鋼鉄ジーグ(松本めぐむ版)

登録日:2018/02/24 Sat 21:23:55
更新日:2024/04/14 Sun 22:17:07
所要時間:約 22 分で読めます




本項目では、『鋼鉄ジーグ』の数ある漫画版……その内の一つ、松本めぐむ氏によるコミカライズ版を紹介する。


概要

アニメ版放送に併せて『冒険王』誌で連載された作品で、著者は後に『夏子の酒』等を手掛けることとなる松本めぐむ(現:尾瀬あきら)。

『冒険王』誌といえば、かの桜多吾作版『UFOロボ グレンダイザー』岡崎優版『機動戦士ガンダム』といった、
後世に「怪作」として名を轟かせている作品群を輩出した雑誌であるが、本作もその例に漏れず、
著者の尾瀬氏の作風が爆裂した結果、TVシリーズとはかなり解離が激しい内容に仕上がっている。

まず作風だが……暗い。ムッチャ暗い。
遥かな古代よりの侵略者に対し、サイボーグ化した主人公が立ち向かうという大筋自体はTVシリーズと共通なのだが、
家庭問題の図式を挟みながらも王道のヒーロー作品として成立していたTVシリーズとは真逆に、
こちらは著者の尾瀬氏が好む「人間的な弱さのあるヒーローらしくないヒーロー」として執筆されており、
それ故か全編を通して「敵よりも、本来守るべき存在である人々に疎まれ、追い詰められる」という描写が目立つ。
そのため、TVシリーズやゲームなどで見知った鋼鉄ジーグのイメージを持って本作を読むと、いささか面食らう事間違いないだろう。
とはいえ、そのテーマを一貫して描き切った作風は当時からそれなりに評価されていたようで、連載当時は女子高校生によるファンクラブも存在していたらしい。
一作品としての完成度は、それこそ後年の尾瀬氏の諸作品に劣らない傑作なので、興味があれば是非触れてみてほしい。

単行本は連載当時こそ刊行されずじまいだったものの、
1998年に双葉社のアクションコミックスより、同作者の『大空魔竜ガイキング』と共に出版。
その後、時を経た2019年10月25日に復刊ドットコムより愛蔵版として20年来ぶりの復刊がなされた。

2000年代以降にアニメ版『鋼鉄ジーグ』がスーパーロボット大戦シリーズで取り扱われて知名度を向上させるに伴い、
本作もそれなりにピックアップされるようになり、特に中盤のとあるエピソードにおける鋼鉄ジーグの台詞、
ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ!」は、ゲームから作品に興味を持ったファンにも大きな衝撃を与えた。
これだけ聞くと所謂鬼畜ヒーローっぽく思えてしまうが、詳しくは後述するように、この台詞は全体的に鬱展開の続く本作の中でも、
極めて重いエピソードに根付いたものなので、その点だけは知ってもらいたい。


物語

昭和50年、二千年の永き眠りより目覚めた邪魔大王国は、現代の世に新たな王朝を築くべく日本侵略を開始する。
20年前よりその存在に気付き、その本拠地より「銅鐸」を奪取した司馬遷次郎博士は、
邪魔大王国の使者・イキマの手によって息子・司馬宙共々重傷を負ってしまうが、
遷次郎は自らの致命傷をおして、宙を戦闘用サイボーグ・鋼鉄ジーグへと改造し、蘇生させる。

かくして復活を遂げた宙は、正義の戦士「鋼鉄ジーグ」として邪魔大王国の繰り出すハニワ幻人に敢然と立ち向かうが、
彼に守られている筈の人々のエゴイズムは、時に鋼鉄ジーグを怪物呼ばわりし、時に邪魔者扱いする。
自分は何のために戦っているのか、過酷な激戦の中で苦悩する宙の肉体は、徐々に限界へと近づいてゆく……


登場人物


  • 司馬宙
主人公にして鋼鉄ジーグ。
本作では邪魔大王国の刺客によって致命傷を負った際に命を繋ぎ止める形でサイボーグ手術を受けたため、
TVシリーズのような父親との確執は描かれない……が、見ようによってはそれ以上の苦境に追い込まれており、
初陣でハニワ幻人と一緒くたにされて化け物扱いされるのはまだ序の口。
T市を占領しようとしたハニワ幻人を撃退して市民に感謝されたと思いきや、その直後に別のハニワ幻人がダムを攻撃し、
水責めに遭うくらいだったら支配された方がマシだった」と言われて投石されるわ罵詈雑言を浴びるわ、
折角パワーアップしたのにもかかわらず、それを主導した博士らに化け物同然の扱いをされるわと、
某蜘蛛男とかと比べれば遥かにマシとはいえ、全編通して総じてロクな目にあわない。
ちなみに本作では肝心要の「銅鐸」については体内に内蔵されておらず、研究所に普通に保管されていた。

中盤で再改造されてパワーアップし、TVシリーズ同様のサイボーグ体デザイン変化を遂げた。
当初は生身の人間同様の食事がエネルギー源とされていたが、再改造後は何も食べずとも
電磁エネルギーを補給さえすれば10日はもつようになり、徐々に人間から離れていく姿は哀愁が漂う。

本作では肉体が改造された度合いは生身・機械が半々と解釈されておりその割には序盤の解剖図ではゴリゴリ改造されてたが……
それ故に邪魔大王国との激戦を経て、生身の部分に多大なダメージが蓄積されてしまい、
このまま戦いから離れて平穏な日々を送るか、脳髄を残して全て機械化するか」という二択を迫られてしまう。
そんな折、竜魔帝王率いる邪魔大王国の総攻撃が開始され、被害にあった人々の苦悶の声を聞き、
遂に人間としての身体を捨て、正真正銘機械の「怪物」になる事を選ぶが、その先に待っていたのは……

守り続けてきた人々に裏切られ、それでもなお敵に対する怒りで戦うことを選んだその姿は、
奇しくも同じくスパロボにも参戦を果たした別のヒーローとも通じるところがあると言えるだろう。

  • 卯月美和
ヒロインにしてビッグシューターで宙を支えるバディ。宙からの愛称はミッチーではなく「美和っぺ」。
宙との間柄は、TVシリーズと比べてどちらかと言えば家族愛よりもやや恋仲に近い描写で、
中盤辺りまでは人々のエゴに雁字搦めにされ思い悩む宙を叱咤激励するなどの役割が目立っていた。
……だからって、バイクで相乗りしていた宙の視界を突然塞いで「おくびょう者のジーグなんて死ね!
何て言うのは流石にやり過ぎな気がしないでもないが。実際自分が死にかける羽目になったし。
邪魔大王国との戦いが激化する中、パワーアップを重ねていく宙に対して徐々に置いていかれるかのような感情を抱くが、
それでもなお戦いを終えた彼を出迎える役割は常に彼女であり、最後まで宙に対する最高のバディでい続けた。

正直なところ、彼女の存在があったからこそ、見ようによっては主人公にとって非常に救いのない本作の結末が、
ギリギリのところでビターエンドに留まったとも言えるだろう。

キャラクターデザインはTVシリーズと異なり、序盤はツインテール、中盤以降はポニーテールの髪型になっている。
尾瀬氏の絵柄もあってか21世紀の現代でも全然通用するくらい可愛い。

  • 司馬遷次郎
宙の親父にしてマシーンファーザー。TVシリーズのクソ親父ぶりに比べれば遥かにまともな人。
とは言え、話の流れ的に宙が致命傷を負う前から彼に対して改造手術を施し鋼鉄ジーグにしようと目論んでいる節も見られたりするが。
出番自体は少なくないものの、宙に成長を促す役割を全編通して美和が一手に担っている事もあり、正直言って影が薄め。

  • 博士
ビルドベース所属の科学者の一人。名前は不明。
激しさを増す邪魔大王国との戦いを乗り切るため、宙に対して更なるパワーアップ手術を行ったのだが、
その姿を見て、かつて人類が原子力をその科学で発明しながらも、結局はそれを大量殺戮の兵器にしてしまったように
自分達は「鋼鉄ジーグ」という名の原爆を作ってしまったのではないかと思い悩むようになり、
ひいては強化された鋼鉄ジーグの暴れぶりを見て「奴は原爆だ、我々の手に余る」とか酷い事をぬかした。
その後もボロボロになった宙の身体の状況を美和に説明したりもするが、やけに他人事のように言っている印象が拭えない。

  • 黒鷲のドン
TVシリーズのレギュラー……だが、本作では最序盤で宙のライバルのレーサーとして登場しただけで、あとは出番全くなし。

  • 里美
九州T市在住の少女で、足が不自由ながらも、シマキョウの花を公害の少ない裏山に植えにきていた良い子。
守るべき人々に糾弾され、戦意がグラついていた宙が、再び正義の戦士として立ち上がる切っ掛けを作った存在でもあり、
彼女から宙に手渡されたシマキョウの花は、彼にとって大事な「トロフィー」となった。

  • 野々宮十五(ののみや じゅうご)
本作中盤のキーパーソン。
自衛隊幹部の一佐で、防衛大学をトップで卒業し、自衛隊一の頭脳・行動力を持ってして、
弱冠25歳で一佐の位に就いた人物であり、遷次郎曰く「恐るべき男」。
本人の実力も高く、サイボーグである宙を生身で軽くあしらうほど。

当初は邪魔大王国や鋼鉄ジーグの実力を侮っており、自衛隊の大艦隊を率いてヒミカの本拠地にカチコミを仕掛けるも、
幻魔要塞ヤマタノオロチによって返り討ちにされて鋼鉄ジーグに助けられる羽目に。
結果、その驚異を身をもって感じた事から、日本のためにもどんな手段を用いてもヒミカを殲滅せねばならないと考えるようになり、
アメリカに要請して核弾頭をヒミカの本拠地に投下し、南九州の民間人もろとも敵を殲滅するプランを委員会に提出。
彼なりに苦渋の決断として出した「大の虫を生かして小の虫を殺す」作戦であったが、
当然ながら自衛隊がこれを受け入れる筈もなく、自衛隊司令権を全て剥奪された上に謹慎処分に処せられてしまった。

その後、シンパの部下と共に米軍の核弾頭搭載機を強奪、単身南九州もろともヒミカの殲滅を敢行しようとするも、
日本政府の要請を受けて彼を止めに来た鋼鉄ジーグと衝突。
彼から説得を受けるも、逆に「君も鋼鉄ジーグ一人で邪魔大王国に勝てると思っているのか」と反論し、頑として姿勢を崩さず、
結果として大勢の市民を守るためとは言え、鋼鉄ジーグが自らの手で人間を殺める結末をもたらしてしまった。
この一件は宙の心に大きな傷を残し、彼を深い苦悩に追い込むことに……

  • 政府臨時首相
日本政府の副首相だったが、邪魔大王国の東京攻撃に伴い首相も命を落としたため臨時の首相に。
竜魔帝王打倒のため、宙……鋼鉄ジーグに再度邪魔大王国と戦うことを要請、
自分も邪魔大王国の攻撃で家族を失ったことを明かし、更に被害者達で埋め尽くされた病院へと彼を案内、
苦しみもがく人々の姿を見せた事で、結果的に彼に「人間を捨てさせる」事を決意させた。
しかし、その後も邪魔大王国の侵攻が続いたことで、まさに最悪の一言でしか言い表せない愚挙に及ぶことに……

  • 女王ヒミカ
二千年もの眠りより目覚めた邪魔大王国の女王。尾瀬氏の絵柄もあってか、TVシリーズよりややビジュアルが若い印象を受ける。
本作では双子の赤ん坊が居るという設定で、邪魔大王国の地上建設を叶えた暁には、
自身の子に国を任せる考えていたが、鋼鉄ジーグによって赤ん坊を殺されてしまった事で怒り狂い、
地上に対する支配欲ではなく、身内を殺された復讐心で鋼鉄ジーグに挑む。
最終的には自ら巨大化して鋼鉄ジーグに挑むも、激戦の末にスピンストームで腹を破られて敗北。
死の間際、自らの命を賭して銅鐸より竜魔帝王を復活させて果てた。

  • イキマ
邪魔大王国幹部。遷次郎の命を奪い、宙にも重傷を負わせた張本人。
九州T市の市議会にカチコミを仕掛け、ハニワ幻人を街で暴れさせて恫喝、市をまるまる支配しようと目論んだ。
それが失敗するや、ダムを破壊して街を水没させようとするなどやり口も陰湿。
ヒミカの死後は他の幹部共々フェードアウト。

  • アマソ
邪魔大王国幹部。幻魔要塞ヤマタノオロチを任された身で、ヒミカの本拠に向かっていた自衛隊の大艦隊を全滅させた。
銅鐸を手に入れるべく、美和を人質にして鋼鉄ジーグを罠にはめるなど卑怯千万。
ヤマタノオロチから名乗りを上げた際には「どうだカッコいいだろう」と自慢するなどコミカルな一幕も。

  • ミマシ
邪魔大王国幹部……だが、他2人と違って前線に出る場面が全くないため、ほぼモブ同然。

  • ヒミカの子供、老婆
古代遺跡の眠る洞窟で、密かに二千年もの眠りについていたヒミカの子供である双子の赤ん坊と、その乳母たる老婆。
老婆はヒミカの後継者たる双子を守るべく永きに亘って子供を世話し続けてきており、
洞窟の遺物を狙って土足で入り込んできた研究者たちは自衛のために容赦なく殺害したものの、
そうでない美和に対しては事情を話したうえで、手を出されなければ人間には何もしない、
今後もずっと赤子を世話し続けていたいと、遺跡から手を引くよう彼女に懇願した。

だが……彼女達の辿った運命は後述。

  • 竜魔帝王
TVシリーズではヒミカを殺害して邪魔大王国を乗っ取ったが、本作では死の間際のヒミカが銅鐸から復活させ、
彼女の意思を引き継ぐ形で邪魔大王国の新たな支配者の座に付くという描写となっている。
反面、その性格の凶悪さはTVシリーズをも凌駕し、首都東京を壊滅させたのを手始めに、日本全国の主要都市を襲撃。
最終局面では、実質日本政府に切り捨てられる身の上になったジーグに対し、日本の3分の1を条件に自分の元に来るよう誘惑するが……


登場メカ


  • 鋼鉄ジーグ
TVシリーズと異なり、ボディパーツは鋼鉄ジーグ一体分を構成する分しか揃えられていないようで、
ダメージを受けた部位を交換する事はなく、破損箇所を急遽修理する描写すら挟まれている。
マッハドリルも腕パーツを換装するのではなく、手持ち式の飛行ユニットという解釈が取られている。

  • ビッグシューター
TVシリーズとあまり変わらない。

  • ハニワ幻人
邪魔大王国の戦力。ちなみにロボット獣は出てこない。
ヒミカの異次元科学によって岩などの無機物に命が与えられた存在であり、倒されると土塊に還る。

  • 幻魔要塞ヤマタノオロチ
邪魔大王国の誇る飛行要塞。終盤では竜魔帝王の指揮の下、日本全国の主要都市を襲撃。
ラストでは鋼鉄ジーグと竜魔帝王の決着の地となった。










「なぜじゃ、鋼鉄ジーグの項目というだけの理由で、なぜ追記・修正されねばならんのじゃ!?」

         _,,,,、-‐‐-、- 、  ~"=―" だ  じ 理 項 鋼
   _     /   ~ヽ  ヽliiヽ_ _~<  !  ゅ 由 目 鉄
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l  | | l l''┬-、 ヽ   l  l| iil/ii_,;lニ>    ぶ け い  │
'  |/ l / |i l/~ヽ ヽ l  il|ili/ iil/lli'').    ん で  う  グ
   |/.,-l ',ll  ',    ilil/ill!i!i!!_,,=ニ-‐,          の
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最終更新:2024年04月14日 22:17