大相撲殺人事件

登録日:2018/01/26 (金) 12:26:00
更新日:2023/12/24 Sun 10:26:19
所要時間:約 10 分で読めます





「大相撲殺人事件」とは、小森健太朗氏による連作短編ミステリー小説である。



以下、文春文庫版の裏表紙より引用ーーー


「ひょんなことから相撲部屋に入門したアメリカの青年マークは、将来有望な力士としてデビュー。
しかし、彼を待っていたのは角界に吹き荒れる殺戮の嵐だった!

立ち合いの瞬間、爆死する力士

頭のない前頭

密室状態の土俵で殺された行司……

本格ミステリと相撲、その伝統と格式が奇跡的に融合した伝説の奇書


ーーー引用終わり



概要



ぶっちゃけ上記の引用文が全てである。

なお上に「ミステリー小説」と書いたが、実際はミステリーをネタにしたパロディ小説」と言ったほうが近い。

「角界を舞台にしたミステリー」というだけならまだ普通に思えるかもしれないが、本作ではとにかく沢山力士が死ぬ
中盤の時点で幕内力士の4割が死ぬ
主力力士を悉く殺されて壊滅状態になる相撲部屋もある。

トリックははっきり言ってトンデモトリックに類するものが多いが、それに輪をかけて犯人の動機もかなりトンデモない。
ここからもまともなミステリーだと思ってはいけないことがわかるだろう。

2004年に角川春樹事務所から発売されて以来、知る人ぞ知る伝説的奇書として語り継がれていたが、2017年になって通販サイトに掲載されていたその強烈な紹介文(上述の引用文と同じもの)がSNSで注目を浴びる。
この時にはアマゾンで数万円ものプレミア価格がついていて、なかなか庶民には手が出なかったこともあり大きな話題となった。

これを受けて、2008年に出版されて絶版状態だった文春文庫版が再版される。
さらに偶然にも2017年末にリアル世界の相撲界で色々あったこともあってか、ネット上で大きな話題となって書店に走る人が相次いだとかそうでもないとか

なお作者の小森健太朗氏のデビュー作は『コミケ殺人事件』という、これまたアニヲタ的に気になるタイトルである。
また文春文庫版の解説を書いた奥村泉氏は、小森氏は日本版の『薔薇の名前』みたいな小説を書くべき人だと思っていたため、同氏から本書を手渡されて驚愕したという












以下、ネタバレ注意













登場人物



  • マーク・ハイダウェイ

アメリカ人の青年。本作の探偵役。

本来は日本の大学を受験するために来日したが、大学と相撲部屋を間違えて、うっかり相撲部屋に入門してしまう(そんなバカな……)。
最初は「大学の学費を稼ぐための繋ぎ」として角界入りしたが、後半になるともはやそんなことも忘れた模様。
四股名は「幕之虎」。
カタコトの日本語で話す……が、英語のセリフもどことなく胡散臭い。

例:「ジャパン……ビューティフル」(第一声)
  「ユ・アー・ザ・マーダラ」

推理力に優れているらしく、多くの事件を解決するが、中盤以降急激に登場シーンが減って影が薄くなり、ほぼ安楽椅子探偵みたいな感じになる。
これは執筆中にイラク戦争がはじまり、作者がアメリカに反感を持ったためだとか。


  • 崎守聡子

マークが入門した相撲部屋の親方の一人娘。女子高生。
本作のワトソン役。マークが中盤からフェードアウトしてしまうため、実質的な主人公と言ってもいい。

自称美少女(一応他人からも「かわいい」とは言われている)。マークのことは慕っているが、御前山にはかなり毒舌。
最初の事件が起こるまではただの平凡な女子高生だった(はず)が、『名探偵コナン』世界の登場人物ばりに事件慣れ・死体慣れしており、平然と事件現場を出入りしたり推理を展開したりする。何者だアンタ……。
さらに稽古場にお菓子の袋を持ち込んで頬張っていたり、万年幕下とはいえ年長力士の御前山を「あんた」呼ばわりしたりと、親方の娘というのを差し引いてもかなりのフリーダムっぷり。
おまけに話が進むに連れ、力士の死に対する反応が軽くなっていく

「一年前に幕内にいた力士も、この一年で四十パーセントくらいいなくなっちゃたわねえ」
「最近よく力士殺し、起こってるしなあ」


  • 御前山

マークの入門した部屋の先輩力士だが、万年幕下でリストラ候補に挙げられている弱小力士。
日々相撲の必殺技を(頭の中で)構想しているミステリーマニア。ワトソン役その2。
中盤以降マークの出番が激減したため、聡子とコンビを組んで活躍する場面が多くなる。
普段は頼りないが、事件状況の分析などは的確。
ぶっちゃけこっちを最初から探偵役にしたほうがよかったんじゃ




各話概要



  • 第一話 土俵爆殺事件

ひょんなことなら大相撲の千代楽部屋に入門することになったマーク。
彼が聡子らと一緒にテレビで相撲中継を見ていると、千代楽部屋の兄弟子の取り組み中、土俵上で爆発が起きて対戦相手が爆殺されてしまう!

……のっけからこんな感じである
ただし「爆発する力士」というフレーズから受けるほどのハチャメチャさはなく、使われたトリック自体は案外普通。
この時点で感覚を麻痺させられている気がしなくもない。




  • 第二話 頭のない前頭

正式に千代楽部屋に所属することになったマーク。
ある日の稽古中、兄弟子の一人が風呂場で首を切断された遺体で発見された。
状況から、アリバイのない風呂焚き役をしていた力士に疑いがかかるが……


ダジャレタイトル。
強引かつ安直なトリックも見どころ。
一応、犯人の動機は本書中では最もまとも。
なお、部屋で殺人事件が起き関係者が逮捕されたというのに、千代楽部屋や相撲界が特に社会的に非難を受けた様子は無い



  • 第三話 対戦力士連続殺人事件

↑の兄弟子殺害事件などまるでなかったかのように初土俵を踏み、怒涛の快進撃で一年余りで人気力士となった幕之虎ことマーク。
一方聡子は、最近身辺にストーカーらしき気配を感じていた。
そんな中で迎えた夏場所で、マークとの対戦が予定されていた力士が次々と殺されていく!
それも撲殺、刺殺、殺、凍死、大量のスズメバチに刺させるなどの毎回違った方法で。
警察は当然マークや関係者に疑いの目を向けるが、遂に犠牲者は14人に上り、
マークは14連勝(不戦勝)の優勝候補となるが……?


この異常事態にも場所を中止しないどころか、「マークの対戦相手が殺される」と判っているのに、

  • 「対戦相手を公表しないでくれ」という警察の要求を「慣例に反するから」という理由で撥ねつける相撲協会
  • 対戦予定相手を護衛していながら連続殺人を防げない警察
  • 自分が殺されると予想できる筈なのに、犯人に呼び出されるとホイホイ出ていく被害者
  • そして何よりこんな状況なのに「オー・ゼン・アイ・アム・アン・ウィナー」などとのんきに不戦勝を喜んでいるマーク

……と、どいつもこいつも理解に苦しむ言動を繰り広げているが、最大の驚愕は真犯人の動機
まさに「なんじゃそりゃ!?」としか言いようがない。
なお、この話ではマークは一切推理をしない。
また、14人もの力士が殺害され、関係者が犯人として逮捕されたというのに、相撲界が特に社会的に非難をry



  • 第四話 女人禁制の密室

首都移転先の候補地であるD県に建てられた新・国技館に、温泉目当てにやってきた聡子と、負け越しが決定したため渋々付き添いで来させられた御前山。
新・国技館前で、女性知事らが「土俵に女性を上げてはいけない」という相撲界の旧弊に抗議している場面に出くわす。
彼女らと一緒にこっそり館内に入った聡子は、土俵の上で清めの儀式をしていた神官が殺害されているのを発見する。


「土俵をどうやって密室にするんだ??」という疑問に対して、
「女性は土俵に上ってはいけない」→「当時犯行が可能だったのは女性しかいなかった」「これは密室殺人だ!!」
という素晴らしすぎる理屈付けを行った一作。
一種の心理的密室……なのか?
さらに、「犯人がどうやって密室を破って土俵に上がったのか」という謎解きがこれまた驚愕もの。
ただし、動機の背景はわりとシリアス(のような気がする)。
なおこの話からマークの出番が極端に減る。



  • 第四話 最強力士アゾート

またしても力士連続殺人事件が発生。
被害者らはそれぞれの得意技を使うときに主に使う体の部位を切断されており、
犯人は角界で最強のパーツを集めて組み立て、最強の力士を作ろうとしている」と推理する御前山。
そんな中、龍悦部屋から合同稽古合宿の誘いがあり、マークたちは旅館に向かうが……。



要するに力士版『占星術殺人事件』で、本編内でも御前山が同作に言及するメタ的な描写もある。だが力士というだけでこんなにシュールになるのはなぜだろうか。
トリックは物凄い力業だが、ここまで読み進めてきた読者はもう驚く気にもなるまい。
が、動機は驚愕もの。

余談だが「占星術殺人事件」はとある作品でトリックを無断流用する騒ぎが起きたせいか、おそらく作者の島田荘司氏には許可を得て掲載しているものと思われるが、よく許可を出したものである。



  • 第六話 黒相撲館の殺人

完全にタイトルオチ正直もはやあらすじを紹介するのもバカバカしい
山中で道に迷い、とある洋館に迷い込んだ千代楽部屋の一行。
そこには力士のような体格をした主人と、力士のような体格をした執事がいた。
……どうか想像してほしい。山奥の不気味な洋館に力士ばかりが集まって、これから事件が起きそうな感じの光景を

館の主人は、一行に封印された相撲史の闇、黒相撲と黒力士について語る。
その晩、まるで一行の殺害を予告するかのような詩が書かれているのが発見され、その詩に見立てるように次々と力士たちが
あるものは鎧を着せられ、あるものは犬神家メソッドで犠牲となっていく……
ほら、バカバカしかったでしょ?

「黒相撲」というのは古来より伝わる、蹴りや髷つかみなどの禁じ手も使用する相撲で、要人の暗殺にも使われたという。
平清盛・源頼朝・織田信長といった歴代の覇者たちもみな黒力士たちを抱えており、彼らの覇業は全て黒相撲に支えられたものであった。
しかし江戸時代になると弾圧の対象となり、それに反発する力士たちが起こしたのが島原の乱であった。


……民明書房じゃないんだからさあ。どこから突っ込んで良いかわからなくなった? うん、あなたは正しい。


なお、この話は「まだまだ俺たちの推理はこれからだ!!」みたいなラストで終わっている。
解説の奥泉氏によると、著者は続編として『中相撲殺人事件』『小相撲殺人事件』という続編を構想中とのこと。
これらは後の2018年に『小相撲殺人事件』は電子書籍として、『中相撲殺人事件』も書籍として発売されている。


ツイキ・シュウセイ・オールオッケー。
アニヲタ……ビューティフル



この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 大相撲
  • ミステリー
  • 小説
  • 小森健太朗
  • ツッコミどころ満載
  • ジャパン……ビューティフル
  • 密室土俵
  • 黒相撲
  • 途中で空気になる主人公
  • 14人連続殺人
  • 頭のない前頭
  • 爆発する力士
  • 相撲
  • 力士
  • 大相撲殺人事件
  • 角界の闇
  • 肩の力を抜いて読むミステリ
  • ※ご覧の作品はミステリー小説です。

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年12月24日 10:26