文字通り(日本語)

登録日:2018/04/30 Mon 05:14:21
更新日:2024/01/27 Sat 12:52:53
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「文字通り」とは、文字通り使い方の難しい日本語である。
類義語は「読んで字の如く」。

概要

慣用句・比喩・ことわざというのは、「その文章そのものの状況とは違っても意味が通じる」から慣用句なのである。
例えば、「弘法にも筆の誤り」「河童の川流れ」というのは、別に空海が誤字したり河童が溺れた時にしか使えない表現ではない。
「上手い人でもミスすることはあるんだな」と感じた時に自由に使えばいいのである。

しかし、時にはその慣用句がそのまま通じてしまうシチュエーションに人は出会うものである。

「二人は文字通り同じ釜の飯を食った仲だ」

なるほど、この二人は同じ釜から飯を食って生活を共にした関係だったのだろう。比較的イメージしやすい「文字通り」である。
ひょっとしたら現代なら釜ではなく炊飯器かもしれないが、そのぐらいは許容範囲だろう。
まさに慣用句ピッタリの状況に出会った感動で人は「文字通り」と付けてその感動を強調しようとする。これはそういう強調表現なのである。

誤用?

……では、次のような文章だとどうだろうか?

「私は文字通り顔から火が出るような恥ずかしさを感じた」

恥ずかしさのあまり顔から火が出る体質なら、一度病院に行った方がいい。というか危なすぎるので近づかないでほしいものだ。

では、こういう文章だと?

「文字通り年貢の納め時、という奴か」

今の時代に年貢はない。仮に時代劇だとしても、年貢を滞納しているなら滞納している奴が悪いのであって、気取って言うようなことではないだろう。

こういう文章もある。

「文字通り親のすねをかじる生活です」

親不孝にも程がある。

「文字通りただの置き物」

元々そういうものです。

「雑魚を文字通り片付けてからだ」

几帳面な味方の嘆き。倒したままだと邪魔だし。

しかし、実際に世の中に出回っている文章を見て回ると、 意外なほどこういう表現が多い ことに気付くだろう。
そう、今の時代「文字通り」は元の意味を失って、単なる「慣用句の強調表現」になりつつあるのである。
「文字通り」が「文字通り」比喩表現と化すというやや皮肉の利いた状況であり、「日本語の乱れ」と嘆く人もいる。
とはいえ、言語は生き物なので、時代に合わせて変容していくのも仕方ないと言える。

だが、一応今のところこのような「文字通り」の使い方は 誤用 に分類されるので、これから小説なりエッセイなり日記なり書こうとしている人は注意しよう。


シュールな文字通り

せっかくなので、「文字通り」を多用したらどうなるかいくつか例を挙げて突っ込みながら説明してみよう。

「奴とは文字通り手を切ったんだ。もう縁もゆかりもない」

確かに、手を切った相手とそれ以上交流することはないだろう。 というか絶縁されて当然である
アルマジロイマジンかお前は。

「文字通り身を粉にして働いた」

一体何の仕事をしているのだろうか?製粉業?

「彼は栄誉ある文学賞を受賞して文字通り天狗になっているのさ」

そのぐらいで妖怪に変身されても困る。

「え、ここの支払いはいいのかい?」
「あぁ、先輩が文字通り自腹を切ってくれたよ」
「文字通りの太っ腹だねぇ」

この人たちは一生(デブ)先輩に頭が上がらないことだろう。
もっとも、頭を下げるべき先輩はもうこの世には居まい。

「クックック、勇者め、この罠だらけの魔王城に来るとは……文字通り飛んで火にいる夏の虫だな……」

「炎の罠がある」「季節が夏である」「 勇者が虫である (或いは虫を使役している場合か)」という条件を満たさないと言えないレア台詞。
ムシキングとか(ファンタジー路線でなおかつ虫モチーフという縛りがつくが)仮面ライダーシリーズとかなら該当しそうではある。

「あの子は文字通り猫を被っているので教師受けがいい」

きっとネコ好きの先生なのだろう。
その猫が本物や着ぐるみではなく、死体だったりしたら別方向のヤバさを感じるかもしれないが

「文字通り臥薪嘗胆して精進した」

薪はともかく、肝を手に入れるのが現在では難しそうである。

「先生のお言葉、文字通り胸に刻ませていただきました!」

え、入れ墨……?

「文字通りの一心同体」


「文字通りほっぺたが落ちそう」

肉を溶かすタイプの毒キノコでも食べなきゃこんな状況にはならない。はず。

「先生は大作を最後に書き上げ、文字通り筆を折った」

もはや復帰はするまいという決意の現れか、あるいは何か嫌なことでもあったのだろうか。
それにしてもペンではなく毛筆だとしたら中々の腕力の持ち主である。筆の種類にもよるか。あるいは膝で折ったか。

「文字通りの化粧室」

便器はありませんので悪しからず。
実際にそういう化粧室も存在はしているが、トイレのある方と混同しないように「パウダールーム」という名称になっている事が多い。

「お客様は文字通り神様です」

神が降臨する程凄い状況なのか、神が普通にいる世界では当たり前のことなのかは迷う所。
ちなみに最近では某幻想楽団新作のリスナー及びコンサートの観客を「神社の神」に見立て、実際に神の権限を与えていた。

「文字通り心頭滅却すれば火もまた涼し」

頭と心臓がなくて生きていないのだから確かに暑さを感じることはなかろう。

「文字通りの箱入り娘」

事件か、超生物か、もしくは精密機械か、あるいは箱の中の方が安心出来るのか、はたまた脱出トリックなのか。

ネタ

漫才コンビ大木こだま・ひびきは「ひびきが言った慣用句をこだまが本当に文字通りに捉えて突っ込む」という屁理屈じみたボケが定番のネタとなっている。

  • 「金に物言わしてんねや」→「金は物言えへんやろ〜。金が物言うたら銀行やかましいてしゃあないがな〜」
  • 「猫の手も借りたいんや」→「猫に手はあれへんやろ〜。あれは前足や〜」


ドラえもんのひみつ道具「具象化鏡」は、この手の比喩表現・慣用句を文字通り現実にする効果を持つ。
劇中では「悲しみで胸が張り裂けそう」になったのび太の胸が張り裂けそうになり、「嫉妬の炎を燃やした」のび太が燃え、「真っ赤な嘘をついた」スネ夫が真っ赤になった


最後に

「文字通り」という言葉もまた、慣用句として「誇張ではなく」という意味も持っている。
文字通りをなんでも文字通りに受け止めないように。


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最終更新:2024年01月27日 12:52