SCP-1326-JP > shytake

登録日:2017/10/22 Sun 16:15:58
更新日:2023/08/30 Wed 11:40:45
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それもこれも、あの[編集済]のせいだ。


SCP-1326-JPは、怪奇創作サイトSCP Foundation日本支部のオブジェクトであった。
項目名は『仏堂』。
オブジェクトクラスはSafeからKeterを経て、現在はEuclid。

※現在元サイトでの原作記事は執筆者により削除済み。

概要

コイツが何かというと、とある県のとある場所でとある儀式を執行することで入れる、異常な特性を持った建造物である。
ちなみに特別収容プロトコルを簡単に説明すると、

  • 同時に複数人は絶対に入るな、必ず一人ずつ入れ
  • 男性職員は入るな、女性職員のみで管理せよ
  • 男性職員が入る場合、財団によって指定された防毒装備を使用せよ
  • 内部から回収された書類を見る場合、理事会1名の許可を得よ
  • SCP-1326-JP-Aの周りには専用のサイトを作る。積極的に近づいてくる人間は全て捕縛せよ
  • オブジェクト内部の実体群は200体を超えてはならない。定期的に殺せ
  • SCP-1326-JP-Kに対しては専門の訓練を受けた8人以上で対処せよ

こんな感じである。

報告書を読むと若干ややっこしいが、このオブジェクトがある「とある場所」とは、ある寺院が建っている土地の、特定のポイントである。
その寺院、SCP-1326-JP-Aは、「観容寺」と看板が掲げられている、真言宗の寺である。12世紀から15世紀のいずれかにおいて建築され、その後放棄されたとみられているが、歴史上この名を持つ寺院は確認されていない。
それもそのはずで、この「観容寺」と周辺の土地はある種のアンチ・ミーマチックエフェクトを持っているのだ。
「観容寺」とその周辺には、普通の人は立ち入りや接近を無意識に避け、さらに近くに来たとしても特定の認知抵抗度を持っているか、何かを摂取していない人間は周辺の情報を記憶できないのである。

「観容寺」自体は反ミームを除けば普通の建物だが、ある床面で特定の儀式手順を行うと扉が開く。
この扉の先にある空間が、SCP-1326-JPである。入る時も出る時も、必ずこの扉からとなる。
ただし、複数人で同時に入ろうとすると体が融合する。

SCP-1326-JPは位置的に基底世界の外部に存在しているため、外からでは確認できない。
一応これ自体も「仏堂」という様式の寺院なのだが、財団が知る限りでは内部からの観察に留まっている。
構造は3階建て、高さ40mほどと見られているが、内部は非ユークリッド空間であり、実際の大きさはもっとある。銀河超特急の客車みたいなもんである。さすがドラえもん、SCPの解説にはぴったりだ。

ちなみにこの空間、外部から持ち込んだ光源が全く機能しない。
本尊らしき像の近くにある灯明、要はローソクの火だけが唯一の光源となっている。ちなみにこの火、光量が距離減衰しないため、空間内部をちゃんと視認できる。

ところでこの折り畳み空間だが、実は蒐集院が作ったSCP-1500-JPと性質が良く似ている。また、同じく蒐集院に関わる別のオブジェクトとも似ているため、このSCP-1326-JPもやっぱり蒐集院が絡んでいる、と見られている。
オブジェクトの本体であるこの空間だが、どういう風に異常なのかというとまずは空気。
何とこの空気、天然痘ウイルスの亜種を含んでいる。作用はふたつあり、まずは木材への腐食効果。
これはオブジェクト自体が自己再生するため効果が実質打ち消されているが、衰えた場合いくらもかからず構造崩壊するらしい。
もう一つの作用は、男性が吸い込んでしまった場合に起きる。このウイルスに感染した男性は、後述するSCP-1326-JP-2に変化してしまうのだ。


そして異常性の最たるものは、内部に存在する異常実体である。

まずは、SCP-1326-JP-1。
こいつは空間のほぼ中央に位置する肉塊で、現在のところ13体ほど確認されている。
直径1.5m、40~70の穴が開いている。

次は、SCP-1326-JP-2。
現在のところ140体ほどが確認されている、余分な骨格が追加された「おおむね、ヒト型」の男性実体である。
意志レベルが非常に低く、時折経文のようなフレーズを呟くのみでコミュニケートは不可能。
一日のほとんどを、上のSCP-1326-JP-1との……えー、あー、その、なんだ、「行為」に費やしているとか。
この実体群は時々、揮発性の極めて高い褐色の液体を吐き出す。気化したこの物質には例のウイルスが含まれており、これが大気中を漂っていると思われる。
ちなみにこいつらが呟く経文じみたフレーズだが、音声解析の結果密教で使われる「理趣経」の17清浄句がなまったものだと判明している。

次は、SCP-1326-JP-3。
こいつらは、-1が「出産」する人型実体である。男性型のaと女性型のbに分けられるが、特筆すべきは成長速度。
通常の生物の15倍で育ち、1年半が経過すると男性型はSCP-1326-JP-2になる。
女性型は通常そのままだが、「儀式イベント」の際にSCP-1326-JP-1に変化する。なお、儀式イベントについては日本支部でも高レベルの機密扱いになっている。

これら3種類の実体は、SCP-1326-JP内部にて独自の異常な生態系を構築している。
遺伝子的にはホモ・サピエンス・サピエンスに極めて近いが、その肉体の変化はSK-BIO生物に極めて近いとされている。
ぶっちゃけると、サーキック・カルトの影響を受けた連中に近いのだ。
しかし、これらが誕生したと思しき時期にサーキシズムが伝来した形跡はなく(例の「一般的日本人」は江戸時代である)、
それより古い時代からのプロト・サーキックは極めて閉鎖的なコミュニティの中での信仰である為サーキシズムを外部に広める事には無関心である。
なので、真言宗と結びついてこうなったのではないか、という説は現在では否定されている。

最後の一つ、SCP-1326-JP-4は、この寺院の本尊にあたる像である。
特筆事項としては、内部ヒューム値が非常に高いことが挙げられる。
ヒトの頭蓋骨をつなぎ合わせ、当時の水準と比べて非常に高い技術で作られた人面獣身の仏像だが、服装やポーズは文殊菩薩に近く、
外見は中国神話の怪物・饕餮(とうてつ)と似ているという分析結果が出た。
この両者が同一視された歴史はなく、財団は上述のサーキックとの直接の関係よりも、より古く、
かつ日本も影響を与える可能性のある存在でる『夏王朝』との関連を考えSCP-2481と合わせて調査している。
中国最初の、幻の王朝と言われる夏王朝では、サーキックの主神“ヤルダバオート”を中国神話の始祖の神「女媧」と同一視し、
その眷属たる6体の邪神“アルコーン”を同じく中国の怪物の名を当てている。
そのうちの一体の名が饕餮である。


補遺

1900年代に行われた「観容寺」の定期調査の際、民間人が中に滞在しているのが発見された。
財団は彼らを拘束・尋問したが、異常性に関する知識はなく、認知抵抗度は基準以下だった。これはどういうことだ、と調査実験を行ったところ、「観容寺」の持つ反ミーム特性が時間経過によって減少していることが発覚した。
これは異常なものではなく、自然に起きたものであり、2000年代のどこかで完全に反ミームが消えるとみられている。
さらに、この劣化速度が一定であったため、逆算により「観容寺」が出来た、または反ミームが付与されたのが14世紀であると正確に判断することが出来た。

この事案に伴い、SCP-1326-JP-1、-2、-3がある種の認識災害ベクターであることが判明した。
内容は要するに擬態であり、認知抵抗度16.5以下の人間が視認した場合、-1は女性、-2は男性、-3は子供たちに見えることが判明した(しかもいずれも非常に美形)。……つまり、そういう人たちに見える光景は要するに[削除済]
この特性は前述の反ミームを潜り抜けられる人間のみが「観容寺」に入れたという条件の関係で、この事案まで全く判明していなかった。


さて、このままならこのオブジェクトはSafeである。
そうなっていないのは、ある事案が関わっている。

1970年代のある時、「SCP-1326-JP-K」と認定された不明な人物がSCP-1326-JPを襲撃したのである。
この人物、仮に「僧侶」としておくが、駐在していた警備員を殺害した後、例の隠し扉をブッ壊したのだ。
2時間後に交代の警備員が駆け付けた時には既に扉は破壊されており、内部から男性実体と子供実体が脱走していた。警備員は直前に財団に連絡していたが、例のウイルスに感染したらしく死亡。その増加骨格は発見後程なく霧散している。

連絡を受けた財団機動部隊は直ちに現場に急行、脱走した50体あまりの実体群と交戦。
防毒装備を破損した4名が殉職、さらに民間人3名が犠牲になるという被害が出たものの、脱走個体は全て終了された。
しかし、肝心の「僧侶」は交戦中にどこかに消えうせており、現在まで行方が分かっていない。

破損したSCP-1326-JPは蒐集院から引き継がれた空間制御技法によって修復され、対秘術防御に特化した収容サイト-1326が建設された。
「僧侶」については仏教の僧服を着用したハゲのおっさん、という見た目の情報以外がなく、どこからきて何を考えていたのか、なぜSCP-1326-JPを襲ったのか、全く判明していない。
ただし、この事案の経過からして、いわば日本版カルキスト・イオンというべき能力を備えているらしいことが示唆されており、日本支部は現在も警戒を続けている。

「僧侶」は捕縛が困難ならば終了もやむなし、ということで世界オカルト連合との合同作戦が立案されている。
が、肝心の「僧侶」が30年以上経過した現在でも出現していないため、KeterになっていたオブジェクトクラスはEuclidに変更された。


回収された記録

ところで、例の空間からは非異常性の物品がいくつか回収されている。
それぞれ、
  • 「観容論」と題された書物
  • 片側が三鈷杵、反対側が二鈷杵となっている金剛杵
  • 仏教における曼荼羅3点。図柄は異なるが、全ての画中に裸の男女が描かれている。
  • 真言密教における標準的な仏具27点
  • ヒトの骨を用いて作られた香炉
であるが、他に文書がいくつか見つかっている。
これら、回収された非異常性の文書は、恐らく蒐集院のものと見られている。
が、蒐集院にはこれらの文書に関する記録がなく、どころか14世紀に活動していたという記録そのものがなかった。

この理由はわかっていないが、恐らくわかったとすれば財団はその瞬間に終わる。
というのは、抜粋・翻訳された文書の中に、例の「僧侶」について蒐集院がどういう対応を取ったのかが記されていたのだが、その時彼らが用いたアノマリーの中にとんでもないものがあったのだ。
以下に、その翻訳をさらに現代語訳したものを記す。

元徳二年。我々は醍醐寺の怪僧をついに捕らえた。しかし、怪僧は既に不死となっており、武器や術、西方の秘術まで持ち出したが殺すことは出来なかった。よって、東弊の作った桜謂の檻に封印することとする。

怪僧が広めた邪教は既に都の人々に浸透していた。人の皮を被った魑魅魍魎が闊歩している。

我々の中に、邪教を滅するべく宥快という僧侶と協力しよう、という意見が出た。我々は彼と手を結んだ。[不明]はまだだ。

戦が起きてしまった(元弘の乱)。後醍醐天皇は既に邪教の影響を受けている。新田義貞、足利尊氏も敵になってしまった。討幕を狙っているようだ。戦の混乱の中では動くのは難しい、ここは機を伺おう。

元弘三年。桜謂の檻が破られ、怪僧が脱走した。捕獲には失敗した。彼岸老君の言うには、元を絶たねば意味がないらしい。我々は怪僧の拠点である観容寺を別の次元に封印し、さらに人除けの術式を張った。邪教の殲滅計画は進んでいるが、再び捕らえた怪僧は影だった。奴はどこに行ったのだ。

金剛寺*1にて怪僧を見たという情報が入った。今度こそ、奴を討つ。再び捕らえたならば[不明]に封印する。[不明]の者たちを使うことにしよう。

怪僧の封印に成功した。我々は、朱雀神の分霊を用いて邪教を滅ぼすことにした。[不明]我らはこれより、一切全てを忘れ去る。


もうお分かりだろう。
蒐集院は例の「僧侶」を捕らえてどこかに封印した(それも現代になって破られ逃げだしたらしいが)。
そして、残された「邪教」、ある種のミームらしいそれを根絶すべく、朱雀の分霊を使ったのだ。
SCP-1500-JPを読んだものならわかるだろうが、朱雀…即ち、彼らは緋色の鳥を使ったのだ。
ヤツが強大化・狂暴化したのは日本生類創研の改造と財団による実験のやりすぎが原因なので、恐らく当時の緋色の鳥は現在ほどの力はなかったのだろう。
人の意識の世界に封じ込められた荒御霊の一つ、朱雀。その分霊を用い、蒐集院は不死の肉体を持つ「邪教」の『魂』を食い尽くした。
だが、それはヤツにエサをやることと同義。蒐集院はそれを阻止するため、14世紀におけるすべての記録を抹消し、自分たちもそのことを完全に忘れ去ったのだ。

怪僧が最初に封印されていた「桜謂の檻」とは、恐らくSCP-1500-JPと同様の、桜主の指導のもとに構築された結界だと思われる……が、「東弊」の名前が待ったをかける。
恐らく現代の東弊重工の前身だと思われるが、さすがにこれ以上は取っ掛かりの情報がない。


逃げ出した怪僧は、今、どこで何を考えているのだろうか。


追記・修正をお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1326-JP - 仏堂
by shytake
http://ja.scp-wiki.net/scp-1326-jp(削除済)

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最終更新:2023年08月30日 11:40

*1 この名前を持つ寺院は複数あるが、件の怪僧と後醍醐天皇との関係を踏まえると奥河内のそれだろうか?