偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ

登録日:2018/09/19 (曜日) 01:36:00
更新日:2024/03/04 Mon 12:55:32
所要時間:約 6 分で読めます




――この世界には、一つの特徴がある。

「偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ」は、カクヨムで連載されていたライトノベル。
作者はロリバス氏。

もはやカクヨムまで含めて一緒くたにされている感のあるなろう系の「異世界モノ」に属する。

2018年03月20日に、主にTRPGのリプレイ等を扱う「富士見ドラゴンブック」(の編集部)から書籍版が発売されている。
挿絵は「ソード・ワールド2.0リプレイ 新米女神の勇者たち」シリーズを手掛ける中島鯛氏。
作者曰く、ドラゴンブックの編集部から出されながら「ドラゴンブック」レーベルではないという訳の分からない形態での出版になったのだが、一応その年の「このラノ」に載ったので満足しているらしい。

カクヨム版は文庫本にして160ページ程度とやや短めであり、偏差値50以上ある人なら一日もかからず読み終えられる。
タイトルの出オチ感からは想像しがたいほど王道風味で、どこか温かいラストを堪能してみるのもいいだろう。
一方書籍版は、編集の手によるネタ要素の追加により約2倍のボリュームに膨れ上がっている。

2021年4月、コミックDAYS誌上でコミカライズ版の連載がスタート。作画は紺乃ユウキ氏。
内容は書籍版をベースに一部設定をアレンジした形となっている。

【あらすじ】


こことは違う「い世界」のとある王国は、魔王の率いる「四天王」の脅威に晒されていた。
魔族を倒すためには、誰の手も届かない場所へと封印されてしまった聖剣を手に入れなければならない。
だが聖剣の封印は極めて難解であり、国中が手を尽くしても誰も解くことができなかった。

そんな中、どこにでもいる平凡な少年・リュウは学校からの帰り道に、ひょんなことから「い世界」に迷い込む。
現代日本の知恵を駆使して封印を解いたリュウは、人々を恐怖に陥れる「魔族四天王」との壮絶な戦いに身を投じるのだった。



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――この世界には、一つの特徴がある。

――それは、この世界の住人はバカしかいない。ということだ。


「すげえ!まさかあんな方法があるなんて!」「箱と棒を使うなんて気づかなかったぜ!」「天才だ!」

【真の概要】



タイトルの時点でお気づきの方もいるかもしれないが、この作品、純粋ななろう系の異世界モノというよりはそれを皮肉ったパロディ的なギャグ小説と言った方が正しい。
異世界モノといえば「文明・文化的に遅れている異世界で、現代日本出身の主人公が現代の知識や道具を活かして無双する」というのが一種の王道パターンとなっているが、
この作品では敵味方ともにそのレベルが限界まで低められており、子供の知恵比べ以下の超低レベルな知能戦が終始大真面目に展開される*1
あまりにもぶっ飛んだおバカっぷりが笑いを誘う一方、「『い世界』の住人達がなぜそこまでバカなのか」という点についてはちゃんと練られており、主人公をはじめおバカ揃いのキャラクター達もどこか憎めず魅力的。
根幹には「思考停止しないこと、自ら学んで賢くなろうとすることの大切さ」という結構真面目なテーマもあり、読んでいる方にも考えさせられるものがあるはず。というか、自分の頭を使わず目の前の箱や板に頼り切っているWiki籠りは「い世界人」を笑えない。一通り読み終わってからタイトルを見直すと初見とはまた違った意味合いが感じられるだろう。

【真のあらすじ】


「知ってるか?異の字が書けなくても、知力で無双はできるんだぜ!」
ちょっとおバカな少年、田中竜一。
彼が異世界転移した世界は、別世界のオーバーテクノロジーで人類が自堕落になり、数もかぞえることも読み書きもほとんどできなくなった、知力ゼロの「い」世界だった!
い世界人には不可能だった《聖剣》の封印を解いた竜一は、【10まで数えられる】賢者の娘・ミシェルとともに人々を恐怖に陥れる魔族四天王《策謀》《無双》《最速》《統率》と《飄々》と戦いつつ、い世界人の再教育をすることに――!?
知恵の力であらゆる逆境を無双する「い」世界ファンタジー冒険譚、始まります!

【登場人物】

○い世界サイド

◆田中龍一(竜一)
本作の主人公。「い世界」では「リュウ」と呼ばれている。
学校帰りに珍しいちょうちょを追いかけているうちに、「い世界」転移を果たしたちょっと(?)おバカな少年。九九は五の段までしかできない。
ちょうちょを追ううちにトラックに轢かれたりはしていないので、本作は異世界転生ではなく異世界「転移」モノである(作者はコメントでの指摘で気付き、慌てて修正した)。
自分以上のおバカしかいない「い世界」で知力をもってして(?)無双するものの、それは単に「ものを知っているから」というわけではなく、
その行動は最終的に「い世界」そのもののあり方を変えることになる。
カクヨム版・書籍版・コミカライズ版で年齢設定と名前の漢字が異なる。

《カクヨム版》
本名は「田中龍一」。大柄な体格の高校生。
センター模試を受ければ、マークシートなのに全教科0点を取り脅威の偏差値10を記録。定期テストでは当然のごとく0点を取ったばかりか、名前を書き間違えて点数がマイナスになり、先生からも「お前もう少し画数の小さい名前を付けてもらえばよかったのにな」と同情された。
い世界でリュウと呼ばれているのは、おそらく自己紹介の際に「龍」の字だけ漢字で書けず、漢字の読めないい世界人には逆に「りゅう」しか読めなかったため
ちなみにちょっと前まで「中」も書けなかったが勉強して書けるようになった。
しかしそんな惨状でも、腐ったりグレたりせず真面目に学校に通う善良な人物であり、クラスメイトからは一周回って尊敬の目を集めている。
後続の書籍版やコミカライズ版に比べると(特に序盤は)ちょっとカドのある性格で、いわゆる典型的な「なろう系主人公」っぽくい世界人相手に勝ち誇ったりする場面もちょくちょく見受けられる。

《書籍版》
本名は「田中竜一」。先生の指摘通りちょっと画数が減ったがやっぱり「竜」は漢字で書けない。
わんぱく盛りの小学生男子。もはやバカを通り越した何かを感じさせる龍一とは違い、「クラスに一人はいるタイプのバカ」にまで緩和された。

《コミカライズ版》
本名は書籍版同様「田中竜一」。黒縁メガネをかけた、冴えない感じの男子中学生。
年齢設定が書籍版より少し大きくなったことでカクヨム版寄りの「規格外のバカ」に戻った。バカ故にガラの悪い連中にはいじめられていたようだが、バカすぎていじめられていることに気付いていない
だが同時に全メディアで一番インテリな竜一という一面もあり、社会常識レベルのことは色々ぼんやりしている部分はあれど割と理解していたり、動物関連など特定分野に関してはむしろ妙に博識なところがあったりする。あと自分の名前は全部漢字で書ける。
単に物知らずとか頭が悪いというよりは「超マイペースかつ天然ボケ気味で興味関心のないことには無頓着」なタイプのバカというのが正しいか。
けっこう威勢のいいカクヨム版や歳相応にわんぱくな書籍版に比べると大人しい、というかぼんやりしていて掴みどころがなく自己主張の弱めな性格。
ちょっと現金な面もあるが優しくお人好しで、喜んでくれる人がいるのならと自分の知力を人のために役立てようとしている。

なお変わったのは年齢設定だけで、言動行動にはさほど大きな違いは無い

◆ミシェル・サルヴァドーリ
本作のヒロイン。「10まで数えられる」と謳われし大賢者ラシェル・サルヴァドーリの娘。
突然現れたリュウに聖剣を託し、行動を共にする。
バカを晒しながらも無理難題に挑む龍一の姿に刺激を受けて「学ぶこと」「考えること」に興味を持ち始め、一緒に九九を覚えたりと一歩ずつ前進している。

◆賢王
今代の王。他の者とは一線を画す頭脳を持ち、「漢字」は彼にしか扱うことが出来なかったと言われてる。
国に伝わる聖剣に封印を施し、行方を眩ませた。
  • 封印の間
    天井高くには聖剣が封印されており(糸で吊るされており)、封印は王都で一番背の高い人間がせのびをしても指先一つ届かないほど強固なもの。
    部屋の中には大きく頑丈な箱と長い棒しか存在しない。
    ちなみに書籍版の挿絵にもなっているが、作者の希望のゴリ押しで入れられたらしい。GJ。


○魔王軍サイド
い世界人と長年にわたって敵対関係にあった魔族たち。
元々積極的に争うことはなかったが、ある時現れた「魔王」の意向に従い、現在は人間たちを支配すべく侵略行為を働いている。
が、実のところ良くも悪くも頭の出来や身体能力はい世界人達と大差ないため、世間一般のファンタジーに登場する魔物というよりは「対立する異人種・異民族」に近いと言えるかもしれない。
外見は個体により様々だが、多くは頭に角を生やした人間に近い姿をしている。

◆魔王
突然現れた魔族のボス。
普段は居城の最深部にこもり、「この世界にあらざる書物」の解読に勤しんでいる。
四天王に対しては基本的に放任主義をとる。



《魔族四天王》
魔王直属の精鋭魔族。
一般的な「い世界人」が「1、2、たくさん」までしか数を認識できない中で、四天王を名乗ることによって「4まで数えられる優れた存在」であることを誇示し続けるという恐るべき知略を持ち、ほとんどのい世界人は彼らの姿を見るだけで戦意を喪失してしまう。
ちなみにこの設定、作者曰く「魔人探偵脳噛ネウロシックスが『10まで数えられぬ幼子も恐怖するように』というニュアンスで自分の名前を使っていたことに着想を得た」ものらしい。

◆《無双》
四天王の一人。牛の頭をもつ巨大な怪物。
見た目通り力自慢の武闘派で、槍と剣の二刀流から繰り出す必殺技「両手で別々の武器を使うことで二人になったも同然になる」を繰り出す。
また、まだ使ったことは無いが、切り札として魔王がもたらした武器「ジュウ」を隠し持つ。

◆《最速》
四天王の一人。細身のイケメン。
い世界一の俊足を誇り、相手が誰であろうと「あっ」という間に背後を取ってしまう。
ミシェルをちょうちょで釣って人質にとろうとするも、「考える」ことに目覚めた彼女の思わぬ反撃を喰らい…。
カクヨム版・書籍版ではいかにも典型的なケヒャリストイヤミな卑劣漢といった印象だったが、コミカライズ版ではちょっと言動が落ち着いており小物っぽさが薄れている。
一方で同僚の《策謀》の無防備な姿を見つめて赤面するなど純情かつムッツリスケベな一面も。

◆《半月》
四天王の一人。い世界随一の腕力と頭脳を併せ持つ強敵。
四天王達に召集がかかった際にも姿を見せない謎めいた存在。
書籍版・コミカライズ版では《統率》という名前で登場。その名の通り多数の獰猛な獣達を従えており、脅威度がさらに高くなっている。


◆《策謀》
四天王の一人。ローブを纏った褐色肌の男。
戦闘能力は無いが、変装・隠密・動物の鳴きまねなどのスキルで暗躍し、他の四天王と龍一の潰し合いを画策する。
書籍版・コミカライズ版ではグラマラスな体型の女性になっている。特にコミカライズ版ではお色気要員的なポジションについており、おバカな言動も相まって結構可愛い。

◆《飄々》
書籍版・コミカライズ版にのみ登場する四天王。鍔広の帽子とマントを身に纏う風来坊風の男。
その名の通り飄々と思わせぶりな言動をする謎多き人物で、竜一は彼を父ちゃんに似ているというが、その正体は…


《その他の魔族達》
◆《傲慢》
書籍版・コミカライズ版にのみ登場するキャラクター。
《王都から出て右の村から出て右の村》を支配していた魔族の一人。豚の頭を持つ太った男。
部下の魔族達を「たくさん」従えており、村の人間達を脅してよくわからない棒をぐるぐる回させるなどの非道を働いていたゲス野郎。
《最速》の口車に乗せられ、倒された《無双》の後釜として四天王に加わろうと画策するが……
ちなみに数は4まで数えられない
コミカライズ版では食事中に口に物を入れてしゃべるなど、下品さを強調した描写が多くなっている。
「い世界」の魔族基準でもアホな方かつ身内からの評判も悪いようで、ミシェルからは「愚劣」、同じ魔族である《林の中の小さな村》の村長からは「魔族一姑息で厚かましい」と概ねボロクソに言われている。

◆《無垢》
書籍版・コミカライズ版にのみ登場するキャラクター。
迷子になった竜一達に道案内をしてくれた心優しい魔族の少女。
彼女の住む《林の中の小さな村》の住人達はみな親切かつ友好的で、近隣の《王都から出て右の村から出て右の村から出て右の村》に住む人間達と仲良くしたいと願っているが、あるすれ違いが原因で溝ができてしまっている。

○その他
◆ツッコミ仮面
書籍版・コミカライズ版にのみ登場。敵か味方かツッコミ仮面。
その名の通り突然現れては、い世界人のバカっぷりにツッコミを入れて去っていく。

カクヨム版は途中まで登場人物の行動に一切ツッコミが入らず、最終盤のあるシーンでそれまで溜め込んでいたツッコミを一気に放出するという構成になっている。
だが尺が伸びている書籍版でそれをやるわけにはいかないため、急遽このようなキャラが用意された。


◆ナイ
カクヨム版の外伝的な短編にのみ登場。
突如現れた謎の男。その正体はナイアーラトテップ
い世界人にどうにかして深遠なる叡智を授けんと悪戦苦闘するも、せっかく考えてきた「ふっかつのじゅもん」を全部ひらがなで綴られてしまい色々と台無しになる。
とはいえ邪神召喚の呪文などのひらがな表現はそう珍しいわけでもないのだが。無理やり人語にしている時点で実はアルファベットでも滑稽さは五十歩百歩である。
またなにかと思考ややり口がクトゥルフ物TRPGのシステムやお約束に頼りっきりな発想であったりと、見ようによっては彼もまた創作で暗躍する『這い寄る混沌』としては愉快なバカ枠と言えなくもない。




追記・修正は九九の七の段を覚えてからお願いします。

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最終更新:2024年03月04日 12:55

*1 書籍版あとがきによれば「知略戦が書きたかったが頭のいい展開が思いつかないので頭を悪くした」とのこと

*2 正体が明かされるまでは熊ではなく少女の方が《統率》だと思わせるようなミスリード的な描写がされている