険性があるにもかかわらず、果敢に挑むユーザーが現れる始末。
そして満を持して中国版で「人智統合真国シン」が公開されPU召喚が実施された時には、中国でのセールスランキングが70位から1位に躍り出るという始皇帝の人気ぶりを見せた。



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最終更新:2024年03月22日 13:03

*1 不老不死の秘術を会得した人物

*2 正確には似て非なる別人ではあるが。