シグルーン(北欧神話)

登録日:2018/07/23 (月) 09:44:40
更新日:2020/12/20 Sun 08:43:13
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シグルーン(Sigrún)とは、北欧の古エッダに登場するヴァルキュリアの名である。
彼女は伴侶である英雄ヘルギとともに転生を繰り返し、その三度の生涯を彼とともに過ごした。
彼女の哀しくも壮絶な愛の物語は今に至るまで語り継がれ、シグルーンの名は現在の創作文化でも数多く目にすることができる。



【概要】

シグルーンは「ヘルギの歌」三部作においてメインヒロインを務めた戦乙女である。
彼女は英雄ヘルギとともに生まれ変わりつづけ、三度の生を常に彼のかたわらで過ごした。


一度目は殺戮の乙女スヴァーヴァ
二度めは勝利の乙女シグルーン
そして三度めは狂乱の乙女カーラとしてである。


シグルーンは戦士ヘルギとともに戦いともに愛しあったが、そのたび悲しい別れを迎えてしまう。
しかし三度めの生でようやく、ふたりでともにヴァルハラへ旅立つことができたのだという。


スヴァーヴァの物語

かつてノルウェー王ヒャルヴァルズのもとに、しゃべることのできない息子がいた。
彼は成人してもなお一言も口を聞けず不具の子として扱われ、名前を与えられることも無かった。

そんな彼の前にある日9人のヴァルキュリアが現れる。
その中でもっとも威風堂々とした乙女、エイリミ王*1の娘スヴァーヴァは彼の前に一歩進みでてこう呼びかける。



「いかに猛き心を秘めていようと、口を閉ざし心を閉じこめたままでは無きも同じこと。」


「心を解き放ち叫ぶのです、若き王ヘルギよ」



ヘルギ(Hergi 聖なる者)と呼びかけられた王子は閉ざされた口を開いてこう言った。



「わたしのものになってください、スヴァーヴァ。 あなたがわたしを拒むなら、その名は受けとれません」



スヴァーヴァは微笑み彼に名剣のありかを教え、武功を立てよと告げる。
一人前の英雄となりわたしを迎えにきてほしいと。
ヘルギはその言葉にしたがい剣を手にし、祖父の仇を討ち巨人を討伐し数々の武勲をあげる。
そして彼はエイリミ王のもとに出向き、王の許しを得て堂々とスヴァーヴァの夫となる。
ヘルギはスヴァーヴァはエイリミ王のもとに残し自らはひとり戦場へと赴いた。
スヴァーヴァは王宮で夫を待ちつづけ、戦場から戻ったヘルギと深く愛しあった。

しかし幸せな時間は長くは続かない。
ヘルギの兄ヘジンは女巨人の呪いを受け、酒席でスヴァーヴァを手に入れるという誓いを立ててしまう。
ヘルギは兄を責めず、挑まれるまま決闘にのぞみ致命傷を負う。
彼はいまわの際、スヴァーヴァにこう告げる。



「兄を恨むな。 わたしが死んだら彼を頼れ」



しかしスヴァーヴァはこの言葉を良しとせず、誰にも身を任せぬまま彼の後を追うように死を迎えるのである。


シグルーンの物語

時がたち、ふたりはそれぞれ現世へと生まれ変わる。
ヘルギはその名のまま、英雄シグムント王の息子として。
スヴァーヴァはホグニ王の娘、戦乙女シグルーンとしてふたたび生を受けた。

出生時にあらわれたlink_anchor plugin error : 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。たちに「王の中の王になるであろう」と予言されたヘルギは
その言葉通り数々の殊勲を上げ、父の仇であるフンディング王を討ち取る。
その戦いの帰途、ヘルギはシグルーンと出会いお互い恋に堕ちる。

シグルーンは望まぬ婚礼を強いられていることをヘルギに告げ助けを求める。
ヘルギはそれに応えて、軍勢を集め彼女の許婚を討つ。
しかしシグルーンの親兄弟が許婚に加勢したため、ヘルギは彼らをもことごとく討ち果たさねばならなかった。
家族を失い悲嘆にくれるシグルーンをヘルギが支え、その間に何人かの子供に恵まれる。

だがシグルーンの親族の中でただひとり生き残った弟のダグがヘルギへの復讐をオーディンに誓う。
オーディンはこれを聞き届けダグに自分の槍を貸し与える。
ダグはその槍でヘルギの胸をつらぬき復讐を遂げた。

シグルーンはダグを呪い、ヘルギの墓の上で涙にくれていた。
ところが墓の中から、胸の傷から鮮血をしたたらせてヘルギがよみがえる。
シグルーンの涙は土中のヘルギの胸に届いて熱い血に変わり、彼にいつわりの生命を与えていたのである。
彼は青ざめた唇を開き、シグルーンにこう語りかけた。



「…もう、哀しまないでほしい。 わたしを神の元(ヴァルホル)へと送ってくれ。」



やすらかな死を望むヘルギに対し、シグルーンは懇願する。



「お願いです。 せめて 、せめて一夜だけでもあなたとともに…」



ヘルギはその願いを聞きとどけ、ふたりで墓中に寝具を運びこみ一晩を過ごし、シグルーンの思いを遂げる。
そして夜明けとともにヘルギは死者の国へと旅立っていった。


その後シグルーンは誰とも再婚することなく、ふたたび彼の後を追うようにこの世を去る。


カーラの物語

シグルーンはもちろん、神の元(ヴァルホル)へ行ったはずのヘルギにも、まだ心残りがあったのだろう。
彼と彼女はスウェーデンの勇士ヘルギとハールヴダンの娘カーラとして3たび現世に生を受ける。
ヘルギは戦場で勇猛に戦い、カーラは白鳥の姿で彼の上空を飛び呪いの歌で敵の動きを封じヘルギを援護した。

ある日ヘルギとカーラは、ヴェーネル湖の水上でデンマーク人と戦っていた。
戦いは熾烈を極め、敵味方の剣と体は激しく交錯する。
その激戦のなか、ヘルギは誤って剣を振り上げた際にカーラを切り落としてしまう。




「あああああああああああっ!」


「・・・カーラ!」




カーラは地に叩きつけられ死に、彼女の加護を失ったヘルギも戦場の露と消えた。
こうしてすれ違い続けたふたりはようやく、ともにヴァルホルへと旅立つことができたのだという。


●登場作品など

ブリュンヒルデにはさすがに及ばないが、彼女の名も後年の複数の作品で見ることが出来る。
ワーグナーの「ニーベルングの指環」に登場するブリュンヒルデの妹のひとり「ジークルーネ」は彼女がモデルだと言われる。
他にもファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡&暁の女神スパロボ64のロボット名などにその名が見られる。




追記・修正は愛する人とともに転生してからお願いします。



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最終更新:2020年12月20日 08:43

*1 エイリミ王:シグルズの妻の父親で、彼の叔父に当たる人物。