たそがれ(仮面ライダー剣)

登録日:2018/10/16 Tue 23:35:44
更新日:2023/10/23 Mon 21:02:49
所要時間:約 8 分で読めます




『たそがれ』とは、特撮テレビドラマ『仮面ライダー剣』の短編小説である。
2005年刊行の『仮面ライダー剣 超全集』(小学館)に収録された作品で、
後に2015年刊行の『永遠の平成仮面ライダーシリーズ 語ろう!555・剣・響鬼』(カンゼン)にも再録された。
著者は會川昇氏。『超全集』収録版の挿絵は石森プロの飯田浩司氏が書いている。


概要

『剣』後期メインライターを務めた會川氏が『超全集』用に書き下ろした小説で、
テレビシリーズ最終話より遥かな未来を想定して執筆された後日談とも言うべき内容の作品。
ムック本だとページ数にして僅か2ページという短さの掌編に過ぎないが、衝撃的かつ悲壮感に溢れた本編の結末を経て、
物語の登場人物達が掴み取った「未来」を描き切った内容は、TVシリーズに触れた視聴者にとっても強い印象を与えた。

元々掲載されていた『超全集』は絶版、プレミア価格になって久しいが、上述の通り別の書籍にも再録が叶っており、
また『超全集』自体もKindleとして電子書籍がリリースされているため、読むことは容易だろう。

ちなみに『剣』の後日談として描かれた作品は本作以外にも幾つか存在しており、
S.I.C HERO SAGA』の一篇として執筆された『MASKED RIDER BLADE EDITION -DAY AFTER TOMORROW-』、
講談社キャラクター文庫より発売された『小説 仮面ライダーブレイド』、
そしてTVシリーズのオリジナルキャストが当時そのままに参加したドラマCD『切り札の行方』といった作品群が発表されている。
この内、『小説 ブレイド』は本編より遥かな時を経た未来を舞台にした後日談という点で共通しており、ファン間で比較されることも多く、
実際小説中の内容も「『たそがれ』を若干意識したのでは?」と思わせる部分もある*1(無論、両作の著者は異なっているため、厳密な意味で繋がっている訳ではないが)。

著者の會川氏は、本作とはまた別の『剣』続編小説の構想も持っていたようだが、某大手出版社にそれなりの需要があるか問うたところ、
「そうは思わない」という返事が帰ってきてしまい、結局没案に終わってしまった事を自身のTwitterで言及している(当該ツイートは現在削除済み)。


登場人物


直接登場せず、動向のみが語られた人物も含む。

  • 一(はじめ)
母に言われて祖母の見舞いに訪れた少年。まだ幼稚園に通っているくらいの年齢。
TVで配信されているドラマ番組『仮面ライダー』が大好き。ちなみに昔の作品よりも最新作が好み。
ドラマのヒーローが虚構の存在に過ぎない事は知っているが、祖母からかつて存在していた「本当の仮面ライダー」の話を聞かされ、その矢先に見知らぬ若者と出会う事に。

ちなみにこの時代、仮面ライダーは現実のそれ同様、すっかりTV番組の人気シリーズとして定着しており、
コンピュータのSWA<スクリプト・ライティング・AI>が人間の好みを計算して製作されている事が地の文で語られている。
これを「時代が変わっても仮面ライダーの名は後世に残った」と取るか、「仮面ライダーが虚構の偶像と成り下がった」と取るかは読み手次第と言えるだろう。

『剣』本編時点ではまだ幼い少女だったが、『たそがれ』では既に老境に入り、邸宅で患った病気を療養する日々を送っている。
見舞いに来た孫の一に、かつて自分が関わった「仮面ライダー」達の物語を語った矢先に、同じく見舞いに来た始と対面する。
話しぶりからして、仮面ライダー達、そして始の素性についても全て理解していると思われる。
名前は小説ラストで呼ばれたのみで、文中ではほとんど「おばあちゃん」で通されている。

故人。天音の叔父で、一にとっては曾祖母の弟にあたる人物。
何十年以上も前に彼が書いた本が大ベストセラーとなったことで莫大な収益を得ることとなり、天音が住む広大な屋敷も、その収益によって支えられているとのこと。
ちなみに『たそがれ』の時点では既に紙媒体の書籍という形態は失われて久しいらしい。
作中における「仮面ライダー」という作品群を生み出したのは彼の書籍(恐らく『仮面ライダーという名の仮面』)である。

故人。かつてアンデッドと戦った仮面ライダーの一人と、それを支えた仲間。
虎太郎共々、その生涯は幸せなものであった模様。

アンデッドであるが故に現在も存命しており、その姿は20歳前後の青年の姿からずっと変わっていない。
橘から天音の病状の事を聞いたことで彼女の見舞いに訪れ、その際に自身と同じ名前を持つ一と出会う。

まさかの存命
天音すら老境で衰弱しているというのに、彼は現役バリバリで全世界にネットワークを持っている研究所を運営しており、
偶々それに引っかかった始に、天音が病気を患っている事を連絡したと、始自身の口から語られている。
新薬の開発も行っているとのことで、天音も彼が作った薬の世話になっている模様。

著者の會川氏がTwitterで語ったところによると、橘がここまで長生きしている理由は
アンデッドになってしまった剣崎を救うための手段として自分自身の身体で人体実験を繰り返した結果、少なからず人間離れしてしまったのが原因とのこと。
ファンからは案の定「流石ダディだ」と言われたとか
本来ならこの辺りの経緯も作中で語られる予定だったが、『超全集』収録に際して尺の都合でカットされてしまったという。
ちなみにあるツイートへの回答という形でこの経緯が明かされたのだが、そのツイートが「睦月や栞さんですら死んで、天音ちゃんも衰弱してるのに現役なのが橘さんらしいと思いました」疑問ではなくまさかの同意素で人外扱いされているのか……

始は直接出会えなかった……というより出会うことすら許されぬ宿命の身の上だったが、彼がニュースで知った情報として、
「アフリカの内戦地に人とも獣ともつかない怪物が現れ、両親を失った子供達を戦場の外に連れ出した」事が語られている。
今もなお、彼は彼なりに運命と戦い続けているのだろう。


『たそがれ』ストーリー解説


少年は母親に言われて、病を患っている祖母の邸宅へと見舞いに訪れたが、サンルームの揺り籠で眠ったままの祖母にすっかり退屈してしまい、
常日頃から持ち歩いているお気に入りの「仮面ライダー」の人形で遊び始めていた。

ふと、少年は祖母が起きた事に気付き、自分の持つ人形がTVで放送している「仮面ライダー」の人形である事を話すと、
祖母はTV番組の虚構ではなく、本物の本当の仮面ライダーを知っていると宣う。
少年は祖母が惚けたと思い怪訝な表情を浮かべるも、祖母は自分の頭はしっかりしていると言い切り、語り始めた。

最初の仮面ライダーを考えたのはコンピュータではなく、本当に「仮面ライダー」を呼ばれる人々が実在し、彼らの活躍をヒントにTVが作られた事を……
アンデッドと呼ばれる怪物に立ち向かった仮面ライダーは4人存在し、ある者は自分がライダーに選ばれた誇りのために、
ある者は自分の中の弱さや闇と戦うために、ある者は夢のために戦ったことを……

少年は祖母が語った仮面ライダーのうち、「夢のために戦った」一人に興味を持つ。
彼もまた、幼稚園のライダーに憧れる子供みたいに、仮面ライダーになりたい夢を抱いていたのかと聞いた。
祖母は少し哀しそうな顔をすると、その人の夢は世界中のすべての人が苦しんだり悲しんだりすることのないよう、「全ての人」を護りたい事だったと言う。
それはTVで放送されている、全人類のために戦う「仮面ライダー」とも同じだ。
そして祖母は、彼もまた「仮面ライダー」になりたくて、最期にはそれを叶えたのかもしれないと言った。

少年は祖母の話していない、最後の一人の仮面ライダーがどんな人物だったのか質問する。
祖母は目を優しく微笑ませ、その質疑に応えた。彼が素敵な人物だった事。自分の幼少期に自宅でもあった店に下宿していた事。
彼が「仮面ライダー」であった事に、母親共々薄々気づいていたが、口には出していけないような気がした事。
そして彼が、仮面ライダーであると同時にアンデッドであり、その運命と戦って、仮面ライダーになったという事を……
最後のことについては少年も気になったが、瞼も閉じてしまった祖母をこれ以上問いただすことは幼少の彼にも憚られた。


と、不意に「仮面ライダーが好きなのかい?」との声をかけられ、戸惑う少年。顔を挙げると、そこには一人の若者がいた。
古くさいコートに年代物に見えるGパンを履き、20歳かそれよりも若く見えた彼の双眸は、とても優しい光を宿している。
それに気付いた祖母は、揺り籠から立ち上がり、ただ真っすぐに若者の事を見ていた。
少年は、この随分若い人物が、祖母の知り合いである事を何となくだが察することができた。

若者は、少年の祖母に、「橘」という人物が運営する研究所のネットワークに偶々引っかかった事で連絡を貰い、彼女の病状を知って駆けつけてきたと語る。
既に「睦月」も「虎太郎」も「広瀬」も亡く、彼女までいなくなったら……と若者は心配するが、
祖母は、かつて若者と、「あの人」が救った世界で、みんな幸せな人生を過ごすことができたと彼を諭す。
若者が彼女自身は幸せだったのかと聞くと、祖母は肯定し、「いつでもあの時のあなたと出会えることができるのだから」と答えた。
2人を見守っていた少年は、いつしか、満面の笑みを浮かべていた祖母の目尻から、涙が零れているのを見た。

祖母は、若者に「あの人には会えたの?」と問う。
若者は、直接会う事は叶わなかったが、アフリカの内戦地に人とも獣ともつかない容貌の怪物が出現し、両親を失った子供達を戦場の外に連れ出した事をニュースで聞いたと彼女に伝えた。

祖母は、若者にそろそろ去ることを促す。
若者は、最後の瞬間まで一緒にいるつもりで来たと言うも、当の彼女は自身が孫である少年が気付くぐらいに痩せこけており、これからもっと酷くなる、見ていてほしくないと、若者を拒んだ。
若者と祖母は無言で見つめ合い、やがて若者はもう一度手を握り、その場から立ち去る。

去り際、若者は少年に名前を聞く。少年は自分の名前……「( はじめ )」と自己紹介した。
若者は優しく笑いかけ、自分も字は違うが「はじめ」という名前だと少年に言う。
一が自分と若者に何か関係があるのか聞くと、若者……( はじめ )は、祖母の友達に「剣崎一真」という男がおり、彼の名前からもらったのが一の名前なのではないかと言う。
曰く、彼は「仮面ライダー」だったそうだが、その言葉を上手く聞き取れなかった一がもう一度聞き直そうと思った時には、既に始の姿は無かった。

一が祖母の元に戻ると、既に彼女はいつの間にかまたすやすやと眠り込んでしまっていた。
一は祖母をおばあちゃんと呼ぼうとし、慌てて言い直す。彼女は幾つになっても名前で呼ばないと怒るのだ。

「天音さん、さっきの人、どっかにいっちゃったよ。ねえ、天音さん」

祖母……天音は幸せな夢でも見ているのか、素敵な笑顔を浮かべながら眠っていた――――





追記・修正は、橘さんに負けないくらい長生きしてからお願いします。

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最終更新:2023年10月23日 21:02

*1 『小説 ブレイド』文中で、始が天音に「拒まれて」最期の時に寄り添う事が出来なかったとあるが、後述の通り『たそがれ』とも一致する内容である。