ディーゼルエンジン

登録日:2018/05/31 (木) 16:31:47
更新日:2023/09/21 Thu 18:46:05
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ディーゼルエンジンとは燃料を燃やして動くエンジンの一つである。
名称は開発者のドイツ人技術者ルドルフ・ディーゼルに由来。

ディーゼルエンジンを含めて、内部で燃料を燃やして直接運動エネルギーを得る機関の事を「内燃機関」と呼ぶ。*1
内燃機関といえばガソリンエンジンを思い浮かべる人も多いだろう。

ではディーゼルエンジンとガソリンエンジンの違いは何か。
使う燃料が違うといえばそう。ガソリンエンジンはガソリンを燃料にして動く。
一方ディーゼルエンジンは基本的に軽油を燃料にして動くが、古い仕組みがシンプルなタイプであればある一定の発火点を満たした液体であれば何でも使用できる。それこそ植物油とか料理に使った後の天ぷら油でも動く。
このことをかつての日本のディーゼルエンジン研究第一人者であった関敏郎は何でも食べる豚になぞらえ、「豚の胃袋」と評した。
ただしガソリンを入れると暫くの間は動くけど確実に壊れる。また、軽油以外を入れると…(後述)

+ そもそも「軽油」って何?
軽自動車は軽油で動く!!……わけでは無い。軽自動車に積まれているのはガソリンエンジンである。ややっこしくなるからヤンマー・ポニーのことはしばらく忘れろ
(後述するエンジンの仕組みの違いを考えると、軽自動車とディーゼルエンジンの相性はむしろ最悪

掘り出した原油はそのままでは使えないので、蒸留して成分を分離させる必要がある。
勇者エクスカイザーで徳田さんが油田から原油を貰って灯油代わりに使おうとして呆れられるシーンとかありましたね。

そのときに底に貯まる重い成分が重油で、蒸発して集まる軽い成分が軽油
ちなみに軽油よりも軽いのがガソリン、灯油、ガスとなる。重油より重い成分は道路を舗装するアスファルトの原料になったりする。
そのため重油よりは軽いから軽油。つまりガソリンスタンドで扱われる油で一番重いのが実は軽油だったりする。
分かりづらいし間違えて入れる事故も多いので、近年は「ディーゼル油」と表記するスタンドもあるそうな。

沸点(液体と気体の境目)は軽油は180℃~350℃。ガソリンは30℃~220℃
ガソリンの方が低い温度で気体にすることができる。そのためエンジンも作りやすいのだが、扱いが難しいのもガソリン。
ついでに融点(個体と液体の境目)はガソリンが-40℃、軽油は5℃~-30℃と規格が細かく別れており、寒い地方で融点が高い軽油を使うと凍ってしまう。

ガソリンスタンドで軽油(ディーゼル油)のほうが安い理由は、日本ではガソリンの税率が高いため。別に製造工程で軽油のほうが作りやすいわけではない。
別に日本ローカルというわけでもなく、先進国でガソリンの税率が軽油とあまり変わらず軽油よりガソリンのほうが安い国はアメリカくらいだったりする。

では軽油の利点は?というと……この項目の続きをどうぞ。

仕組みもガソリンエンジンとディーゼルエンジンで大きく違う。
大きな違いは点火プラグの有無だ。
ガソリンエンジンは圧縮した燃料を気化させた気体と吸い込んだ空気を点火プラグが起こした火花で爆発的に燃焼させることで動く。
一方ディーゼルエンジンは吸い込んだ空気を圧縮させ、そこに燃料を噴射し、自然発火させる事で動いている。
自然発火するほどの圧力をかける必要があるため、アイドリング時の騒音と振動はガソリンエンジンよりも凄まじい。近年はマシになっているが、それでもガソリンエンジンと遜色が無いとはいい難い。

発生させる動力の特性も大きく異なる。
  • ディーゼルエンジンは回転域が狭く、どちらかと言えば低回転寄り。ガソリンエンジンは回転域が広い。
  • ディーゼルエンジンは回転域が狭い分、低回転で高トルクを得られる。

基本的にディーゼルエンジンは大きな物を、低速で動かすことに長けている。
熱効率もガソリンエンジンに比べていい上、軽油の価格もガソリンに比べて安いためダンプやトラック、バスなどの大型商用車、鉄道車両、船舶、発電機などに広く使われている。
ただしディーゼルエンジンは燃焼の特性上、二酸化炭素の排出量はガソリンエンジンに比べて少ないがNOx(窒素酸化物)やPM(すす)といった有害物質を排出してしまう。

このため特に台数が多い自動車用ディーゼルエンジンについては厳しい排出ガス規制がかけられており、今も年単位で改訂が行われている。
20年近く前、某自治体のトップが記者会見ですすの入ったペットボトルを記者の前で振ったパフォーマンスを覚えている人もいるかもしれない。
この自治体トップは国の規制とは別にディーゼル車規制を条例で制定。ある一定の基準に満たないディーゼル車は指定されたエリアでは車検の通過・新規登録を不可*2とし、エリア内への乗り入れも不可とした。(ただし通過はOK)
この規制と国の排ガス規制強化に合わせたメーカーの努力により、現在のディーゼル車の排気は昔に比べてかなり綺麗になっている。古いトラックだと排気管から目立つほどモクモクと排気ガスを吐いていたが、今となっては目を凝らしてよく見ないと排ガスが出ていることが分からなくなっている。

このように排気ガスに厳しい規制がかけられている関係上、ディーゼルエンジンには排ガスの浄化に以下の補機が使われる。
  • DPF
    ディーゼル微粒子捕集フィルターといい、排気ガスに含まれるすすを大気中に排出する前にフィルターでキャッチする。定期的に再生といってフィルターに付着したすすを除去する必要がある。*3
  • 尿素SCR
    触媒による還元作用を利用して窒素酸化物を大気中に排出しないよう防ぐもの。燃料タンクとは別に尿素水のタンクを設置し、排気ガスに尿素水を噴射。噴射した液体に含まれる尿素は排ガスの持つ熱でアンモニアに変わり、アンモニアは窒素酸化物と反応することで窒素と水に分解する。最近はほとんどのディーゼルエンジンを動力とする商用車に尿素SCRシステムが付いている。
  • EGR
    排気再循環のこと。排気をもう一度吸い込むことで吸気中の酸素濃度を下げ、すすの発生を抑える。
上記の補機と組み合わせる形で燃料を高圧で細かく噴射するコモンレール方式を採用している。

またディーゼルエンジンは専用のエンジンオイルを入れる必要がある。
これは通常のエンジンオイルだとエンジンシリンダー内に残った燃えカスがエンジンオイルと結合して沈積物が出来上がり、ピストンの動きを邪魔してしまうため。
ディーゼル車の場合はこの事態を避けるのと燃料に含まれる硫黄による酸化を防ぐため、専用の添加剤が入ったオイルを入れなければならない。
ここでケチると後で痛い目に遭いますよ。

尿素SCR搭載車の場合、尿素水を定期的に補給する必要がある。もし尿素水が切れてしまうとエンジンを再始動することができなくなる。補給は大型トラックに対応したガソリンスタンドやディーゼル車の販売を行っている自動車メーカーのディーラーで行おう。
間違っても小便を入れるなんて真似はしないように…

ディーゼルエンジンは排気系統を閉じてしまうことで大きな負荷を生じさせ、強力な制動力に変換する排気ブレーキが装備されていることが多い。
フットブレーキとは別の補助ブレーキとして使われ、長い下り坂を下る時の抑速ブレーキとしての役割を持つ。

なおディーゼル車に灯油を入れても一応走ることは出来るらしいが、税率が違うのでこのまま公道を走ると脱税になってしまう。警察は勿論のこと、ある意味警察より厳しいと噂の税務署の人達もやってくるので絶対に真似してはいけない。
あとA重油も軽油に近い組成だがこれを入れても脱税で、やはり警察以上に怖い人達がやってくる。
でも燃料タンクに灯油を入れたって中身は見えないんだからバレないのでは?と思われがちだが、灯油を入れた状態で走るとマフラーから猛烈な白煙が排出される上、ストーブを消した後の灯油臭さが漂う。
こんな車が公道を走っていたら否応でも目立つし、検問をやっていたら間違いなく止められて燃料を調べられる。
また、灯油には識別剤としてブラックライトを当てると黄色く発光する薬剤「クマリン」が入っており、灯油が入った状態でブラックライトを当てるとすぐにバレる。

で、苛性ソーダや濃硫酸といった化学薬品を使って何とかクマリンだけ取り除こうとする所謂「クマ抜き」を図る良からぬ輩はいるようで、これを行った灯油などで水増しされたのが悪名高い「不正軽油」。当たり前だがバレれば警察より怖い人達が話を聞きにやってくる。
ちなみに灯油からクマ抜きを行う場合は「白抜き」、同じく重油からクマ抜きをする場合は「黒抜き」とか呼ばれる事も。
更にその過程で不正軽油製造の重大な証拠となる「硫酸ピッチ」を始めとした有害物質も産出し、大抵は野山に不法投棄される為に環境汚染も引き起こす。
そもそもそうした不正軽油は品質管理も衛生もクソもない所で粗雑に密造されている可能性が高いので、使えばエンジンを始めとした各機関の寿命をマッハで削る。いくら安いからと言ってストーブの中身を車に混ぜたらまともな結果にならない位は想像してもらいたいところである。
製造元のバックにはヤの付く自由業が関わっている事もあるので、資金源になるのを防ぐ為にも安い軽油があるからとか話を持ち掛けられても買ったりはしてはいけない。
寧ろ話を出されたらすぐに警察に相談しよう。

ちなみにディーゼルエンジンは回転数で下記のように大ざっぱに分けることが可能である。
特性 使用燃料 主な使用用途
高速ディーゼルエンジン 小型で高回転だが燃料効率が悪い 軽油もしくはA重油 自動車や鉄道車両、高速船艇
中速ディーゼルエンジン 高速と低速の中間、使い勝手がよく需要が大きい 軽油もしくはA重油 旅客船、軍艦、ディーゼル機関車、施設の非常用発電機等
低速ディーゼルエンジン 大馬力で燃料効率は非常に良いが巨大で場所をとる C重油 大型の貨物船、島嶼用の常用発電機等

追記・修正は間違えずに燃料を入れてからお願いします。

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最終更新:2023年09月21日 18:46

*1 ちなみに燃料を燃やす工程と運動エネルギーを生む工程の間に別の気体や液体を膨張・収縮させる工程を挟む機関を「外燃機関」と呼ぶ。蒸気機関や火力発電・原子力発電なんかがコレ。

*2 今度は車庫飛ばしという別の問題を発生させることになったが。

*3 除去そのものはエンジンを掛けたままにしておけば勝手にやってくれる