月読命

登録日:2017/11/23 Thu 21:05:45
更新日:2023/07/22 Sat 16:52:34
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月読命(つくよみのみこと)


『月読命』は、日本神話に登場する神。
主にツクヨミと呼ばれるが、伊勢神宮と月読神社ではツキヨミと呼ぶ。
また、『日本書紀』では月神(つきのかみ)月弓尊(つくゆみのみこと)、月夜見尊、月読尊とも記述されている。

記紀神話にて、アマテラススサノオと共に三貴子(さんきし)*1の一柱として数えられる位の高い神。

基本的には月の神、夜の神、と云われているが異説もある。
また、現在では男神とされているが、これも記紀神話には詳細な記述が無い為に異説もある。

……以上の様に、主神格にあるアマテラスの兄弟……と云う割にはスサノオに比べて影が薄く、影が薄い処か神格の高さに反して、その正体すらが不明と云う謎多き神である。

【系譜】

『古事記』によれば、黄泉国より逃げ還ってきたイザナギが冥界の穢れを落とす際に右目を洗った際に誕生したとされる。
『日本書紀』では、イザナギとイザナミの子。
『日本書紀』では、イザナギが左の手に白銅鏡(ますみのかがみ)を取ったときに大日孁尊(オオヒルメノミコト)=即ちアマテラスが、右の手に白銅鏡を取ったときに月弓尊=ツクヨミが生まれたとされる。
ここでは「その光(うるわ)しきこと、日に()げり、以て日に(なら)べて(なら)すべし」とあり、ツキヨミはアマテラスのヒルの太陽に比して、円満の月=満月の神であるとするのだと読み取れる。

【支配領域】

三貴子は、最も貴き神として、それぞれに国生みの主であるイザナギより、国を分けて支配することを命じられた神々だが、高天原=天上界を支配することが明確になっているヒルのヒのカミであるアマテラスに対し、ツクヨミとスサノオの支配領域には異論、異説がある。

一般的には日神のアマテラスに対し、月神であることから、昼に対しての夜を支配していると捉えられており、
『日本書紀』では同じく天に配置して昼と夜を分けるとされている一方、
黄泉の国を夜見の国として地下世界、即ち冥界の神である、とする解釈もある。
また、食物神である保食神(ウケモチノカミ)を殺し、結果的に五穀を広めたとする一書(あるふみ)*2の記述からも天を治める神と云うよりも大地との関わりの方が見える。
月の運行は稲作、農耕に於ける道標であり、円満の月に大地より得られた供物を捧げ、糧を得て豊作を願う「月待ち」の行事は現代にも伝えられる。

この他、別の一書には「月読尊は滄海原(あおうなはら)の潮の八百重を治すべし」とあり、海を治める神とも取れる。
月の満ち欠けが潮の満ち引きにも強い影響を持つことはご存知の通りである。

一方『古事記』においては「夜の食国(をすくに)を知らせ」と命じられ、以降はフェードアウトしていくこととなる。
この「夜の食国」についても日本書紀の記述同様、夜間であるとする説や黄泉の国であるとする説がある。

また、ツクヨミを時の神、暦の神とする説も近年有力説に躍り出ている。
月読みとは即ち月の運行を読むことであり、暦=日読み(かよみ)と対になる行為であると考えられる点、「読む」と言う語は万葉集などにおいて月日を数える意味でも用いられている点などが根拠。
月の運行で一年を計る太陰暦を採用していた日本において月の神と時間とが結びつけられるのは自然なことだろう。
なお、この説は論拠としうる描写が一切記紀神話に登場しない。にもかかわらず、悪く言えば妄想まがいの推察が学会での有力候補の一角に納まるあたり、ツクヨミという神の異質さを感じさせる。

【同体説】

さて、記紀神話の本文に於いては誕生と支配領域の決定以降は記述がなく、一書に於いても前述のように明確とは云えない記述のされているツクヨミだが、実はアマテラスと並び、対立する神として、同じく三貴子の一柱に数えられるスサノオとは同じ神であるとする考察がある。

先ず、一つには日神に対して月神を必要としたのはともかくとして、その中間に中るスサノオもまた、よく属性が解らない神である、と云うことが挙げられる。
記紀神話に於いては、ツクヨミよりも遥かに記述も活躍も多いスサノオだが、
その実、日と月に対して何を顕しているのかよく解らない神であり、神話の中で見せる姿も、狼藉者であったり、英雄であったり、はてまた冥界である根の国の神であったりとして一定していない。

つまり、スサノオと云う神のキャラクターは非常に濃いのだが、その実、長期連載によって性格が変化した漫画のように、属性となると一言で説明するのは難しく、何を象徴した神かと迄は一概に定めきれないのである。
スサノオ神話は理路整然とした国生み神話から国譲り、天孫降臨までの流れの中で混乱を生じさせているが、これはそうまでして入れなければならなかった、元となる地方の様々な神話があり、それをスサノオに集約させた結果とも云える。

また、この二神の共通点として、共に食物神を殺し、天照とは別れるも、結果的に五穀を大地に広めた神話を持つことがある。
『古事記』に於いて、大気津比売神(おおげつひめのかみ)を殺したのはスサノオだが、『日本書紀』の一書では、同じ属性、行動を取る保食神(ウケモチノカミ)を殺したのはツクヨミである。*3
ここでのツクヨミは、剣を抜いて感情のままにウケモチを殺し、そのことをアマテラスに咎められた結果、二神は日夜で分かれることとなる。
冷ややかな月のイメージとは程遠い、乱暴な面を持つ神として描かれているのである*4
また、上述したとおり『日本書紀』の一書において海を治めるよう命じられていたツクヨミだが、この一書及び『古事記』ではスサノオが「滄海之原(あをうなはら)(しら)すべし」(古事記では「海原を知らせ」)と命じられており*5、ここにも両神の類似性を見て取ることができる。

元々は各地で語られていた神話を纏めつつも、神代から現人神までの系譜を定める目的で纏められた記紀神話の本文には、その当時に日本に入り込んでいた、大陸や南方神話の要素も加えられて脚色されたであろうことは、まず間違いないとされている。

左目から太陽が、右目から月が生まれたことや、太陽の不興を買った月が、それ以降は共に天に昇らなくなった記述等は、その中でも解りやすい部分とも言える。
そして、それならば二神で住む所を、敢えて三神としたことには、日本的な独特のバランス感覚が見られると云う。
つまり、ツクヨミ、またはスサノオは両極端に対する、中間に中る神として挿入されたとする説である。
バランス取り以外にも、三貴子の三柱の神と云う数字が重要だったのだ、とする説もあるが、
何れにせよ、ツクヨミの記述の少なさと、その一方でのスサノオとの共通項の多さは、神系譜に於ける一種の恣意的な意味合いを以て、アマテラスは特別としても、実体以前に数合わせとして一柱で済む所を二柱の兄弟神を必要とした……とも見なせると云うのである。

【アニヲタ的には】

創作文化における月読命の扱いは、ミステリアスなサブキャラクターとしてのものが多い。
三貴子のうちアマテラスとスサノオは神話での記述が多く神社などで祀られることも多く、太陽神・英雄神としてのアクティブ・ポジティブなイメージから
主役を張ったりシナリオの中核に位置するメインキャラクター枠を占めることが多いのに対して、
記述・露出が少ない月・夜の神である月読命は、メインからは一歩後に引いた補助的・神秘的な位置に立ちがち。
主体的・積極的にシナリオを動かすという役回りはあまりなく、悪役であることも多い印象である。

それでも三貴子のなかでひとり月と夜、すなわち闇の神秘的なイメージをまとう事から姉弟とは異質のひときわ強い存在感を放ち
その名前の字面・響きの美しさもあいまって登場する作品の多くでメインストーリーに裏から関わり強い印象を残している。
主な出演作品としてはヤマトタケル(アニメ)ヤマトタケル(東宝映画)など。

また女神転生シリーズでは原典たる西谷史氏の小説で、セトの襲撃から身を呈して主人公を守るという月読命らしからぬ熱い活躍をした。
それをモチーフとしたゲーム、デジタルデビルストーリー・女神転生ではたくましい戦士の姿で登場する。
以降の真・女神転生シリーズ、そしてペルソナシリーズでは神秘的なイメージに立ち返り、仲魔・ペルソナとしてメインストーリーでもその存在感を示している。

またその美しい響きの名はしばしば、人名などなんらかの名称にも採用されることが多い。
代表的なところでは有馬啓太郎氏の作品名「月詠」、銀魂のキャラクター「月詠など。

昨今では「時の神」としてのツクヨミに焦点を当てた作品も散見される。
例えばパズドラにおけるツクヨミは操作時間延長や一定時間の自由操作などといったパズルものの根幹をひっくり返す能力が売りだったし、記憶に新しいところで言えば、「仮面ライダージオウ」に登場するツクヨミは時間停止能力を操り戦っていた。


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最終更新:2023年07月22日 16:52

*1 「みはしらのうずのみこ」とも読む

*2 『日本書紀』における註釈の様な何か。『日本書紀』にて神話が語られる前二段にのみ存在し、本伝を補足する、あるいは異説を紹介する役割を担う。神話パートにしか存在しないことから、各地から集めた神話、伝承の類を包括したものだとする説が有力。

*3 これらの神話については両方とも大気都比亮神の項目を参照されたし。

*4 とはいえ、狂気を意味する英単語“Lunatic”が月を語源とするように、月と狂気を結びつける考えは西洋に存在する。後世日本における月の扱いを見るに可能性は低いが、ツクヨミもそうした神性の持ち主として捉えられていたのかも知れない。

*5 ツクヨミはそれぞれで扱いが違い、『日本書紀』一書では「日に配べて天のことを知すべし」、『古事記』では上述の通り「夜の食す国を知らせ」