早すぎた埋葬(小説)

登録日:2018/01/25 Thu 11:42:23
更新日:2023/09/15 Fri 02:29:05
所要時間:約 6 分で読めます









「早すぎた埋葬」とはエドガー・アラン・ポーの短編小説である。原題は"The Premature Burial"で本によっては「早すぎる埋葬」というタイトルになっているものもある。刊行は1844年。


もしかして……早すぎた埋葬(遊戯王OCG)


仮死状態でまだ死んでいない人間が生きたまま墓へと埋葬されていく事への恐怖をドキュメントの様に事例を挙げ、その後語り手の体験に移って話を作り上げている。



【あらすじ】(未読の方はネタバレ注意!)








「死」は人を魅了するが、小説の題材には使えず、事実として正しく取り扱うべきものとされる。実際世界でも戦争・事故・病魔などといった要因での大量死が非常に多く起きている。

しかし、そういった出来事は過去の出来事でありこれを知った個人を直接苦しめるには至らない。個人に与えられる苦痛の中で最も恐ろしいもの。それは自分が生きたまま埋葬される事であると語り手は言い、続けて本人の知っている事例を挙げ始めた。


Case 1

ボルチモア付近で弁護士兼国会議員の妻が病気にかかり、苦しみながら死に、彼女の葬儀が行われて一家の墓舎に収められた。ところが3年後に同じ墓舎に遺体を収めようと中を見たところ、白骨化した妻の遺体が鉄の扉に寄りかかっていたのだ。

見解としては「収められた後に、実は生きていた妻が棺桶から抜け出して外に出ようと助けを求めている中で、本当に死んでしまった」と見るのが妥当であった。


Case 2

1810年、フランスで令嬢ヴィクトリーヌ・ラフルカードが夫からの虐待の結果死亡し故郷の墓地に埋葬された。
彼女に求婚していたジュリアン・ポシュエは「せめて彼女の髪が欲しい」というロマンティック(!?)な望みから彼女の墓を開けた所、何と彼女が目を開く瞬間を目撃する
すぐに医療での対処をすると彼女は完全に生き返り、前夫と別れてポシュエと結ばれた。


Case 3

ライプチヒの「外科医報」内で取り上げられた事例である。
とある兵士が落馬して重傷を負った後に死亡し、公共墓地に埋葬されたものの葬式を行った週の末にたまたま墓地の近くにいた農夫は墓の下から何かを叩く音がしたのを聞き、他に人も連れて墓を掘り返すと意識は失っていたものの、死んではいなかった兵士が棺から出てきていた。

しかも兵士は自分が埋葬されるまで自分の生存を自覚していたと証言している。


Case 4

1831年ロンドン。弁護士エドワード・ステープルトンはチフスにかかって死亡し、遺体の状況に興味を抱いた医師たちによって埋葬された死体を取り出して解剖にかけた。
腹部等を切開し、最終的に遺体に電流を流したところエドワードが突然何かを喋り、その後倒れたのだった

恐ろしいことに彼は解剖されている間も意識はあった上に喋った言葉の内容も「私は生きているのだ。」というものであった




これだけ挙げれば分かる様に、「早すぎた埋葬」は決してあり得ないことではない。
語り手は生きながら埋葬されることに恐怖を抱き、ある意味では「死」に魅了されていた。


そしてここからは語り手の体験へと物語がシフトしていく。


ではなぜ彼は「早すぎた埋葬」をそこまで恐れているのか。その理由は彼の患っている疾患だった。
医師が「類癇*1」と呼ぶその病気は突然体が硬直し、体内からの信号も極端に弱くなるという所謂「仮死状態」へと陥っていくのだ。
しかもその期間は短い時もあれば長い時もある上にいつ起こるか、どうして起きるのかは不明という非常に厄介な病気なのである。


語り手は病気の事を友人に教えて病気について理解してもらったり、実際に死んだような状態になった時のために後に棺から出て生きてまた元の世界に戻れるように自分の家の墓にあれこれ細工をするなど、「早すぎた埋葬」への対策を始めたのだった。

しかしどれだけ対策を施しても恐怖から完全に逃れられず、ある発作の時には死霊に呼び起されて、全人類の墓場へと誘われてその中で一部の屍が眠らずに蠢く様を見て戦慄するといった恐ろしい体験もしており、死への恐怖はますます強まっていく。

不安に苛まれていた語り手は外出中の発作を恐れてほとんど外出しなくなったり、友人に対して「厄介払いとして自分を埋葬しようとしているのではないか?」などといった不信感を抱いたりと非常に不安定な情緒で生活していくようになった。


そんなある日。彼が眠りから覚めると自分の周りの感覚がおかしいことに気が付く。
嫌な予感を抱きながら、意を決して目を開くと目の前は真っ暗だったのだ。

おかしいのは暗さだけではない。異様な閉塞感、顎を結わえられて*2大声が出せない状態、自分の周りの硬い触感、湿った土の臭い……。

嫌な予感が更に膨れた語り手は手を前に伸ばしてみるとすぐに木の板の様なものにぶつかった。そう、彼は棺桶の中に収められていたのだ


しかしこんなこともあろうかと、用意しておいた仕掛けに手を出そうとするが仕掛けがない。理由を悟った彼は絶望した。
彼は自分の家の墓舎ではなく公共墓地へと埋葬されていたと気付いてしまったからだ



自分が家を離れている間に起きた発作で死んだとされ、埋葬がなされてしまった……


ずっと恐れていた出来事、そして目の前に突きつけられた現状に魂の底まで絶望した彼は意を決して大声で叫んだのだった。











【余談】

  • 作中で挙げられていたケース。今ならば「そんな馬鹿な。」「どうしてそんなことになるのか」と思う人もいるかもしれないが、この本が刊行された19世紀当時の西欧は火葬ではなく土葬であり、医療技術・検死技術も現在ほど発達していなかった為にこういったことは実際に起きており、この問題の解決をテーマにした団体が存在するほどだった。現代ではイメージしにくいが、当時は大きな問題であったのだ。吸血鬼の伝承もこうした事情から生まれたという説もある。

  • 作中で挙げられた仮死状態の人物が埋葬される件だが、ポー自身も「アッシャー家の崩壊」や「アモンティリヤードの酒樽」などの小説で実際に生きている人物の埋葬を描いている。

  • 語り手が作っていた「早すぎた埋葬」の対策の為の棺だが、実際に「安全棺」と呼ばれる生きたまま埋蔵されて、その後生き返っても生存を外に伝えられる棺は存在していた。





追記・修正は死霊に全人類の墓へ誘われて戦慄しながらお願いします。


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最終更新:2023年09月15日 02:29

*1 これは正式な病名がない為につけられた仮の名称。

*2 当時埋葬される死者に対して一般になされていた処理。