不死鳥狩り(機動戦士ガンダムUC)

登録日:2018/12/09 (日) 21:42:12
更新日:2023/04/16 Sun 19:19:16
所要時間:約 8 分で読めます





――聞こえていたよ。



『不死鳥狩り』とは、小説『機動戦士ガンダムUC』シリーズの一エピソードである。


目次





概要


元々は設定資料集「機動戦士ガンダムUC GREAT WORKS BOX III」に原作者である福井晴敏の書き下ろしエピソードとして収録されていた短編作品であり、後に原作小説シリーズに追加刊行された第11巻に再録され出版された。
尚、同11巻のタイトルは『機動戦士ガンダムUC11 不死鳥狩り』となっているが、PS3ソフト『ガンダムUC』に同梱された短編『戦後の戦争』も一緒に収録されている。


このエピソードは小説『UC』本編の外伝的な立ち位置にある。
なのでOVA・アニメとはパラレルとなるが、原作の後に展開されたOVAシリーズの完結後に執筆されたもので、原作とOVAの間で生じていた設定の違いを拾い、それらを小説版の世界に落とし込んだ内容となっている。
また、イベント上映作品だった『One of Seventy Two』の続編としての側面も持っており、それを補完する新たな設定を組み込まれている。

そして、後年にアニメシリーズの続編として製作された『機動戦士ガンダムNT』は、本エピソードを原案の一つとしており、設定・ストーリーに引き継がれている部分も多い。
『NT』に興味を持ったなら読んでみてもいいかもしれない。



ストーリー


――U.C.0084
ニューフロリダのセント・ファーガス孤児院で暮らす少年ヨナ。
彼はその日、浜辺で同じ孤児院で暮らす少女が里親に引き取られていくのを見送った。
それが、自分が彼女を見た最後の姿になるとも知らずに。


――U.C.0096
「ラプラスの箱」を巡る動乱が宇宙から地上へと移り、そして再び宇宙へと戻ってきた頃、地球圏の片隅で連邦軍による極秘作戦が展開されていた。
作戦名は「不死鳥狩り」。
この作戦のために編成された精鋭特殊部隊「猟人(シェザール)隊」、その中に連邦軍のMSパイロットとなったヨナの姿があった。

かつて別れた少女の行方を追い、ヨナは黄金の不死鳥、そして予期せぬ強大な存在と対峙する。


後に「ラプラス事変」と呼ばれる戦いが終局へと向かうその裏で、歴史に埋もれていった一つの戦いが描かれる。



登場人物



◆ヨナ・バシュタ
主人公。
連邦軍のMSパイロットで、現在はシェザール隊に所属。機体コードは「C006」。
幼少期にオーストラリアでコロニー落としに遭い孤児となり、孤児院で共に育ったリタに惹かれていたが、彼女が里親に引き取られる際引き留めることが出来ず、プレゼントしようとした海鳥のブローチも渡せぬまま離別。
その後も何度も手紙を書くなどしていたが連絡は取れず、やがて彼女のことを忘却するようになっていった。
しかし成長して連邦軍に入隊したある時、行方不明となったMS「フェネクス」にリタが搭乗していたことを知る。
そして別れた後の彼女の身に起こったことを調べ上げたヨナは、彼女と再会するためエスコラを脅迫しシェザール隊へと編入しフェネクス捕獲任務に参加する。

原隊での乗機はジェガンD型、シェザール隊ではスタークジェガンに搭乗。
イアゴからは経歴その他諸々含めて「平凡を絵に描いたような連邦士官」と評されており、MS操縦の腕も精鋭揃いの他のシェザール隊の面々には劣る。
しかしフェネクスと対峙してからは何かと繋がり様々な事象を“既知”として認識するようになっていくなど、ニュータイプめいた力を得ていく。
物語は彼の視点で進んでいく。


◆イアゴ・ハーカナ
シェザール隊の隊長を務める連邦軍人。
MSパイロットとしてベテランなうえ、部下にも気を回せる良識的な人物。
しかしターゲットの情報すら非開示の不死鳥狩りの任務自体には強い不満を抱いており、長い選定期間を経て隊員が選ばれる中部隊結成直前になって参謀本部からねじ込まれたヨナの素性にも疑問を覚えている。

実はかつてティターンズが行った最大の凶行の一つ「30バンチ事件」の際、ティターンズのメンバーでもないのに動員され作戦内容も知らされぬまま周辺の護衛任務に就かされていたという過去を持つ。
自分が虐殺を実行したわけではないものの、どんな形にせよ事件に加担してしまったことには強い罪悪感を抱えており、10年以上経った現在もその悪夢に苛まれている。


◆アマージャ
シェザール隊の隊員。階級は大尉。

◆デラオ
シェザール隊の隊員。階級は大尉。

◆フランソン
シェザール隊の隊員。階級は大尉。

◆タマン
シェザール隊の隊員。階級は中尉。
隊ではヨナに次ぐ若手。


◆エスコラ・ゲッダ
地球連邦軍准将。
かつてはティターンズの幹部であったが、グリプス戦役後は戦犯となることを恐れその過去を隠蔽したまま現在の地位に就いている。
妻と大学生くらいの息子と娘がいる家庭人でもある。
里親としてリタを引き取った人物だが、これはニュータイプ研究所で使う実験体を集めるためティターンズで行われた組織的な人狩りの一部であり、他にも多くの孤児をニュータイプ研究所に引き渡していた模様。
といってもこれは組織の命令に従っただけで、エスコラ自身も当時はニュータイプ研究所の実態を知らなかったようである。

リタのことを調べ自分の過去を突き止めたヨナに脅され彼をシェザール隊に加えるよう工作したが、ヨナには元々過去の罪に対する贖罪の機会を望んでいたのではないかと見られている。


◆ヤクト・ドーガのパイロット
袖付きのヤクト・ドーガに搭乗する名も知れぬパイロット。
強化人間であるらしいが、マシンと繋がるため刷り込みなどによって頭の一部を空白にされており、ある人物の投影装置として機能している。



◆リタ・ベルナル
ヨナと同じ孤児院で育った少女。
さまざまな人種の混合を想像させる肌理の細かい肌と真っ黒な瞳を持つ。
ヨナ同様コロニー落としで家族を喪っている。
魂の存在を信じ「生まれ変わるなら鳥になりたいな」と口にしていた。

ESPテストで素養を見出されエスコラに引き取られる形でヨナと別れた後、ニュータイプ研究所で非人道的な実験を受ける。
そして半年ほど前、フェネクスに搭乗した際暴走事故を起こし、母艦のブリッジを破壊して機体と共に行方不明となっている。
この時生き残った艦の乗組員の中に偶然ヨナやリタと同じ孤児院の出身者がおり、彼がリタの姿を見かけ事件の一部始終をヨナに伝えたことが物語の発端となる。

尚、暴走しデストロイモードの限界時間に達する直前に彼女のライフサインは消滅していたらしい。

作中では自分を捜しフェネクスと対峙したヨナの精神に語りかける声として現れ、彼を導こうとするが……



メカニック


地球連邦軍

◆RGM-89S スタークジェガン
シェザール隊が使用するジェガンの特務仕様。
捕縛任務用に海ヘビを装備する他、隊長機はスナイパーライフルを持つ。


◆ダマスカス
連邦軍のクラップ級巡洋艦
シェザール隊の母艦として運用されている。


袖付き

◆MSN-03 ヤクト・ドーガ
第2次ネオ・ジオン戦争時に開発されたNT専用MS。装甲はくすんだ黄土色。
なんらかの理由で損傷したのか右腕とバックパックはギラ・ドーガの物を使用している。
OVA版EP7からの登場。


◆ムサカ級巡洋艦
暗礁宙域にいた袖付きの艦。ヤクト・ドーガの母艦。
何か巨大な荷物を運ぶ途中だったようだが……


その他

◆RX-0 ユニコーンガンダム3号機"フェネクス"
「UC計画」の一環として開発されたMS。
邪悪な不死鳥の名と黄金の装甲を持つ。独自装備として背面にアームド・アーマーDEを二つ装着しており、その姿は翼を広げた不死鳥のようである。

半年ほど前、2号機との合同評価試験の際乱入した袖付きのMSとの戦闘でデストロイモードに変身しこれを退けるが、暴走して2号機にも攻撃を加えたうえ、母艦のブリッジを乗組員諸共破壊しそのまま行方不明となった。
その後、「不死鳥狩り」のターゲットとしてシェザール隊に発見されるが、スラスターを使わず青い光を纏って自在に飛行し、生身のパイロットでは到底耐えられない速度で動き回るなど、高性能なユニコーンタイプの性能を考慮しても明らかに常軌を逸した力を見せる存在となっていた。




不死鳥狩り


不死鳥狩りの任に着いたヨナは仲間たちと共にフェネクスと接触。
その異常な性能と動きを前に捕獲することは出来なかったが、その時ヨナは確かにリタの声を耳にする。


その後ヨナは、かつてのリタとのやりとり、エスコラへの脅迫、イアゴが告白した彼の過去、様々なことを考えながら再度の捜索任務に就く。
しかし暗礁宙域へ出撃したシェザール隊は何者かからの砲撃に曝されてしまう。

その混乱の中で再度出現したフェネクスに導かれたヨナは砲撃を放ったムサカ級の下へとたどり着き、それが持つ “あれ”の存在を認識。
リタの声もあって「“あれ”をインダストリアル7へ、本来の持ち主へ届けさせてはならない」と認識したヨナは、死にもの狂いで戦いスタークジェガン単機でムサカ級を撃沈する。


しかし追いついてきたイアゴに状況確認のため制止されている隙に生き残っていたヤクト・ドーガが“あれ”と合体。
“あれ”…… ネオ・ジオングが目覚めてしまい、動き出したその巨体から放たれたファンネル・ビットによってイアゴのスタークジェガンがジャックされてしまう。
ヨナはフェネクスを介して“全体”と繋がり始めたイアゴの望みを聞き、彼の機体を破壊しネオ・ジオングへと迫るが敵わずスタークジェガンを破壊されてしまう。

だが、圧壊しかけたコクピットから飛び出したヨナはリタの声に導かれフェネクスのコクピットへ乗り込む。
デストロイモードとなったフェネクスに対して、ヤクト・ドーガのパイロットを介して現れたフロンタルの虚像はサイコシャードを発動し、フェネクスの武装を悉く破壊する。

そんな中、“全体”と繋がったヨナは、リタも非道な研究のために体を弄られヤクト・ドーガの乗り手と同じく頭の一部を空白にされていたことを悟るが、彼女の魂と触れあうことでサイコフィールドを形成。
その緑の光を纏ったフェネクスが触れたことでフロンタルの虚像は消え、ネオ・ジオングは崩壊。
最後に残ったヤクト・ドーガもフェネクスに手を伸ばしながら崩れ去った。


フェネクスのサイコフィールドの中、かつて別れの場となった浜辺を模した場で、リタと対峙したヨナは「一緒に行っちゃ、いけないのか?」と問う。
しかしリタは「ヨナに会えてうれしかった」と告げて進むよう促し、彼の贈ろうとしていたブローチと共に鳥となって飛び去った。



そして、意識を取り戻したヨナは一人で漂流していたところを、シェザール隊の仲間に奇跡的に救助されていたが、ネオ・ジオングの戦いやリタとのやりとりなどに関する記憶は抜け落ちてしまっていた。

それでも、彼はリタの魂を乗せ星雲の中心へと向かうように飛び去っていくフェネクスの姿を見つめながら瞼を閉じた。

どんなに時間がかかろうと、世代を重ねようと、いつかはその鳥に追いつくために。
「不死鳥狩り」はまだ始まったばかりだった――





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最終更新:2023年04月16日 19:19