黄金虫(小説)

登録日:2018/09/19 Wed 12:21:18
更新日:2023/10/16 Mon 20:03:03
所要時間:約 10 分で読めます









「黄金虫」とはエドガー・アラン・ポーの短編小説である。現代は”The Gold-Bug”で刊行は黒猫と同年の1843年。恐らく暗号小説として知っている人も多いだろう。


ジャンルとしては所謂「宝探し」であり、その過程で暗号が出てくるのだが、その暗号を解いて推理をする過程から推理小説的な側面も持っている。



【あらすじ】(未読の方はネタバレ注意!)

語り手の友人ルグランは所謂没落貴族でサリバン島にて黒人の召使ジュピターと共に隠遁生活をしている。
ある時、彼のもとに行ってみると、ルグランは新種の黄金虫を発見したと言って喜んでいた。虫自体は現在彼のもとにはなかったが、彼はそのスケッチを見せてきた。
しかし語り手がそのスケッチを見て「髑髏にしか見えない」と言ったことに腹を立ててスケッチした紙をくしゃくしゃにして暖炉に放り込もうとしたが、その端に目をやると突然驚愕し、その後は語り手には目もくれずに逡巡を始めるのだった……。

それから1か月後、ルグランは語り手に「大事な仕事がある」「黄金虫が財宝をもたらす」といった言葉と共に彼・そしてジュピターの3人でのアメリカ本土の丘陵地帯の短剣の話を持ち掛けてくる…。



【登場人物】

  • 語り手
本名は最後まで明かされない。
ルグランの黄金虫の絵が「髑髏にしか見えない」と言った事から「宝探し」への物語が始まる。
奇妙な言動をとっているルグランを精神錯乱をしていると思いながら、「もし何も収穫が無ければ医者に行かせる」として彼の「宝探し」の探検についていく事に…。


  • ウィリアム・ルグラン
本作の探偵役的存在。
元々はユグノーの一家の末裔で現在は没落しており隠遁生活を送っている。
黄金虫のスケッチを書いた紙から何かを見つけ、狂ったようにその紙の調査を始め、その後は黒板に図形を書いたり突然外出したりしていた。
この事からジュピター、そしてその有様を知った語り手からキ○ガイ扱いされる。
その後は2人を連れて丘陵地帯の探索を始め、ユリの木の上にジュピターを登らせてそこに打ち付けられた髑髏を発見させる。


  • ジュピター
ルグランの召使で黒人(恐らく黒人奴隷だと思われる。)の老人。アフリカ人で作中では「ジャップ」と呼ばれる。
(黒人差別と言うメタな理由からか)ルグランからはやたらとぞんざいな扱いを受けたりあまり教養がないとも取れる様な描写がなされている。
紙の調査などに没頭するルグランの様子を見て何らかの病気だと思って彼からの探検依頼を語り手に伝える際に彼に相談をしている。


  • 黄金虫
ルグランが見つけた新種のコガネムシ。
本体をたまたまあった中尉に貸してしまい、代わりに語り手にスケッチを描いた結果今回の物語へと話が展開されていく。
モデルになっているのはコガネムシではなくコメツキムシであるとされている。










以下ネタバレ注意。










本土についた一行は樹木の生い茂った台地へと至りその中を進んでいくと、大きなユリノキへ到着。ルグランはジュピターに木の上に登らせた所、木には何故か髑髏が打ち付けられていた
ルグランはジュピターに左の眼はどちらかを何度も確認させて、見つけた髑髏の左眼から紐に括り付けて持ってきた黄金虫を垂らさせてそのコガネムシが地上に降り立った地点から最も近い木からその杭までを巻尺でつなぎ、さらにその延長上を50フィートほど行ったところ掘削を開始。しかし2時間かけて作業を続けても何も出てこない。落胆するルグランだったが、ここである事に気が付いてジュピターにある事を聞いた。

「お前の左の眼はどっちだ?」

それに対してジュピターは自分の右の眼を指さした。そう、何度も確認したのにジュピターは目の左右を間違えていたのだ。

そうと分かったルグランは今度は本当に左眼から黄金虫を落として同様の処理をして作業を再開。
始めは正気を疑っていた語り手もどうやらそうではなさそうである事に気が付き始め、彼の作業に力を貸す。
掘り始めた地点は先ほどの位置よりも2~3ヤード(およそ2メートル半)程度ずれており、1時間ほど掘り進めた後、そこからは大量の人骨金貨が出てきたのだ。喜び、興奮するジュピター。
しかしルグランは一瞬失望した表情になった・・・が、そのまま作業を続けさせるとそこからさらに6つの木箱が掘り出され、そこには大量の硬貨や黄金、宝石や装飾品が出てきた。
興奮する3人。その後家に帰って検分すると、その総額は150万ドル(現在の日本円で200億円以上)とはじき出された。*1






興奮する語り手とルグラン。こうなってくると語り手が気になるのは勿論「なぜあそこに金銀財宝が隠されていると分かったのか」。

それはやはりあの黄金虫のスケッチを見せた時だった。
怒って暖炉に投げこもうとした紙だったが、それは実は黄金虫を発見した日に海岸で拾った羊皮紙で、捨てようとした際に本当に髑髏の様な物が見えたのだ
当然驚いたルグランはその絵を調べるがそれは骸骨の様で骸骨でない、別の何か。しかし羊皮紙を拾い、そこにスケッチをした段階ではそんなものは出ていなかった。ではどうやって出てきたのか。ルグランはすぐに答えを見つけた。語り手がいた暖炉の近くで火の熱を受けた結果その絵が炙り出されてきたのだ。
となればやってみることは1つ。羊皮紙を更に火にあてればさらに何かが見えてくるはず。果たしてその予想は的中。髑髏の輪郭が顕在化したと同時に反対側に仔山羊(キッド)の紋様が現れたのだ

ルグランはこれを「読みが同じ」と言う理由からかつての大海賊キャプテン=キッドの紋様だと予想。キッドと言えば、莫大な財宝を所有し、なおかつそれをどこかに隠していた事が有名である。

もしかしたらこれは財宝のありかを示す何かの書面の可能性がある。そう考えたルグランは何とかして炙り出しをしようと試みるが火で炙る方法だけでは上手く行かなかった。
そこで羊皮紙についていた泥を洗い落としてその上で更に温めると以下の文字の羅列が登場したのだ。


53‡‡†305))6*;4826)4‡.)4‡);806*;48†8
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(‡?34;48)4‡;161;:188;‡?;







暗号そのものの謎解きはここで終わったわけだが彼らの間ではまだ1つ気になる事があった。





財宝と一緒に出てきた人骨は何だったのか?





ルグランもこの点には答えを断定できずにいたが、筋が通る推測としてキッドが財宝を埋めるのを誰かに手伝わせた後に口封じのために殺して埋めたのではないかと言う説を出した。
(だとすればたとえ暗号で炙り出さないと文字が出てこないとはいえ、あの羊皮紙も痕跡となりうる以上処分するべきであるはずだが。)




秘密をこの世から葬る為に手伝い人をつるはしで何度殴ったのか。
それは流石にルグランでも分からないのだった。






【余談】


  • 彼が発表したこの作品は新聞の懸賞で最優秀作となり、ポーは賞金として100ドル(現在の日本円にしておよそ100 ~ 150万円。)を受け取っている。これはポーが生前に得た単独作品の収入としては最高額とされている。


  • この作品は発表された1843年に舞台化されているが、これはポーの生前になされた唯一の彼の作品の舞台化である。


  • 本作で用いられた単一換字式暗号の「言語予想→頻度分析→単語から類推」と言う暗号解読の流れはシャーロック・ホームズシリーズの「踊る人形」でも用いられている。(こちらは句読を付ける過程も暗号の一部に組み込まれている。)
また暗号から宝を手に入れる流れは江戸川乱歩の「二銭銅貨」でも利用されている。(ただし採用されているのは単一換字式暗号ではない。)
この様にこの作品に着想を得て出来た作品は多い。


  • この作品の発表前の話だが、ポーは雑誌にて暗号解読の挑戦状ともいえる声明を出し、また実際に送られてきた暗号の大半を宣言通りに解読していた。また暗号に関する著述「暗号論」も雑誌にて掲載している。






追記・修正は髑髏の右目と左目を間違えないようにしながらお願いします。




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最終更新:2023年10月16日 20:03

*1 が、一部を自分達の所有物として残りを売ったところ、更に高額な値段で取引がされた。